イベントとオールドオタク1・同人誌

 皆様、夏はどちらへお出かけで?

 もちろん、コミケットですよね?


 夏コミの原稿も終わったことだし、久しぶりにこちらを書きにきた。

 といってもそこは主婦ニート。金は無いので当然、自家製版で自家製本。プリンターがフル回転で新刊を印刷している横でこれを書き綴っているわけだ。

 トナー式のプリンターから吹き出る排気は、とてつもなく熱い。熱すぎてクーラーの無いこの部屋の温度を上げ、パソコンに動作不良を起こさせる。

 危険だ! PCをぶっ壊すぐらいなら、少部数で印刷屋に頼んだ方がいいのでは無いか!? 

 そうは思っても、私は年に1回、夏コミで250から300ページのノベルズサイズ同人誌を出しているので、印刷会社に依頼していたら金がかかって仕方ない。

 結局自家製版しか手はないのだ。

 子供が寝静まってから、静かに裁断機で紙を切り、でっかいホチキスで紙束をとめる。そのための業務用裁断機は、子供が生まれる前に貯めていた予算で買った。

 ホチキスは数年に一度買い換えている。ホチキス本体が消耗品だと、この分厚い同人誌を売るようになってから初めて知った。

 ホチキスは壊れるんだよ! 中の鉄板が折れるんだ! 私は二台ほどそれで駄目にしている。三台目も最近怪しい。

 さて同人誌だが、製本作業は子供の夏休みの宿題をチェックしながらの家内制手工業だ。たまに暇を持て余した子供達が製本を手伝ってくれもする。

 そんな時、超健全な創作文芸同人誌を作っていてよかったなぁと、しみじみ思う。

 とはいえ、連載している『小説家になろう』では残酷な表現ありでR15指定だが。


 思えば中学時代に作っていた同人誌は、結構きわどかった。

 そしてコピー誌だった。しかもコピー代がかなり高かった。

 今日はそんな話をしようと思う。


 1990年代。

 あの頃はまだアニメも少なく、本当にジャンルが狭かったと思う。

 今と違い規制など無いに等しいこの時代。初めて目にした同人誌は、懐かしの『サムライトルーパー』のバリバリの18禁ものだった。

 当然あの頃も今も、修正はされている。この法律だけは変わりようがない。

 それでも中学一年の私は酷く驚いたし、プロでも無い人間が漫画を売っていると言うことも衝撃だった。しかもとてつもなくエロい本をだ! 中学一年女子が買えるエロ本の中で最上級が同人誌だった時代である。

 おそらく当時中学生の我々が回し読みしたあのレベルの本を、今のコミケットで中学生が買うことは不可能だ。売った方が捕まる可能性がある。

 数年前になるが、うちのサークルに雑貨を買いに来てくれた女の子達がいた。私はこう見えてあみぐるみなんかも作っているのである。

 その女の子達の言葉が衝撃だった。

『雑貨売っててよかった。私たち16歳だから、買える本がほとんど無いんです』

 そういう時代か! そういう時代なんだな!? 昔はエロい本普通に買えたのに今は一切買えないんだな! 

 そうだよなぁ……。規制ってそういうことだよなぁ……。しみじみ。

 エロい同人誌回し読みしてた仲間達は、今は普通の主婦として暮らしてたり、相変わらず同人屋やってたりしているが、特にものすごい影響を受けること無く、まともな大人に育ったがなぁ。

 少なくとも旦那のすねをかじっているオタクニート妻になっている私より、みんな立派だぞ。

 18禁よか、残酷表現の規制の方がいいんじゃないかなぁと思ったりして。 

 そういえば最近、子供と映画を見ていて、エロいシーンが映し出されると家族みんなが気まずい……なんて瞬間無くなった。しかもエロどころかアニメのほとんどは深夜だ。

 う~ん。このまま行くと、アニメの世界も同人誌もどうなってしまうのだろう。ちょっと心配。

 おっと、話がそれてしまった。話をエロから同人誌のことに戻そう。

 

 私が実際に同人誌を書き始めたのは、1991年だ。

 その頃、とにかく人気があったのはサンライズ系アニメだった。

 サムライトルーパー、魔神英雄伝ワタル、魔道王グランゾート、機動警察パトレイバー、炎の勇者ファイバード、等々、数え上げればきりがない。ガンダムもそうだが、サンライズの天下だったと言っていいだろう。

 もちろんテレ東でアニメ枠がちゃんと機能しだしたのもこの頃で、天空戦記シュラトから始まる、あかほりさとるブームが巻き起こっていた時期でもある。

 旦那に聞くと、当時のテレ東系アニメは一切地方では見られなかったらしい。アニメファンだったはずなのに旦那はシュラトを知らない。

 新人・子安武人の声を聞けただけでも、都民でよかった~。

 

 それもまたおいておいて。

 その中でも私と友人達がはまったのは、当然サムライトルーパーと、ワタル・グラン、サイバー・フォーミュラ―だ。中学生だった私たちは、一生懸命にアニメをみて、いろんなカップリングからお気に入りを見つけ出し、互いに作品を放課後回しあった。

 ツイッターも、Lineも、ネットも無い時代。手紙と漫画を書いた切れ端と、

ノートに書いた小説が、互いに交換し得る全部だったのだ。

 今の若者から想像が付くだろうか。

 もちろん中学生が知り得るエロ知識なんぞ同人誌の中から得た物だからたかがしれているが、当時はそれでも楽しかった。

 そうなると誰かが言い出すのだ。

『同人誌を作って、イベントで売ろう!』と。

 中学生だからノリはいい。

 すぐさまじゃあ、サンライズ本を作ろうということになる。

 で、原稿は持ち寄り。

 カップリングごとに本を作る? え、必要ないっしょ。好きなアニメなんだから、どんなカップリング載っててもいいっしょ?

 今思うと、あの時代はC翼、トルーパー、星矢などのジャンルで、カップリングごとのジャンルわけが結構厳しくなり始めていたのだが、みんなで同人誌を作ろうという中学生にはそんなことお構いなしである。

 だって情報なんて何も無いからね!

 今の子は大変だなぁと思う。色々な物を好きになっても結構締め付け厳しそうで。わいわい全く違うジャンルを持ち合っても楽しかった時代は、気が楽だった。

 それで友達と四人ほどで同人誌が出来たのだが……問題は印刷だった。

 そう。当時はとにかくワープロを持っている人手さえ希少で、パソコンなどといったものは、大学の研究室にあるんじゃない? みたいに高価な物だったのだ。つまりプリンターがある家などあるわけがない。

 だから必然的に『コピー機を探そう!』ということになった。

 今のようにあちらこちらにコンビニがある時代では無い。

 しかもコンビニのコピー機で印刷したら、とんでもない値段になってしまう。

 イベントに出店するだけで結構お金がかかるのに、どうすんの? 

 となった中学生がやることといったら『足で稼ぐ!』ことぐらいだった。

 ネットが無いから情報がない。情報が無いから電話帳で探すしか無い。

 印刷機が置いてある店があると聞けば、実際に覗き込んでみて『コピー、あります』の文字を探す。あったら勇気を持って店に入り、自分で印刷できるか、値段はいかほどかを聞く。

 今と違って全てが人海戦術だ。

 そんな作業の果て、私たちがみつけたのは自転車で四十分という、隣の市の印刷屋だった。

 コピー一枚10円。高速コピー一枚10円。リソグラフ一枚5円だ。

 ありがとう! リソグラフ!!!

 リソグラフをご存じだろうか。

 製版をしてから印刷をするという昔ながらの印刷機で、RICOから現在も発売している。現在は一般的に、小学校や公民館に置かれている。当時はこのリソグラフを使っていいところなど他に無く、ようやく探し当てたまさに素晴らしき機械であった。

 今思えば、その印刷屋さんは近くにいくつかある私立大学・高校、国立大学などの学生が利用していた印刷屋だったのだろう。自家製版が不可能な時代だったからだ。思い起こせば、その印刷屋には青焼きの機械もあった。建築関係の学部が近くにあったのかもしれない。


 ともあれ我々中学生女子がその店で印刷機を使うことになったのだが、今考えるとすごい光景だ。

 おじいさんが一人で切り盛りする印刷屋に女子中学生が入り浸り、男同士のあれこれを書いた同人誌を印刷しているのである。

 もちろん見せてと言われて全部断り、何を作っているのかと聞かれて、部活の会報だと答えていたわけだが。


 こうして努力の結果できあがった同人誌をもって、中学生女子たちは、イベントへ赴いたのである。


 印刷機が怪しげな音を立て始めたので、そのお話はまた次回に!

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