第7章 ワールドリセット……さようなら! 黄昏の聖騎士にゃん
─1─
「これは驚いたな……ご名答です。というか、自分のような底辺プレイヤーをまさかご存知だとは、意外で……まぁ何というか、ありがたいな」
底辺プレイヤー?
そりゃまぁ、わたしと同じ地雷だとは聞いていたけど。うちの陣営内では、かなりの有名人なのでありますが……あくまでも、戦略家として、なんだけどね?
冬馬さんはそこで愛嬌よく軽く笑顔を見せ、肩をすくめたあと口を開いた。
「ところで、
「……へ?」
わたしは自分の名前を呼ばれたので、ちょっと驚いた。
近くに居る天龍姫さんを見ると、ソッと軽く遠慮がちに手を挙げていたので。わたしもそれに合わせ、遠慮気味に小さく手を挙げてみせる。
「へぇー! 天龍姫さんは想像通りで、『如何にも!』という感じでしたが。アリスさんの方は、そうは思えくらいにとても可愛いな!!
かなり自分、好みですよ! ハハ♪」
「──え?!」
わたしは思わず、頬を真っ赤に染めてしまう。
だってさ! そう言われると流石に、嬉しいので……。
そんなわたしを、アルトさんは不愉快気に見つめ。それからまた改めて冬馬さんの方を向き、半眼に見つめ口を開いている。
「……そんなことより、どうしてこんな所に居る?」
「理由……ですか? それならばそうですね。2つほど、思い当たる所がありはしますが……」
2つ?
それにしても、何だか凄く気になる言い方をする人だなぁ~……。
冬馬さんはそこで、「聞きたいですか?」とわたし達に笑顔を見せ問いかけて来た。
わたし達は互いに顔を見合わせ、それからその判断をアルトさんに委ねた。
アルトさんは肩をすくめ、仕方ない様子で口を開く。
「……ああ、それなりに名の知れた戦略家との貴重な対談だ。だが手短に願いたい。時間が余りないんでな」
「ンー……手短に、ですか? それは何だか寂しいなぁ~……折角こうして出会えたんです。ゆったりと会話を楽しもう、なんて風には思ってくれないもんですかね?」
「「「へ?」」」
会話を、って……今は大決戦中で、しかも敵と味方。
わたし達パーティーは再び互いに顔を見合わせ、困り顔を浮かべた。
大弓のミレネさんに至っては、更にため息をつき、澄まし顔で弓矢をギュッと構え引き絞っている。
それを見て、流石の冬馬さんも慌てた。
「ああー! 分かりました、分かりましたよ!
それにしても、せっかちな人だなぁ~あなたは……。
──わ、ぅわあっ! スミマセン、すみません!! 失言でしたっ! ごめんなさい!!! 勘弁してくださいっ!! 言います、言いますよっ! 直ぐに言いますから!
わ、わ、撃たないで! 撃たないで!!」
「いいから、とっとと言え!」
「ぅわ、はいはいっ!! 先ず、一つ目はですね……。
無謀にも、単軍でこの城まで乗り込んで来た、あなた方に直接お会いしたかった。
とまぁ~、そんな所かなぁ?」
「…………ほほぅ。そうか、ならばその願いも幸い叶ったようだし。このまま射ても構わぬ、ということであるな?」
ミレネさんは冬馬さんを半眼に見つめたまま、冷淡にそう言い、更に弓矢をギュッと引き絞る。
それで冬馬さんは再び、顔が真っ青。
まぁ……そりゃ、そうなるよねぇ~?
わたしはそんな2人を苦笑いながら、遠目に見つめる。
「……それで、もう一つというのは?」
天龍姫さんだ。
そう言えば、2つある、と言ってたっけ?
「天龍姫様、聞くだけ時間の無駄というものですよっ!!
こんな奴、さっさと倒して終わりにしましょう!」
「……ああ、全くだ。
が、そのもう一つというのが気になるから。念のため、聞いておくことにするよ。
言っておくが……こちらのミレネさんは、冗談抜き本気でやっちゃう人だからな。早めに喋ることを、お勧めするよ」
アルトさんも途中から半眼になり、冷淡にそう言う。
すると、冬馬さんは軽くため息をつき、仕方なげに返してきた。
「はぁ……やれやれ、これはもぅ致し方なしですかねぇ……。
分かりましたよ、白状します。
その、もう一つというのは実に単純な理由で。例えば、こうやって………………少しでも時間を稼ぐ為です。ホラね?」
「「「──!?」」」
彼がそう言うのとほぼ同時に、ワイズヘイルの軍勢が2階から階段を一気に駆け上がってきた!
しかも、今回は先ほどまでとはまるで違う。ランカーも複数名居るワイズヘイルの正規軍だ。
それも2軍規模!!
さらに、全てデッキパーティー編成なので、60名は居る。つまり、こちらの二倍!
あっという間にわたし達は、ワイズヘイルの軍勢に取り囲まれてしまった。
「参りました……恐らくこれは、中央平原に居たと思われる軍勢でしょうね?」
「くそ。ここに至って油断したな……」
「まさか、先ほどまでの会話全てがブラフまがいなものだとは……参りました」
「ええ……私も今回ばかりは、少々反省しなければなりませんね?」
「そんな悠長なこと、言ってる場合ですか! 今からでも遅くはないので、あのNPC王を速攻で討伐っ!
もう、これしか手はないです!!
ね、アリス様もそう思うでしょ?」
「へ? あ、ぅん……確かに!」
毎回ながら、最後には必ずミレネさんはわたしに話しを振って来るので参るよ。
でも確かに、勝つ為にはもうそれしか今は残されていない気がする……。
と言っても、そのNPC王を今やデッキ1軍がガッチリと堅め守っているので、簡単ではなさそうだけどね?
「……そうだな、それでいこう!」
「「「にゃにゃん!!」」」
わたし達は、それで一気に動く。
そして、それまでこちらの様子を窺っていた相手もそれで同時に動き出した!
ワイズヘイル城3階で、わたし達は前後左右の敵を相手に。しかも圧倒的不利な数に押されながら、戦い続け。1人、そしてまた1人と次第に大事な仲間を減らしてゆく……。
復活可能なカードをそろそろ使い切り、状況はいよいよ最悪なまでに追い込まれていた。
「……はぁ! はぁ!!」
「さ、流石にコイツは厳しいな……。だが、ここが踏ん張りどころだ! みんな頑張れ!!」
「は、はい!! ──あ、ぅわ!?」
わたしがそう返事すると同時に、弓矢が飛んで来た! これでやられたら、わたしはもう終わりだ……。
が、
「……え?」
ミレネさんがわたしを突然に押し退け、代わりにその直弾を受け。間もなくわたしの目の前で、苦しげに口元から血を流しながら膝を落としている。
「──な…………なんで? どうして、こんなことを!?」
「な、なに言ってんですか……アリス様は『私が守る』そう約束したじゃないですか。だから、こんなの……当然のことで……ぅ!」
ミレネさんはそのまま倒れ……そして、光輝く塵と化し消滅した。
「……ぅそ、そんな……!」
「この足手まとい!! 今は感傷に浸ってる場合か?! このままだと本当に全滅なんだからな!」
「は、はい!!」
そうだ! 今は、そんな時じゃない……そんな時じゃない、けど……だけど!!
わたしは感情が高ぶり怒り狂い、《ファルモル》を即座に発動! 自動展開されるターゲットスコープで、ミレネさんを撃ったと思われる相手を中心に選び、迷いなく撃つ!
「ファルにゃん!! 『あの者』を、なぎはらって!!」
ファルモルはその指示に従い、焼き尽くす。が、そこは流石にランカークラスなので、全滅とまではいかない。それで更にわたしは、連続発動する!
その度に魔聖水を使うけど、それがなに?
今はそんなの、とても考えられないよ!!
許せない、とにかく許せなかったんだ!!
再びファルモルに指示し、ミレネさんを倒した相手を選んで、狙い撃つ! それでようやく、その相手は倒れた。
「よし!!」
「アリス、もう少し考えて使え! 今の、たったの数人しか居なかったぞ!!
大体、どうせ狙うなら王の周辺に居る奴らを撃て! もう、作戦内容を忘れたのか?」
「…………覚えてるよ」
「は?」
「だから、覚えてるって! でも……わたし、許せなかったから!!」
わたしは、そう的確に指摘してきたアルトさんに対し、逆ギレした。
うん、わかってるよ。分かってはいるけど、わたしはこの時そんな自分自身の気持ちが抑え切れなかったんだ。
アルトさんはそんなわたしを困り顔に見つめ、ため息をつき口を開いてきた。
「……お前なぁ…あ! グッ……!?」
──!!
アルトさんは胸を槍で背後から突き刺され、膝を落とした。そして間もなく……わたしの目の前で、消滅する。
「ぁ……あぁ…!!」
「バカ! お前、いちいち感傷に浸っ……て?」
「──!?」
「──カテリナ!!」
あのカテリナさんも、一瞬の油断でやられ……それで消滅した。
ダメだ……次々とみんな、倒されてゆく…マーナも、こんなわたしなんかを守った挙げ句に倒れ、もう居ない。
あのミレネさんも、最後はわたしを守って倒れた。それからアルトさんも、カテリナさんも……。
もうこの場には、天龍姫さんとランズとわたしの3人だけが取り残されていた。
相手はまだ、半数以上も残って居るというのに……。
「アリス、しっかり! とにかくここは、王を倒すしかありません!!」
「……ぅん、分かってる…ランズ、分かってるから……」
「…………ご、ごめんなさい。私も、ダメみたい…」
──!!
見ると、天龍姫さんも沢山の弓矢を一斉に受け、更に剣で胸を貫かれ、血を流し涙していた……。
そして間もなく……消滅する。
ぅ……うそ! なんで……?
なんで地雷なわたしよりも先に、みんな倒されるの?
イヤだ。嫌だよ、こんなの……。
「ぁ……ぅあ、うわああぁああー!!」
「アリス、落ち着いて! 大丈夫だから、落ち着くんだ。みんな本当に死んだ訳じゃない。それは分かるよね?」
「……」
このゲームはリアル過ぎて、トリップしていると特に現実との境が見えなくなる時がある。
わたしは今、余りにも認めたくないものを連続で見せつけられ、精神的にもう限界で……解っているけど、解ってはいるつもりなんだけど。身体全身の震えが止まらず、動けなくなっていた。
そして……そんな情けないわたしの目の前で、ランズも複数名から同時に襲われ、遂に倒れる。
わたしはその様子を涙目に見つめ、尚更に絶望する。
つまり今やわたしだけが、ここに独りだけ残されていた。
間もなく、そんな情けないわたしの胸にも弓矢が刺さり。わたしはその痛みに絶えかね、涙を流しながらその場で膝を落とす。
「……あと、もぅ少し…だったのになぁ~……」
次第に意識が薄れゆく間際、わたしはふと自分の右手指で一際輝きを見せるアクセサリーを見つめ、あることを急に思い出した。
「…………そっ……か。わたしって本当に、バカだなぁ~…そういえばコレがまだあったのを、今まで忘れてた。
ライアスさん……ごめんなさい。コレ、使わせて貰います……」
わたしは《パランティアの指輪》を指から外し、軽く宙に放り投げ、開放魔法を唱えた。
「ディル!!」
「「「──?!」」」
わたしが開放魔法を唱えると、【パランティアの指輪】は眩しいほどに輝きを周囲に放ち。それとほぼ同時に、わたし達デッキパーティー全員が復活を遂げ、それぞれに光りを解き放ちながらその場に降り立つ。
みんな凄く驚いた顔をしていたけどね?
そうして、【パランティアの指輪】は……崩壊消滅。
ありがとう、ライアスさん。
「つか……なんで私、生き返ってるの?」
「アリス?! これは一体……」
「説明は、あとでします! それよりも、早く!!」
「アリス様の言う通りですよ! 何だか分からないけど、今がチャーンス!!」
「ええ、確かに!」
わたし達は頷き合い、未だに状況が掴めずに居るワイズヘイル軍に向かい、直ぐに行動を起こした!!
天龍姫さんの大ジャンプによるフルスイング一閃から始まり、更に連続スキル攻撃! わたしもほぼ同時に《ゴッデスウィング》を発動し、《ファルモル》も即時仕掛ける!
その間にアルトさんとランズは、王を攻撃。他の人は、ワイズヘイル軍をそれぞれ状況に応じて叩き、わたしは回復薬である魔聖水を使いまくる!
魔聖水、残り3個…………2個…………1…………0!!
よし、ここからが勝負だ!
わたしは残された精神力を使い切ると、王へと走り向かい、杖で力攻撃の凹殴りっ!!
だけど、上手く防御され、攻撃は当たらない。
それでも王が持つ耐久力は下がり、もう間もなくという所まで来ていた。
実はこれはゲーム上の仕様で、攻撃が当たるのは、この耐久力がゼロになったあとになる。その次の攻撃で初めて当たり、確実に倒れるのだ。
それで南東ワイズヘイル城は、《陥落》となる。
「アリス、魔法は?」
「あ、ハハ……それがもぅ無くてですね…」
「ハハ! まぁ、もう間もなく倒れますよ。一緒に、コレを倒しましょう!」
「はい!!」
わたし達の背後では、天龍姫さんミレネさんとマーナ達がワイズヘイル軍を抑え。その間にアルトさんとランズ、そしてわたし達3人が中心となり、王を攻撃。
そうして遂に、倒れる、というその時になってくると。アルトさんとランズが、
「アリス、最後の一撃はお前に任せた!」
「ええ、お願いしますよ、アリス!!」と笑顔を見せ言い出す。
「え? だけど……」
わたしが遠慮気味に言うも間もなく、その時は来た。
「…………。──はい!」
今は、迷ったりしてる時じゃない!!
わたしは杖を構え、即座に最後の攻撃を仕掛ける──!
これで、終わりだ!!
──そう心の中で叫びながら杖を大きく力一杯に奮った、矢先……わたしの目の前のモノや周囲が、一気に消滅し、暗転した。
え? コレって……なに?? 何なの??
わたしが状況を掴めず、暗闇の中パニックっていると。間もなく、暗闇の中でこういうメッセージが赤く表示された。
──北西アストリア城、《陥落》──
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