第4話 時の河

 コツコツコツと単調な音色リズムを響かせて、凍てついた都会の時の中へ人々を縛りつける。


 それは時計という名の時を司る道具。


 現代人にとって、錆びついた都会の中で生きてゆくために何より必要な時を知らせるモノ。

 触れたときの・・・そう、何より硬く冷たいその感触、硬い機械仕掛けの音の響き。

 透明で硬質な物によって守られ、時刻ときを刻むために必要不可欠な銀色の三本の針を持つ文字盤、それを支え、そして腕にはめるための銀色の冷たい光を放つベルト。これらによって構成された、腕時計と呼ばれる銀色のそれは、何よりも正確にそして深く遠く、人々の精神こころ身体にくたいを捕らえて放さない。


 真夜中、眠れぬ者にとって、耳元で囁くその音は、深い夢へと誘いざなう射干玉の闇より深く、現実へ引き留める。幾度も明かりをつけては、時計を眺め・・・夜の長さを刻み付ける。また、心地の良い深い眠りを得た者は時計を振り返り、夜の短さを、ふと、感じるのである。


 人は光る朝、鳥たちの唄い声の代わりに、けたたましい機械的な音によって目覚める。

 そして夢から現実へと引き戻された人々は時を刻む機械を見、時を知る。また繰り返される一日がやって来たこと悟り、落胆し、若しくは胸を躍らせる。

 そして今日も時計は回り続ける、休みなく。人々に時刻ときを知らせるために。


 今も、時計は時を刻み続けている。

 人々に忘れ去られるのをおそれるかのように。

 或いは、人々の新しい歴史を刻み込むように。悲しい音とも、楽しい音ともとれるその音の色を、大切に大切にいつまでもいつまでも時の河へ遠く遠く響かせながら------。

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