第24話

 1対1で戦っていたシエラとベティーナは、互いに押しも押されぬ攻防を繰り広げていた。

 戦闘における実力自体はベティーナの方が上。

 しかしベティーナは片目を失っている事により死角が多くなってしまっており、相対的な実力は五分五分であった。


「目障りなトカゲね! さっさとくたばりなさいな!」


「そうはいきません! 私は、負けられません!!」


 激しく火花を散らす魔装具と魔装具。

 しかし、僅かな隙を突かれて、シエラは弾き飛ばされた。


「くぅッ!」


 シエラは態勢を立て直すように1度ベティーナから離れ、コンテナが囲う道に入った。

 両脇をコンテナに挟まれ、奥は行き止まり。まさに袋小路である。

 すぐにベティーナもシエラに追い付き、道に入る。

 シエラの後ろは、もうコンテナの壁だ。


 傍から見ればシエラは逃げ場の無い場所に追い込まれ、万事休す、という風に見える。


「……フン」


 しかし、ベティーナは気付いていた。

 これは、罠だという事に。


 ベティーナは【ナパドゥ・チトー】のチェーンを外し、前方目掛け鞭のように地面に叩き付ける。

 一直線にコンクリートの地面にめり込んだチェーンは――――――した。


 チェーンの中に、爆破用の宝石が数珠繋ぎで仕込まれてあったのだ。

 ベティーナはそれを導爆索の要領で使ったのである。


 ベティーナがチェーンを起爆すると、コンテナとコンテナの狭い隙間に仕掛けてあった対人地雷クレイモアが一斉に誘爆を起こす。


 強烈な爆風に、奥にいたシエラは思わず怯んだ。


「な……っ!」


「そう何度も同じ手には引っ掛からないわ。こんな子供騙しで、私を止められると思って?」


 ベティーナは隻眼の顔で不敵に笑う。

 だが、シエラは路地を包む煙幕の中、無線機に小声で言った。


「……正樹先輩デビル・ドッグ。準備はいいですか?」


 すぐに無線機から返事が帰ってくる。


『ああ、いつでも来い……!』


 シエラから無線で連絡を受けた正樹は、ガッチリと銃を構える。


 正樹の言葉を聞いたシエラは――――――



「――――ハアッ!!」



 ――――――――


 大地を蹴って上空へと大きく跳躍し、背後にあったコンテナの壁を飛び越える。


「な……!? どこへ逃げようと……っ!」


 ベティーナもシエラの後を追い、上空へと跳躍する。

 そしてシエラ同様、コンテナの向こう側に着地しようとした時――――――


 ベティーナは、隻眼の眼で見てしまった。


 自身から約500メートル先――――

 赤色のコンテナの上で――――


 こちらに向けて、姿を。


 ベティーナが正樹の姿を確認した刹那――――正樹は空中のベティーナに向けて照準を定め、【バレット M82A1対物アンチマテリアルライフル】の引き金を―――――――引いた。


 【バレット M82A1対物アンチマテリアルライフル】の銃口から巨大な50口径弾が発射され、直後に正樹の視界を遮るほど大量の発射煙が噴出する。

 弾丸はまるで吸い込まれるかの如く、ベティーナ目掛け直進する。



 ――――――逃げられない。

 ベティーナはすぐに悟った。



 足場の無い空中で、回避することなど出来ない。

 身を隠す場所も無い。


「――――ッ!!」


 ベティーナは半ば人間の本能で、【ナパドゥ・チトー】を盾のように前に構える。


 そして――――――【ナパドゥ・チトー》に、50口径弾が直撃した。


 車のエンジンすら貫通する50口径徹甲AP弾は、【ナパドゥ・チトー】を粉々に打ち砕き、ベティーナを吹き飛ばす。


 上空に飛散する【ナパドゥ・チトー】の破片。

 宙を舞うベティーナの身体。

 その一部始終を、七御斗達4人は全員目に納めていた。


 ベティーナは受け身を取る事もままならず、瞬く間に地上に落下する。


「が……ッ、がはッ、うあ……ッ!!」


 地面に叩き付けられた衝撃でベティーナは内蔵を損傷し、咳き込むように吐血する。

 50口径の直撃を受けた右腕も骨折し、大きく腫れ上がってしまっている。


 ベティーナの身体は、もはやとても戦える状態ではない。



 ベティーナの敗北は、ここに決まった。

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