─3─

「ただいまぁ~」

「あら、おかえりなさい、アリス」


「……」

 いつもと変わりない、いつもの光景。居間で寛いでいる母さんにそれとなく声を掛けると、やはりいつもと変わりない返事が返ってきた。


「……どうかしたの? アリス」

「へ? なにが??」


「なにが、って……いつもどこかボーッとしているけど。今日は特に、ボーッとしてるみたいだったから」


 ぅわ! なんか今のヒドいなぁあー!


「あのね……母さん、それ自分の大事な娘に言う言葉ぁ……? 

言っておくけど、わたし、たぶん母さん似だと思うよ?? だってさ、よく似てるって言われるから」


「あらあら、残念だけどアリス。あなたは外見だけ、母さん似。中身は父さん似だから、心配ないわよ?」


 ──ぐはっ!!


 いやまぁ……わたし、お父さんのこと大好きだから別に良いんだけどさぁ~……でもなんか複雑な気分…。


「そんなことよりも早く、手と顔を洗ってうがいして着替えてから降りてきなさぁ~い」

「はぁ~い」


 そんな訳で、いつもの様に他愛もない会話をやりながら母さんとご飯って、お風呂でクタクタ~と入って、それから自分の部屋へと戻る。


 そして今日は直ぐにノートパソコンを起動、そして棚からA・Fセットを取り出し、いつもの様にチェック開始!


「ヘッドギアよし!

グローブよし!

スーツよし!

シューズよし!

A・F起動よし!

ドリンクは不要なので、このままレッツよし!」


 そうしてわたしは、アストガルド・ファンタジーの世界へと通常ログインする。


  ◇ ◇ ◇


「という訳で、新ワールドでの移籍先が決まったにゃので、報告するだがにゃ。これは《極秘》なので、皆よろしゅうに頼むにゃ!」

「「「にゃにゃん!!」」」


 六大城の一つである炎のエレメント・女神イルオナが、相変わらずの冷徹な微笑みを浮かべる城内。内容が内容なだけに、今日はここに皆集まっていた。

 そして間もなくゲーム内メール通知に、『新着あり』と表示される。

 

 わたしは、マーナの隣でドキドキしながらそれを確認する。そして直ぐに驚いた。


「……まさかの、シャインティア?? ──あ!!」


 わたしはコレが極秘情報なのに、つい口に出してしまったことに気がつき、直ぐに口を閉じ、皆に軽く頭を下げ謝る。


「すみません……思わず、つい…」

「いや、ここには関係者以外誰も居ないから大丈夫だよ」

「まぁ、色々とこの決定には不満に思う者も居るかと思うでにゃ。それもあり、今日はここに集まって貰ったにゃでにゃ。この中に居る間は心配にゃい」


 わたしはそれを聞いて、ホッと安心する。


「つか……だけど、どうしてシャインティアなの? あの勢力だと《決戦》はいいとしても、《大決戦》だと戦力的に勝てなくなるでしょ??」


 眞那夏だ。

 うん、そうそう! わたしも同じくそう思ったんだよね!


「確かに、そういう意見もありました。

……が、他の勢力へと移籍などを踏まえ考えると、シャインティアが一番確率的に希望通りの勢力に配属可能になるのでは?と判断したんです」

「大決戦での、勝率を取るか。それとも、仲間との移住に重点を置くか……。その辺りを《天山ギルド本営》内で話し合った結果、『例え勝利の見えない勢力陣営だとしても、アリ…………あ、いや……今の仲間達と別れるくらいなら、その方がきっと楽しめる筈だから、それで構わない!』という意見が出てな。その場に居た多くが、それに納得し。結果、シャインティアで決定されたんだよ」

「……」


 わたしはアルトさんが話してくれた経緯を聞いて、何だか納得した。

 だってさ、わたしもその方がいいと思ったから!


 ……というか。それ言ったの、まさかミレネさん??

 何となく、そんな気がした。


「もちろん、この決定に対し不満に思う者も居るかと思います。ですが、これはギルドとしての方針であり、決して皆さんに強制するようなものではありません。

なので、実際にどの勢力へ移るかは各自の判断に任せます。

ただ……例え他の勢力へ移るにしても、ここで得た情報は外部へ漏らさないよう願います」


 ランズの説明を受け、みんな納得顔を見せ合っていた。


「……それで、実際のところ他の勢力との比率はどのくらいになってるんだ?」

 カテリナさんだ。

 確かに、そこ気になるもんね!

 アルトさんとねこパンチさんは互いに顔を見合わせ、頷いている。


「これはあくまでも推定値なんだけど、貰っている情報によるとこうなっている。

北西アストリア、凡そ370万。

北東ガナトリア、凡そ110万。

南東ワイズヘイル、凡そ420万。

そして、南西シャインティア……60万」

「「「──?!」」」


 す、凄い格差なので思わずビックリした!


「このままだと次のワールドリセット後は、まさに2大勢力のみを中心とした戦いになりそうですが。おそらく、そこは運営側の方針通り、北西アストリアと南東ワイズヘイルについては希望通りの配属とはならないだろうという観測があります」

「……な、なるほど!!」


 その数字を聞くと尚更、例えば北西アストリアや南東ワイズヘイルを選んだとしても……というより、その2大勢力なんか選んだら、次はどこの勢力に飛ばされるか分からないし。間違いなく、みんなとはバラバラになっていたと思う。

 それだったら……確かに、始めから南西シャインティアを選んでおけば、バラバラにならず済むような気がする。


「つか……結果としてさ、これで良かったのかもね? アリス!」

「うん、そうだね! 何だか少しだけ希望を感じた」


 と言っても、やはり初めてのワールドリセットなので、結果どうなるかなんて誰にも100パーセントの予想なんてできはしない。それでも今は、希望を持って信じてみるしかなかった。その為にも色々な仲間達が頑張って情報を集め、ワールドリセット前に予測まで出来ているんだ。


 それだけでも凄いことだと思う!


 だからわたしは、それを信じる。結果上手くいかなかったとしても、感謝する!!


「と……言ったところで、そろそろ話しを変えるにゃ」

「ええ、そうですね。

アリス、ちょっと悪いけどギルド画面を確認して《貢献度》を確認してみてくれないか?」

「え? いいけど……なに??」

「はは! まぁそこは、見てからの楽しみですよ」

「つか。みんなね、アリスの為にこぞって協力してくれたんだよ! もちろん、私も!!」


「協力? なんのこ……と……あ!」


 わたしはギルド画面の中にある、ギルド貢献度を確認した。驚いたことに、わたしがギルド内貢献度になっている。

 それに対して、みんなの貢献度は、


 これって……もしかして?


「ギルド『黄昏の聖騎士にゃん』は、今日で事実上解散になる。明日のメンテナンスまでこのまま放置していたら、ギルド資産がただムダに消えて無くなるからな。だからその前に、ギルド資産の分配をこれから行うって訳だ」

「……」

「もちろん、次のワールド移行の際に今期ギルド成績に応じて、運営側から特別報酬があるそうにゃから、ギルド自体はそのままにするにゃりが。ギルド資産のように持ち越せないものもあるにょで、これからそれの処分と分配をするということにゃりよ」

「アリスには事前に話していた通り、あの以前のまま資産分配するとアリスの貢献度では貰える分配金額が少なくなります。なので、そのことを皆に話したところ、この結果となった訳です」

「アリス、良かったね! 次のワールドではお金……違うな、大リフィル持ちからのスタートだよ! それで装備品も良いのが揃えられるね!!」


「…………ごめん、本当にありがとう……だけどね」


 わたしは嬉しくなり、つい涙を浮かべていた。そして迷いなく、ギルド管理画面へと入り、『ギルド脱退』を選択する!


「「「──?!」」」


 それにより、この1年以上も掛けてわたしがギルド内で頑張って貯めてきた貢献値が全て、消失。露と消え……そして間もなくギルドから脱退した為に、炎の城から自動的に強制排除退去させられる。


 そのあと首都グレゴリアへと光輝きながら降り立ったわたしは、涙しながら直ぐに『ギルド検索』を行い。涙で前がよく見えない中、《黄昏の聖騎士にゃん》を懸命に探し出して選択し、『ギルド加入申請』ボタンを押す。


 すると間もなく『加入申請・受理』され、わたしは再び炎のエレメント・女神イルオナが居る城へと戻ることが叶い、ギルドみんなを前にしてこう言った。


「わたしは……最後まで、みんなと一緒の方がいい!! だから資産分配も、みんなと同じでいいよ! 特別なことは要らない。

だってさ、これからも次のワールドでも同じ仲間としてやって行きたいから……! だから!!」


 わたしの言葉を受け、アルトさんは小さくため息をつき、でも笑顔でこう言った。


「……まったく、お前のお人好しには本当に参るよ。せっかく皆がお前の為に話し合い、考えてやってくれたことなのにな。勝手に1人暴走した挙げ句、全て台無しにしやがって……。

が、そこがお前の良いところか? お前のそういうところ、いつまでも大切にしとけよ、アリス」

「あ、ごめ……ン? あれ?? この場合は、ありがとう、なのかな???」


 わたしが困り顔にそう言うと、ギルドのみんなは苦笑い、結局はいつものノリでみんな吹き出し笑い初めていた。


「では、みんな仲良く資産分配するだにゃ!」

「「「にゃにゃん♪」」」


 その後、直ぐにギルド資産分配は行われ。そのあとも雑談はずっと続いていたけど。もう深夜1時を過ぎようとしていたので、わたしは名残惜しく感じながらも今日はこれでログアウトすることに決め、ギルドメンバーへ「じゃあ、次のワールドで!」という希望を言葉に変えて言い。互いに、「「「次のワールドで!」」」を合い言葉に別れる。


 そうして、この炎の城を立ち去る間際、わたしはふと……女神イルオナさんを見上げ、気持ち悲しい思いを心のどこかに感じながら、でも敢えて笑顔を浮かべこう言った。


「イルオナさん、今まで……本当にお世話になりました。感謝します」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る