─5─
今日の夜もデュセオルゼ討伐のため、山岳地帯で集結していた。だけど眞那夏ことマーナの姿はどこにも見当たらなかった。
「おーい、アリス! そろそろ行くぞぉー」
「……」
わたしは後ろ髪を引かれる思いでギリギリまでマーナを待っていたが、呼ばれ、仕方なく先へ向かうことに決める。
今回は
ギルド内でマーナと同じか、それよりも強い人だ。デュセオルゼ討伐にも、かなり手慣れているらしく、もう常連らしい。
それはそうと、わたしの装備品である胴が今回は驚くべき進化を遂げていた。
因みに以前の装備がコレ、
【『ティルフェスモのローブ+5』
知力+3:防御+14:意思力+7:運-9】
そして今回新たに手に入れた装備がコレ、
【『黒龍王の法衣+4』
知力+12:精神力+270:防御力+980:意思力+6:運-15】
前に持っていた装備がまるでゴミのように感じてしまうほど、桁違いに強い。前のなんて、防御力とか+14しかなかった……。しかもまだ+4なので、あと三段階も強化出来る。最大+7まで強化可能だから。
このローブは全体的に青黒い不思議な光沢感のある法衣で、胸辺りに小さな赤い宝玉が埋め込まれてあった。ただ気になるのは、その裾の長さ。
前はローブと言えば、膝下辺りまでは当たり前にあったのに、何故か腰から少し下までしかない。ハッキリいって、際ど過ぎる……下手に動き回ると見えるんでないの、コレ??
そのことを不思議に思い、どうしてこうなったのかを鍛冶屋のライアスさんに聞いてみたところ……。
「いや、だってアリスちゃん。可愛いし、スタイルだって物凄くバツグンに良いからさ、その美脚が最大限出ている方が絶対いいかなと思ってね! はっはっは♪ どうだい?」
「ま……まさかのライアスさんの趣味入りですか、コレ?! またそんな勝手なこと、ヒドいですよぉーー!」
「うわ! いやいや、心配はないから! 別にそれで防御力その他に影響とか出たりしないから、安心して!! 特別にオマケもしといたし!
ああ、そうだ! 追加でそこに吊してあるマントも、ひとつ上げるからさ」
「オ、オマケ……しかも、マント!?」
わたしはそれを聞いて、大人しく引き下がった。
なんでも本当は+2だったのを、+4まで特別に上げてくれたらしい。貧乏なわたしとしては、物凄く助かる。更にマントまで頂けるなんて……感謝♪
わたしはワクワクどきどきとしながら「本当にいいのかぁ~?」と思いつつも、吊してあるマントの幾つかを満面の笑みで見て回る。その中で一際目立つ綺麗なマントが目に留まり、途端に目が輝いた。
「――ラ、ライアスさん! これ凄い、綺麗ですねー!!」
「え? あ、いや、そ、それは……!!」
「わあー、うわあー凄い! コレ、とても素敵だし綺麗♪ ……あ」
値札を見ると、20万リフィルと書かれてあった。
流石にこれは、無理かぁ……。
わたしはそう悟り、カクリと肩を落とす。が、
「……仕方ない。アリスちゃんにそれ、今回だけ特別プレゼントするよ」
「え?! だけどコレ……20万も…」
「いいよ、いいよ♪ ははは! その代わり今後、うちのお得意さんになってね?」
「……あ、ありがとうございます!! もちろんです!」
わたしは嬉しさの余り、涙しながらライアスさんに抱きついて感謝した! そして余りの嬉しさに思わずライアスさんの頬に軽くキスをする。
するとライアスさんは驚いた顔をし、頬を真っ赤に染めデレ~っとしている。わたしはそんなライアスさんを同じく頬を真っ赤に見つめ、えへへ♪と微笑んだ。
そのマントは、白地に金糸の刺繍が縫い込まれた前留めするタイプのしっかりとしたそれは見事な美しいマントだった。それでも腰下前の方はどうしようもなかったけれど……。でも気になる後ろの方は、そのマントが膝下辺りまでカバーし隠してくれる。
きっとコレは本来、聖騎士以上のクラスの人が装備するような上級冒険者用のマントだと思う。
なんだか急にわたし、気分だけは上級冒険者になれた気がする♪
そのあと浮かれながらライアスさんに笑顔で手を振りながら別れ鍛冶屋を出て、いつもの道具屋さんの前へと行くと《カムカの実》を買い込み薬袋の中へ詰め込み、それからたまたま目についた10リフィルの安っぽい茶褐色のローブもついでに買う。
そしてそのローブを、先ほど頂いたマントの上から更に羽織る。
道具屋のボルテさんはそれを見て、不思議顔に驚いていたけど、これで良いの。だってさ、大切な本にもカバーを付けるでしょう? 汚れたり破れるのが嫌だから。だからわたしもこのローブを羽織ることで、この素敵なマントが汚れないようにしようと思った訳♪
ほらほら、完璧! でしょ?
そんな訳で、わたしは昨日までとは違い少しだけ自分に自信が持てていた。今日は昨日よりも、みんなのお役に立てる筈! そう思って。
今回もアルトさん達と山岳地帯を登り切り平原へ辿り着くと、デュセオルゼ=ヴォルガノフスは今日も静かにそこで無警戒に眠っていた。
わたしは昨日と同じように二つ魔法と〈フェルフォルセ〉を唱え、パーティー全体の防御系と攻撃力両方を即座に上げる。
それに合わせ昨日と同じく、ねこパンチさんが「ほいじゃ、今日も行くかにゃのにゃー!!」と言い。
「「「にゃにゃうにゃー!!」」」
と皆で一斉に攻撃へ走り向かう。わたしもそれに付いていった。
「バカ、アリス! お前はもう少し後ろで下がってろ!!」
「ちっ! 邪魔をするな、“足手まとい!” さっさと下がれ!!」
「え? ……あ、はぃ」
アルトさんにそう言われ、続いてカテリナさんからもそう厳しく言われ、わたしは不承不承に思いながらも少し下がる。
今のわたしならきっと、もっと戦える、そんな気がしていたから。
が、
「――ぐっ!? うわっ!!」
いきなりデュセオルゼが巨体を回し、棘の生えた尻尾を高速回転させて来たのだ!?
わたしはそれを避けきれず、直撃をモロに受けてしまった!!
それにしてもまさか、こんな距離に居ても届くなんて!?
途端、思わず身体を庇い前へ出した手の指輪が耐久力0となりアッサリと壊れ塵と化し、10リフィルのローブも大破耐久力0消滅、白銀のマントと黒龍王のローブも僅かながら一部がその攻撃でザクッと持っていかれ裂け損傷、腰辺りの肌がそれでモロに露出する。
「――うああぁ……うそぉおおー!! なんでぇええーーッ!!」
幸い、それで倒されることがなかったのは、黒龍王のローブが持つ防御力のお陰だけど。今の間違いなく、瞬殺されても可笑しくはないレベルだった。
「だから言っただろ! 危ないから今直ぐにさがっていろ!!」
「……」
「は、はい!!」
びっくり眼でわたしは四つ足で下がり、結局は昨日と同じく後方からの支援に勤めた。
だけどその前に一瞬見せた、カテリナさんの冷ややかなわたしを見る視線が、少し気になったけど……。
足手まとい……か。
く、悔しいけど……今のわたしには、何も言い返せそうにない。そう思うと急に悲しくなる。
きっと
わたし……もっと、もっと強くなりたい!
「アリス、ボーッとしてないで、直ぐ追加の補助頼む!!」
「あ、はい!!」
ヤ、ヤバイ!
こんな時に、何をわたし他のことなんか考えて……それでなくても足手まといなのに!!
そうして慌ただしい戦いは終わり、今日は40分程でデュセオルゼ=ヴォルガノフスは絶叫を上げズシリと倒れた。
「……40分? 結構、時間かかったな……」
――ぐは! グサッ!!
カテリナさんの何気ないそのひと言を耳にし、わたしは再び心に弓矢を打ち込まれたような痛みを感じる。
気分はもう、とどめを刺された感じ。
「す、すみません、カテリナさん……余りお役にたてなくて」
「……」
カテリナさんはそんなわたしの言葉を受け、驚いた顔を見せていた。が、直ぐにふっと笑み言う。
「……いや、いいよ。初めから、わかっていたことだからね」
――再びの、ぐは! グサッ!!
「そうにゃ。気にするでにゃい、アリス! 借りた借りは全て、決戦で返せばそれでよいからにゃー!」
「……」
GMねこパンチさんのなんか笑える言葉を聞いて、わたしは目尻に涙を溜めつつもつい吹き出しそうになったけど「はい、にゃ♪」と答え感謝し、笑むに留めた。
それにしてもカテリナさん、てっきりわたしに対して凄く怒っているのかな?と心配だったけど、そこまでじゃないようなのでホッと安心をする。ただ……言うコトがいちいち手厳しいので参るよ。
もっとも、言われてる内容は全てごもっともなので、納得なのでありますが……はぁ~。
何にせよ、今回は随分と甚大な被害を被ってしまった。折角、綺麗なマントとローブを手に入れたばかりだというのに……でも、また今日のドロップアイテムを売れば、修理費くらいなんとかなるかなぁ?
わたしは楽天的にそう思いつつ、僅かな経験値とリフィルを貰い。次のドロップ報告を楽しみに待った。
【アイテムドロップ】
『錆びた杖』
『なんかの皮』
『カムカの実』
「……へ?」
まさかの、コレだけッ?! うそぉおーー!!
「アリス、今日はどうだった?」
「は、はは……やはり世の中そんなに甘くはないようで……」
「そっか、まあ仕方ないさ。それにどうやら……既に、良い《法衣》を手に入れていたみたいだしな?」
「え? ――あ、そうでした!! すみません!」
そ、そうだった!
そう言えば、皆への報告が遅れていたのを今頃思い出したよ!!
わたしは慌て、黒龍王の法衣の上に羽織っている白銀のマントの前止めを外し、スルリと脱いで折りたたみ、両手に持ち、着ている法衣の裾が短いのを気にしながらも頬を染め、みんなに新しい装備のお披露目行い、深々と頭を下げお礼をする。
「これが……新しく鍛冶屋さんで精錬し用意して頂いた『胴』になります。それもこれも皆様の陰様です! 本当にありがとうございます!!」
「「「おおー! すっげー! 脚長っ! 美脚すぎっ!!」」」
「は?」
――ポ、ポイントまさかの“そこ”ですかあー?!
もしかすると、わたしの感性がちょっと消極的で子供なだけなのかなぁ……?
だけど実際、身体全体真っ赤になるほど恥ずかしいんだよね、コレ……。そもそもこんな装備のまま走り回る勇気なんて、わたしにはない。
「つーことで、これからはアリスちゃんの“生足”が毎日見られるようになるにゃりますにゃん♪ ありがたにゃ、ありがたにゃ!
ギルドチャットで早速、みんなに好報告にゃ♪」
「さあ、それは……どうなんでしょう~?」
わたしは苦笑ってそう言いながら、もうからいそいそと白銀のマントを澄まし顔で着用し前止めする。
それで腰から下の大部分は隠れちゃうのだ。正面だけは、どうしようもないけどね?
それを見て、男共は実に残念そうな顔を浮かべ、ため息をついている……。
あはは……ご期待に添えなくて、ごめんなさぁ~い。
そんな中、カテリナさんはそうした男達を呆れ顔に見つめ、口を開いた。
「しかし、今回のアイテムドロップは、内容的に渋かった……ヴォルガノたんのドロップは、当たり外れが激しいからね。運が良いと、『巨龍王の宝玉』とか『巨龍王の皮』とか落とすこともあるんだけど」
――え?
わたしはその話を聞いて、思わず目が点になる。だって“それ”……。
「ははは! でもドロップ確率数パーセントの低確率なんだろう、それ? そんなの余程の運がないと無理だよなー」
「ワシもずっとそれを狙うて掘っておるにょにゃりが、まだ一度も拾ったことがにゃいのにゃ~……」
え? へ??
「噂だと、凄い装備が加工出来るらしいんだけどねぇー」
「まあレアドロップ素材も良いけど、レア武器が今は欲しいんだよ、オレの場合は」
「それもなかなか良いのなんて出ないらしいよ? たまに出ても、大抵は外ればかりだってさ」
うわ、うっわ! うへぇえー!!
わたしは皆の話を聞いているうちに、なんだか申し訳ない気持ちで一杯になる。だってさ、昨日それらのものを一撃で全部手に入れていたんだもん! なのに、みんなのお陰で折角手に入れたこのローブが《決戦》前夜の今日、まさかのこの半壊状態という有り様な訳で……。
わたしはそのあとその事について、みんなへ謝る。それを聞いてみんな快く「まあ若干傷んだのはちょっと残念だけど、直せば済むことなんだから、気にするな♪」と許してくれた。
凄くありがたい、って思った!
だけど、それでもカテリナさんだけは、このわたしを厳しめの表情で見つめていたけれど……。
その後、この日は明日に向けての戦略会議があるそうなので、わたしはお先し笑顔で手を振りふり首都グレゴリアへと独り帰還する。
◇ ◇ ◇
「……こりゃ、ひでぇーな。どんな扱い方したらこうなるだよ?」
「あはは……ですよねー?」
わたしは帰還すると、すぐさま鍛冶屋のライアスさんの元へと向かい、傷んだ装備の費用を聞いていたのだ。
「悪いがなアリスちゃん、これだけヒドいと8000リフィルは最低でも掛かるよ。これでもアリスちゃん特別値段だがね」
「そ! そんなにも、ですか……」
ある程度予想は出来ていた。装備品もランクが上がり、レベルの高い装備ほど修理費用がかさむのは常識だったから。
黒龍王のローブはかなりレアな装備なので、それなりの覚悟はしていたけれど……それにしても今までの装備よりも、一桁値段が高くなっている。前は高くても1000リフィル前後だった。
とても今のわたしには、この装備を維持出来そうにない。そのことが今回よくわかった。
「え? コイツを売るのか?? しかしこりゃ……折角のレア装備なのに、売るのはもったいないと思うがなぁ…」
「えぇ……そうは思うのですが。わたし貧乏なので、とても継続的な修理とか無理そうだし……それに、今回指輪も壊れたから買い替えないと、明日の《決戦》に影響が出ちゃうんです。
だってわたし、ただでさえ足手まといなので、これ以上ギルドのみんなには迷惑かけたくないから……。
なので、すみませんが幾らかの値段でこれを……あと出来たら、手頃な値段の指輪を一つお願い出来ないでしょうか?」
「……」
鍛冶屋のライアスさんは暫く悩み顔を見せたあと、急に頷きこう言ってくる。
「なら、こういう条件なんて、どうかな?」
「へ?」
そのライアスさんの条件には、かなり驚かされた。だけどそのお陰で、この黒龍王の法衣を手放すことなく、更に新しい指輪を手に入れることが出来たのだから良かったのかも知れない。
【『パランティアの指輪+7』
知力+9:精神力+300:攻撃速度+4:一度だけ全パーティーの復活&全回復(但し、一度使用すると消滅)】
そしてその条件というのは、毎日ログアウトする時にはこの鍛冶屋を必ず利用すること。そして奥の部屋で全部脱いで、装備を手渡し修理に出すこと、ただそれだけだった。
しかも驚くことに、毎回特別価格にしてくれるらしい。凄く良い人だな、って素直にそう思った! そして今日も奥の部屋へと入り装備類を全部そこで脱いで下着姿となり、わたしは少し頬を赤らめながらもそれを手渡すと、明るい笑顔で愛想良くライアスさんに手を振りふり間もなくログアウトする。
まさかそのあと、ライアスさんがその装備類の匂いを嗅いで喜んでいたなんて思いもせずにね…………ぐは!
◇ ◇ ◇
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