第三章『Fire in the hole』
第9話
なんだかんだ色々ありつつも、無事転校初日を迎える事が出来た俺は鞄を肩に掛け、アパートへの帰路に着いていた。
放課後はあのシエラとかいう少女を探して色々と問いただしたかったが、あのだらしない担任の先生と放課後ぐだぐだと色々話し合った事もあってそれもままならなかった。
お陰で今は夜の18時。外はすっかり暗くなっている。
俺は学校から離れ、モノレールに乗る駅まで差し掛かっていた。
「ハア、やれやれ。あの担任のせいですっかり遅くなっちまった。姉さん、待ってるかな……」
俺は駅に入り、自動改札機にカードケースをかざしてホームに入る。時刻表を見ると、どうやらすぐに電車が来るらしい。
俺はホームを歩きながら、シエラの事を思い出していた。
(……駄目だ、どうしても気になる……シエラの言ってた俺が狙われてるってのや、姉さんをマスターと呼んだ事……まさか、俺が今朝見た夢までは関係ないと思うが……)
俺はもやもやした気持ちを払拭しきれないまま、電車を待っている人達に紛れてホームに立つ。
――――その時、俺のズボンのポケットにしまわれたスマホが振動した。
俺はすぐにスマホを取り出し、画面を見る。
「電話……姉さんからだ……」
スマホの振動は、紗希姉さんからの電話を知らせるモノだった。俺は画面をタッチし、電話に出る。
「もしもし、姉さん?」
やっぱり、遅くなったから心配かけたのかな? 姉さんだったら「遅くなるなら、あらかじめ連絡しなさい」って言いそうだし。
俺は内心でそんな事を思い、また小言を言われるのを覚悟する。
――――しかし、スマホから帰って来た姉さんの声は、予想とは大きく違った。
『七御斗!? 無事!? 君、今どこにいるの!?』
その声は叫び声に近い、焦燥感のあるモノだった。
こんな姉さんの声は、今まで聞いた事が無い。
俺は混乱しながらも、聞かれた事を答える。
「え? ど、どこって……駅のホームで、これから電車に乗るトコだけど……」
『そこに――ては駄目!! います――――――逃げ――――――危な――――ッ!!』
何故か途中からノイズのような物が混じり、よく声が聞き取れない。
ただ、姉さんが必死で何かを俺に伝えようとしている事だけは分かった。
電話は最後に激しくノイズ音を響かせるとプツリと切れ、通話終了になってしまう。
「な……なんなんだ……? 姉さん……?」
……そこは駄目? 危ない……?
断片的に聞こえた姉さんの言葉は、まるで俺の身に危険が迫っていると言っているようであった。
そこに、汽笛を鳴らしながら3輌編成の電車がホームに入ってくる。
電車には大勢人が乗っており、時刻からしても正に帰宅ラッシュの時間だ。
そして電車が失速し、ホームに止まった、
――――その、刹那――――
俺の目の前の電車が――――――――内側から、爆発した。
「――――ッ!?!?」
巨大な爆発の衝撃波で俺は身体ごと吹き飛ばされ、ホーム床に叩き付けられる。
あまりに瞬間的な出来事に何が起こったのか把握すらできず、受け身も取れない。
まるで大きな鐘を至近距離で鳴らされたように頭の中がぐわんぐわんと揺れ、視界がぼやける。
さらに立て続けに後続の車両も大爆発を起こし、ホームに巨大な爆炎を吹き掛ける。
「な…………何が…………!」
俺は朦朧とする意識をなんとか保ちながら上体を起こし、電車を見る。
3輌の電車はすでに豪炎に包まれ、中の状況などまるで確認出来ない。
周囲に視線を移すと今までホームに並んでいた人達が血を流して倒れ、遠くからは阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる。
正に――――地獄絵図。
そう呼ばずして、なんと呼べばいいのだろう。
「ま……まさか…………『テロ』か……ッ!?」
瞬時に俺は理解する。これは、『爆破テロ』だ。
最近都心部で起こっていたテロが、とうとう此処でも起こったのだ。
「う……うう……クソ……っ」
俺はなんとか身体を起こし、立ち上がろうとする。
不思議な事に、目の前でテロが起こったにも拘わらず俺はパニックを起こしていなかった。
自分で自分が怖くなるくらい、冷静さを失っていない。
姉さんからの連絡や、ニュースでテロの様子を見ていたからなのだろうか。
さらに幸いな事に、俺の身体には爆発物の破片などは刺さっておらず、身体に怪我らしい怪我は見当たらない。
強いて身体に異常があるなら、衝撃波による軽い脳震盪くらいだろう。
俺はフラフラと立ち上がり、この場から移動しようとする。
俺の周りは炎から上がる濛々とした煙で完全に包まれており、駅の出口などは全く見えない。
それでもなんとか逃げようと、咳き込みながら踏み出した瞬間、
「――――あら? まだ意識があったのね。残念だわ」
という女性の声が、俺の耳に届いた。
「な……に……?」
その声に反応し、俺が前方の煙幕を見ると、人のシルエットが浮かび上がる。
それはハイヒール特有のコツコツという甲高い音と共に、徐々にこちらに近づいてくる。
そして、その足音の正体は、俺の前に姿を現した。
「……こんばんは、『
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