─3─
わたしは《決戦》場へと降り立った。
6大城の一つである女神イルオナを前回落とされていた為、今回は何もない平原からのスタートとなる。ここは、シンボルとなる瓦礫の建て物があるばかりの寂しい場所だ。
間もなく他のギルドメンバーも同じく指定した決戦場ポイントであるここへ次々と光を放ちながら姿を現しては降り立ち、パーティー編成を随時始めていた。
そしてわたしの近くには、あのカテリナさんが居た。笑顔を向けてはくれるが、わたしは余りいい気がしなかった。
「まあそんな訳で、今回はお世話になるよ」
「……はぃ。よろしくお願いします」
わたしは不満に思いながらも特に表情を変えることなく、声のトーンを落としながらもそう応えるに留める。そして今回のパーティーは、真中以外にもカエル軍曹さんの代わりに餓狼狩りさんが居た。彼もギルド内では自己中心的なことで有名な一人。
まったく、どいつもこいつも……腹立たつなぁー!!
それにしても、中身があの岡部くんである筈のカエル軍曹さんを押しのけてまでだなんて……凄く強引な人だよ! なんだか岡部くんらしくないというか、考えれば考えるほど腹立たしく思えてくるなぁ。
……あ、ダメだめ。今は個人的な気持ちなんかでパーティー全体の連携崩してる時じゃないよね? ギルドの為にも、今は我慢しなきゃ!
そんな訳で今回、わたし達パーティーの編成はこうなっている。
〈剣聖〉フェイトさん、〈聖騎士〉ランズベルナントさん、〈魔剣士〉カテリナさん 〈大魔道師〉ネトゲ最高さん、〈闇騎士〉餓狼狩りさん、〈召還術士〉アリスでございありんす……あ、これはわたしね?
そしていよいよ……決戦開始カウントダウン0! スタート!!
「ではいくぞ!」
「「「「にゃにゃん!」」」」
フェイトさんの合図と共に、わたし達パーティーは六大城・女神イルオナが居る炎の城を目指し走り出した──!
炎のエレメント・女神イルオナの城には既に他のギルドが攻め込み、激しい攻防戦が行われていた。ギルド同士のマナールールとして、こういう場合には攻撃側であるギルドが退散表明するまでは手出し出来ないことにしてある。
但し、攻撃開始から20分を超えた場合に限り、途中参加し奪い合いって良いルールとなっていた。……と言っても、後で問題にならないよう相手ギルドに対し事前通告した上で、ということになる。
実は、ゲーム仕様としては最初から全て可能で制限などは一切ないんだけど、これは自分たちプレイヤー同士で決めたローカルルールだった。
「……くそ、出遅れたか」
「念のため走り向かわせておいた別働隊も、どうやらダメだったみたいだ。他の6大城でも、既に攻防戦が始まっているらしい。今回はかなり手厳しいですね。仕方ないので、もうここで待つ他ないでしょう」
フェイトさんと太一ことランズベルナントさんがそう話し合っていた。
「なあ、構わないから、そんなルール無視して今すぐに攻めようぜ。アイツら俺らより全然弱いし。気づかなかったことにすりゃ、別に良いだろ? 文句言ってくるようなら、ギルドごとぶっ潰してやればいい」
「まったくだ。時間の無駄なだけよ」
「……」
そう言ったのは、餓狼狩りさんとカテリナさんだ。それを聞いて、フェイトさんとランズベルナントさんは困り顔を見せている。
「ダメだ。『天山ギルド本営』で決めたルールだから守る必要がある。これを破れば、うちのギルドメンバー全員が他のギルドからPKの標的にされるからな」
──ぴ、PK!?
「……俺は別にそれでも構わないぜ。逆に倒しに来た奴ら倒し返してやるから問題はない」
「そもそもそんなGMだけが集まって決めたルールなんて、私たちの知ったことじゃないのよ」
わたしは2人の話を聞いていて青ざめた。
この人たちの言っていること、もぅ無茶苦茶だよ。本当に自分のことしか考えてない……。だって! そんなことになったら、わたしなんかもうこのゲームを引退するしかなくなるもの……。
前に噂で聞いたことがある。入る度に他のプレイヤーから倒され、全てを剥奪され裸にされるまでそれが永遠に続くって……。
このゲームはよく出来ていて凄く面白いけど、そういう残酷な一面もあった。今時のMMORPGではPKそのものが出来ないことが多いのに、このゲームではまだそういった自由度が高く設定されている。だから大手ギルド同士で合同会議を行い、運営側が対応してくれないそういった問題点を解決するため、こうしたローカルルールが設けられていた。そしてそのローカルルールを守らせる為の抑止力として、破った者はギルドを含めその責任を問われることになる……。
つまり『天山ギルド本営』に加盟する連盟ギルドがそのギルドに限ってルール制限を外し、PK……要するにそのプレイヤー及びギルド所属の者全てを標的として幾らでも何度倒しても構わない、寧ろ世界チャットを通じて連絡し合い推奨さえもする。これはつまり公的に認められた、集団リンチだ。
中には、それを楽しみにしている者さえも居ると聞く……。
運営としてもそもそも全て認められたゲーム仕様上の行為であるため、窮状を幾ら訴えたところで救ってはくれない。そうなった時に頼れるのはもう同じギルドの仲間だけとなる。だけど……これまでに標的となったギルドの大半はやがて内部紛争を起こし揉め、結果として解体・離散していったのをわたしはこれまでに数例見てきている。
「バカなことを言うな、そんなことは出来ない」
「これはギルド規約にも書かれてあることです。もし、これを守れないというのであれば、今すぐにここでパーティーを解散し、ギルドからも即時除名することになりますが……それでも構わないという認識でよろしいのですね?」
「……ちっ。分かったよ」
「仕方がないね」
「……」
フェイトさんとランズベルナントさんの厳しい一言に、流石の2人も諦めてくれたようでわたしはホッと安心する。
けど……パーティー内の雰囲気はそれでもう険悪なものになっていた。
こ、このままだとまずいよ……。
決戦もまだ始まったばかりなのにこの雰囲気、折角のお祭りイベントなのに、こんなんじゃ楽しめない。もったいないよ!
わたしは色々と思い悩み、とにかく場を明るくしよう!と決心する。
それで『シャキーン!』と唐突に右手を斜め上にあげカッコ良く?決めて、そのままクルリンと腕を回し仮面ライダーポーズ! ほら、コレでもう完璧!!
……でも何だかみんなの反応が思っていたよりも薄いので……更にそのあと、確かこんな感じだったっけ?と思いながら「シェー!」をみんなの前で披露して見せた。絶対にウケる筈、そう思って!
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………あ、あれ??」
──うあ、ぐは! まさか今の、メッチャ外しちゃいましたかぁああぁあー?!
い、いや! や、待って、違うんです! 今の違うんですよ……ふあっ!?
あ、あの太一くんことランズベルナントさんまでもが目を点にして、このわたしのことを見つめてるし……。
あぁ~、もう詰んだ! お、終わった……。わたしの印象台無しだぁ~、最低な『空気読めない野郎』とコレで思われたに違いないよぉ~……。さようなら、わたしの恋……。
わたしはその場でヘロヘロと膝を崩し落ち込む。
「……ばか、そこ違うだろ」
「へ?」
「ライダーG7ブラックは、先に左手をこう! そしてクルリと回し、次に右手をこう!やるんだよ、アリス」
「……」
誰かと思えばフェイトさんだった。
「え? でもわたし結構好きだから毎週観てるけど、先に右手からじゃなかったっけ??」
「違う違う、先に左手! それから、こう!」
「そもそも『シェー!』だって違ってましたよ」
「え?!」
誰かと思えば、ランズベンルナントさんだった。
「『シェー!』をやるなら、コレくらい“バカ”にならなきゃダメです。手本を見せますから、よく見ていてくださいよ?
行きます! 『シェー!』」
「え? は、はい! 『シェー!』」
「違う違う! なんですかその可愛らしい『シェー!』は、まるでなってない! やるならコレくらい“徹底的にバカ”になってやるんです。
ほら、先ずは足を大きく開いて! カクンと曲げる、それからアホ面になって、こう!
次に、もう完全に『イッチャッタ?的な感じ』で、『シェー!』」
「……。あは、あはは、あははは、あはははははははははは!!!
す、すみません…………それ、流石にわたしには無理そうです……」
「なんだなんだ、先にコレを始めたのはアリスなんだぞ? そんなノリの悪いことでどうする」
「──あ、いや! わ、わたしはただ単に!! ……場の雰囲気をもう少し、和やかに出来ないかなぁ~?と……思ってやってみただけなのであって…」
わたしが困り顔に苦笑いながらそう言うと、フェイトさんがそんなわたしの頭の上に手を軽くポンと乗せ「そっか……サンキュ♪ 助かったよ」と言い微笑んでくれた。
わたしはそれで頬を染めホッと安心する。
パーティー全体の雰囲気もいつの間にかやわらかくなっていた。何よりもフェイトさんがこのわたしの思いに気づき、汲み取ってくれたことが凄く嬉しい。
やはりそこは、大人の貫禄なんだろうなぁ?
わたしは頬を染めたまま、そんなフェイトさんをつい遠目にほぅと見つめてしまう。
「お! どうやらいよいよオレ達の出番みたいだ」
「……流石に3ギルド連盟で守っているだけのことはありますね。同じ3ギルド連盟で攻め立てていたようですが、それでも敵わなかったらしい……。
我々も他のギルドに声を掛けて総力戦で落とすことも可能ですが?」
「……いや、『黒騎士団』とオレ達『黄昏の聖騎士にゃん』だけで十分だろう。なにせオレ達には、アリスが居るからな」
「へ??」
「ハハ! 頼りにしていますよ、アリス」
「あ……はい!!」
間もなくギルドチャットに、GMねこパンチさんの書き込みがボイス入力と音声で乱打された。
『いま制約20分を超えたにゃ! 乱入開始するだにゃー!!』
『『『にゃにゃん!!』』』
わたし達ギルド総勢はそれで一斉に炎のエレメントが居る女神イルオナさんが待つ城内へと向かい走り出した──!
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