─4─

「よっ! アリス」

「はは、お邪魔します」


 次の日のお昼休み。

 いつものように眞那夏まなかと仲良く学校の屋上でお昼ってると、草川三雲くんが友人を連れ現れた。

 相変わらずその手には、購買部で買ったらしいパンの入った袋を持ってる。よく見たら、二人とも同じ。


 まさか、お弁当とか用意してくれないのかなぁ?



「紹介するよ。コイツは、友人で同じクラスの鳴沢柊一なるさわ しゅういちだ」

「鳴沢です。これからは、柊一、でいいよ。同級だし」

 

 鳴沢柊一くんは笑顔でそう言った。なんだかとても好印象な感じ。割とわたし好みかも?


「はじめまして! わたしは鈴原ありすです。アリスと気楽に声を掛けてくださいっ。みんなからも、そんな感じでいつも呼ばれてるから♪」

「榊 眞那夏です。わたしも、眞那夏と呼んで欲しいかな?」


「アリスさんに眞那夏さんね。よし、覚えた」

「んじゃオレも、今度からはただの三雲でいいよ。同級だし」


 挨拶もほどほどに、2人はわたし達の前にあぐらをかいて座った。



「アリス、今日もデュセオルゼ討伐行くんだろ?」

「ン、うん……だけど、なんだかみんなに迷惑掛けてないかなぁ? どうも悪い気がしてさ……」

「もちろん掛けてはいますよ、アリス。でもね」


 そう言ったのは、意外にも冷徹な草川三雲ではなく、柊一くんの方だった。


「だけど、それでアリスさんが強化されるのなら。ギルドとしては、寧ろプラスだからね。気にすることなんてありません」


 なんだかまるで……昨日の三雲みくもみたいなことを言ってくれている。だけど、同じことを言われただけなのに不思議と安心感はその倍くらいに感じられるのだから不思議だ。


「あ、あのぅ~……もしかして柊一くんもA・Fをやっているのですかぁ?」


 わたしがそう聞くと、草川三雲と柊一くんは互いに顔を合わせ笑みを浮かべている。


「やっているもやってないも、この所いつもお前と一緒してくれてるギルド補佐のランズは、この柊一しゅういちなんだよ」

「――へ? うへええーッ!!」


 わたしはびっくりした。

 だってランズさんは、アルトさんくらい大人な感じの人で、印象としては二十代半ばくらいなんだろうな?とずっと思っていたから。


 なのに、まさか同級生で、しかも同じ学校同士だったなんて……。


「い、いつもお世話になっております!!」

 わたしは思わず両手をついて、頭を下げお礼をした。

 だってそのくらい、お世話になりっぱなしってますからっ!


「いやいや、こちらこそ可愛いアリスとこのところずっとご一緒出来て、光栄なくらいなんですから、気にしないでいいですよ。

それよりも『くん』付けは要らないので、遠慮なく呼び捨てちゃって下さい」


 と、言われてもなぁ……明らかにわたしよりも格上と思われる人を呼び捨てにするのは、偲ばれるのでありますが……。


「あ、ではあのぅ~……柊一?」

「はい、アリス。これからも、よろしくね♪」


「あ、はいっ!!」


 わたしはなんだか嬉しくなり、元気よくそう返した。

 そんなわたしの元気な返事を聞いて、柊一……は嬉しそうな笑みを浮かべてくれていた。それでわたしはつい、頬が真っ赤になり俯いてしまう。



 ヤバい、もぅ恋に落ちてしまいそうだよぉ~……。



 そんなわたしを、柊一の隣であぐらをかいて座る三雲みくもが面白くもなさそうな表情を浮かべ、不機嫌顔を見せ口を開いてきた。



「あーあ、柊一しゅういちなんかここへ連れてくるんじゃなかったかなぁー……。

言っておくけど、柊。アリスはオレの彼女だからな、手を出すなよ!」


 は? いつ誰がなに?? あはは♪ ご冗談を!!


「はは、遂に白状したって感じですか?」


 ――は? へ??


「だけど三雲、まだアリスの気持ちは確認してなかったんだろ? だったらこの僕にも、チャンスはまだある、ってことになる」

「お前なぁ……このオレとの友情とアリス、どっちが大事なんだよ?」


「その言葉、そのままお返しさせて頂きすよ♪」

「……」


 草川三雲はそれを聞いて、困り顔に頭を抱え込む。


「わかった、わかった! 結局のところ選ぶのはオレじゃない、アリスだ。

だがな、オレの許可もなく。アリスに手なんか出すんじゃねぇーぞ!」

「ははは! 三雲、言ってることが支離滅裂だよ?

アリスがこの僕を選んでくれたら、それで僕が彼女に何をしようと、僕たち2人の勝手でしょ? 違いますか? 

ね、アリス♪」

「……」


 わたしはそれまで、2人の会話を途中くらいからぼぉーっと聞いていた。初めは理解ができなくて……。でも段々と話の内容がわかるようになり、流石に頬が真っ赤に染まる。

 が、急にわたしの隣から殺気を感じたので慌てて見ると、眞那夏が怒った顔をして、わたしのことをジッと見つめている。



 ヤ、ヤバいかも……これ。



 眞那夏まなかは急に立ち上がるなり、何も言わず不機嫌顔のまま立ち去って行った。

 わたしはそれで顔が真っ青になり、慌てて立ち上がって、眞那夏を追いかけることにする。

 が、その前に振り返り2人のことをキッ!と見つめ口を大きく開き言ってやる!


「――鈍感! バカ!! もう2人とも大きらいっ!!」

「は?」

「え??」


 

 わたしはそんな2人には構わず、本当に怒った顔をして学校の屋上出入り口の扉を抜け中へ入る。

 と……眞那夏は少しだけ階段を下った辺りで壁を背にして、このわたしが来るのを元気なく俯いた感じで待ってくれていた。


 わたしはそんな眞那夏まなかを見つめ、その場でため息をつき。なんて言えばいいのか上手い言葉がまるで思い付かないままに、一段ずつ下がり、真中に近づいてゆく。と、


「どうして……アリスばかりが、いつもモテるの?」

「……」


 そんなことを聞かれても、わたしにだってわからない。こちらが聞きたいくらいだもの。困ってしまう。


「中学の時もそうだった。私が気に入った男子はみんな、結局はアリスのことばかり気にするようになる……。

ねぇ、アリス! 私のどこがいけない? 教えてよ!!」

「そ……そんな…こと、ないよ……」


「――あるよ!! だって実際のところ、考えてみてみ!」

「ないよ! そんなコトは、ないって!! 少なくともわたしは、眞那夏のこと大好きだし! どこの誰よりも!!」


「――!? 

……だったらいっそ、アリスが男の子なら良かったのにね……?」


 眞那夏はふと笑みを零し、それで元気なく階段を下りてゆく。

 だけどわたしは、それを許さず真剣な表情をして真中を直ぐに追いかけると、そのまま後ろから抱きしめ大声を出して言った。


「イヤだよ! わたし、こんなことで眞那夏まなかを失いたくなんかない!!」

「――!?」


 そんなわたしを、眞那夏はまた微笑みながら見つめ、そして何かに納得したような表情を浮かべ言った。


「そっか……ようやく私にも、わかった気がする」

「へ? なにが??」


「つか。私もきっと男の子なら、アリスのことがとても大好きになっていたと思うからさ」

「……」


  眞那夏は優しげに微笑みそう言うと、わたしの手を軽く振り払い、再び階段を降りてゆく……。そして、


「心配ないよ、アリス」と笑顔で軽く振り返り言った。

 でも、無理しているのがとてもよくわかる。



 だけど、わたしはこの時、その様子を黙って見送ることしかできなかった。


 そんな自分が、とても情けなく思う……。



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