─2─

「あれ?? ミレネさん、それに天龍姫てんりゅうひさん、どうしてここに?」


 炎のエレメント・女神イルオナが、相変わらずの冷徹な余裕の微笑みを浮かべて居る城内。今日はギルド《黄昏の聖騎士にゃん》の拠点であるここで、ギルド会合をすることに決まっていた……んだけど。何故かそこにお2人がにこやかな微笑みを浮かべ、軽く手を振りふりしながら仲良く鎮座していたので、思わずわたしはびっくり顔。


 あ、でもミレネさんは一時的にだとはいっても、今はうちのギルドメンバーなんだから、意外でもないか?

 でも、天龍姫さんの方は、違うよね??


 よくよく見ると、2人以外にも知らない人が何名か居る。

 いや、十数名ほどは居るかな? いや、もっとかも?? というか、よく見ると今日はやけに多いな!!? 



「アリス様! 此処、ココ!! このミレネ、アリス様の為に席を空けておきましたので♪ 是非、遠慮などなさらず、此処でこの私めに寄り添うようにして甘えながらお座りになってくださいませっ!」

「あ……それはどうも、ありがとうございます」


 快活な笑みを見せるミレネさんに呼ばれ、わたしは訳が分からないまま、その隣にゆるりと座り、笑顔を向けた。

 そして、その向こう側に居る天龍姫さんにも笑顔で「こ、こんばんは!」と軽く挨拶をした。

 天龍姫さんの方は、相変わらずの優しげな微笑みで応えてくれる。


「こんばんは、お元気そうで何よりですね。アリスさん♪」

「あ、はい! お陰様で!! 天龍姫さんも……そのぅ~…相変わらず、お綺麗ですね?」


 わたしは少し照れながら、そう言った。

 不思議なもので、本心から心底想ってることってさ。案外言葉としては、出しにくいものなんだよねぇー。


「あらあら、御世辞がとてもお上手なのね? アリスさんも相変わらず可愛いらしくて、素敵ですよ♪」

「あ、いえいえ! わたしなんてそんな……御世辞とかではないですし……!」


 だって本当に綺麗な人だもんなぁ~。なんだか憧れちゃうよ。胸もあるし……。

 

 わたしはそこでつい、自分の胸辺りを軽く摘み引いて、その大きさをそれとなく比較し確かめ「はぁ~」と、ため息をつく。

 

「それよりも今日はどうして、うちなんかへ??」

「あれ? もしかして、アリス様は何も聞いてないのですか?」


「て、言うと??」

 わたしがミレネさんにそう聞くと、その向こう側に居る天龍姫さんが代わりに答えてくれた。


「実はね、急遽ワールドリセットを見越しての緊急会議を開くことに決めたのです。ある程度の予測は出来ていましたからね?

元々、うちの『天空の城』での会合を予定していたのですが。こちらへ問い合わせたところ、本日ここで会合予定があると夕刻聞いたものですから、『それならば……』と言うことになり。天山本営内で人選した上で、私を含めた数十名の者のみが、その代表としてこちらへ参らせて頂くことに決めたのです」

「つまり、少なくともここにいま居るメンバーは全て、選ばれた仲間、ってことになるんですよ! アリス様♪」


「……選ばれ…た?」

 わたしは、キョトンとなる。


 だってワールドリセットでは、所属勢力は希望のみで、配置は確実なものではない、と聞いていた。それなのにわざわざ集まっても、仕方ないような気がするんだけどなぁ……? そう思って。


 間もなく眞那夏ことマーナの姿も見えたので、わたしは手を振りふり「マーナ! こっち、こっちだよ♪」と声をかけ呼んだ、んだけど……途端に、わたしの隣に居るミレネさんからの気配が物凄くて振り返りその表情を見て、思わずゾッとした。


 だって、凄く不愉快そうな表情をしていたからさぁ~……。


「まぁ……もっとも、今日ここに居る『黄昏の聖騎士にゃん』メンバーに至っては、そもそも今日がこちらの会合予定だったというのもあるので、致し方なし。ただ単に、この会合に参加しているからといって、無条件に、のですが……」

「え?」


 ミレネさんはこちらへ近づいて来る眞那夏を半眼に見つめながら、そう言ったのだ。

 あからさま過ぎて、思わず苦笑ってしまうよ。

 要するにミレネさんは、『マーナは対象外だ』と言いたいんだと思う。でもわたしとしては、とてもそんなの受け入れられないことなので、ここはなんとか話し合って折り合いを付けたいところ。


 そんな訳で、わたしは真剣な表情をミレネさんに向け、口を開こうとした。

 が、その前にミレネさんが何かを察知したかのように両腕を組み、困り顔で再び口を開いてきた。


「こちらのGMねこパンチさんにも困ったもので、我々が提案した作戦参加リストに、ここのギルド『全メンバー』を入れるのがだと言うのですが。そんなことをすると作戦成功率が格段に下がるので、とても呑めないんです。

なので、ここは力付くでも折れて貰います!

うちのギルド《グリュンセル》だって、そのために参加メンバーを絞っているのですから、そこは理解して頂かないと」

「まぁ、でも……この北西アストリアに居るアクティブプレイヤー全体の総数で考えると、確かに数百名単位など誤差の範囲ですからね、それも有りなのかしら? なんて風に、私などはこのところ楽天的に思っていますよ?」


 だ、ダメだわたし……2人の話しに全然ついていけてない。そもそも、その作戦内容がどんなモノなのかも知らされてないもんなぁ~……。


 そう思い悩んでるところへ、眞那夏ことマーナはわたしの隣までやって来て、軽く2人に挨拶して座った。


「つか。今日は随分と人が多いね……なんかあるの? アリス」

「うん。わたしもいま、ミレネさんから聞いたばかりなんだけど。今回のワールドリセットに関係する話しが、これからあるみたいだよ?

だよね! ミレネさん」

「……」

 わたしが元気よく笑顔で振り返り聞くと、ミレネさんは半眼の困り顔で、間もなくわたしの腰辺りを抱き寄せしがみつきながら、マーナを手で押しやり言った。


「お前! アリス様に、馴れ馴れしくするな!! またやられたいのか? 近過ぎだ、もっと離れろ!! 相変わらず無礼なやつだな、お前は!」

「──!!」

「ミ、ミレネさん待って!! マーナはわたしの友達なので、出来たらそのぅ~仲良くして欲しいのですが……?」


 わたしが困り顔にそう言いお願いすると、ミレネさんは不愉快そうにこちらを見上げ、それからどこか寂しそうな表情をして俯き。それとなく、このわたしにピタリと寄り添ってくる。


 多分、真中に対抗してなんだと思うけど……その様子がなんか子猫のようで可愛いので、まぁいっか?


「アリスさん、ごめんなさいね? ミレネは人一倍、独占欲が強い子なものだから。自分がアリスさんから一番に好かれていないと、忽ち不機嫌になるのよ。

本当にわがままな困った子で、ごめんなさいね?」

「──!!」


 ミレネさんは、そう言い切った天龍姫さんを途端にムッとした表情で見つめ、直ぐに抗議するかと思われたんだけど。何故か頬を真っ赤に染め、間もなくぷいっとして、再び黙って静かに俯く。



 って、今のまさか?!



 見ると、天龍姫さんもそこで「ほらねぇ~っ」と確認した様子を見せ、困り顔で苦笑い、肩をすくめている。


 それにしても、そんなミレネさんの頬を染め照れた感じの横顔が愛おしく思え……なんか凄く、可愛い!!


 わたしは思わずつい、そんなミレネさんをギュッと抱きしめてしまった!

 すると、ミレネさんは最初は驚いていたけど。直ぐに嬉しそうな表情をして、このわたしにゴロにゃん♪と甘えてくる。


 ゲーム内での力関係を考えたら、本当は逆なんだろうけど。わたしは、そんなミレネさんの頭を優しく撫で撫でして、愛でた。


 やっぱりさ。異性同性に関わりなく、可愛いもの・綺麗なもの……何しろ、外見・内面総じて自分自身が好意の持てるものってさ、本能的についつい愛でたくなるよね!


 そんなこんなやっていると、GMねこパンチさんとアルトさん、それからランズ《柊一》や天山ギルドの山河泰然さんが たいぜんさんにグランセルさん等々といった有名ランカーが女神イルオナの前までやって来て、話を始めた。


 先陣を切ったのは、天山ギルドの山河泰然さんだ。


「本日は、急な召集にも関わらず、多くの方にお集まり頂き、感謝致します」

「既に聞いている者も多いとは思うにゃりが、本日は運営が行うワールドリセットに関する対抗策と。大決戦でのG10パーティーメンバーの選出、この二点について話し合いたいと思うにゃりが。既に、Gパーティーメンバーについては仮案が出来てるにゃので、関係者各位にはこれから通知を送るなりから、確認納得したら返信して貰いたいだに、お願いするにゃ」


 Gパーティーとは……大決戦で主軸を務める選ばれた80名、つまりメインとなる主力10パーティーのこと。大決戦では、8人パーティー編成と仕様も大きく変更になり。更に、フォローパーティーという『デッキシステム』もある。メインパーティー(ここではGパーティーとするが)に対し、フォローパーティーを3パーティーまで指定し組める。

 要するに、総勢32名が行動を共にすることが可能となる。

 その効果としては、主に補助スキルや回復系などの共有化などが挙げられる。基本的にメインパーティーは最強クラスのメンバーだけで構成され、戦略・戦術の成否にも関わる重要なポスト。随伴となるフォローパーティーと共に、戦場を激しく駆け巡り、戦況の変化に応じて迅速に対応し、大きく貢献する役割を担う。


 わたしなんて、いつもそんな人達の貢献する姿を遠目に見つめ、ただただ憧れていただけだ。何しろこれまでは、足手まといにならないようにするのだけで、精一杯だったもんね?


 いつもであれば、先ほど天龍姫さんが言った通り『天空の城』に集まり、天山ギルドメンバーを中心に取り決められる行事なんだけど。今回に限っては、この炎の城でそれが行われるらしい。

 どんな感じで決められてゆくのか、なんだかちょっとだけ興味ありかも?


 そうこう夢心地に思っていると、わたしの元へ、何か通知が突如として届いた。

 何だろう?と思い、中身を開いてみると。そこには『グレード1ランク・メンバーリスト』という表題と、わたしと同じパーティーになる予定のメンバーリストがズラリと並んでいたので……思わず絶句。


 グレード1って確か、主力G10パーティーでもナンバー1ランクっていう意味だったよね?!

 これは何かの間違いではないかと思い、柊一ことランズを遠目に見ると。柊一は、軽く微笑んで頷いていた。


 ってことは、コレ……どうやら間違いとかそういうことではないみたい……。だけどわたしは地雷だし、足手まといなので、とても無理だよ。務まる筈がない……。


 わたしはそう思い、どうしたものかとため息をつく。


 メンバーリストの中には、アルトさん、ランズ《柊一》、ネトゲ最高さん、大弓のミレネさん、天龍姫さん、カテリナさん、マーナ《眞那夏》、そしてわたしの名前が並んでいた。


 まぁわたし以外は、納得な人選だとは思えるんだけど……こんなの、とても無理だよね??


 それに、ちょっと気になったのは、三雲ことカエル軍曹さんの名前がなかったことの方……なんで??


 わたしは丁度真向かい側、10メートルほど先に座り居るカエル軍曹さんを半眼にジッと見た。向こうもそれに遅れて気づき、ギョッとしている。

 それを確認し、空かさずわたしは『ふっ…』と呆れ顔に笑み。次に個人メールで、『なんでさ、同じメンバーに入らなかったの?』という内容で送信。そのあと空かさず、不愉快顔に変え相手の顔をジッと見た。

 すると、それに間もなく気づいたカエル軍曹さんは、それを確認するなり頬を真っ青に染め、『とても無理ムリ!!』的な感じで手を左右に振っている。


 ……一体、何がムリなのよ?


 ついちょっと前、わたしに気のあるようなことを言ってきたクセにさぁ~っ……本当の本気で好きだったら、少しでも好きな人の近くに居たい、って思うのが普通なんじゃないのぉ? それなのに、なによ!

 まぁ三雲なんてさ、結局のところそんなもんか。


 はぁ、なんだかガッカリ……。


 わたしは深いため息を一つつき、肩をカクリと落とす。そのあと再び、Gメンバー一覧をほぅと確認する。


「お、アリス様! ちゃんと届いてますね!! このミレネ、アリス様とご一緒出来て、大変嬉しく思います♪」

「あは、ハハ……だけどわたし、とても自信がないので……どうしたものかと悩ましく…」

「つか。自信がどうこう言うのなら、私だってないよ。アリス」


 真中が肩をすくめながら苦笑い、そう言ってきた。


「まぁお主は確かにそうかもしれんな? 辞退するのなら、今のうちだぞ。そう素直に返信すれば、それで済む。

だから、さっさとそうしろ」

「……だったらわたしも、辞退しようかな…?」


 ミレネさんの言葉を聞いて、わたしは『それもそうかー』と納得して言った。


「ぅわ! アリス様は、辞退したらダメですよ!!」

「ええ、それはとても困ります」

「……」

 ミレネさんに続いて、天龍姫さんまでもがそう言ってきた。


 そっか、2人はまだ本当のことをまだ知らないから……今までずっと、誤解され続けていたけど。これは良い機会なのかもしれないな?


 わたしはそう思い、口を開くことに決めた。


「でも、わたし……今までタイミングがなくて、ずっと言ってませんでしたが。実をいうと基本的に だし、なので…は、ハハ……」

「「──地雷ッ!!?」」


 やはり、それには2人ともびっくりした表情を浮かべていた。


 そりゃあ、そうだよね?

 でも、ここは正直にちゃんと言っておくべきだと思う。だって大決戦が始まってからでは、もう遅いと思うから。


「実際、黒龍狩りも補助するのだけでやっとで。戦闘に参加なんて出来てないですし。このところ毎回、決戦では倒されてますし……装備品にしても、この有り様で……は、ハハ…」

「「…………」」


 わたしに言われ、2人とも改めてわたしの装備状態だとかなんとか色々と確認してるみたい。それから互いに顔を見合わせ、やれやれとばかりに肩を竦めている。


 ……という訳で、わたしは素直に《辞退》ということで返信することにしよう。

 そう決め、わたしはため息をついて返信画面を開き、辞退する旨を音声入力し送信しようとした。

 が、


「その必要はありませんよ、アリスさん」

 送信しようとするわたしの口を、唐突に天龍姫さんが手のひらで軽く包み、真剣な眼差しを向け、言わせないようにしてきたのだ。


「例え、そうであったとしても、アリスさんの補助魔法が事実上最強であるのは確かです。

それは、この所のアルトさんのランキング成績からも、十分に伺い知れることですからね」

「──そ、そうですよ! ……大体そんなの、今さら知ったところで……関係ないし…」

「……ミレネ…さん?」


「とにかく! アリス様は何も心配しないで下さい!! それだったら、このミレネが、アリス様を必ずや最後までお守り致しますので、だから絶対に辞退だけはダメですよ!!」

「つか。そうだよ、アリス! 私もアリスのこと守ってあげるから、辞退なんかしないで!!」


「いや……マーナ、お前はいつ辞退しても構わんのだぞ? お前こそ《足手まとい》そのものなのだからな? お前の存在意味が、この私には未だに解らぬのだ。

というか、早く辞退しろ。空気読んで、トットト遠慮しろ。

お前、まさかKYというヤツなのか?? だったら少しは恥を知るがよい」

「そ、そんな……! 本当にそうなの??」


 わたしはミレネさんの最後の言葉を聞いて、困り顔を見せ言った。


「お二人とも、ありがとうございます。なんだかお陰で、自信が持てました。感謝します。

でも……マーナが辞退するのなら、わたしも辞退するつもりなので……本当にごめんなさい」

「──!?」

 わたしがそう言うと、ミレネさんの顔色が途端に変わった。

 そして、ミレネさんは大いに慌て、マーナの両手を素早くパッと取るなり、「マーナ、この私が悪かった! すまぬ! 共に頑張ろうではないか!!」と必至になって言う。


「へ? あ、はい!?」


「ミレネ……あなたって本当に、お調子者で困った子よね…?」

 ミレネさんのフットワークの軽さは、その態度の豹変ぶりでも大いに発揮していたので、思わず関心してしまうよ。


 そんな訳で、わたし達は軽く微笑み合い、同じタイミングで『確認了承!』と返信した。


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