─6─

 首都グレゴリアへ帰還し、わたしはいつもの道具屋さんの近くで独りため息をつく。


 このあとライアスさんの所へ行こうとは決めていたんだけど。そのライアスさんとの約束を守らず。この数日間、挨拶することもなく、逃げ回るようにログウトしていたのを今更ながらに思い出す。



 ライアスさん、怒ってないかなぁ? なんだか怖いよ……。



 わたしがそうこう悩んでいると、道具屋のボルテさんが声を掛けて来た。


「アリスちゃん、どうしたの? 胸、触らせてくれるならいつでも相談にのるけど?」

「へ? あは、ハハ……それは遠慮しときます」


「見せてくれるだけでも、全然大丈夫なんだけど!」

「あはは! それも遠慮しておきます!!」


 

 わたしは道具屋のボルテさんに作り笑いを見せつつ、軽く手を振りふり、さっさと鍛冶屋のライアスさんのお店へと足早に向かう。

 ボルテさんのあの冗談、たまに冗談に聞こえない時があるからなぁ~。



「こんばんは~……。ライアスさぁ~ん、居ますかぁー?」


 正直、ちょっと中へ入るのには躊躇したんだけど、勇気を振り絞り中へ顔を覗かせ様子を窺った。


「…………」

「…………。

──あ、す、すみません!! また出直してきまぁ~す!」


 や、ヤバい!

 普通に怒ってるよ、アレ! む、無理!! 絶対コレ、無理!!


「アリスちゃん!!」

「──ひぃーっ!?」


 わたしがお店の入り口から直ぐ逃げ出そうとすると、空かさずライアスさんが厳しい口調でそう声を掛けてきたのだ。

 わたしはビクッとし、思わずその場で直立不動に固まる。顔なんかもぅ、青ざめてる!



「その前に、何か言うことはないの?」

「……ぅっ!! ご、ごめんなさい……ライアスさん! 約束を守れてなくて……。

だけど、これには色々と深い訳がありまして…」


 わたしは、ライアスさんの方を向いて謝った。でも顔はとても上げられなくて、軽く頭を下げたまま言い訳なんかをやっていた。

 だってここはもぅ理由を話し、許して貰う他にないと思ったから。


「……まぁいいよ。とにかく中へ入って」

「は、はぃ……」


 わたしは言われるがまま、顔なんか真っ青で中へと入る。

 でもやはり、ライアスさんの顔はとても見れなかった。情けないなぁ……。



「……まぁ、その様子を見て大体の事情は分かったがね。何にせよ、一度相談くらいはして欲しかったがなぁ……。

しかしまた、どういう扱いをしたらそうなるんだか……」

「す、すみません……決戦で直弾を受けてしまって…」


「ああ、決戦でかい? それなら仕方がないよ。気にすることなんか無かったのに。

それで、今日は何か用事があってここへ来たんだろ? 良いから顔を上げて、久し振りにアリスちゃんの元気で可愛い笑顔を見せてはくれないかな?

もう怒ってないからさ」

「……」


 言われ、わたしはゆっくりと顔を上げた。

 そこには、いつもの優しげなライアスさんの笑顔があった。


 思わずわたしは、涙ぐむ。だって、嬉しかったから……。ついさっきまで、もぅ嫌われたかなぁ?とそう思って不安だったのに。でもそうじゃないって、そうじゃなかったんだって今分かったから、嬉しかった。


 わたしはホッとし、笑顔を浮かべ。今日手に入れたレア武器と素材を、いそいそと並べ始める。


「あの、えっと、今日はこれで修理をお願いしようかと思って! コレ、幾らほどになりますかぁ?」

「ほぅ、これはまた凄いレア装備だな! これなら十分に元は取れるよ、アリスちゃん」


 わたしはそれを聞いて、ホッと安心する。 

 これでなんとか大決戦までの装備を揃えられるかもしれない、そう思って。


「……が、これは悪いけど。引き取る訳にはいかないよ」

「へ? な、なんでですかあー??」


「だってこりゃあ……悪いがアリスちゃん、ちょいと一度だけ装備して見せてくれるかな?

コレ、普通に装備出来るでしょ?」

「……まぁ、出来はしますが…」


 とりあえず言われたので、装備して見せる。


 実にレア装備らしく、赤いルミナスオーブ光を眩いほどに放ちながら、わたしの手元でそれは輝き続けていた。


 《邪龍神の杖》名前は凄く毒々しいけど、その姿は寧ろ神々しいほどに美しい。流石に今、注目されているレア装備品の一つだけのことはある。


「なぁ? コイツは、売るべきじゃない。アリスちゃん自身が使うのが一番だと、オレには思えるがね?」

「あ、ですが……そうなると、コレとかで修理代足りますか? それだったらいいのですが……」


「いや、こんなのは500リフィルが精々だからね、とても足りなくなる」

「そ、それでは困るので! あ、いえ……」


 わたしは途中まで話していて、でも結局は口を噤み俯いた。


「……そぅ、ですよね? 

はぁ……分かりました。ではライアスさん、また改めて来ます! 今日は本当にありがとうございました」


 ライアスさんが言うのも、もっともだった。コレは滅多に出ないレア装備品だし、それに何を言っても、ライアスさんはもうコレを引き取ってはくれない気がした。なんとなくだけど分かる。

 仕方ないから、また良いのが出た時にお願いすることにしよう……はぁ~っ。


 わたしはカクリと肩を落としながら、鍛冶屋を出ようとした。が、



「アリスちゃん、どこへ行くの?」

「へ?」


「もうこのあと時間が時間だし、ログウトするんだろ?」

「……」


 ライアスさんは、鍛冶屋の奥にある小部屋の入り口を後ろ指で差しながら、そう言った。

 つまり、そこでログウトしなさい、ってことみたいだけど……。でもそれって、装備品を修理に出した時に、初めて意味がある。


「……ですが、あのぅ~。本当に今は、持ち合わせがないもので……あは、ハハ…なんと言いますか、どうもすみません」


 何しろ、700リフィルしか持ってないので参るよ。明日、500リフィル使ってカムカの実を買い込まないといけないから、実質200リフィルが今のわたしの全財産…………ぐはっ!


 つくづく悲惨だよね、コレ。

 なので、とてもじゃないけど無理!


 それにさ、髪の毛がやはり気になるから。髪飾りを、安いのでもいいので買いたいし。幾ら、わたし特別値段だとは言っても、今のわたしが出せるのは、苦笑いくらいなものでして……いやもぅホントに、とても笑える気分ではないのですが…。


 お得意様になるとか調子の良いこと言ったのに、そのお得意様にすらなれないほど、わたしって貧乏なんだもんなぁ~。

 自分でも、本当に情けないと思う。

 しばらくの間、ライアスさんには頭が上がりそうにないよ。


「まぁ、そんな訳なので……また改めて、その時にお願いします!」

「だったら尚更だな」


 へ?


「それでもし、うっかり今着ている装備が大破したら、それこそ大変なことになるんだよ、アリスちゃん。そのこと、ちゃんと分かっているかい?」

「そ! それは……理屈ではなんとなく、分かってはいるのですが…」


「だったら、話しは早いね。

お金の方は、用意出来たその時でいい。だからその装備は、前にも話した通り、毎回全部修理に出す! そしてそこでログウトする。取り敢えずのお礼は、アリスちゃんのその元気一杯な笑顔だけで十分だ。

それでいいね?」

「……」


 わたしは、また思わず涙ぐんだ。

 だって、嬉しいけど。嬉しいんだけど、でも……何もかも人に頼ってばかりな自分が、凄く情けなく思えて…。

 そんなわたしの頭の上に、ライアスさんは軽く手を乗せ、優しく撫でてくれた。


「アリスちゃん、ほらいつもの笑顔だ、笑顔♪ それだけで、今は十分だからさ」

「……は、はい!」


 わたしは、ライアスさんに満面の笑みを見せ応えた!

 そしてそっと近づき、頬に軽くキスをする……。ライアスさんはそれで、デレ~っとした顔をして紅潮してる。わたしはそれを見つめ、どうやら嫌がってなさそうなのを確かめ、ホッと安心し、えへへ♪と嬉しくなって胸が熱くなるのを感じながら微笑む。


 それから笑顔のまま、元気よく手を振り振り奥の小部屋へと入り。装備品を脱いでから手渡し、早速ログウトしようとした。

 が、そう言えば……ちゃんとお礼を言ってなかったことを急に思い出し、わたしは小部屋の扉をそっと開け、


「ライアスさぁ~ん♪ 今日は本当に、ありが………………え?!」


 お礼を途中まで言っていた、んだけど……ライアスさんが何故か、わたしの装備品の遠目に窺い見えたので。わたしは思わず、その場で目が点………………しかも、白目?



 ――ぐはっ!!!




─────────────────

 第四章 《『天山ギルド本営』GM天龍姫……参ります!》 おしまい。


 本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かります。また、☆評価やコメントなどお待ちしております。

 今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します。

 

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