第24話「約束の日に」

 魔女ヤヒュニアによって女の子となり、克巳から克美になった大津克巳。

 そんな彼女は古垣怜央と賭け麻雀、もとい賭けゲームをしたのだが負けてしまう。

 つまり、彼女は怜央にいわれるままデートすることとなったのだ。

 彼女はゲーセンに居たクラスメイトにそのことを伝えず、そのままバスへと乗り込んだ。

 そしてホテルで夕食のバイキングがあった。

「どうしたの、克巳?浮かない顔して?」

 そう聞いてきたのは飯塚琴美だった。

「いやさ、ゲーセンでも怜央に……」

「そういえば居たわね。でも、それがどうかしたの?」

「別に。口論になっただけで、何もされてはいないよ」

 されて「は」いない。

 つまり怜央とのデートは自分の慢心によって招いた結果だという意味で克美はいった。

「引っかかる言い方だけど、まあいいわ。ところで、トランプ兵はどうなってるのかな?」

 琴美の疑問には伊賀啓介がこう答えた。

「スペードのQは移動されそうになってた自転車でこっちに向かっていると手紙を寄越した」

「放置自転車を使ってここまで?たいした相手ね」

「戦えるのは明後日になりそうらしい」

(どうせなら手ごろなところでデートの邪魔をしてくれればよかったよ……)

 克美はそう思ったが、口には出せなかった。

 身体は誰がどう見ても女性といえるそれになってこそいれど、

男性である彼女が男性とデートすると聞いたら啓介達は卒倒するに違いない。

 そう思いながらも約束を破ろうとしないのは、慢心で負けた自分に対する戒めの意味だった。

 部屋に戻った克美は、約束の日に備えるべくいつもよりさらに早く寝た。

 そして早く寝たため必然的に起きるのも早くなる。

 彼女はトランクの中の衣装を取り出した。

 それは彼女が母親と一緒に二人で用意した物で、つまり彼女の意志も確かにあった。

 だがそれは修学旅行なので周囲から浮かないように、

という意志で用意したに過ぎなかった。

(この組み合わせがいいかな?)

 彼女はピンクのジャケットにグリーンのスカートを合わせた。

(それとも遊園地だからこういうのがいいのかな?)

 そういってベージュのジャケットにイエローのスカートを合わせる。

(やっぱりこっちの方がいいかな……って僕はなんでこんな感情を?)

 克美は我に返ると同時に首をかしげる。

(僕は賭けに負けたからデートするだけなのに……どうして心がドキドキしてるんだろう?)

 啓介と一緒に居るとき感じなかった感情に、克美は末恐ろしい物を感じていた。

(もしかして僕は……)

 彼女はその先の思いを慌ててかき消すのだった。

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