─4─

 うちのギルドの強さは、単純な個々の強さばかりが理由ではなかった。単純な一人のカリスマ性に踊らされそれに従うのではなく、信頼に足る戦略性に基づく議論を巧みに交わし合い、状況に応じて動く連携力にこそあった。また、ギルドマスターであるねこパンチさんは、そうした皆の意見に差別なく耳を傾ける真摯さを持っている人で、そして何よりも話し掛け易い。



『ねこパンチさん、相手は防衛3ギルドです。正攻法では無理があると思われますが、如何でしょう』

『うむ……ならばどうするにゃ?』


『《フェイク》を仕掛ける、というのは如何でしょうか?』

『フェイク? うっかり我が輩がいつも《猫じゃらし》で皆からやられ、ついつい“騙され”ねこパンチを放っておるあの作戦にゃりな?』


『えぇ……それを見て、ついついこのギルドの先行きが心配になってしまう、アレです』

『──ぐふあっ!!

しょれで具体的に、どんな作戦かにゃ??』


 ギルドチャットを使い、ねこパンチさんとランズベンルナントさんが炎のエレメント・女神イルオナさんが居る城へと走り向かいながら戦術議論を行っていた。

 チャットは全て、ボイスチャットのみで行われ、ギルドみんなに音声で伝わっている。


 因みに、さっきのねこパンチさんの天然?ボケに、みんな思わず吹き出しつつも呆れ顔。でもホント、なんか凄くいい人なんだよねー♪ 何よりもどこか暖かい優しさを感じるから、わたしはこういう雰囲気が凄く好き。

 だってさ、不思議な安心感があるし。こんな時でさえもとても明るいしね? 何よりもそれでいてどこか真剣な面が垣間見える瞬間があって、そういうところにもなんか好感を抱いてしまう。


 議論はそうした中でも続いていた。


『南門へ集中攻撃すると見せかけ、相手勢力を南門へ集めた上で、本軍をもって北門を突破し、一気に女神イルオナを倒し、強奪する! 

如何でしょう?』

『……にゃるほど。しかし、そう簡単に上手くいくかにゃ? そうしたフェイクなどは、見破られたらそれで終わりにゃ。下手に戦力を分散させず、固まって攻めるが無難ではないかにゃ? 

個々の力で計る限り、こちらが優勢にゃりぞ? 

しかも今なら、相手は疲弊しておる。このまま各個、速攻戦に持ち込むが賢明でにゃいかに?』


『……確かにそうですが、防衛側が城内では特別防御ボーナスがあります。それを上手く利用され、徐々に下げられながら堅く守られると、戦術ランチャーで総戦力を入力し計算した結果 《敗戦可能性あり》と出ていますので……』


『ふむ……にゃる、分かったにゃ。それで、誰が囮となる?』

『当然、我々がその役割を引き受けます』



 ──え!?



『こちらのパーティーには、アリスが居ます。まさかアリスを含むこちらが囮だとは、相手も思わない筈。彼女の存在そのものが、今ならば有効に働きます。

仮に、相手がこちらを《フェイク》と見做したならば、それはそれでまたよし! そのまま我々だけで南門を強行突破し、攻略するのみ!』

『おお! 分かったにゃ、ではフェイク作戦任せるだに!

みな、聞いておったにゃりな? 我々は北へ向かう! 

続くだがにゃあー!!』



『『『――にゃにゃん!!――』』』



 ……間もなく城南門へ到着間際になって、ギルドメンバーはそれぞれ北門を目指し移動して行った。

 城の外は深い霧が立ちこめているため、城内からは外の動きがよく見えないゲーム仕様となっていた。なので、こうした戦術が可能だったのだ。

 だけど、



柊一ランズ、本当にわたし達だけで大丈夫なの??」

「全くだ! 勝手に決めやがって……まあいい。お陰で今夜はまた楽しめそうだよ」


 そう言ったのはカテリナさんだ。怒るどころか、寧ろこの状況を楽しんでるみたい。

 フェイトさんも怒る訳でなく、「良い作戦だ」とばかりに頷き同意している。それを見て、わたしも何となくだけど自信を持ち、走り向かいながらも杖をギュッと堅く強く握りしめる。



 わたし達パーティーは南門へそのまま突撃し、相手パーティーの先陣と思われる姿が見える間もなく、わたしは空かさず赤魔法〈ヘルムヘル〉と初級・召還術士スキル〈フェルテス〉を唱えた。そして空かさずシェイキングする!

 と、スキル一覧が黄金色に輝き出し、青白く光るスキルが突如として一覧内に現れた。



 うあ、凄い!!

 攻略厨連の人たちが、掲載した情報通りだ! 助かる!!



 わたしはそれをパーティー全体に素早く掛ける。


『《バイキル・ウィング!》』

 パーティー全員の行動速度が120%上がる。効果時間約3分!

 攻撃速度、魔法発動速度、防御反射速度、移動速度までもだ!



 次に、白魔法〈タナトス〉と召還術士スキル〈フェルテス〉を唱え、シェイキングする。

 と、やはり黄金色に輝き出し新たなスキルが青白く光り現れ、わたしはそれを素早く発動する。


『《レジム・ホールド!》』

 パーティー全体、全属性&魔法耐性+10upされた。効果時間2分!


 そしていつもの〈フェルフォルセ〉を中心としたスキルも、連続発動! それで攻撃力、防御力ともに底上げされる。一応シェイキングはしてみたけど、残念ながらこの2つに限っては何も反応なかった。

 そんなわたしを、パーティーみんなが城門へ突き進みながらも驚きと感心の表情を浮かべ見つめていた。



「はっは! これは良いな!! すげーッ!」

「ああ、まったくだね!」


 カテリナさんと餓狼狩りさんの2人が調子づいた様子でそう言い、城門で待ち構えているパーティープレイヤーに対し、先制攻撃を仕掛けていた。流石に言うだけのことはあって、その戦い方からかなりの手練れであることが窺える。

 


「それでいい、こちらが本命であると思わせるためにも、今は勢いが何よりも大切です!」

「が、油断はするなよ! 下手すると、あのグランセルがこちら側へ現れる筈だ。恐らく、ミレネも居る!」

「心配ないさ! アリスの《ステルス・ホールド》で、この私がそんなランカーなんぞ、即座に倒してやるよ!!

アリス、いいね? ちゃんいつでも撃てる準備しときな!」

「は……はい!!」



 そのスキルは、出来たらアルトさんとランズの2人限定にしたいけど、そうはいかないんだろうなぁ……?


 わたしは苦笑いながらもそう思いつつ、その間に消費した精神力を回復するため、薬袋からカムカの実を取り出し、ポリポリと食べ続けた。


 そして小さなポケットノートを取り出し、チラッとだけ確認。前もってわたしなりに研究し、可能性のある組み合わせを書き出しておいたのだ。


 合成召還術の中でシェイキングにより発生するものには、どうも法則性のようなものがあった。《デルタフィルホールド》などといった、そもそもシェイキングなどしなくても使える組み合わせの場合には、攻略サイト情報をみる限り、隠しスキルはほぼ現れていない。

 が、逆に明らかに使えない“カス”スキルでの組み合わせをシェイキングすると、高確率で現れている……それはつまり、もしかすると?!


 幸い?と言えるのか、わたしはこれまでに幾つもの失敗を繰り返し、“カス”スキルを何度も並べ肩を落とす日々を過ごしていた。その度に、同じ間違いはしないようこのポケットノートに全て書き留め、カススキルの組み合わせ情報はこの〖 ノートの中に 〗ある。

 

 その中で、わたしは一際気になる組み合わせを幾つか見つけ、今回それを試してみるつもりでいた。


 わたしは、グッ!と真剣な表情をして、早速それを試してみることに決める!

 が、



「アリス! 《ステルス・ホールド》、早よ!!」

「え? あ、はい!!」


 わたしは言われるがまま、2つ魔法を発動し、フェルフォルセを唱えシェイキングし、《ステルス・ホールド》を餓狼狩りさんに掛けた。


 だけど、その相手って……。

 餓狼狩りさんはそれで相手を簡単に倒し、次を指示してくる。カテリナさんもそれに連携して倒していた。


「おいっ、アリス、なにやってんだ! 早く、補助魔法をかけろよ!!」

「あ、は、はい!!」



 《バイキルウィング》《レジム・ホールド》《デルタフィルホールド》《リミットオーバーキル》をほぼ連続で唱え、わたしは慌ててカムカの実を食べる!


「おい、アリス! 《ステルス・ホールド!!》」

「へ? は、はい!!」


 わたしはまた言われるがまま、2つ魔法を発動し、フェルフォルセを唱えシェイキングし、《ステルス・ホールド》を餓狼狩りさんに掛けた。



 でもやはりその相手は……餓狼狩りさんほどの人なら、何もステルス・ホールドなんか無くても倒せそうな格下の相手だ。



 ──ちょ、ちょっと!! こ、こんなんじゃとても精神力が追いつかないよぉ~……。



 薬袋の中は、もうから半分以下になっていた。

 いつもより多めに、補助魔法を使っていたのもあるんだけど……。ステルス・ホールドは、特にその前に発動する2つ魔法の消費精神力量が激しく大きい。それに加え、フェルフォルセを使う。

 フェルフォルセは上級・召還術スキルなので、当然に消費精神力量は多い。なので、これを連続で要求されると、精神力回復の方がとても追いつかない。



「アリス、なにやってんの! 早く《ステルス・ホールド!!》」

「──うはっ!! す、すみません、まだ回復できてなくて! もう少し、待っててください」


 この2人にばかり、既に連続で6回もステルス・ホールドを連続発動していた。

 コレはとてもじゃないよぉ~……。


 カムカの実は、食べて精神力が回復するまでに多少時間が掛かる。わたしは懸命にモグモグと食べ続けていたけど、流石に追いついてなかった。



「ハ? なんだそれ?! アンタまさか、魔聖水も持ってないのか?」



 ──ぐは! グサッ!!

 


「だ、だって、あんな高級な回復アイテム……わたし貧乏だから、とても買えないので……モグモグ。報奨で手に入れたのものなら、幾つか持ってはいますけど…でも、コレは」

「だったらそれを、今直ぐに使えよ!」


 ──!?


「………ぃゃ…です」

「はあ?」


 だってコレは……コレだけは!

「ら、来週の《大決戦》の時に、使いたいから……」


 そう、コレは来週の大決戦で、眞那夏まなかに残しておきたかった。だから今は、まだ使いたくない!


「申し訳ありませんが、今回はまだ、使いたくないので……」

「──!!?」


「──はあ? てめぇはバカか、そんなモン来週の話だろう!! 今出来ることを今やらなくて、どうする?! つべこべ言わず、サッサと使えよ!」

「餓狼狩り……アンタのは言い過ぎだよ。

が、足でまとい……。お前、今の状況を分かって、ちゃんと頭で考えてモノを言ってるのか? 今は、そんなことを言──」

「──!! 兎に角。い、いやなんです……」



「……ちっ!」

 カテリナさんは舌打ちすると、わたしを置いて餓狼狩りさんと共に南城門内奥へと進んで行った。


 それを見送りながら、だけどわたしは少し罪悪感を感じる……。

 きっと、カテリナさんの言ってることが正しいのかもしれない。ギルドみんなが最善を尽くしているこの時に、今は使いたくない、なんていうのは単なるわたしの勝手なわがまま……なのかも。



「い!? ──痛ッ」


 わたしの腕を、唐突に一本の弓矢が掠める!

 それで、それまで手にしていたポケットノートを落としてしまった。


 咄嗟にわたしは、近くの壁に身を隠し、相手をチラリと見る。南城門内部の高台右手、更にその奥に、ランカーである大弓のミレネさんが弓矢をギュッと引き絞り、わたしを狙い構えていた。


 あ、あんなにも遠いのに……この、命中精度っ!?


 前回の決戦で、このわたしを射抜いてきた人だ……。わたしは、その時のことを思い出し、途端に青ざめた。



「アリス、大丈夫か?!」

「腕は、痛くないですか?」


 直ぐに、アルトさんと柊一ランズが駆けつけてくれた。本当は痛いんだけど、わたしは無理に笑顔を作り答える。


「……あ、あはは! わたしなら全然平気、大丈夫です! それよりも……あれを」


 城門内に入って分かったことだけど、今やわたし達パーティーは、4パーティーに囲まれていた。それもランカーである大弓のミレネさんと同じ弓を主体としたパーティー編成と、それを守る近接主体のパーティーが城門内両サイドで広く展開し、わたし達を囲んでいる。

 更に突破する中央には、2パーティーが布陣し、餓狼狩りさんとカテリナさんの2人はそこへ斬り込んでいた。

 が、左右にいる弓パーティーからの遠距離攻撃を受け、流石にそれ以上の前進は出来ずに居る。



「……思った通りだ。南門からのみで集中攻撃していたら、ここで足止めされ、更に後からの追加加勢で敗戦していたかもしれないな……」

「しかしこの様子から言って、他の門も同じ布陣で守ってるんじゃないか?」


「ああ……だからこそ、尚更この南門に相手主力を呼び込みたいが……コレはちょっと飛び出すには厳しいね?」

「き、厳しいってなぁ……おいおい。

フェイク作戦を成功させるためにも、ここはなんとか相手を突き崩すしかないだろう」


「ハハ、しかし無闇に飛び出してはただ無駄にやられるばかりで余り上手くない。まあ何か策を考えてみるさ。

何せ、次の大決戦でこの6大城を持ってるか持ってないかで大きく変わってくるからね」

「ああ、そうだな。オレも何か自分で考えてみるよ」

「……」


 ……そう、だよね…ここを取らなければ、次の大決戦にも影響が出るんだった。


 わたし、本当にバカだ……。



 わたしはそう気づくと、決意し。直ぐに城の床に転がり落ちているポケットノートを見つめ、大きく息を吸い込み、そのままそこから一気に飛び出した!



「──な!? こら、待てアリス!! 急に何をする気だ?! バカ、無茶をするな!」

「だ、大丈夫です!!」


 わたしが飛び出すと同時、そこを大弓のミレネさんが慌て狙い撃って来るが。わたしはそれをなんとか交わしながら這いつくばって元の場所へと戻り、早速ノートをパラパラとめくって、確認。


 一か八か、これに賭けてみるしかない!


 そう思った。


 わたしは薬袋の中にあるカムカの実を、全て口の中へザーッと入れ、モグモグと急いで食べる。


「アルトさん……モグモグ、柊一ランズ……モグモグ、仕掛ける準備を! モグモグ!!」

「え?」

「なんだよ、アリス。まるでリスみたいな顔して、急にどうした?」


 わたしはその問い掛けに対し、思わずカクリと肩を落としつつも軽く微笑み返すと、上級白魔法〈パラスファリネ〉と上級黒魔法〈ゼクロムファイアボム〉の2つ魔法を発動。そして即座に、上級召還術スキル〈フェルフォルセ〉を唱えた。



『汝等、我と共にあれ……〈フェルフォルセ!〉』



 途端に発動可能一覧が表示され、空かさず《シェイキング》する。

 と、期待していた通り黄金色に輝き、新しい隠しスキルが青白い光を放ちながら現れた。


 わたしはそれを直ぐに選び、発動する!


『《ゴッデス・ウィング!》』

 これは《バイキル・ウィング》の進化系。パーティー全員の行動速度が180%上がる。効果時間約3分!

 攻撃速度、魔法発動速度、防御反射速度、移動速度までもだ!


 わたしは魔聖水を少しためらいながらも、栓を抜いてゴクリと一気に飲み、精神力大回復!


 そして空かさず、上級白魔法〈レジェヌドール〉と上級黒魔法〈ファイアスピリッツ〉の2つ魔法を発動。そして〈フェルフォルセ〉を唱え、シェイキングする。

 今回も上手いこと黄金色に輝き、新しい隠しスキルが青白い光を放ちながら現れた。


 ──が、これって……!?


 わたしは、まさか……と思いながらも、それを即座に発動する!



『《合成召喚:火の隷ファルモル!》』



 唱えた途端、わたしの目の前に大きな炎の塊が現れた!

 しかも何故か、猫耳?らしきものを付けた愛嬌ある顔立ち。



「──なっ!?」 

「ま、マジかよ……」


 これには、わたしも予想外で驚いたけど。アルトさんやランズ、そして相手ギルドも怯む様子を見せていた。



「くそ! よく見ると、あのアリスが居る!! 南門がやばい、直ぐに応援を要請しろ!」

「あんなのまで出せるのかよ……!! マジで最強じゃねぇーか!」



 そうした声が聞こえ始め、世界チャットにもその情報が飛び火し、いつの間にか大騒ぎとなった。

 これには、アルトさんもランズも「よくやった!」とばかりに、改心の笑みを見せ。それから直ぐに立ち上がると、先ずは右手の弓パーティーを狙い突撃開始!


 それに合わせ、わたしは目の前に居る《火の隷:ファルモル》に対し、それを応援するよう指示する。

 と、ファルモルは軽く頷き、驚く速さで右手の近接パーティーを飛び越えて、直接に弓パーティーを襲い始めていた。


 紅蓮の炎に焼かれ、数名の大弓プレイヤーが絶叫しながら消滅。しかし、ランカーである大弓のミレネさんはそれらの攻撃を上手く交わし、城壁を駈け降りながらもこのわたしを狙い、大弓を引き絞り放ってきた!!


「――うわっ!」


 それは、わたしの直ぐ脇を掠めてゆく──。

 今の危なかった!


 そのミレネさんに対し、アルトさんが斬り込むが。相手の動きが素早く、掠りもしなかった。そうしている間にも大弓のミレネさんは弓矢を引き絞り、またわたしを狙い撃ってくる!!

 しかも凄い高精度で!

 流石は、有名上位ランカーだ!


「──ぅわあ! ッ……痛」


 わたしは、上手く交わしたつもりだった!

 が、右肩にそれは突き刺さり、わたしは余りの痛みから手にしていた杖を落としてしまう……。

 それとほぼ同時に、《炎の隷:ファルモル》は消滅した。



 や、ヤバいかも……。



 大弓のミレネさんが、そこでふっと笑み。わたしを狙い、再び弓矢を引き絞っていた。

 しかも今度は、単なる単発ではないみたい。口元が微かに素早く動いているのをみると、間違いなく“スキル”での攻撃だと予想出来る!! 


 直ぐにでも起き上がり、逃げたかったけど。身体が痛みで思うように動かず、立ち上がるのだけで精一杯だった。



 もう……これで最後、もうこうなったら残された手はこれしかない!



 わたしは落ちている杖の位置を一度確かめ、それから魔聖水を一気に飲みながら飛び出し、その杖を手にすると同時にスキルを連続発動する!



「アルトさん、柊一ランズ、あとのこと頼みます!!

《ステルス・ホールド!》」

「──!?」


 大弓のミレネさんは弓矢を放ち、同時に近づき攻撃してくるアルトさんの攻撃を、軽く笑みを浮かべ素早く交わす。 

 が、次の攻撃時そのアルトさんの姿が消え、何事かと思い反射的に後退していたが。思わぬ方向から、その脇腹にフェイトさんの長剣が突き立てられ……《決戦》生存率97%以上という脅威的な数値を誇る大弓のミレネは口元から血を流し、「ま……まさか…!?」その一言だけを残し、消滅した。

 


 そしてわたしは……、

「アリス!!」

「しっかり、アリス! まだいってはダメだ!!」



 さ、流石は、大弓のミレネさん……。

 16発同時斉射の弓スキルで、高精度にわたしを中心に逃げられないよう狙い撃ち。胸や脚と腕に、合計9発の弓矢が次々と着弾。それで小手と脚の防具は、アッサリ耐久度0の大破消滅。

 黒龍王の法衣も半壊し、肌が露出するほど破れ。そしてわたし自身は、その胸に突き刺さった数本の弓矢を手に口元から血を流し、膝を崩しながら遠くから聞こえてくるアルトさんと柊一ランズの微かな声を耳にしながら涙し……消滅した──。


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