第8話 北の玄武洞(Ⅴ)
空が漆黒に染まり、旋風が生き物のように大地へと吹き荒ぶ様が見てとれた。雷鳴、轟音、形容しがたい音が辺りに響き渡る。
<・・誰かが戦ってる?・・>
「ドラゴンが暴れ始めたんだ・・」
「殺される・・」
「早く逃げなきゃ・・」
恐ろしい程の轟音、大地を揺るがす雷鳴に、洞穴内のプレイヤー達が口々に不安を吐き出した。
<・・この状況じゃ戦っても全滅するだけだ・・>
凪が半ば諦めかけたその時である。
『逃げるのかい?』
凪は、不意に声がした洞穴の奥を振り返り暗がりに目を凝らした。壁にもたれるように座る老婆。黒装束に錫杖を持ち、背中は大きく湾曲していたが、その双瞼はこの状況でも諦めを感じさせない力強い雰囲気を感じた。
『えっ?』
『相手がドラゴンだからってこのまま戦わずに諦めて逃げるのかい?』
ある種の目眩のような、その異様な黒い瞳に吸い込まれる感覚を凪は覚えた。今自分が持つ全ての弱気な感情を真っ向から否定されている、逃げ出すことは死を選択することよりも誤りだと、短い言の葉で諭されているように感じた。
『今あそこでドラゴンと対峙してる者達はどうして戦ってるんだろうねぇ?』
『・・・・』
『そんなことも分からずに逃げ出すほど、あんたは弱虫じゃないだろう?』
凪はドラゴンの咆哮が聞こえる岸壁を再び振り返る。今度はそこでドラゴンと必死に戦っている三人の影が凪にはハッキリと見てとれた。
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