ー3ー

 次の日の朝。


 学校へ到着し、わたしが元気なくため息と共にカバンを机の上に置くなり、「よっ! おはよ~ん」という明るい挨拶と共に声を掛けて来る女の子がいた。


 名前は、榊原真中さかきばら まなか。わたしの数少ない友達で、ゲーマー仲間。


「ねぇ、アリス。昨日は、A・FにINしなかったけど、体調でも悪かった?」

「え? あ、ううん。そんなことはないよー。ただねぇ~、昨日はちょこっとばかり凹むことがあってさぁ~。直ぐに寝ちゃったから」


「そっかぁ……でも今夜は《決戦》だから、必ずINしてよ? 

まあ無理強いするつもりはないけどさ。でもアリスが居ないとうちのギルド、補助系がどうも他のメンバーだと頼りないからさぁ~」

「え? そうなの??」 


 わたしは急に嬉しくなり、笑顔でそれにこう応えた。


「うん! 今回もがんばるから、ドーンと任せといてよ!!」


 A・Fとは、アストガルド・ファンタジーというオンラインゲームの略称で。普段は広大なフィールドで、狩りなどをゲーム内の仲間と共に行い。キャラを育成し、週に一回行われる『決戦』と、月に一回行われる『大決戦』が華の登録者数800万人を超える世界的超人気ゲーム。

 未だ現在進行形で、登録者数はうなぎ登りに増えている。


 要するに、わたしが今小説のネタにしているゲームが、まさにコレ!


 今わたしと話している真中ことマーナは、そのA・F内で同じギルドに所属し。普段は一緒に狩りをしたり、決戦に参加したりしている仲間。

 因みに、わたしよりも育成も進んでいて、かなり強い。それでいて、学校の勉強も優れている。


 わたしはそれに比べたら、真逆もいいところ。弱いし、学校の勉強だって、微妙なので……はぁ。


「そうそう。昨日は憧れのアルトさんが、アリスのことを気にしていたよ」

「え? あのアルトさんが……?」


 アルトさんというのは、A・F内で今や上位に並ぶランカーさんで、このゲームをやってる人ならみんな知っている、超・有名人。

 そんな有名な人が、同じギルドだとはいっても、底辺プレイヤーであるこのわたしのことを気にしていたなんて……ちょっと意外というか、驚いちゃうよ。


「ほら。前回の決戦で、たまたま欠員があってさ。急遽、同じパーティーを組んだでしょ? それで、どうもアリスのことかなり気に入ったみたいで、『今回も一緒にパーティーを組めないか~』ってさ、相談に来ていたのよ。昨日の夜に」

「あー……」


 真中もアルトさんと同じ、戦闘系の職種クラスで、補助系のわたしを必要としてくれる。そんな真中の協力もあって、わたしは補助系の職種クラスとしては、かなり強い方だった。

 それでも、真中やアルトさんには、遠く及ばないんだけどね?


「ほら、アリスはさ《ステルス・ホールド》を使えるから、決戦ではあれが凄い武器になるからね。

前回それで、アルトさん武勲上位に入れたみたいだし。褒賞だって、かなり凄かったでしょ! 

だからだと思うよ?」


 ステルス・ホールドとは、相手から自分の姿を隠せるスキルのこと。効果時間はたったの15秒間と、そんなに長くはないんだけれど。意外とこれが、《決戦》で有効なことが偶然にも前回発掘された。


 ある意味、“最強の補助チートスキル”だと思う。


 なにせ、その間に相手が例えランク上位の強敵であったとしても、こちらは無傷同然で倒すことも可能になるから。

 因みに、これはまだ“極秘情報”として、ギルド内だけに留めているけどね?


 しかし例え情報が漏れたとしても、このスキルを身につけるには、かなり地道な努力が必要になる。今からこのスキルを寝る間も惜しみ手に入れようとしても、今月中はとても間に合わない。


 ていうのも、実を言うとわたしがいまAFで使っている召還術士は、地雷マゾ職とされていた。簡単な話、上級職のクセにめっちゃ。それもあって、今の所、攻略情報wikiにもこのことについてはとされている。

 だけど、噂だけは凄く広まっていて。とあるサイトを、このところ連日のように賑わせているらしい。そして、どうもその噂の中心に居るのが、この『わたし』みたいなんだよね?


 どうしてわたしが、こんな地雷マゾ職を選んだかと言えば。このあとに手に入る、《トレラント・ブレイク》欲しさに頑張っていただけで。言ってしまえば、今回たまたま見つけたこのスキルは、ただの副産物でしかない。


 だって、このステルス・ホールド自体、だった訳で……。狙いようがないんだよねぇ~っ。


 本命のトレラント・ブレイクにしても、実はレア素材を欲しがる真中の為にやっていたに過ぎなくてさ。全耐性がバカみたいに高く、防御力もバカ高くなかなか倒せないモンスターが居るんだけど。このトレラント・ブレイクを使えば、倒せるのではないか?という噂があったから。真中からお願いされ、《白魔術師》も《黒魔術師》も当時既にある程度極めていたわたしは、『上級職種クラス』である《召還術士》にクラスチェンジして、地道に5ヶ月も掛けてここまで育ててた訳。

 だけど、このスキルの有効性は確認されたものの、それまでに手に入れたスキルは、どれもこれも“ゴミ同然”のものばかりで。他に実質使そうなスキルは、たったの数種類。ぐはっ!


 流石、誰からも選ばれない地雷マゾ職だけのことはあるよ……。 


 しかも育成まで、かなり困難でさ。早い話、サブキャラとして育てるにしても時間が掛かり過ぎるし。その割りに、恩恵が余りにも小さ過ぎるってこと。なので、職種としてこのスキルを育てる人なんて、わたしが知る限り皆無。

 お陰で、わたしの装備は、未だにだし。スキルは、ばかりって訳。


 因みに決戦では、パーティー内に弱い者が1人でも居ると、それだけでランキング外になって、褒賞ひとつ貰えないことも多々ある。なので、同じギルド所属とはいえ、弱いメンバーを誰も入れたがらない。

 それが普通な訳。


 それなのに、今回は上位ランカーであるアルトさんからという嬉しいオファーが巻き込んで来ていたなんて、めっちゃびっくり!


「今じゃアリスは、うちのギルドでは欠かせない存在だからさー。特に《決戦》で!」

「あはは! どうも……いつの間にか。そう、みたいだねぇー?」


「みたい、じゃなくて。そ・う・な・の! お陰でこの私も、鼻が高いんだからさ。えへへ♪」

「うあ~……なんだか責任感じちゃうなぁ~~」


「大丈夫だって! 今までのことを考えたら、寧ろ喜ぶべきことだし。今さらなにも失うものなんてないでしょー? だから気楽に行こうよ♪」

「うん、だね……。よっし! がんばろぉー、おう!」


「おうー♪」

 真中の気楽な様子に私もつい微笑み、昨日までの悩みがまるで嘘みたいに気持ち楽になる。


 感謝♪


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