ぴょんぴょん
ダメな人って言うのは、何がダメなのかわからないからこそダメなんだと、私は改めて知った。
今回は、そんな話をしようと思う。
私には自称恋多き女を名乗る友人がいる。とはいっても彼氏をとっかえひっかえしている尻軽女、というワケじゃない。むしろ男の人と一緒にいるところを見たことはない。燃えるような恋がしたいと幸せな結婚がしたいってのが口癖で、気に入った男の子やモテるためのテクニックの話をするのが彼女の主だった日常だ。
まぁ、それ自体が悪いワケじゃない。私だって俗に言う恋バナは嫌いじゃないし、可能ならモテたいとも思う。でも何というか、その彼女――仮にA子としておこうか――のスタンスというかちぐはぐな行動理念は、面白いを通り越して若干イラッとするレベルだ。
いや、友人のバカ話としては、結構面白いと思う。もし私が別の友人から、友達の友達のエピソードとして聞いたなら、確実に腹を抱えて爆笑していただろう。
あぁそうか。どうしてこんなところに書き連ねようなんて思ったのか今わかった。ダイレクトアタックで傷付いた心を、せめて笑ってもらうことで癒そうとしてたんだ、私。
というワケで、友人A子の話を是が非でも聞いてもらいたい。
「こころぴょんぴょんしたいと思うんですわ」
困った。第一声からワケがわからない。
「うん、えっと、何の話?」
A子はただでさえ思考が支離滅裂ではあるが、そればかりか脳内キャラと話している内容を突然口走ることがあるので、時折タイムスリップでもしてきたんじゃないかと思うことがある。
「つまりね、犬と猫は古いと思うのよ」
「もう少し、もう少し前の段階から話してくれると嬉しいなぁ」
「男を釣る方法の話」
「よし、そこから順を追って話してみようか」
彼女との会話はホントに疲れる。どうして私はこの子と話しているのだろうかと疑問に思うこともしばしばだ。
「やっぱりさ、素のまま男を釣るのは難しいと思うのよ」
「うーん、そのままで可愛い人もいるとは思うけど」
「バカねー。そのままの君でいてなんて、建前に決まってるじゃない。女だって身勝手なヤツより建前でもレディファーストをしてくれる男の方が好感度高いでしょーよ」
「まぁ、確かに優しい人の方がいいね」
「男だってさぁ、今朝起きたら髭生えてたなんて事実を並べる女よりも、うんこなんてしたことありませんって女の方がいいに決まってるじゃない」
「いや、それはいくら何でも極端なんじゃ……」
「そこで必要なのが動物仮面ですよっ」
またワケのわからないことを言い出した。
「ど、動物……仮面?」
何かのアクションヒーローだろうか。
「犬系とか猫系とかあるでしょ?」
「あぁ、犬系男子とか猫系女子とか聞くね」
従順で素直な犬系とツンデレで見てて面白い猫系ってところか。個人的には圧倒的に犬系が好きだなぁ。猫系と一緒にいると疲れそう。というか、だから疲れるのか私は。
「でもねぇ、私って犬も猫もあまり好きじゃないのよ」
「可愛いのに」
「それに、何ていうかもう古くない? 新鮮味に欠けると思うのよ」
「そうかなぁ」
定番だからこそ受けやすいというのもあるとは思う。実際、従順と気まぐれって相反する感じだし、組合せとしてもわかりやすい。合う合わないはともかく、どっちも可愛いとは思う。
「そこでウサギですよ」
あーなるほど、ようやく彼女が何を話したかったのかは理解できた。つまるところモテるために仮面を被りたいけど、ありきたりの仮面じゃ嫌だと、そういうことらしい。
実にバカバカしいので早く帰りたいです。
しかしどーよ、コイツのこのキラキラした目は。世紀の大発明を思いついたみたいな顔してますよ。というかウサギ系女子ってなんだ。
「……えっと、ウサギっぽいってどういう感じ?」
小さく溜め息を吐いてから、仕方なく話を合わせてみることにする。話すだけ話したら満足するでしょ。
「ウサギと言えばもちろんアレでしょ」
「アレって?」
「構ってくれないと死んじゃうぞ、的な」
「重いよっ」
「そこはホラ、あんまり負担にならないようにさりげないアピールってことで」
「どうやってアピールすんのよ、そんなの」
「えっと……常に首吊り用のロープを持ち歩くとか?」
「ドン引きだよ!」
「でもホラ、気は遣ってもらえそうじゃない?」
「気を遣うっていうか、腫れ物に触る感じだよっ。関わりたくないよ!」
将来、何かの間違いでこの地雷を踏んでしまうかもしれない被害者が不憫でならない。いや待て。もしかして私の足元で爆発してないか?
「そっか、わかった。そういう方向性は諦めるよ」
「そうそう、もっとこうウサギの可愛らしさとかをアピールしていこうよ」
「可愛らしさ……はっ」
何かを思いついた。その顔は何というか、地球が丸いことに初めて気付いたみたいな顔だ。
「うん、何?」
「自分のウンコ食べるとかどうだろ?」
「どうだろじゃねーよ!」
「いやウサギはね、食糞といって――」
「人間はしなくていいのっ。というか、しちゃ駄目なの!」
もう女の子としてどうかじゃなくて、人としてどうかという話になりつつある。
「えー、マニアには受けると思うんだけどなぁ」
「そんなマニア釣らんでいいっ」
イケメンで頭も良くて経済力もあってマニアックとか、どんだけ狙ってる男のハードルを上げる気なのよっ。
「アレも駄目コレも駄目じゃ、ウサギ系女子になれないじゃん!」
「ならなくていいでしょーが。どうしてもって言うなら、その口を閉じていなさい。ウサギは鳴かないんだから、それでいいでしょ」
「鳴かない動物なんて腐るほどいるでしょ。イグアナ系女子だって思われたらどーすんのよっ」
「誰が思うか!」
もうホント、この子の話は聞いているだけでカロリーを消費する。ダイエットになるからいいじゃないかって? とんでもない。ストレスで過食しちゃうからマイナスだっての。
「はぁ、もういいわかった。ウサギ系女子は諦めるよ」
「そうしなさい。ところでさ、一昨日のお昼ご飯立て替えといたよね。千円返してくれると――」
顔を上げると彼女の姿は消えていた。
どこに行ったと思いつつ見回すと、もう豆粒のようだ。
その逃げ足、脱兎の如し。
うん、アンタもう十分にウサギ系女子だよ。
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