10章:ジョコビッチ、史上最強テニス選手の徹底分析~それでも弱点はある!

        【2015年の結果が示す、史上最高の勲章】

 

 ロンドンで開催された、2015年テニスのマスターズ・ファイナルはノバク・ジョコビッチの優勝で幕を閉じた。


ファイナルズ史上初の4連覇を成し遂げ、かつ今年のグランドスラムでは4つ中、3つものタイトルを獲得した。テニスの世界でここまで1年を通じて勝ち続けた選手はそうはいない。おそらく05年から07年にかけてのロジャー・フェデラーが唯一、それに匹敵する出来だったのではないか。


 男子テニスはこの10年、BIG4の時代と呼ばれてきたが、この2年は実質的に、1強時代と言える。 ファイナルズでのジョコビッチを見ると、テニスの完成形を見た気がした。


ジョコビッチの強さをひと言で表せば、“弱点なき精確かつ多彩なテニス”である。だが、1番のポイントはそれを支える強靭なメンタルに違いない。劣勢でもプレッシャーに動じず、優勢でも慢心におぼれずに丁寧にプレーする。こうして書くだけならカンタンだが、スポーツでそれを実践するのは至難の業だ。



       【守りながら攻めるテニス/準決勝・ナダル戦】


 今大会、ジョコビッチのトーナメント・マッチを振り返ると、準決勝のナダル戦では圧勝した。 スコアはジョコ:ナダル{(6-3)(6-3)}、わずか1時間19分の戦いだった。長期的な絶不調からこの数ヶ月で不死鳥のごとく甦ったナダルだったが、ほとんど何も出来ずに終わった。


 1番のポイントは、ジョコビッチが相手の最大の長所を封じた事だ。ナダル、最大の武器、恐ろしく高く跳ねるスピンボールに対し、ジョコビッチはカンペキに対応した。普通にラケットを振って返せばオーバーになるため、スピンをかけてうまく相手コートに落とす、またはカウンターパンチのようなライジングを放って逆にポイントを奪う事もあった。


 彼のスピンへの強さには“リーチの長さと体の柔軟性”も関係している。それによって、スピン以外の難しい球種にも臨機応変に対処できる。彼の弱点のなさは、第一にここに起因したものではいか。


 ジョコビッチはよく、と言われるが、彼はラリー戦で左右にボールを打ち分けながら、かつボールをより深く打ってゆけるので、守るラリーを続けていても攻め手を逆に追い込む事ができる。これには超精確なショットの技術と忍耐力が必要で、容易にマネることはできない。


 ジョコビッチはカンペキに守りながら同時に攻めることもできるので相手選手は点を奪えないまま失い続けるしかない。


 サッカーで例えるなら、10人が自陣に引いてカンペキに失点を防ぎながらチャンスになると前線にいるスーパースターに長いパスを出してその1人だけで点を奪いにゆくような戦術と言える。ジョコビッチはテニスでそれをやっているのだ。それは、最も確実にリスクなく勝利を挙げる戦術と言える。

 


    【天才には弱点をつき、長所を消す戦略/決勝・フェデラー戦】


 決勝のフェデラー戦もまた圧勝だった。ジョコ:フェデラー{(6-3)(6-4)}これまたわずか1時間20分の戦いだった。スタッツにも、試合の内容が出ている。最も注目すべきは、凡ミスの数、ジョコ:フェデラー(14-31)。フェデラーが攻め続けながら、ジョコビッチの守備に耐え切れずに自らミスを犯すというゲームだった。


 いつも通り、ジョコビッチはフェデラーの弱点を突き、かつ長所を封じる作戦を成功させた。試合全般を通じ、フェデラーのバックに執拗に球を集めてミスを誘った。フォアの打ち合いという正攻法では勝てないのを、彼は充分に理解している。


 それでも時々、プライドがうずくのか、正攻法を仕掛ける時もあるが、やはりそうなるとフェデラーがポイントを取る。そこでまたジョコビッチはバック戦法に戻るが、そのさまは何かいつも微笑ましい!(^^)!。


 バック攻撃が最も際立ったのはイーブンの状況、ジョコビッチがセットカウント(5-4)で迎えた、第2セットの第10ゲーム目、この試合で最打数となった32回のラリー合戦でのことだった。


 ジョコビッチはフェデラーのバックに執拗に返球し続けながら球種を変化させ、結局、山なりの深いムーンボールが決定打となった。そして、そのままフェデラーのゲームをブレークし、セットを奪ってジョコビッチ優勝となった。


 フェデラーの最たる強み、ネット攻撃を封じたのも大きい。ネットに出たフェデラーに対し、高いロブ、高速パッシング、足元返球と多彩に対応してポイントを奪っていった。フェデラーは21回のネットプレイで7度の失敗、その多くがゲームの重要ポイントだった。



       【ガッツ、メンタルの強さがすべての土台にある】


 歴史上、最強のテニス選手。ジョコビッチはそう呼ばれてもおかしくはない。全盛期のフェデラーでさえ現在のジョコビッチには勝てないのではないか。そもそも、現在のフェデラーはさすがに体力走力共に衰えがあるものの、若い頃より多くの技術を身につけ、今なお進化し続けているのだから。


 正攻法、フォア同士の単純なフラットの打ち合いで言えば、フェデラーは至上最強の選手といえるだろう。だが、バックハンドが苦手という明白な弱点もある。また攻撃と守備能力にギャップがあり、長いラリー合戦に耐えうるメンタル・タフネスもない。


 対してジョコビッチにはほとんど弱点がなく、恵まれた体、長いリーチと柔軟性を生かし攻守ともに精確かつ多彩なテニスを見せる。それによって相手の弱点を突き、かつ長所を消す事もできる。


 さらにジョコビッチには、そういう相手の長所を消すプレーと共に、自らが攻め込むガッツもある。このファイナルズ決勝でも、ウィナーはフェデラー19に対し16本、エースはフェデラーの5に対し6本と上回った。彼は決して、受身の守備テニス、頭脳プレーに長けているばかりではなく、激しく熱いプレーも得意としているのだ。


 冒頭に書いたよう、何よりも全てを支えるメンタルの強みもある。それがあるから、精確で多彩で持続力のあるプレーが可能になるのだ。



      【現在のジョコビッチに勝つには、どうすればいいのか】

 

 そもそも彼には弱点があるのか?もちろんジョコビッチも人の子、完全に無敵なワケではない。


 スイスのワウリンカはジョコビッチに対し、非常に相性の良い選手である。ワウリンカはグランドスラムの大舞台で過去何度もジョコと長時間の接戦を繰り広げ、最近ではワウリンカの方が対戦成績で上回っている。去年2015年の全仏決勝での勝利は記憶に新しい。


 ワウリンカの勝ち方に、ジョコの弱点が見える。ワウリンカはオールラウンドのパワーヒッターだ。サーヴが強く、ストロークではフォアでもバックでも強く打てる。特にバックハンドは現在男子NO1の強さだと言える。


 それによってジョコビッチの最たる武器である長いラリー合戦を避けることが出来る。一発サーヴで決めたり、ラリーに入っても強烈なグランドストロークでウィナーを取ることが出来る。

 フェデラーもワウリンカに似たタイプだが、バックハンドが弱いためにそこを突かれていつも負けている。


     要するに、ジョコビッチの弱点は、パワー勝負が出来ない点にある。

       そのため彼はいつも驚異的な守備力で相手の速攻を防ぎ

        長期ラリーに持ってゆくことを基本戦術にしている。

      そのため、その守備力を上回るパワフルな速攻をしかけたり

    ラリーに持っていかれても強烈なウィナーですぐに流れを断ち切れば

            試合を優位に運ぶことが出来る。


 ワウリンカはビッグサーヴと、ストロークでのバック・フォアの高い能力、強力なバックと広角のフォアという二刀流で、みごとにそれを実践している。


 だが、彼はパワー系の選手らしく忍耐力がなくすぐ切れてしまう。そのためジョコビッチと対戦する前に格下選手に敗れる事が多く、ジョコビッチのライバルとまでは言えない。


 ただ、なぜかジョコビッチ相手だと、すばらしいプレーをするフシギな選手であり、ジョコにとってはまさにジョーカーのような忌まわしい相手だと言える。


 ジョコビッチに絶対勝てる選手を具体的に導き出せば、フェデラーの天才的なフォア・ハンドとワウリンカの強烈バックを持ち合わせ、かつジョコの驚異的な守備力によって長期ラリーに持ち込まれてもそれに耐えられるナダルのようなスタミナとメンタルをすべて備えた選手になる。


 そんな選手が現れればさすがのジョコビッチも負けるだろうが、それはほとんど現実味がなく、アニメのキャラクターに近い。


 2015年の男子テニス界は、ジョコビッチが完全に制した。1テニスファンとして2016年に期待するのは、やはり彼のである。それが成し遂げられれば、おそらくフェデラーを超える史上最強の選手として、ノバク・ジョコビッチは世界のテニスファンから認知されるだろう。<2015/11/23>■

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