ー5ー

 そんなこんなで、ヘロヘロへぇ~……な気分のまま家についた。


「ただいまー……」

「おかえりなさい。ありす……どうしたの? なんだか元気がないわね?」


 居間に居る母さんに声を掛けると、そんなことを言われ、思わず肩からカクリ。


「は、あはは……まあ色々とありまして」

「色々って?」


「えーっと、人生色々……?」

「男も、色々?」



 ──男ッ?!



「……あ、いや、それならばまだ嬉しいのでありますが。そういうものには余り、ご縁が無いもので……」

「あらあら、なんとも寂しい青春を横臥しているものね? まるで羨ましくなんかないわ」


 ──ぐあ!

 ……もう、ほっといてください。


 これでも小学校から中学校にかけて、5人の男の子から告白された経験くらいはある。

 何でも、わたしは細身で肌が色白なので傍目には清楚に見えるらしい。

 でも実は『超のつくゲーマー』なので、男の子の家へ行きうっかりゲームなんかやろう、なんてことになった日には(というか、大抵まずはそういう流れになるんだけど……)、目が“ギン!”と光り輝き出し、相手をなぎ倒しまくり、


「ほぉーっほっほっほ!!」

「………」

「うりうりうりうり!!」

「……………」

「貧弱、貧弱っ!」

「…………………」

「弱い、弱すぎるぞぉー!!」 

「……………………………」

「ふはっ、ふははっはっはあー!!」

「……………………………………………」


 ……と、相手を嘲(あざけ)り罵倒しまくりつつ、プレイする有り様。

 それで5人とも、同じ理由で『さよなら』パ~になった。


 そして高校生になり、期待する間もなく、《岡部直輝スマホ事件》が起こり『鈴原ありすは、岡部直輝の彼女・・』という全く身に覚えのない噂がたち。

 それからというもの、男子たちからは最初から諦められ・・・・、女子からは鬱陶しいくらい妬まれる・・・・有り様。


 それでいて、岡部くん自身はわたしに興味もない感じ。

 だったら最初から構わないで欲しいよ! その気もないクセにさぁ~……。


 そんな訳で……わたしは未だに、異性の人とちゃんと付き合った経験がない。

 まあ別にいいんですけどねっ。

 だってわたしには、趣味の小説がある!

 ゲームだってある!! ふはははは!


「あ、そうだ。お母さん、今日さ《決戦》があるから」

「分かってるわよ。母さんもA・Fやってるんだから。

父さんの方は残念だけど、今晩は残業があるから、参加できないだって。さっき連絡があったわ」


「あらら……」

 うちは両親共にゲーマーなので、そういったことに対する理解がある。もちろん、学校の勉強を両立した上で許して貰ってるんだけどね。

 中程度より下になった時点で取り上げられるから、勉強も必至になって頑張っている。

 でも……結果は、微妙。


「ご飯、もう用意してあるから、早く食べなさい」

「はあ~い」

 わたしはそのあと、ご飯をモリモリと食べ……お風呂にクタクタ~と入り、自分の部屋へと篭る。



 金曜日の今夜開催される決戦は、夜の22時~23時まで行われる。その前の21:30から、ギルド会議が予定されていた。

 決戦勝利に向けての、戦略会議だ。


 うちはギルドとしても上位に並ぶほどだったので、そういう組織的な動きも活発だった。

 前回遂に、上位9位にまで昇り詰めたしね。


 今はまだ20時前なので、それまでにはまだ1時間以上もある。その間に少しでも勉強をやって、小説を書く時間の確保を行うことにしよう。



「それにしても……岡部くんが、うちの幹部? まさかだよね~……」


 だとすると、GMのねこパンチさん? それとも、サブGMのフェイトさん……は、有り得ないとして……。


 その他となると、補佐の《ランズベルナントさん》《春巻きトカゲさん》《徹夜でおなべさん》《ネトゲ最高さん》《カエル軍曹さん》の内の誰か、ってコトになるんだけど……その内の誰なのかとなると、全く検討もつかない。



 そうだ。このこと、真中にも教えてあげなくちゃ!


 わたしはそう思い、勉強のことなんか忘れて、LINEで即座に伝えた。

 真中もやはり知らなかったみたいで、かなり驚いている。返信も僅か10秒以内の早さだ。



『てか、幹部って本当なの? どの人??』 

『それは、わかんない。聞けなかった』


『は? なんで聞かなかったの? 直輝くんとアリス、普段から羨ましいくらい仲よさそうなのに』


 いやいや……それについては、かなり初耳なのでありますが……? 


『いやぁ~、だってさぁー。とても聞ける様な雰囲気ではなくて……メッチャ、説教されてましたから。こえーこえー』

『説教? なんで?? 事情を詳しく教えてよ!』


 ちょっとコレは、詳しく言えない事情だったりするけど……。


『えーとね、《ステルス・ホールド》の情報をちょっぴり、漏洩させちゃって?』

『あー……それは怒られて当然かな? 今はホット過ぎる、レア情報だし』


『――だ、だよねー!! ……ごめん。反省しております……です』

『あはは! いいよ、いいよ♪ どうせ今夜の決戦で情報なんて、あっちゅーまに漏れちゃうと思うもん! 

なにせ噂としてなら、既に広まってる訳だし! 《攻略・厨》連がこれを見逃すとは思えないし』


『かなぁ? なんだか、ありがとう……真中。お陰で気持ちが楽になれたよぉ~』

『気にしない、気にしない♪ じゃあ、またあとでねー!』


『うん。ありがと~』


 時計を確認すると、もう20時半ちょい前。タイマーを掛け、勉強開始!


 でも……直ぐにチャイムが鳴る。

 集中していると、時間って経つのが早いので参るよぉ~。


 仕方ないから、勉強はまたあとでやることに決めた。



 わたしはノートパソコンを急いで起動し、セキュリティーチェックを行い、準備する。

 スカイプも開き、ヘッドセットも装着して。スカイプ内に居るギルドメンバーに軽く挨拶をし《アストガルド・ファンタジー》を立ち上げ、ログインする。



 これで下準備は、完了!


 更に、運営から課金で取り寄せた《EEG・AF》という名の、コントローラーなどを使わずゲーム内のキャラと自分とをリンクし、キーボードもなく直接ボイスで話が出来たり、目の動き・・・・首の動作・・・・がそのままカメラワークとして連動して動く拡張機器、『VRヘッドギア』を頭に装着。


 そのあと、手足や身体にもキャラの動きに連動・・するBluetooth対応の『グローブ』と。

 身体全身に掛けて覆う専用拡張、『ボディスーツ』を着込んだ。

 

 この専用『ボディースーツ』は、攻撃を受けたり手で触れられたりした際に電気信号が送られ、実際の感度に合わせ電気的刺激がくる仕組みになっている。

 なので、剣などで仮に刺されたりすると結構痛い。

 そして、手や腕の動き、そして足の動きもこの拡張機器と連動し、ゲーム内のキャラとリンクし、ゲーム内を自由に動き回れるのだ。


 なので、手指なんかでチョコマカと動かす従来型の十字キーコントローラー等は一切必要ない・・・・


 それからもう一つ凄いのは、この『シューズタイプ』の専用機器。

 これで走る・歩く・右・左などの動き全てが、機器の傾き加減・・・・やその時の勢い・・などで走ったり等が自動判別される仕組みとなっている。

 だから、実際に部屋の中で走り回る必要はない。

 もちろん、自分に合った形でのチューニングも可能で、そのセッティング次第で、運動性能は大きく変わる優れもの。


 それから直ぐに、1本500円もする《トリップ用EEGドリンク》を飲んだ。



 これを飲むことで、ゲーム内の仮想世界へとトリップ出来るのだ。

 つまり、《リアル仮想体験》が可能になる。

 その効果時間は、約2時間。



 これは、A・Fを運営しているグリーン・モバイル社と製薬会社との共同研究・開発により独占している技術。

 それもあって、僅か1年足らずで800万人ものユーザー確保に成功していた。


 この《EEG・AF》とトリップ用ドリンクを手に入れる為に。去年の夏休み、真中と一緒にバイトまでやった。

 だからこのドリンクを使うのは、こうしたイベント限定と最初から決めている。


 だってめっちゃコレ、値段高いからさー!



 間もなくわたしは意識が飛び、目の前にアストガルド・ファンタジーの世界が次第に広がってゆく――。



  ◇ ◇ ◇


 わたしが降り立ったのは、北西アストリア領、首都グレゴリアの中心地。

 街中には、既に多くのユーザー達がひしめき合い、間もなく始まる決戦に向け、みんな緊張の面持ちで準備を始めている様子だ。



「コマンド・コール!《マップ》」


 わたしのその声に合わせ。街全体と、わたしを中心とした地図が、斜め前頭上に表示される。

 そこには多くの白い点と、緑の点が表示されていた。

 

 緑の点は、同じギルド仲間がそこに居ることを指し示している。


「……もうみんな、集まってる。早いなぁー」


 集合場所として指定されている場所が、緑色で染まっていたのだ。

 わたしはそれを見て、感心しながら、そこへと急いで向かう。



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