─5─
「……あれ? ミレネさん??」
今夜も黒龍ヴォルガノ狩りの為、山岳地帯入り口で待ち合わせていたんだけど。何故かそこに、大弓のミレネさんが頬を染めにこやかな微笑みを浮かべ軽く手を振りふりしながら、
「アリス様、こんばんは! 足手まといかも知れませんが、今日から《大決戦》まで、どうぞよろしくお願い致します♪」
「あ、はぃ……え?」
よく見ると、ミレネさんのキャラ名の上に表示されている所属ギルド名が《黄昏の聖騎士にゃん》になっていた。
これは、どゆこと??
「あ、あのぅ……これって??」
「いやにゃ、実は
「いや……ねこパンチさん、それはなんの説明にもなってませんよ?
まぁ早い話しが、コイツの熱意に負けて、こうなった訳なんだが……」
「コイツとは、なんだ? とことん生意気なヤツだな……。お前が私を呼ぶ時は、ちゃんと『ミレネ様』と呼がよい! アルト!!」
「は? なんでオレがお前を、様付けにしなきゃいけないんだよ?
しかもオレの方は、呼び捨てなのかぁ?!」
「当たり前ではないか? 自分よりも格上の者に対しては、様と呼ぶのが礼儀というものだ。愚か者め。
ねっ、そうですよねぇ~? アリス様っ♪」
「…………え?」
いや、いやいや! わたし地雷だし、足手まといですから、それこそ一番格下なので!!
……様付けするとしたら、この場合、わたしの方だよね??
そんな中、
「ほら、1人今回抜けたでしょ? それでその1枠に、『是非、入りたい! ていうか、入れろ!!』という腹立たし…………いや、ありがたい申し出が唐突にあってですね……ただし、少々厄介な“条件”を突き付けられましたが…」
「厄介とはなんだ? お前も見かけによらず、意外と失礼なヤツだ……余りそうガッカリとされてくれるな。
大決戦で、私ほどの戦力が加わるのだ。むしろ、ありがたく思うのが当然ではないのか??」
「まぁ助かるにょは、確かなんじゃがにゃあ……」
「あ、あのぅ~……その条件っていうのは、どんな?」
わたしとしては、その条件というのが何なのか、やはり気になるので。
「『アリスと同じパーティーに入れてくれ』それが、コイツが出した条件なんだよ」
は?
わたしはそれを聞いて、思わず……目が点。
「だけど、ミレネさ……あ! ミレネ様は、ギルド《グリュンセル》のサブGMなんですよね??
ギルドの方は、それで大丈夫なんですか??」
「あ、ダメですよ! アリス様は、私など呼び捨てちゃって構いませんのでっ!!
どうぞこんな感じで、『ミレネ、にゃん♪』と呼んでやってくださいませ!」
「「「「──!!」」」」
──わ、うわ、ぅわあー! 今のめちゃ可愛いかったあー!!
ミレネさんはそこで猫みたいに手を丸め、うにゃん♪とニッコリスマイルをして見せてくれたのだ。
その仕草がとても可愛いらしくて、思わず目が潤むほど感激し、抱きしめつつ頬ずりしたくなった!
って、あれ、え? 待って!
まさかそれを、このわたしにやれと??
「む、無理無理!! わたし、そんなに可愛いくなんてできないし!」
「何を仰いますか、アリス様ならば。私などよりも、遥かに可愛く出来ますって!」
なんとも真っ直ぐに、素な表情でそう言われ。わたしはなんとなく、その気になる……。
「そ、そぅかなぁ~……? ではまぁ、早速やってみようかなぁ??
ミ、ミレネ…………にゃん♪」
「「「「「──!!!」」」」」
あ、あれ??
いま凄い、なんか違う空気が流れた気がするんだけど……。
──って、ぅわあぁあー!!
いきなりわたしの胸に、ミレネさんが『ぶふぅうー!!』と鼻血を飛ばしながら飛び付き、しがみついて来て。そのまま顔をぐりぐり、うにゃんにゃん♪して甘えてくる。
ぅひ! や、うひあぁあ~っ!!
「さ、流石はアリス様!! 今の可愛さには、このミレネ、完全敗北っ! 完敗に御座います! ゴロにゃん♪」
「や、うわ、いや待って! そ、それは良いんだけど……そ、そこは! ぐはっ!
ここに居るのはわたし自身ではなく、アバターなんだけど……それでも専用スーツから伝わってくる感覚は、かなりリアルに近いので流石にヤバい。
だってミレネさん、さっきからわたしの胸の辺りでうにゃうにゃん♪してくるから。
わたしは頬を真っ赤に染め、ミレネさんを軽く押して放した。
すると、ミレネさんは驚いた表情のあと、頬を同じく染め、口を開き言う。
「ア、アリス様……そのぅ~まさかとは思うのですが、〝ブラ〟などの方は……?」
──があ、ぐはっ!!
わたしはもぅ顔というか、身体全身から火が出るほど真っ赤に染まっちゃう。
「あ、いや! だってさぁ~。専用スーツも上から着るから、わたし、いつも薄手のタンクトップだけにしてるんだよねぇ~……あは、ハハ…」
「「「──!!」」」
言うと、ミレネさんはまたしても鼻血を飛ばしながら、わたしに抱きついてきたッ!?
「そ、それは余りにも危険な! 無防備過ぎです!!
そもそもここの運営は何を考えているのか、女性用スーツは胸部辺りの感度センサーが、妙に細かい作りしているのを御存知でしたか??」
──た、確かに!!
ある程度までなら分かるんだけど。つくづく、このゲームを運営してる会社って、変なところに力を入れてるんだよねぇ……?
「──でも、それ素敵です!!!」
「は?」
「なので、これからもそのままであり続けて下さい!!」
「は、へ? え??」
「だって、この私くしことミレネ。『このままいっそ、押し倒しちゃおうかなぁ~っ?』という欲情に、つい心が支配され。理性なんぞ『それ、美味しいの?』ほどに吹っ飛び。そのままイッちゃいそうになったほど、だったんですからッ!」
──よ、欲情って……?!
「あぁ~……この素晴らしくやわらかでありながら、それでいてアリス様そのものを表した胸の素敵なやんわりとした感触っ♪ それが例え、仮想世界の感覚であろうとも、このミレネ、生涯忘れることは御座いません!」
「ぅあ、だあぁああ!! そんなのは出来たら、今すぐにでも忘れて欲しいんですけどぉーっ!!
って言うか、何でそんな恥ずかしいこと平気でいっちゃうかなぁー?!
って、や! ぅ、またもぅ……だからそこはダ……うはっ!!」
「もう、いい加減にしてよッ!!」
「「「──!!?」」」
誰かと思えは眞那夏だった。
なんか凄い、怒ってる……??
眞那夏は、ミレネさんをグイッと押し引き離し。わたしに抱きついて奪い取りながら、言った。
「さっきから、アリスが嫌がってるの、あなたには分からないの?」
「……」
「……」
いやまぁ~っ、嫌なのかどうかと聞かれるとさ。実のところ、ミレネさんって、なんか性格可愛いし。見た目、綺麗だし。わたしなんかよりも、よほど素敵だし。胸もあるし。シンクロ率67%だし……。
そっと優しく抱きついてくれるだけならさ。別に、イヤっていうほどでもないんだけどねぇ~……。
あ、だけど。向こう側で、さっきから興味津々にこちらをずっと見つめている視線が凄い気になる……。
わたしが
「……ほぅ。お主、この私に対し、随分と生意気だな……。しかも、アリス様とのラブラブな仲を引き裂こうとは、実に不愉快極まりない!」
「え?」
そこに居るのは、先程までのあの可愛い感じのミレネさんではなく。ランカーである、大弓のミレネさんの表情だった。
『ヤバい!』と、わたしが思う間もなく。大弓を構え、素早く弓矢をギュッと引き絞り、放っていた!
その動きは、相変わらず手早い!!
「──!!」
「あ、危ない!!」
わたしは咄嗟に、眞那夏を庇いながら押し倒した。
が、弓はわたしの頭を掠め、その時に装備が耐久力0大破消滅。髪飾りが無くなったことで、肩よりも下まである長い髪が崩れ、さらりと自然に前へと流れる。
現実のわたしは、ミディアムヘアなんだけど。仮想世界のわたしは、それよりも長め?なんだよね。でも結局は目障りだし、戦闘の時とか邪魔なので、髪飾りでまとめ、いつもはミディアムくらいになる感じで自然に流してた。それが壊れたので、正直いって参るよ……はぁ~っ。
でも今は、そんなことよりも、ミレネさんの怒りを沈めることの方が先決だ!
と……思ってミレネさんを見ると。何故か凄く動揺し、顔色も青ざめ、今にも泣き出しそうな表情をして、ガタガタと身体を震わせている。
「あ、あのぅ~……ミレネさん?」
どうしたんだろう?と思い声を掛けてみると間もなく、「あ、ぅぁああー! アリス様、ご、ごめんなさぁあぁああーい!!」と泣き出しながら、もの凄いスピードで猛ダッシュし走り去っていった。
……な、なんだったの? 一体……。
そんな訳で結局、パーティーメンバーが1人欠員となった為、ギルドチャットで呼び掛け黒龍狩りを募り、それから予定通り向かうことにした。
黒龍デュセオルゼ=ヴォルガノフスは、相変わらず凶暴だったけど。この雰囲気にも、そろそろ慣れてきた。
良くも悪くも、慣れって恐ろしい……よね?
そして今回、久しぶりに良いアイテムドロップに恵まれた!
【アイテムドロップ】
『邪龍神の杖+2(レア武器)』
『龍王の爪(レア素材)』
『なんかの皮(素材)』
『カムカの実』
「わ、キタこれ! これでやっと装備品が直せるかも?」
「お! やっとキタか? まぁ今回はオレもだ! ハハ♪」
「やた! 私もキタ! アリス、やったね♪」
今回は割とみんな良いのが拾えたみたい。良かった!
よぉーし早速、ライアスさんにコレを見せて装備品を直して貰うことにしよう!
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