第3話

 地下の射撃場に入ると、そこは思っていたよりずっと広い場所だった。

 手前にある細長いテーブルには幾つも仕切りが立てられ、優に10人以上は射撃が出来るだろう。

 レンジの長さも最奥のターゲットまで30ヤード(約27メートル)はあり、その途中に自動で起き上がる人型標的マンターゲットが寝かされているのが見て取れる。


「さて、そんじゃターゲットを動かすから、真ん中の5番レーンに立ってくれ」


 郡次伯父さんはそう言うと、レーンの後ろにあるガラス張りの管理室に入って行った。


 俺は言われた通りに真ん中の5番レーンに立ち、テーブルに置いてあった大きなイヤーマフを頭に付ける。

 これは勿論、耳の鼓膜を銃声から守る為だ。


 そして俺がマガジンに弾を詰めていると、


『そんじゃ、ターゲットを動かすぜ! 準備いいか!?』


 という郡次伯父さんのアナウンスが、レンジ内に響き渡る。

 俺はマガジンを【キンバー ステンレス・ゴールドマッチⅡ自動拳銃オートマチック・ピストル】に差し込み、スライドを引くと、


「……ああ、いつでもいいぞ」


 そう呟いてOKサインを送り、銃を胸に構えた。

 そして――――



 ビイイイイイイイイイイイイイイッ!!!



 という甲高いサイレンと共に、銃を持った男が描かれた人型標的マンターゲットが起き上がった。


「――――ッ!!」


 俺は素早く銃口を向け、引き金トリガーを引く。

 同時に――――レンジに反響する、45口径の重厚な銃声音。心の臓にズシンと響く、大口径特有の銃声だ。

 今となっては馴れた物だが反動も重く、銃を握る手の平から手首に衝撃が伝わる。


 俺は【キンバー ステンレス・ゴールドマッチⅡ自動拳銃オートマチック・ピストル】を上手くコントロールしながら的確にターゲットを撃ち抜いて行く。

 実感としては、ターゲットが起き上がり切った瞬間にはターゲットに風穴を開けている感じだ。

 それも無論、次々と起き上がるターゲットの『頭』を、確実に狙って。


 そして、5体目のターゲットが起き上がったが――――俺は、引き金を引かない。


 なぜなら――――立ち上がったターゲットに、が描かれていたからだ。


 これは現実の『無関係な一般人』とか『人質』という扱いらしく、公式競技でこれを撃ってしまうと著しい減点を食らう。

 故に、この手の射撃競技には「何が敵で何が味方か、撃つべき的は何か」を瞬間的に判断する能力がとても重んじられる。


 そして直後、その女性のターゲットの背後に、銃を持った男のターゲットが立ち上がる。


 ――――撃つ。そして命中。


 女性の的の後ろに隠れた、男のターゲットの『頭』に。

 さらに続けて立ち上がった2体のターゲットの頭を瞬時に打ち抜き、終了を知らせる先程と同じサイレンが鳴り響いた。


「……ふぅ」


 俺は全弾撃ち尽くした事を知らせるホールドオープン状態になった【キンバー ステンレス・ゴールドマッチⅡ自動拳銃オートマチック・ピストル】をテーブルの上に置き、イヤーマフを頭から外す。

 そんな俺の下に、


「全弾ターゲットの頭部に命中。タイムは7.88秒……。いやはや……その歳でこれだけの実力を持っているたぁ…………これが史上最年少優勝者の実力ってもんかい」


 驚いた表情の郡次伯父さんが、顎を撫でながら歩み寄って来た。


「そうでもないさ。IDPA全国大会の時はもっと難しかったしミスも多かった。これくらいなら、俺以外の出場者でも出来ると思うぜ」


「いやいや、それでも17歳でそれだけの腕前を持っている奴ァそういないと思うね。その腕があれば『ロサンゼルス市警察LAPDスワットSWAT』にだって入れるぞ」


 郡次伯父さんはまるで自分ごとのように喜び、自慢気に言う。


「LAPDって、伯父さんがアメリカに住んでた頃にやってた警察の仕事だっけ?」


「ああ、もう何年も前の話だがな。……なんなら、紹介してやろうか?」


 郡次伯父さんは茶化すように言う。


「……遠慮しとくよ。俺、英語なんて話せないし」


「ハハハっ、そうかそうか。いや、それが一番だ。平和に暮らすのがな。そんじゃいいモン見れたし、上に上がるか」


 俺達はそんな会話を交わすと射撃場を後にし、地上に上がって行った。

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