ー7ー
「アリス! 《例のアレ》を頼む!!」
「あ、はい!!」
わたしは白魔法〈パティス〉と黒魔法〈ゲシュパー〉をほぼ同時に発動、そして上級召還術士スキル〈フェルフォルセ〉を唱えた。
すると、先に発動させていた白魔法〈パティス〉と黒魔法〈ゲシュパー〉が〈フェルフォルセ〉の中へと吸収され、わたしはそれを空かさず手元で、ある法則に従い左右の手を上下左右に揺り動かし捻り合わせながらシェイクしてゆく。
と、発動可能選択一覧内に《ステルス・ホールド》が青白い光を放ち突如として現れ、わたしは空かさずそれを選択しフェイトさんへ向けて唱える!
「《例のやつ!》」
本当はここで、《ステルス・ホールド》と普通に唱えてもいいんだけど。一応これはまだギルド内機密なので、念のために〈召還術名〉も伏してあるのだ。
わたしが唱えた途端、術は発動し。フェイトさんの身に術が掛かると同時に、フェイトさんの姿が消えた。
その時、フェイトさんと対峙していた強敵である上位ランカーのフォルテスモという人は、突如として目の前で消えられかなり動揺し慌て大剣を無造作に振り回す。
が、その脇腹にフェイトさんの長剣が突き刺さり更に奥深くまで抉られクリティカルとなり、間もなくフォルテスモという人は絶叫と共に倒れその場から消滅した。
同時に、フェイトさんの姿がまた現れると同時にレベルが上がる様子が窺える。
「す、凄いなあー」
「はは! アリスのお陰だよ。それよりも早く、ここを攻略するぞ!」
「はい!!」
わたし達パーティーは、わたしの補助系術で強化を受けながら城内へと進み。強敵が現れたら、先ほどの《ステルス・ホールド》をフェイトさん、マーナ、ランズベルナントさんの三名へ状況に応じ素早く掛け撃退し快進撃を続けた。
そして、この城の城主であるNPCを倒し、攻城終了となる。
「よっしゃー! 次の城へ向かうぞ!!」
「は、早い……」
「あはは! だからアリスの《例のやつ》が、かなりヤバイんだって」
マーナだった。中身はリアル友達の真中だ。
わたしと真中は、そこで互いに笑顔を向け合う。
そうこうしている間にも、わたしの遅れ気味だったレベルがどんどん上がってゆく。同じパーティー同士だと、2割程度の経験値が入る仕組みになっているのだ。
それにしても、3つも上がったので驚いちゃうよ!
「あれか……噂のスキルってのは?」
「ああ、どうやらあの『アリスでございありんす』ってのが、スキルの使い手らしいな?」
「……」
見ると、有名な攻略・厨の人たちがわたしたちの周りで観察していた。鬱陶しいけど、どうしようもない。彼らは今、《ゲスト》として半透明状態でこの戦場へと参加していたから。ゲスト相手では、蹴散らすことが出来ないゲーム仕様だった。
「くっそ、鬱陶しい奴らだな」
「ん、ぅん……」
次の城を目差しながら、フェイトさんがそう愚痴る。
何だか今の愚痴の仕方とか、どこかの誰かと似ている様な気がしたけど……誰だっけ?
わたしはそう思いながら、次の城へと到着。
「アリス! 防御系結界補助魔法を頼む!」
「はい!」
わたしは物理系補助と術系補助をパーティーみんなに連続で掛ける。
仲間達の身体がそれで光り輝き、成功したことがわかる。効果は高いけど、失敗も多いスキルなのだ。しかもそれでいて、精神消費も大きい。
わたしは直ぐに精神回復である《カムカの実》を袋から取りだし、数粒単位でポリポリもぐもぐと食べ続ける。
ほんのちょっと回復……わたしはゲーム内貧乏なので、こうした貧相な回復薬しか持っていないのだ。前にも話した通り、装備類にしたって他のギルドメンバーと比べたら、わたしだけ一人貧相なもので。中級以下のモンスターがたまに落とす《ドロップ装備品》くらいしか持っていない。
更に装備強化するのにも、リフィルという名のゲーム内通過が必要なので、簡単なことではなかった。
前回の《決戦》で得られた5500リフィルの報酬にしたって、傷んだ装備類の修復にほとんど費やし、残りをこうした回復薬の購入に使い果たしている。
それでもまだ足りないので、薬草類の採取までやっているゲーム内貧乏生活。
というのも、このゲームでは他の人と物のやり取りが出来ない仕様となっているから。
なので、自分の装備も道具も、自分で稼いで買ったり拾ったりして集める他に手はないのだ。そんな訳で回復薬にしたって激安品や拾ったモノくらいしか持ってないから、とにかく数喰うしかない。戦いながらでも、ポリポリもぐもぐと食べ続ける!
つまりこれが、わたし流。
大変だけど、リアル太らないのだけが、救いだよぉ~。
そうしてその後も強敵が現れる度に《ステルス・ホールド》をフェイトさん達へ掛け、難なく倒してゆく。その都度、攻略・厨の人たちはどよめきざわめきたつ。
「【術式解読!】〈パティス〉と〈ゲシュパー〉と〈フェルフォルセ〉の3種だ!!」
「パティスって、白魔術のか?」
「ゲシュパーは黒だぜ! マジかよ……」
「というか、〈フェルフォルセ〉って初めて聞く術だな? 召還術士専用ってことか?」
「恐らくはそうだろう……マゾ過ぎる職種クラスだけに、今まで未開拓だったからな」
……参った。もうバレちゃったみたい。
そうこうしている間に、また攻城成功する。10分程度だった。早すぎだよ……。
そうして次々と攻城をし、さあ次へ――と思った時だった。
「た、たいへん!! ギルドチャットみてみ!!」
「え?」
確認してみると、炎のエレメント・女神イルオナが居る城が攻略され掛かっているらしい。ギルドチャットに緊急を知らせる書き込みが乱打されていた。
しかも緊急を知らせる報告には、上位ランカーであるグランセル襲来とあった。
「あいつか……仕方ない。急ぎ戻ろう!」
「はい!」
わたしはそう返事しながらも、精神回復薬を袋ごとガーッと口の中へ放り込みボリボリごりごりと食べ続けつつも気合いを入れた。
そんなわたしを、パーティー全員が呆れ顔に遠目に見つめている……。
いやいやいや、リアル世界でのわたしは決してそんな大食らいではないですから!
マーナなんか特に知ってるクセにさ、ひどいよぉ~。
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