未来への不安を抱いた時、人間は過去にすがりたくなるものなのだろうか。


 伸治が瑞希にメールを送ったのも、そんな感傷からだったわけだが、それを幾分かでも埋めてくれるような会話を――過去との繋がりを、どこかで伸治は、このパーティに期待していたように思う。ましてや、瑞希と共に過ごした過去の思い出さえ危うい今となっては余計に、だ。


 だが、そんな伸治の思いとは裏腹に、ここでの話題は各人の今の生活を表層的になぞったものばかりだ。


 この場には過去も未来も存在しない、参加者それぞれの現在が、お互いにかすりもせずにすれ違っているだけだ。お互いを鏡のように対象化して、自分の人生を確認し合う作業。そこに感傷の入り込む余地はない。



 伸治は、会場の隅に置かれたスツールに腰掛け、頭を垂れていた。


 疲弊していた。


 表面的な点検作業のような会話に、メディアの取材をなぞるような『ユアタイムバンド』の説明作業。この卒業十周年記念パーティへの参加には、元々気乗りがしていなかったということを、今更ながら伸治は思い出していた。



 自分の業績を級友に披露したり、お互いの近況を聞いたりということ自体は、もちろん気分の悪いものではない。だが、今は話をしていても、例の不安を――そして瑞希のことを思い出し、虚無感に苛まれて伸治は内心焦るばかりだった。


 それに、『ユアタイムバンド』の話題は、伸治の中ではどうしても瑞希に結びついてしまう。


 今となっては、それこそが伸治にとって瑞希が存在したと信じられる手掛かりでもあるのだが、このパーティの場で展開される「現在」の奔流の中ではそうした思いさえも、ただ無為に消費されていく。


 瑞希が存在していようがいまいが、世の中はかくも残酷に「現在」を生産し続けていくのだ。自分は過去に捉われて、そこに乗り遅れているだけのように、伸治には思われてきていた――

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