第31話「解けない魔法」

 魔女ヤヒュニアによって女の子となり、克巳から克美になった大津克巳。

 彼女がロールケーキを買った帰りにスペードのAが出てくるものの、

伊賀啓介と共にそれを打ち破る。

 かくしてスペードのトランプ兵は全滅。

 赤の女王の侵攻停止を勝ち取るのだった。

 そして翌日。

「怜央」

 克美に名前を呼ばれた古垣怜央は戸惑っていた。

「どうしたんだ、克美?いや、巳年の巳と書いて克巳、だったんだろ?」

「そういやそんなこともいったわね。だけどほら、プレゼントだよ」

 ロールケーキを見た怜央はこういう。

「これ、わざわざ買ってきたのか?元男の君が」

「僕の気持ちはまだ良く分からないんだ。だから、放課後来てくれるかな?」

「別にいいけど……」

 それを見ていた啓介は一人、こう呟く。

「放課後か。思えばスペードのトランプ兵との戦いも大体放課後だったな」

 トランプ兵はまだあれで全部ではないだろう。

 だが、当面の危機は去ったのだ。

 後は女の子に染まった克美の代わりとなる誰かがやってくれるだろう。

 それは次の時代へのおしつけともいえるかもしれないが。

(もう克美は自分に守られなくてもいい)

(きっと彼女は怜央に恋したのだから、

世界を守るためとはいえ他の男と二人きりになるべきではないのだ)

 少なくとも、啓介はそう考えていた。

 そして文化祭も大盛況のうちに幕を閉じ、

克美は怜央を玄関で待っていた。

「ごめん、待たせちゃったか?」

「別に。トランプ兵の件で待つのもなれた物だよ」

 そういった克美は怜央と共に商店街へと向かう。

「買い物も終わったことだし、あのレストランに行かないか?」

「いいね、それ」

 それを見ていた飯塚琴美は一人こう思う。

(嬉しそうな顔をしちゃってさ)

 琴美の表情はどこか寂しげだった。

(前にもこの表情は見たことがあるわね)

 克美が男で、かつ幼かった頃。どこだったかは忘れたが琴美は克巳の笑顔を見ていた。

 そして琴美はその笑顔を思い出していたのだ。

(本当だったら、克美のように私が笑ってその隣には男のあいつが居たのかもしれないわね)

 しかし彼女はその想定を頭でかき消しつつ、こう思い直す。

(起きてしまったことは変えようがないし、あの二人は幸せなんだもの。私も新しい出会いをすればいいのよ)

 そして彼女は去っていった。

 一方、レストランから出た克美は怜央にこういわれる。

「実はさ、俺はお前のことが好きみたいなんだ」

「僕も、あたしも本当はあなたのことが夏休みの頃から離れなくて……」

「大丈夫だ。お前はもう普通の女の子だ。それ以上でも、以下でもない」

「ありがとう、怜央」

 そうして克美は怜央に抱きつき、怜央はそんな克美にキスをした。

(あたしが男であったことはきっと忘れることはできないかもしれない)

(それでも、怜央と一緒ならあたしもきっと上手くやっていけるわ)

 そう思うと、克美の心には幸福感が満ちていくのだった。

(あたし、新しい夢が出来たわ。この人に美味しい料理を一杯、作ってあげるっていう夢がね)


第一部完

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マジカル☆シンデレラ! 月天下の旅人 @gettenka

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