ー9ー

「……はぁ」

 次の日、わたしは昨晩のことを思い出す度にため息をついていた。

 今日は朝から眞那夏まなかと一緒に、公園で散歩している。今は2人してベンチに座って、わたしは『ほぅ…』とため息混じりに空を見上げていた。


「つか、あれはまあ~仕方ないよ……元気だそう? ね?」

「ぅん……だよねー」

 最後の最後で倒されたものだから、貰える筈の褒賞の一部が貰えなかった。


 しかも、装備品である法衣が耐久度0の修復不可能となり。その為に、今や防御力が激減。それに合わせ、召還魔法の威力に関わる能力値までもが下がっている。

 それでも、ギルド勝利報酬で得られたリフィルや経験値とレアアイテムの数々を考えると、十分なんだけどね?


 取り敢えずレアアイテムは全て売り払い、何か手頃な法衣を手に入れる他にない。

 またしばらくの間は、過酷なゲーム内貧乏節約生活が続きそうだよぉ~。



「それにしてもアルトさん、またしても勲功上位って、凄いよねー!」

「あはは! つか、言っておくけど、それもこれも全てはアリスのお陰なんだよ。

私だって、今回はかなり上位に入れたんだからさ」


 マーナこと眞那夏まなかは今回、勲功上位100位内に入っていた。

 なんと56位。それに比べてわたしは…556760位。桁違い過ぎて、腹筋が辛いほどに笑えるよ……。


「それにしてもさ……流石は攻略・厨だね。もう《ステルス・ホールド》に関する考察が行われてるよ。

ほら、みてみ!」

「あー……ホントだ。確かにすごいねー」


 アストガルド・ファンタジーを運営している会社はどうも変わっていて、中級・魔術の途中まではどういう効果があるかなど詳しく詳細に書かれてあるのに。中級の途中から上になると『????』とだけ表記され、詳しい情報は一切公開されてなかった。なので、こうした攻略・厨たちがA・Fには必要不可欠とされている。


 そんな彼らが集めたwiki情報を確認すると、

《噂のスキル必須術式(推測)》:中級・白魔法〈パティス〉+中級・黒魔法〈ゲシュパー〉+召還術士スキル?〈フェルフォルセ〉と表記されてあった。



 これは見事に当たっている……けど、これだけでは発動しない。

 どうやらまだ、肝心の発動条件であるまでは幸いにも気付かれていないらしい。

 が、別サイトへジャンプするとこれまたご丁寧にわたしが発動している最中の映像がYouTubeでアップロードされてあった。



 こりゃ参ったなぁ~っ……。召還術士必須の《シェイキング技術》もその内、バレるかなぁ?


 二つ以上の魔法を発動し、それを召還魔法で吸引しアップ&ダウンさせスライドを左右に掛け馴染ませることで、初めて発動スキル欄に表示され『選択可能』となる。


 わたしはこれを造語として、勝手に《シェイキング技術》と呼んでいた。

 しかし、


『この動き、意味あるの??』

『かっこつけてるだけじゃね?』

『意味ないでしょ。アホらし』



 ──いや、意味はあるんですよっ。意味はっッ!!



 思わずそう書き込みたくなったけど、それは流石に我慢する。

 そうした書き込みを眞那夏まなかと同じスマホ画面で見つめていると、急に眞那夏が元気なく残念そうにこう零してきた。


「つか……予想通り、次の決戦辺りには《ステルス・ホールド》他のギルドでも使ってくる人が現れるかもね?」

「いや……それはまだ無理だと思うよ?」

 わたしが当然とばかりにそう言うと、真中は不思議そうな顔を向けてくる。


「なんで??」

「……わたしがこのスキル習得するのに、5ヶ月以上も掛かったから」


「……」

 それを聞いて、眞那夏まなかは納得顔と共に呆れ顔も同時に見せていた。


 ──って、ヒドいなぁあー! 真中がその上にある上級スキル《トレラント・ブレイク》をとお願いして来たから、必至になってここまで習得してきたのに……。


 わたしはそこで、小さくため息をついた。

 そんなわたしの思いなど知る由も無く、間もなく真中は、安心した様子で笑顔をみせてくれる。それを見て、わたしも笑顔を見せ、互いに笑い合った。


「つぅーことは! 次の《決戦》も、アリスのチートスキルのお陰で、わたし達最強?!」

「そうそう♪」


「わたし達、強過ぎだねぇーっ!」

「おおうー!」

 眞那夏と二人談笑しながらマックでお昼を済ませ、夕方頃には別れてわたしは帰宅した。


 それから直ぐにノートパソコンを立ち上げ、セキュリティーチェック。それからいつものように回覧して回り、最後に小説の投稿サイトのホーム画面に入ってみると……。

 『感想が入りました』という嬉しい表示がされてあった。


「お、おおう!! 感想キタっ!!!」


 わたしは余りの嬉しさに、満面の笑みで早速クリック!

 そして読むに従って、顔面蒼白になってゆく……。


『アリスでございありんすさんって、A・Fで今超有名なアリスでございありんすさんですよね?

この作品の中で描かれている《スキルの発動方法》って、実際のものなんですか?』


「…………」

 わたしは作品中に、《シェイキング技術》に関する情報を詳細に描き込んでいたのだ。

 あれは消すべきだったなぁ~と、今更ながらに思うが……間もなく、チャラリン♪ とスマホが鳴る。


 誰かな?と思い確認すると、草川三雲からだった。


「アハハ……ヤバい?」

 わたしはそんな感想を独り溢しながら、仕方なくため息混じりにタップする。


『お前な! 今すぐにその小説ごと、っ!! 消しちまえっ!!!』

「で、ですよねぇーっッ!?」


 わたしはそう思いながらも……ちょっと消すのには、流石に抵抗が……。


『その部分だけ削除じゃ、だめ?』

『ダメっ!』


『でも結構、書くのって大変なんだよぉ~?』

『なら、今すぐにその部分だけでも消せ!!』


『ん、うん!! ありがとう!!』

 わたしは即座に行動しようとした。

 が、時は既に遅かった模様で……まさかな? と思いながらチラ見程度で確認したアクセス数を見ると、を軽く超えていた。


 わお! こりゃ、日間上位確定なのでは??


 サイト内の投稿作品ということで、著作問題もあることから、恐らくはリンクが張られアクセスが殺到していると思われる。


 しかも、それは恐らく世界規模!!


 これってさ……もしやある意味で、なのではありませんか!? 


 わたしは、サイト内のアクセス動向やらその他サイトを回覧して回る内にそんな感想が自然と思い浮かんでいた。その間にも、アクセス数は爆上がり。正直もうここまで来ると……手の打ちようがないと思われ。


『……ごめん。もう手遅れだったみたいよ?』

『…………』

 長い沈黙が続いた。

 きっと草川三雲も今頃、投稿サイトのアクセス画面を確認して、ため息でもついているんだろうなと思う。

 わたしの方としては、仮想世界だけでなく、現実世界でもチートな自分にちょっと驚きドキドキなのだけど。どうもこのまま済むとは思えない。


『……アリス、今すぐA・FにINしろ』

「は、はは……だよね? そうなっちゃうよねぇーっ??」


 わたしは言われるがままA・FにINし、ギルドメンバー全員の前でジャンピング土下座し、おでこから火が噴くほどに何度も何度も謝り続けた。


 正直、情けなすぎて笑えない……。


 そうは言っても、わたしはこの仮想&現実Wチートのお陰で、しばらくの間は上位に君臨し続けられることになるのかも?


 あはは♪ かなり嬉しい~。


 まあ、もっとも……よくよく考えてみると、これってさ。わたしの小説自体が、認められてのことではない…のかッ?!



 ──ぐはっ!



──────────────────

 第一章 《仮想&現実Wチート?!》 おしまい。



 本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かります。また、☆☆☆評価や♡及びコメントなどお待ちしております。

 今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します。

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