第5話

 郡次伯父さんと会った日の夜、あらかた荷物を整理し終えた俺は机に向かい、さっそく郡次伯父さんから貰った【チャーターアームズ ブルドッグ回転式拳銃リボルバー】を分解していた。


「……チッ、やっぱりだよ。リバウンド・スライドが割れてやがる。え~っと、擦り合わせ出来そうなパーツは……」


 俺はそんな事をぼやきながら、いそいそと回転式拳銃ブルドッグを修理する。


 そんな時、


「七御斗、入るわよ」


 紗希姉さんがドアをノックし、部屋の中に入ってくる。


「ああ、何? 姉さん」


 俺は手を止め、ドアの方に振り向く。

 姉さんは一瞬、俺が机の上に広げた分解済みの銃を見る。


「……君、まだそんな物を弄ってるのね」


「へ? ああ、これ? そりゃあ俺の大事な趣味であり特技だからね。それにコイツがあれば、いざって時に姉さんも守ってあげられるし。姉さんだって、最近の東京は物騒だって言ってたじゃん?」


 俺はカラカラと明るく笑いながら自慢気に言う。


 実際、初めて銃を持ったような素人相手ならばまず撃ち勝つ自信がある。

 暴漢に襲われたくらいなら、姉さんと自分の身くらいなら守れるだろう。


「……そう」


 しかし紗希姉さんはそんな俺を見て一瞬複雑そうな顔をすると、長く綺麗な後ろ髪を俺に向けた。


「……君が父さんの幻像を追い掛けたいと言うのなら止めはしないけど……覚えておきなさい。そんな物、に陥った時には……何の役にも立ちはしないわ」


 姉さんはやや厳しい声でそう言うと、「お風呂が沸いたから入りなさい」とだけ言い残して部屋から出て行ってしまった。


「……な、なんだよ……」


 何も、役立たず扱いする事ないじゃんか……。

 と、俺は大事な趣味であり心の拠り所を蔑ろにされた事に不快感を覚えつつも、作業を一旦休止して風呂に向かった。

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