第7話 北の玄武洞(Ⅳ)
~同時刻
刹那達がドラゴンと対峙している岩壁よりも更に奥の岩肌に口を広げる洞穴
その洞穴からは、鮮明ではないがドラゴンの姿が見えていた。
その洞穴の入り口で、パーティーを組んでダンジョンへと入った凪が、壁にもたれる格好で外の様子を窺っていた。
洞穴内には、座り込む者、横たわり動けずにいる者、両手を前に組み神に祈る者、数多くのプレイヤー達が息を殺してこの最悪の状況に身を置いていた。
凪でさえ、兜は右側を砕かれ、鎧には幾線もの深い傷、体の至る所から鮮血していた。まさに満身創痍である。
そこにいる誰もが全滅という最悪のシナリオを想像していた。しかし、他のプレイヤーとは違い、凪の瞳には強い光があった。ここから必ず生きて脱出するという強い信念を持ち続けていた。
〈・・なんとかしないと・・〉
洞穴の中の傷付いた沢山のプレイヤー達を振り返って凪は心の中でそう呟き、皆を少しでも勇気づけなければと、満面の笑顔で話した。
『大丈夫!必ず打開策があるはずだ!』
洞穴内に凪の声だけが虚しく響いた。
凪の言葉に誰も反応しなかった。この絶望的状況に打開策を見出だすことは不可能だと誰もが悲観していたからだ。
『大丈夫!俺が必ずなんとかする!なんたって俺は紅蓮の戦士、凪様だからな』
皆の心が少しでも希望を掴めるように、おどけた感じで両手を腰に当てて笑顔で言葉を続けた。
「・・・・だよ」
『えっ?・・』
それまで両手を前に組み、神に祈っていた戦士がつぐんでいた口を開いた。
「無理なんだよ!相手はドラゴンだぞ!中ボスレベルのモンスターならまだしも・・ここにいる皆で戦っても全く歯が立たなかった超級レベルのドラゴン相手にどう戦うんだよ!」
震える声で凪に食ってかかる戦士。凪を睨み付ける目は恐怖からか赤く血走って見えた。
『それは・・』
何も言えなかった。言葉にはしたものの打開策が浮かんでいるわけでもなく、希望を口にしただけだったのを凪自身が一番よく分かっていたからだ。しかし、軽々しくその言葉を発したわけではない。
〈・・本当の終わりは、諦めたときなんだ・・〉
凪は血に染まった拳を強く握り締めた。
〈・・でも・・確かにどうすれば・・〉
この状況を打開する案を幾通りも考えたが、うまくいきそうにない。
憔悴しきった仲間達を見回しながら、凪は焦りを覚え始めた。
入り口に向かい空へ向かって剣を掲げ、自分がどうすれば良いのか自問自答していた。
剣からは神秘的な紅炎がたち、僅かではあったが辺りは温かな紅い光に包み込まれた。
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