5
「お前、この後どうする?」
トロフィーを伸治に返しながら、山本が声をかけてきた。
(そうだ、この後はどうするんだ?)
どうやら瑞季の言った通りに、自分は自分の望みに対し、一定の答えを形として得ることができたようだ。この十三年間、瑞希の「予言」と、自分の見た光景への確信を持ち、それを目指してきたからこそだと思う。
だが――その後は?
今見ているこの光景が過ぎ去ったあとのことを、伸治は知らない。
もちろん、『ユアタイムバンド』には改良の余地もあるし、これをきっかけに複数の企業から共同企画の話が来るなど、まだまだやることはたくさんある。だが、十三年前に見た光景は、今この瞬間の光景だったのだ。
つまり――自分の人生は今、この瞬間がピークなのか?
一定の成功を収めた人間が、その後不幸に見舞われたり、慢心したりした結果、その後の人生を下り坂の中で過ごす、というのは良くある話だ。
瑞希が伸治に見せたあの光景には到達した。ということは、伸治のこの後の人生も、そのようになるのではないか――そんな漠然とした感覚は、受賞が決まって以来、不定形な靄として伸治の心に現れていた。
山本の問いに曖昧な返事をしたまま、伸治は手に持ったままの携帯電話を開く。
「なんだ、女か?じゃあこの後の親睦会はパス?」
先ほど山本の言った「この後」というのは、どうやらそのことだったらしい。伸治はその時、初めてそのことに気が付いた。
「……まあ、女といえば女だけど」
伸治は苦笑して不安の靄を振り払った。今考えても仕方がないことだと、そう自分に言い聞かせ、顔を上げて山本に応じる。
「瑞希だよ、憶えてるだろ?ほら、大学の時の俺の彼女」
「お前の彼女なんていちいち憶えてないよ」
――違和感があった。
憶えていない?瑞希のことを?
伸治には一瞬、山本の言う意味がわからなかった。
そもそも、今の会社に伸治を誘ったのは、大学の同期であり、昔から伸治をよく知る山本本人なのだ。
当時の、山本を含む仲間内では、伸治が洋食屋で働く瑞希を誘い出した経緯は語り草だったし、特に山本はよく伸治の家にも来ていて、瑞希と面識もあるはずだ。
「瑞希だよ。知ってるよな?よくうちにも来てただろ」
「そうだっけ?結構昔のことだし、どうだったかな」
尚も伸治は問い質そうとしたが、その時会場から聞こえてきた拍手が、式典が終わったことを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます