ー2ー
ここは、ログアウト後の〔現実世界〕『日常シーン』となります。
本作品は、〔仮想世界〕と〔現実世界〕の2シーンを交互に織り交ぜながら描いた作品です。引き続きお楽しみください。
──────────────────
──その翌日、土曜日の夜22時頃。
「ありゃあ~……またダメだったかぁー」
今年16歳になるわたしこと鈴原ありすは、高校から帰ってご飯って、風呂って、勉強って、それから一休みにベッドで横たわり、スマホを触って『小説家になろう』の投稿用ホーム画面を見つめ、ため息混じりに元気なくそう零した。
それから額の上に手を置き、ふと天井を半眼に見つめ、その形の良い口を小さく開く。
「はぁ……どんな内容の作品なら、みんなが興味をもって読んでくれるのか。わたしにはもぅ、分かんなくなってきたよぅ~っ」
実を言うと、わたしは趣味で小説をネット投稿している。
だけど、全くといっていいほどアクセスの方は壊滅的。いやもぅ、ホントに悲惨でさぁ~っ。思わず叫びたくもなるよ。
評価も全く入らないし……。
つまり、わたしは俗に言う『
はぁ~……。
わたしは3度目くらいの深いため息をついたあと、手にしていたスマホを操作し、ツイッター画面を開いて考えもなく半眼にこんなことをツイートする。
『全然、アクセス伸びないんだけどw コレってさぁ、どうしたらいいんだろうね?
やっぱりここは、もぅアレかなぁ?
最終兵器、《なろうテンプレ!》フルスロットル全開で使いまくった方がいいとか??』
《なろうテンプレ!》とは、今現在なろう内で流行っている『なろうテンプレート・タグ』またはその系統ジャンルのことで。
“異世界・転生・転移・チート・ハーレム・公爵令嬢系”などといったものが、これに相当するらしい。
すると、直ぐにこんな返信が返ってきた。
『アリス、アクセスとか関係ないよ。気にしないのが一番だって!』
『そうそう。そもそも趣味として自分が好き勝手に書いてるだけの自己満足作品なんだからさ。気にしたって、しょうがいないんだし!
やっぱり、楽しんでやるのが一番だよ!!』
「…………」
それは、ツイッター内でのフォロワーさん達からの返信で、それも同じ《創作クラスタ》からのものだった。
《創作クラスタ》っていうのは、同じ創作系で気の合う人たちと連むグループのことで。日々、ツイッターなどといったSNS等を介して、情報交換をやったり宣伝し合ったりして、切磋琢磨にお互いの腕を磨き合っている仲間。
そんな中でも、こうしたやり取りはよくあるいつものパターンで、中身もよく有りがちな、それこそ
それが分かっていてツイートしてしまう私も、どうかしていたなと今更ながらに苦笑い猛反省してしまう。
『まぁ、そうだねw うん! がんばるよーっ!!』
当たり障り無く、そう返信ツイートしたあと。わたしはやはり元気なくスマホを頭元に放り置き、ベッドの上に寝転んだまま「はぁ~」と気の抜けたような、気合いでも入れてんのか?とツッコミ入れたくなるような深いため息をつく。
何せ、返信をくれた二人ともわたしなんかよりもアクセスも評価も沢山もらえている。この差はなんなのかよく分からないけど、とにかく泣けてくるよぉ~っ……。
確かにさ、始めた頃は書くこと自体が本当に楽しくて。だから、アクセスがどうとか、そんなこだわりなんて全くなかった。
というよりも、ただ単に気付いてなかっただけ、なのでありますが……。
だけど、振り返りみると、数万・数十万もの文字を紡ぎ描いた物語を、他の誰が読む訳でも無く。ただただ『なろう』の片隅で忘れ去られ置かれてあるだけの虚しさに、わたしは気付いてしまい……次第にその手はピタリと止まる。
「なんだか……わたし、独りばかみたい…」
その数日後、わたしは遂に決心をし、“テンプレート作品”の制作に取り掛かり、投稿をはじめることに決めた!
いつまでも立ち止まったまま、嘆いてばかりいても仕方が無い。
ほんのちょっとでもいいからチャレンジして、前に進んでみて、それでも上手くいかなかった時に、また考えたらいい!
テンプレ作品の題材は、今わたしが現にやっているオンラインゲームを使おう。
その上で、わたしはわたしなりに色々と調べ考察してみた。
『異世界』だけでも、ダメ!
『チート』だけでも、ダメ!
『転生』または『転移』も当然。
『ハーレム』があれば、なおさらによし!
ついでに、『主従萌え』も付けちゃえっ!
それらすべての要素を含めて、初めて日間ランキング上にのる可能性が期待できる。
そう、その可能性は期待できるけど、そうなる保証なんて何もない。
あくまでも、可能性の範囲に留まる。
この他にも、インパクトある『タイトル』と、分かりやすい『あらすじ』を含めた。宣伝戦略1割と作品内容0.5割で、運が驚きの8.5割というような世界。
……この数字自体は、感覚的なものだから、確かな根拠なんて実はまったくないんだけどね?
でもね、それまでのわたしみたいにランキングそれ自体に興味なく、趣味で書いているだけの人には一見関係のない『なろうテンプレート』
ところが、今コアな読み手はこのテンプレート・タグからの検索か。一般的な外部から訪れる読み専は、ランキング上位作品や評価が最低でも数千または数万単位で付いた作品以外は、基本的に読まれることは余程の幸運にでも恵まれない限りない。
これが、今のネット小説内に於ける現実、って奴で。
結局のところ、ネットで投稿する以上は、より広く多くの人の目に留まろうと思う気持ちが少しでも心の中に“ある”のなら、誰もが避けては通れない、タグ。
そればかりに留まらず、より堅実に数万の評価を得て、プロへの足掛かりにしようとする者。
単に目立ちたがり屋なだけの人。
数字的満足感を得ようとするだけの人。
少しでもいいから、その恩恵に預かろうとする者の多くは、大なり小なり『なろうテンプレート』にやがて辿り着く。
……そうして、多くの者は、今のわたしみたいに玉砕されてゆくのだ。
評価数0pt 、ブックマーク0pt ……これはもう悲惨すぎだよぉ~。
まあ、テンプレ作品のなんたるかも分からないまま描き初めた結果だから、当然のことなのかもしれないけどね?
それでも少しは期待していたのになぁ~っ。
「あーあ……」
こんな結果で終わるんなら、テンプレ作品なんて初めからやるんじゃなかったかなぁ?
わたし、やっぱセンスないのかなぁ……?
数日前とまるで同じように、わたしは元気なくスマホを頭元へ置いて。両手を目の上辺りに乗せ、泣きそうになる思いを堪えながらそう零し、ほぅ……とため息をつく。
チャラリン♪
と──その時、スマホの着信音が鳴った。
こんな夜遅い時間帯になんだろう?と思い、スマホを手に取りその画面を確認すると。LINEに『新着あり』というメッセージが表示されていた。
誰からかな?
一応、確認してみる。
「……おかべ?」
それは、いつも校内でわたしのことをからかってくる男子からの着信だった。
名前は、岡部直輝。
余り認めたくはないけど、かなりのイケメン。同じクラスの男子内でも、超のつくモテル部類。
そんな彼が廊下を歩く度に、女子たちの「きゃ~♪」という黄色い叫び声が飛び交うほど校内では有名なアイドル。
だけどわたしは、彼のことが余り好きになれなかった。
だってさ、いつもわたしのことをよくからかってくるから。
そんな彼から送られて来た内容は、『即、返信しろ!! 未読スルー禁止!』という極めて短い命令的なもの。
わたしはそれを見て『ムッ!』とし、スマホ相手に舌を出してやった。
実を言うとこんな有り様だから、彼こと岡部くんにラインIDとか絶対に教えたくはなかった。
ところが、ほぼ強制的にスマホを奪い取られ、ID交換をさせられた。
あれはもう、1年以上も前のことになるかなぁ……?
高校入学も間もない春、学校での休み時間。
スマホのセキュリティーコードを打って、開いた直後。いきなりわたしの後ろから岡部くんが “それ”をヒョイと奪い取るなり、勝手に何かをやられていたのだから、もぅどうしようもない。
スマホの中身を覗かれるんじゃないか、って恥ずかしさに堪りかね。顔を真っ赤に染めながら、慌ててバタバタと取り返そうとする小柄なわたしの額を、片手だけで簡単に抑えつつ。「ほらよ」と岡部くんはようやく返してくれ、何をされたのか、ドキドキしながらわたしが中身を確認すると……ツイッターとLINEに岡部直輝らしき名前が登録されてあったので…………思わず唖然。
しかもどういう訳か、わたしの方からお願いしたような形になっているので、もぅ泣けるっ。
……これって、犯罪ですよね??
──だよねっ?!
わたしはそんな岡部くんの顔をうるうると涙目に見上げ、心の中でそう訴え掛けた。
岡部くんはその後、困り顔ながらもひと言二言、このわたしに優しく謝りながら慰めてくれたけどね?
その当時のことをふと懐かしく思い出し、同時に軽くため息をつき、わたしは仕方なく返信をする。
『こんな夜更けに、なんか用?』
『アリス、お前さ。もしかして、小説とか投稿してないか?』
「……」
思わずわたしは、その場で瞬間的に硬直し凍り付き、それから頭を抱え込む。
なろうに登録しているニックネームが、ちょっとばかり安直過ぎるかな?とはずっと思っていて。
そこはまぁね、確かに気にはしていたんだけど……面倒だからって理由だけで、何となくそのまま放置していたのが、どうも拙かった。
LINEなどでよく使っているのと同じ、おバカなニックネーム。
ズバリ!《アリスでございありんす!》
あ、いや、わかってますから……かなり変人極まりない、登録名。それは認めてますです、はい……。
こんな登録名なんか偶然でも見つけたら、とりあえずわたしを疑ってみたくなるのは、人情ってもので、仕方がないよね?
まあ……見つかったのは仕方がない。
ただね、実を言うとわたしは、小説を投稿しているなんて学校の誰にも言ってなかった。
だってさ、文章レベルがまだ低いから、とても恥ずかしくて言えないので。学校で噂にでもなったら大変だ。
あ、うあ……あ…………! し、し! し──!!
『──してないよっ! でも、なんで??』
わたしは咄嗟に嘘をついた。
だけど、自分でいうのもなんだけど。岡部くんがここに居たら、絶対にバレるレベル! 居なくて、ホントによかったよ……。
『いや、ちょっと気になった作品があってさ。
その中で、他の奴が知り得ないネタが書かれてあったから、それで気になったんだけど』
「え?」
……そういえば、今日は珍しくアクセスが多くあったっけ?
『あった』とは言っても、決して多いものではなかったけれど。
実はちょっとだけ……ううん、かなり嬉しかった!
でも、それでも……評価もブックマークもつくことはなく。いつものただの通り過ぎだと直ぐに解り。つい先ほど、それで、ため息をついたばかり。
もしかして、このアクセスは岡部くんだったの?
……まさか、そぅ……なのだろうか?
もし、もしもそうだとしたら──!
『いや、違うんだったら、別にいいんだ。じゃあな、アリス、おやすみ!』
『──あ! ……ぅん。おやすみ! また明日ね!!』
わたしはそのあと暫く、スマホのその画面を元気なく静かに見つめ。間もなく、ため息をついた。
それから再びスマホをベッドの上に転がし置いて、軽くため息をつく。
本当のこと言うと、出来たら作品の感想を聞きたかった。
でも、だけど。そんな勇気なんて、わたしにはない……。
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