第10話「秘められし恋心」

 魔女ヤヒュニアによって女の子となり、克巳から克美になった大津克巳。

 伊賀啓介に王子として力を与えることでトランプ兵を退けた彼は、

父親と遊んだり母親と料理を作ったりした後で眠りについた。

 そしてその翌日、克美はいつもと違い早起きしていた。

「何作ったの?」

「クラスメイトがインフルエンザを治したから快気祝いだよ」

「大原佑輔君、だっけ?お菓子の持ち込みは禁止されてないっていうし、いいアイディアよ」

「母さんには下心があるような気もするけど、こういう時に出し惜しみは無しだよ」

 克美がそういってる間にオーブンの音が鳴る。

 彼女は佑輔への祝いの品としてクッキーを作っていたのだ。

 そして彼女はクッキーを渡すためにいつものより早めのスピードで学校へと向かい、

その結果少し早く教室に着く。

「佑輔。これ、快気祝いだよ」

 すると、飯塚琴美がこういう。

「いい心がけじゃない。克美はいいお嫁さんになれるわ」

「茶化さないでよ!」

 そこに啓介が割り込んでくる。

「そんなのはこいつの気持ち次第だろ?茶化すような真似をしたら不味いだろ」

「うっ……ちょっと浅はか過ぎたわね。ごめんなさい」

「別にいいよ。けどヤヒュニアが僕を女の子にしたのはこの世界を守るためだっていうし、

変なことにはならないと思うよ」

 すると啓介がこういう。

「身体に心が引っ張られないかは心配だけどな。何しろ、こんなことは前例が無い」

「探せばあるんじゃないの?赤の女王が何者か分からない以上、似たことは昔にもあったかもしれない」

「それにしたってあくまでも『可能性』だろ?」

 そんな三人の影で、琴美がこういう。

「克巳ってこれだから放っておけないのよね。そのせいでキツイこともいっちゃうけど……」

 そんな彼女の呟きは克巳の女性化について話し合う三人には聞こえてなかった。

「ともかく、こんな風にお菓子を渡してただけで惚れられちまう可能性だってあるんだ」

「啓介の言う通りだよ。俺は克巳が男だってこと知ってるから惚れはしないけど」

「確かに、他のクラスの生徒なら知らない可能性が高いね」

 克美がそういうのに、啓介はこう返す。

「それこそ、こんなことが昔あった可能性よりはずっと高い」

「まあ、そんなことがあったら僕も正直どうなるかは分からないよ」

 すると琴美はこういう。

「そういう時、私はあいつを助けるんだろうかな?まあ、『あくまでも可能性』だしね」

 彼女のその呟きもやはり、話に夢中な三人の耳に入ることはなかったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る