5章:軍事とカネの安倍政権が招いた『テロとの戦争』参戦~戦争以外の貢献こそ世界平和の基盤になる

      【平和国家の日本がISのターゲットになった皮肉】


 2015年、1月、日本中を震撼させたIS(イスラム国)による日本人質事件は、2人の日本人殺害とISによる日本への宣戦布告というサイアクの形で集結した。

 当然、第一に非難されるべきは残虐非道なテロ組織である。だが、人質殺害の悲劇と今後、日本全体が担うテロのリスクは、日本自体が招いた事態でもある。


 2001年、NYの9.11テロ以降、世界の先進諸国全体を敵に回した国際テロ組織がいくつも宣戦布告し、活発に活動を始めた。それ以来、今回の事件で、初めて国際テロ組織によって日本人が、そして日本という国自体が国際テロのターゲットになった。

 2003年のイラク戦争中、日本政府による自衛隊の派兵を理由に当地の武装勢力が日本人を何人も誘拐したことがある。だが、それはイラクという特定地域で起きた戦争に伴う派生事項であり、それ以上の広がりがあるものではなかった。


        『テロとの戦い』という21世紀の世界大戦。

  日本は、今回の人質事件により、その戦線に初めて放り込まれたと言える。

   なぜ、対テロ戦争に加わった事もなく、軍事的な後方支援さえした事のない

          日本がそんなことになってしまったのか?


 第一の理由は、日本政府が国際テロに対してバカげた強硬姿勢を続けた事にある。1つ目の転機はジャーナリスト・後藤氏誘拐事件への対応だ。去年10月、後藤氏がISに誘拐された後、後藤氏の妻がISから身代金を要求され、それを政府に報告した。

 だが、政府はそれに全く取り合わなかった。後藤氏の妻には身代金要求には応じられず、このことを内密にするようにと伝えるだけだった。事件後の国会で、安倍首相はそれがISからの脅迫だという事実を確認できなかったからだと答弁した。それは明らかにウソだ。なぜなら、それ以前からスペインやフランスといった先進諸国のジャーナリストが数多く、ISに捕らえられており、後藤氏は紛争地に赴くジャーナリストとして有名な人物だったからだ。

 。民主国家として、政府は自国民の命を守る義務がある。安倍首相はこの建前上、人質事件の際にはこの言葉は伏せていたが、それが安倍政権の本音である。アメリカやイギリスのように、この強硬姿勢を貫いていたからこそ、この事件で政府はほとんど何も有効なことをしなかったのだ。一方のISはこの交渉によって、初めて日本を英米同様の敵国としてマークし始めたに違いない。

 テロリストと交渉しないという意思表明は、国際テロ組織と直接戦っている国家だけが取るべきものである。そこにはテロリストの人権さえ認めない強い敵意がふくまれているからだ。だからこそテロと戦っていない国がテロ組織との交渉を拒めば、それだけで強烈な挑発行為と取られる。



    【テロリストにはその罪をつぐなわせる、安倍強硬姿勢の真意】


 日本は今回の人質事件が起こるまで、一度も国際テロ組織と戦った事もなく、自国民がその被害にあった事もほとんどない。つまり、敵でさえないISに対しなぜ日本は、ISとの対立国に莫大な支援金を送り、かつそれによってISとの人質交渉を強いらされると、ほとんどそれを無視するという敵対的な対応をしたのか。

 先のチャプターに書いた通り、支援金は軍事ビジネスのためだということが推測される。当地の紛争に便乗して武器セールスで大もうけしたいためにバラまいたのだ。武器輸出三原則の緩和によって、安倍政権はすでに戦闘機F35の売買をイスラエル相手に具体的にもくろんでもいる。

 一方、国際テロに対する日本の強硬姿勢の核には第一に、がある。安倍政権の“テロには屈しない”という強硬姿勢もまた、本質的にはアメリカにすり寄ろうとする弱腰の姿勢に過ぎない。


 また、それは安倍首相個人の持つごう慢な軍国主義から来るものでもある。

 テロには屈しない、テロリストとは交渉しないと言えるのは、アメリカのような対テロ戦争の参戦国だけが言える言葉である。日本はいまだかつて国際テロとの戦いに加わった事がなく、後方支援さえ行った事がない。したがって、テロとの戦いに屈しない!などと豪語できる立場にさえないのだ。何より対テロ戦争への参戦は、日本では選挙の争点にもなった事がなく、国民の合意を取り付けたものではない。従って、それは民主主義に反した首相の暴言とも言える。

 だが、安倍首相は今回の人質事件において、たびたびテロには屈しないと強く言い続けた。その姿勢の元には、対テロ戦を戦う米英を中心とした軍事大国と同じ、マッチョで軍国主義的なプライドを持ちたいという願望が見て取れる。それは戦後一貫して平和主義こそをプライドとしてきた日本のあり方とは、真逆の態度である。


    テロには屈しない、テロリストは絶対に許さない。その罪を償わせる。

  このような首相の言葉からは、明らかに軍国主義的なプライドが見て取れる。

    それは世界で唯一平和憲法を掲げる日本が持つべきものではない。

           明らかに不要なプライドである。

  首相のテロへの強硬な態度は、個人的なごう慢の一言で言い表せられる。



       【対テロ戦争に巻き込まれた日本の因果応報】


 今回の人質事件が終結し、日本は対テロ戦争に明白に参加する1国となってしまった。それはISが一方的に日本を敵視し、日本人を殺害したためではない。

 それは日本政府が対テロ戦争“支持”の立場を超えて挑発行為をしたために起こった必然的な事だったと言える。 

 日本のテロ時代の幕開け。それは決して国際テロ組織による一方的で無差別的な憎悪と敵対行動によるものではなく、そのターゲットになりうる過ちが明白に日本の側にもあったからこそ始まったものである。


      紛争地の中東で、武器売買によって巨額のもうけを得ようとする

             日本の財界、軍需産業の思惑。

            アメリカに追従した日本の国際外交。

   戦ったこともないテロ組織に強硬に対応し、軍国主義的なプライドを満たす首相。

         

  自業自得、因果応報。今回の人質事件によるサイアクの結末はテロリストによる卑劣な犯行であると共に、この言葉に集約されるものでもある。



       【平和国家・日本ならではの世界平和への貢献法】


 安倍首相は軍国主義者との非難をかわすため、よく、積極的平和主義という言葉を口にする。国内の治安を保つだけでは真の平和主義国家とは言えず、日本もまた世界に出て軍事力によって平和的な貢献をしなくてはならない。そういったものがこの言葉を使いたがる、彼の真情に違いない。

 何も報復しないのであれば、テロリストを利する事になるではないか。この文句は、人質事件後、日本の政治家やジャーナリストの間で飛び交っているものだ。彼らには共通して、テロ根絶のためには戦争こそが最も有効な手段であり、その戦線に加わらず、また支援もしないという事は最も無責任な態度であるという考えが見て取れる。

 それは軍国主義的であり、かつ近視眼的でもある。

 現実問題、現在、中東和平における最優先事項はISへの軍事的制圧である。そこで日本は充分な軍事力を持ちながらも、平和主義国家の立場上、外国での戦闘行為には加われない。安倍首相のような軍国主義的な人々は、そういうジレンマを抱えており、だからこそ集団的自衛権の拡大を求め、平和憲法改正をもくろむ事になる。


       だが和平実現のための戦争とは、全体的な視点で見れば

             そのプロローグに過ぎない。

     平和主義を掲げる日本の出番は戦争が終わった後なのである。

      そこでリーダーシップを発揮すれば、一体世界の誰が戦争に

    加わらなかったというだけで日本が無責任だと攻める事ができるだろう。 


 しかし、充分な軍事力があるのだから、日本は軍事的な貢献もすべきではないか。

 この意見は、太平洋戦争を完全に無視したものである。その際、日本軍がアジア中に戦災を拡大させ甚大な被害を与えた事を反省し、以後、日本は平和主義を掲げた。そして外国での戦闘行為を禁じ、かつての占領地だった東南アジア諸国に金銭支援や人道支援を始めたのだ。 

 そして、日本の平和主義は決して絵に描いたような理想論ではない。思想家、柄谷行人は、それが長年に渡る悲惨極まる戦争を経たからこそ生まれた非常に現実的なものであると提言している。彼によれば、それは日本人全体の無意識になったと言えるほど、日本国民のアイデンティティになっているのだ。平和主義は、今後どんなに時がたっても日本が日本である限り、続いてゆくものなのだ。


     テロ根絶のためには戦争以外にもやる事は山のようにある。

        戦争以外の試みの方が遥かに多く困難なものであり

          何よりもよっぽど重要な事なのである。

   世界平和実現において、いまだに世界は軍事行動を主軸にしているが

        平和主義こそが根本原則となるべきものであり

     戦争よりも遥かに長期に渡って成された人道的、文化的支援こそが

            世界平和の基盤を作るのである。


 『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティが主張するよう、富裕層の資産所得に累進課税をかけて富を再配分し、資本主義から貧富の差を解消する事もまた、テロ根絶につながる。戦争難民に新たな生活の場や仕事を与える事もまたテロ根絶につながる。マイノリティや弱者への差別やイジメをなくす啓蒙活動もまたテロ根絶につながる。

 

 日本がそういう人道的な取り組みを続けている限り、世界は決して日本がテロとの戦いに対し無責任だとは言わないハズである。<2015/1/31>■


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