─2─
「な、なんか凄く緊張するなぁー……」
「まあそぅ心配するでない、アリス。我が輩がついておるから、安心するにゃり♪」
「そ、そうですよね……?」
「ハハ、僕たちも居ます。アリスは気楽に、いつものように自然体で振る舞っていれば、それだけで大丈夫ですよ」
「……しかし、その装備。よく見ると悲惨だな? 直さなかったのか?? 目のやり場に困るよ……」
アルトさんが頬を真っ赤に染め、そう言った。
それを聞いて、わたしも急に恥ずかしくなり何気に白銀のマントで身を隠し包む。
「え、えと……というか、リフィルが無くて、ですね……。そのぅ~っ、直さなかったと言いますか、直せなかった、といいますか……は、アハハ、ハハ…」
実際、情けなくて泣けてくるよぉ~……。
脚は生足が晒されている感じで、小手も無く。黒龍王の法衣にしても所々が破れていて肌が露出してしまっている。なかり過激な水着ほどに悲惨だった。これで白銀のマントがなければ、とても外なんか歩き回れないほどにボロボロ。
因みにここは、天のエレメント・女神ファリアが神々しい光を放ちながら、優しげな微笑みを浮かべ見下ろす城内。天山ギルドの拠点であり、《天山ギルド本営》の総本部でもある天空の城。
GMのねこパンチさんと
この城に限らず、六大城内へ足を踏み入れることが出来るのは、その城の《支配権》を獲得したギルドメンバーか、権限者より《招待》された者だけに限られる。
わたし達は城内奥へと進み、案内役の方に笑顔で招き入れられ。会議場として設けられた女神ファリアが居る大広間の指定席に、並んで座った。
大広間の左右前後にある石造りの七段ある階段に、金糸の刺繍が施されたとても豪華な赤い厚めの布地が敷かれてあって、なんだかこの上に座るのが申し訳なく感じてしまうほどに贅沢。
わたしがそう思いながら、遠慮がちにゆるりとそこへ座る中。その間にわたし達の姿を見るなり、会議場内の人たちが急にざわめき始め、ヒソヒソと話合っているのが気になった。
「もしやアレか、今や噂に名高いアリス殿というのは?」
「それにしてもなんだ? あの格好は……何かを“討伐”して、そのままここへ来たのか?」
「おおよそ黒龍をソロで、倒して来たのかもしれません……」
「黒龍をソロで?! そんなにも強いのか……」
「ああ、噂を聞く限り、それも不思議ではないが……」
──い、いや、いやいや! それはないない!! そんなの絶対に無理ですからぁあー!
人の噂というのは、つくづく恐ろしい……過大評価もここまで来ると、恥ずかしさで身が縮むよぉ~。
だって現実のわたしなんてさ、ただの地雷で足手まといなんですから!
「──?!」
急に熱い視線を感じそちらを見ると、そこにはあの大弓のミレネさんが丁度対面側に位置する階段5段目に居て、わたしの顔をジッと見つめ座っていた。
気のせいか……何だか不愉快そうにも見え、思わず不安になる。
わたしは何気に愛想笑いを浮かべ、にこやかに軽く手を振りふりする。
が、大弓のミレネさんはそれを見るなり、頬を真っ赤に染め『ツン!』とそっぽを向いた。それでいてこちらを、なんかちょっと気にした様子で横目に、またジッと窺ってくる。
「……」
やっぱり……何だかわからないけど、怒ってる??
……はぁ~っ。
わたしがそんなため息をついて間もなく、天山ギルドの幹部と思われる人達5名が入って来て、場は一気に緊張感に包まれた。
女神ファリアの前にある石造りの階段席に並んで座り、中央に居る美しく眩い装備に身を包んだ聡明な女性の方が、優しげに口を開く。
「この度はお忙しい中、会議に集まって頂き感謝致します」
「本日集まって頂いたのは、他でもありません。次回の《大決戦》についての戦略会議です。各々、策があればこの場にて遠慮なく申して頂きたい」
恐らく、天山ギルドのGM
「ねぇねぇ~っ、柊一。……あ、間違えた。ランズさん。あの方は?」
「ああ、天山ギルドのサブGMで
「“天”龍姫殿と“山”河泰然殿で、《天山》って訳だにゃ♪
アリス、いい勉強になったかにゃ?」
「うあ、なるほどっ!! なりました!」
言われ、わたしはなるほど納得した。
そうした間にも議論は続いていた。
「我々、北西アストリアからすれば北東のガナトリアと南西のシャインティアは戦力的に大して問題になりません。が、南東のワイズヘイルは、我々アストリアと戦力的に拮抗しております。
ここはやはり、今回もガナトリアとシャインティアを外交戦にて取り込み、ワイズヘイルと対抗するのが得策かと」
「それはよい策だと思う。
が、しかし……このところ、そうした裏工作に嫌気をさしている風潮がある。そうしたことが裏目に出なければいいが……」
《決戦》は、同じ北西アストリア領内に所属するギルド同士が戦うんだけど。《大決戦》は、北西アストリア、北東ガナトリア、南西シャインティア、南東ワイズヘイルの4大勢力による勢力同士の戦いになる。その対戦結果によって、アストガルド大陸の支配勢力図が大きく変わり。場合によっては、よりレア率の高いダンジョンなどが発生したり、黒龍王などといったレアモンスターなどが増える。
しかし、それだと勢力図が一方的になり傾くため、運営側としては新規参入者に弱小勢力に入るよう誘導し特典などを与え、バランスを取る努力をしていた。
が、このゲームは単純な課金で強くなれるほど甘くはない。より長く頑張った者が強い、課金装備よりもドロップ装備またはドロップ素材から造った装備が強いので、一度傾いた勢力情勢をひっくり返すのは容易なことではなかった。
但し、このゲームは年に一度だけワールドリセットがされる。その際に、ランキングに応じて報酬分配がなされ、新たに好きな勢力を選び、また一年間その勢力内で頑張ることになる。
が、勢力選択はあくまでも“希望のみ”でゲームバランスが悪くならないよう運営側はシステム的にランダム自動振り分けさせるらしい。そうしないと結局は勢力図が何も変わらず、勢力バランスを欠いたままになるのではないか?という批判などがあった為だ。
もちろん、キャラクターの能力やアイテムなどはそのまま持ち越せるので、変わるのは新たに配置される《所属勢力》のみ、ということになる。
そして更に残念ながら、ギルドもその時に自動解体されるのだ……。
このゲームも、もう1年目を既に過ぎ。つまりは、そろそろ初めてとなるワールドリセットの時期が口々に噂され、運営自体もそのことをこの所ほのめかし、直ぐ目の前にまでその時が近づきつつあるのは実感としてあった。
人によっては、それを楽しみにしている人も居るけど……。
わたしなんかはそれを思うと、何だかとても切なく悲しくなる……。
「中には、自由な乱戦を求める声もありますからね?」
「だが、それで仮にワイズヘイルが外交戦で2勢力を味方につけたら、我々は形勢不利となるのでは?」
「勝敗は時の運。先ずは楽しむのが、一番なのでは?」
「……最終的にはそうだが、最善の努力もせずして全てを運に任せるというのは愚かなこと。如何なものかと思われるが?」
「確かに」
……ハッキリ言って、この議論はわたしには難しくてとても無理。頭が全然、ついていってない。
わたしはついウトウトとなり、気が付けば……頭と肩を誰かから軽く抱かれていて、前へ倒れ込まないようその胸辺りで支えてくれていた。
こんな大事な会議の場で、うっかり寝ぼけて前倒れカクリとかなれば、かなり恥ずかしいことになる。
お陰で助かった!
始めは柊一かな?と思ったけど、薄目を開けボンヤリ何気に見ると……アルトさんだった!?
わたしは途端に全身真っ赤になりながらも、『こ、これは役得だぁー!!』とばかりにそのまま寝たふりをして、それとなくドキドキしながら寧ろ自分の方から何気にピタリと厚い胸板にくっ付き、ゴロにゃん♪と甘える。
が、その時!?
凄い殺気を感じそちらを見ると、対面側に居る大弓のミレネさんがスッと立ち上がり、弓をギュッと引き絞り構え、こちらを狙い、しかもそのまま予告もなく撃ち込んで来た!!?
「──わ、うわあっ!!」
慌てて避け、なんとか交わせたけど、かなり危なかった!
ところが弓矢は、わたしとアルトさんの間へ見事に命中していて。どうやら、わざわざ慌て避けなくても、大丈夫だったみたい。そうは言っても流石に怖いよぉ~……。
「ミレネ殿! いきなり、何事か!?」
「……どうもこうもない、実に不愉快だ。あの者と今すぐに決闘したい。
た、対決って? まさかこのわたしと??
無理無理無理!! 勝敗はやる前から見えてますし!
女神ファリアの近くに座る天龍姫さんは、わたしの方を静かに見つめ。次に、小さく「ふっ……」と笑み頷き、口を開く。
「……丁度、退屈していたところです。良い余興ですね。
よろしい、好きにやり合いなさい」
「はっ、感謝します!」
「──ちょっ!? む、無理です!! わたしなんかが、とてもミレネさんの相手になる筈ないですし!」
言うと、ミレネさんは困り顔をわたしに向け、口を開き言う。
「心配しないで下さい、アリス様。貴女様ではない……。私が相手するのは、その隣の男です」
「……へ?」
「……」
そうこうしている間に、周りの人たちは階段を上がり、大広間の柱近くまで後退していた。
そして
「アリス、ここは危ないから、一緒に向こうまで行きますよ」
「ま、待って! ミレネさん、理由は?! どうしてなんですか??」
「……理由ですか? それは……この私が、その者を気に入らない、ただそれだけのことですよ」
「アリス、良いから黙ってさがってろ! オレは負けないから、大丈夫だ。信じてくれ」
「……ほぅ~っ。大した自信家だな? 《決戦》では、アリス様の手を借り、まぐれでこの私に勝った程度の男が……」
「ハッハ! その者、まさに虎の威を借る狐、という奴ですかな?」
途端、周りの人達みんなが一斉に笑い出した。
──いや、待って! そこ、かなり誤解ですから! どんだけ皆さん、わたしのこと過大評価しまくってるんですかぁあー!?
「あ! あのですね!! そこは違っ……え?」
わたしがそこで皆さんの誤解を解こうと口を開いていると、
余計なことはまだ言わない方がいい、どうもそういうことみたい。でも、このままだとアルトさんが……。
「……ただの狐か狸か、そこは自分の腕で、もう一度試してみることだな、マヌケ!」
大弓のミレネさんは、そこでふっと笑み口を開く。
「雑魚が、大口を叩きおって……ではその実力、とくと見せて貰おうか!」
言うも間もなく、ミレネさんは弓矢を速射し、アルトさんはそれをギリギリのところで交わす!
「はっは!! よく避けたな! 誉めてやる!!
よし、ただこのまま戦うのも面白くない。勝った方が次の《大決戦》で、アリス様と同じパーティーを組ませて頂く。これでどうだ?」
「へ?」
「……わかった、良いだろう!」
──ちょっ!? 全然、よくないし!!
《大決戦》は決戦とは違い、別ギルドの者とも自由にパーティーが組める。だから、そういうことも可能だった。
「ならば……その対決、この私も参らねばなりませんね?」
「──!?」
「なっ!!」
そう言い、スッと立ち上がったのは、
これには、みんな驚愕した。
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