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「ここは今の伸治の世界だよ。昔の伸治の世界じゃないかもしれないけど」
瑞希が、伸治の心の中を見透かしたかのように口を開いた。こんなところも、昔の瑞希のままだ、と伸治は思う。
「昔の僕の世界じゃなければ、どうだって言うんだ?」
自問自答するかのように言った伸治に、瑞希は答えた。
「時間が違えば、世界も違うのは当たり前でしょ」
「そういうものなのかな」
「安心して。昔も未来も、ちゃんと繋がってるから」
伸治は瑞希の言葉を聞きながら、川に浮かぶ木の葉の動きを追っていた。
木の葉は流れに翻弄され、ひっかかって脇に逸れたり、くるくると回ったりしながら、下流へと流れていく。
あのまま流されていけば、いずれどこかの河口へ辿り着くのだろうか。それとも、途中でどこかの岸に打ち上げられるか、渦に巻かれて呑まれるのか。
「あの葉っぱ、岸に引っかかっちゃいそうだね」
瑞希も、伸治の目線の先に気付き、木の葉の動きに目をやって言った。
「向こう側に行くには、結構頑張らないといけないよね」
瑞希の言う言葉は、伸治の頭の中で溶けて広がるように消えていった。
伸治の頭の中に、この十三年間の出来事が浮かんでは消えていった。
十三年の間に出会った人、出来事、その時々で味わった様々な想いが、大きな時の流れの中で浮かんでは消えていく様が見えた。
伸治はいつしか、その流れの中に身を委ね、水面に揺られて緩やかに漂っていた。
川の流れは広大で、その先は遥か地平線の先へと消えている。
夕陽が水面で弾けていた。
飛沫の中を光が走り、弾け、渦を巻き、複雑なカーブを描きながら下流へと向かっていく。
それは時に真っすぐ、時に緩やかに弧を描き走るように見えて、しかし稀に、ジャンプをするように角度を変え、隣の光とあわさり、別れ、集まり、砕けながら稲妻の如く進んでいくのだった。
伸治は、水面の上に立つ瑞希を見た。
彼女は輝く流れの上を踊るように、光の粒と戯れていた。
いつしか夕陽は落ち、夜空に明るく月が灯っていた。
月から投げかけられた光が流れを照らし、風に揺れる瑞希の髪の毛を透かして、細長く明るい光を、流れる水面の上へと落としていた。
伸治の手首で、『ユアタイムバンド』のLEDが緩やかに点滅を繰り返していた。
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