─3─

 ミレネさんはそれに慌てた。


「お、お待ち下さい!! 天龍姫様!」

「何故です? 勝った者がこの者とパーティーがを組める。そう言ったのは他ならないアナタですよ、大弓のミレネさん♪」

「……」



 流石のフェイトさんも、これには顔色が悪くなっていた。そりゃあ相手が相手だもの。無理もないよ。

 というかさ、なんかわたしの意思がまるで完全無視で話が進んでるんですけど……?



「クッ!」


 大弓のミレネさんは、直ぐさま天龍姫さんからクイックバックで出来るだけ離れ、フェイトさんへ向け弓を素早く構えギュッと引き絞り放つ!  


 フェイトさんはそれを交わし、ミレネさんとの距離を一気に詰め剣を横になぎ払う!

 が、ミレネさんはスッと後退し交わし、口元を素早く動かし構え再び弓を放った!

 スキルだ!!


「──!!」


 16本の矢がフェイトさんへ向け降り注ぎ、フェイトさんも防御スキルで防ぐ。

 が、ミレネさんはその動きを予測し読んでいたらしく。その隙にフェイトさんの胸元まで近づいて、弓矢を構えつつ勝利を確信したが如く笑みをふっと浮かべ、逃げようのない至近距離から放とうとした。が、


 そのミレネさんの口と胸から、突如として鮮血が前へ飛び出した!?


「──ぐが、な!? そ、そんな……」

「ミレネさん、ごめんなさいね? 油断したアナタが悪いのよ。こんなことになるなんて、とても悲しいわ……」


 大弓のミレネさんの背中から胸にかけ天龍姫さんは片手槍を突き立て貫いたまま、そう優しげに言う。

 それにしても、今のなに!? 余りにも動きが速すぎて、まるで見えなかった!


 間もなくミレネさんは、口元から血を多量に流し倒れ、わたしの方をそっと悲しげに見つめながら、そのまま消滅した。


 こんなのって、ヒドいよ……。



「お可哀想に……とても痛かったでしょうね? 涙まで流して……本当に悲しい。

でもこれで、私とアナタだけの2人になりましたね。

今すぐ、降参する気はないのかしら?」

「……なぜ?」


「なぜ、とは?」

「ちゃんと申し出て頂ければ、アリスの意思次第でその望みも叶ったかもしれない。それなのに、何故?」


 フェイトさんの問い掛けに対し、天龍姫さんはふっと笑みGMのねこパンチさんの方を見つめ口を開き言う。


「それならば、事前にちゃんと言って置いたでしょう? 

アリスさんに相談したいことがあるから是非に、と……」

「……」

「た、確かに。そうは言っておったにゃりが……」



 でも、肝心なことは何も言わなかった、そういうことなのだろうか……?



「ふぅ、もう周りくどい言い方は辞めましょうね? 私、面倒なこと苦手だしイヤなの。

早い話、ミレネのお陰で手間が省けた、ただそれだけのことよ」


 天龍姫さんは優しげにそう言うと、途端に真剣な眼差しを向け、次々とスキルを唱え始めた。



「アナタを倒せば、アリスさんとパーティーが組める。アナタはミレネと、そう約束した。だからアナタに勝てば、私の願いは叶う。

なにか違っているかしら?」

「……」

「……残念ながらそれは、この私も倒してからにして頂きたいですね」


 そう言いフェイトさんの前にランズベルナントさんが立ちふさがった。

 天龍姫さんはそれを見つめ、ため息をつき残念そうに言う。



「……ズルいわね? そういうのって、ルール違反もいいところでしょう? 

それに、そんなことされちゃうと…………流石の私も、手こずるじゃないの!」

「──!!」


 そう言い終わらない内に、天龍姫さんは2メートルもある片手槍を身体ごと高速回転させ勢いづけたあとランズベルナントさんに仕掛けてきた。

 それは一瞬の速さだった!


 ランズベルナントさんはなんとかそれを受け止めたが、天龍姫さんはその勢いを生かしたまま逆側へ身体を捻り更に攻撃してくる。それによりランズベルナントさんの体力が奪われてゆくのがわかる……完璧に防御している筈なのに、それでも相手の体力を奪えるなんて、いくらなんでもこの人、強過ぎる!

 しかも片手槍を片方ずつ両手に持っているのに、まだ片方を遊ばせているだなんて……圧倒的だ。そして更に素早くスキルを唱え発動!



 や、ヤバい、ヤバいよ!! が、

 


「すまんが、このワシも倒してからにして貰うにゃ」

「──!?」


 ねこパンチさんもそこへ現れ、参加した。

 それを見て、わたしも杖をギュッと握りしめ、フェイトさんランズベルナントさんの隣にサッと並んで立ちはだかった!


 それに対し、天龍姫さん側にも天山ギルドの人達が一斉に並び参加し始めている。

 今や、一触即発の事態がこの天空の城内で起きつつあった。が、



「あらあら、ごめんなさい。もう降参しますね♪」

「へ?」 


 天龍姫さんは小さな白旗を手に振りふり、なんか可愛く『てへぺろ♪』と降参していた。

 思わず、肩の力がカクリと抜けちゃうほどに……。


「し、しかし姫! このままというのは!!」

「バカねぇ……流石の私も、アリスさんには勝てないもの。だから無理よ。やるならアナタ一人、勝手にやりなさぁ~い」

「あ、いや……私も流石に」

「え?!」



 ──そ、それはないない!!

 だってわたし地雷だし、しかも足手まといなんですからぁあー!



「それにしても残念ねぇ……一緒に戦いたかったのに。それもこれもミレネのせいね? あの子が余計なことを言うから、話がこじれちゃったわ……。あとでまた彼女にお仕置きしないとダメね?

いつもの鬼ごっこで5、6回も倒せば少しは気が晴れるかしら?」


 え!? 更にミレネさん、痛い目にあうの??


 

「あ、あのぅ~……」

「あ、はい? なんですか、アリスさん」


 す、凄く素敵な優しい笑顔を見せてくれる人なんだけどなぁ……。


「ミレネさんのこと、出来たら許して上げては頂けないかなぁ~、と思いまして……」

「あら、どうして?」


「だって可哀想だし……」

「……可哀想そう? そぅ、なのかしら??」


 わ、うわ、天龍姫さんって実は凄い天然なのかなぁ? 本当に不思議がってるよ。


 そうこう思っていると、天龍姫さんが優しげに微笑みを浮かべてきた。


「それにしてもアナタ、本当にお優しいのねぇ? 本当に気に入っちゃった!

あ、いっそこういうのなんてどうかしら? 

私が、そちらのパーティーへ加えて貰う。うん、そうね? 私がそちらへ参ります。ええ、そうしましょうー♪

ほらね、これならなんの問題もないでしょう?」

「「「「へ?」」」



 その申し出には、うちも驚いたけど、天山ギルドの人達も相当に驚いていた。



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