第7話 まわらないお金はお金じゃない ~銀行の役割と貨幣の歴史~(後編)

 流通しない貨幣は通貨ではないと申し上げました。


 無いものの価値は、やがて失われるからです。

 その場合何が起きるかと言いますと……。


「……代わりのお金?」


 そうです。

 正確には、新たな通貨の創造、です。

 勿論採掘量の問題もありますから、同じ貴金属による通貨製造は難しくなるでしょう。


 そこで登場するのが、お馴染み「紙幣」です。

 その多くは、前述した預かり証……「為替」を起源としています(一説です)

 そう、それは銀行が中心となって発行するものです。

 ここでも銀行が大きな役割を果たしているんですね。


 銀行は、その多くが国家を後ろ盾とし、「信用を創造」しています。


 お金は預かるよ!

 預かったお金はきちんと返すよ!

 必要ならお金を貸すよ!


 銀行の歴史は信用の歴史でもあります。

 ですので、存在しない通貨が一定となった場合、むしろ銀行主導で新たな通貨を創造してしまうかもしれませんね。



 最も、異世界によっては紙の製造技術の問題などもあり、紙幣が難しい場合もあるでしょう。羊皮紙がロマン、それ以外は認めない、なんて意見もあるかと思います。


 とにかく、その場合に起きるのは「貨幣の交代」であると考えてください。


 そこでも銀行が果たす役割は大きいです。

 銀行は古銭を回収し、そして新たな通貨を流します。

 そうして、古いお金は価値を失っていくのです。

 大金の交換があれば、「一度には交換できないので預かり証を発行する」とやるのかもしれません。


 ですが、もしそれでも。

 回収もできず、新たな通貨を発行するしかない状況だとしたら?


 金銀が減ったにも関わらず、金貨銀貨を鋳造するというのなら。

 金銀の含有分が減った所謂「粗悪品」が生まれるでしょう。

 その場合インフレが起きてしまいますね。


 紙幣が生まれたにも関わらず、それを保証する国家(政権)が滅亡してしまったら。

 紙幣はごみくずと化すでしょう。恐慌が起きますね。


 それがつまり、「貨幣史」というものなのですね。


 あなたの異世界において、貨幣に歴史はあるんでしょうか。

 或いはそんな物語を考えるのも、面白いのかもしれません。





 また、以前に頂戴したご意見もあります。



「時代が経過しているのに、貨幣価値が変わってないのはおかしいのではないか?」

(意訳です)



 まさしくその通り。

 時間移動を扱う場合に発生する問題ですね。

 その場合は古銭の扱いをどうするべきか、ということになるのですが。


 通常、古銭は美術品的な価値を持つものを除き、回収され、リサイクルに回されます。(汚損してしまった通貨なども同様です)


 では古銭に価値はなくなるのでしょうか。


 単純に考えれば。

 それが貴金属製の硬貨であるのならば、その時代の貴金属に合わせた価値になるでしょう。それ自体に価値がない場合、或いは紙幣である場合は、美術品や歴史的な資料としての価値しかないですし、それすらない場合は、ごみと化してしまうかもしれません。

 魔石などの物品であるなら、やはり価値は変わっているでしょうが、通用はするのではないでしょうか。



 ではどうするべきか。


 単純な解決手段としては、古銭を大量に持っているという状況が問題であれば、それを銀行で交換する(比率を設定すると面白いかもしれません)、古銭を扱う両替商や美術商を存在させる、とかではないでしょうか。


 或いは流通しない貨幣が大量に存在する場合。

 その場合はいっそのこと放出させるという展開にするのが最も簡単で良いのではないでしょうか。

 主人公が持っているなら使わせる。

 ドラゴンなどが所持しているなら討伐に向かう、など。


 そう言った描写を付け加える、或いは新たに描くなどすると、より面白くなるかもしれません。



 ともあれ古代の通貨。

 良い響きです。ロマンがあふれます。

 そういったものをテーマにしたトレジャーハンティングものなど、私は大好物です。それに限らず、古銭の扱いというのはなかなか面白いものであります。



 時代の変遷を取り扱う場合は、それらの要素を踏まえ問題と解決手段を用意してあげますと、作品によりリアリティが出るかもしれませんね。





 さて、ここまで語りましたこと。

 お役に立ちましたでしょうか。





 ……え?

 なんだか面倒くさそう?

 俺は大金を持つのが好きなんだ。だから主人公には大金を持たせるんだ、そこに理由はいらないんだ、と?



 なるほど。

 それはそれでアリ、です。



「え? ……いいの?」



 私は「過剰な設定は不要であり」「過剰とは使用しないもののことである」と考えています。作品世界内においてそのような設定は使用しない、と考えるのであれば、それはそれで良いのではないでしょうか。



「けど、突っ込まれたら困るんだよね」



 ……なるほど。

 大概我儘ですね。

 ですがその気持ちもわかります。



「主人公がお金を持ち続けているなんておかしい」



 そう突っ込まれた場合、どうするべきか。

 結論を申し上げましょう。




 突っ込まれた段階で考えれば良いんです。




 経済がテーマでないのであれば、その問題に緊急性はないでしょう。

 はっきり言ってしまえば、どうとでも修正できます。

 ただ、リアリティを持たせたい、とか。

 良い意見として参考にしつつ、作品を少し修正したいんだ、とかであれば。


 その作業には、前述してきました案も参考になるかもしれません。






 それではまとめましょう。

 炎上を防止する貨幣価値設定。

 まわらないお金にはどう対処すべきか。


1.可能であれば銀行の存在を設定する。

2.死蔵しているのであれば放出させてしまう。

3.その上で、突っ込まれてから考えればよい。





 ……投げっぱなしな答えに見えるのが難点ですかね。

 それでは、以上を持ちまして本項を終了と……?





 ……え?

 経済をテーマにしたいから、その場合の対処方法を教えてくれ?


 なるほどなるほど。

 それは大変結構なことです。

 もし本作が原因でそう思われたのであれば、大変喜ばしいです。


 では一つだけ。

 経済とは、人の動きの結果である、とご認識ください。

 その上で。


 突っ込まれた点を出発点としましょう。

 或いは自分で突っ込んでみてもいいでしょう。


 例えば、先ほどの例「主人公がお金を持ち続けているなんておかしい」などの場合。


 単純な手段として、先ほど申し上げました通り主人公にお金を使うように仕向ける、とか。或いは通貨不足による政変と、貨幣の交代に伴う陰謀劇を発生させる、とか。主人公の金銭を狙ったイベントを発生させるなどなど。


 そういった物語を組んでみるのは……どうでしょう。


 わくわく、しませんか?




 何度も申し上げますが。

 重要なのは、作品の主題を見失わないこと、です。


 作品にリアリティがない?

 矛盾だらけで突っ込まれてる?


 結構。

 直したいなら、直しましょう。

 ミスは認め、謝罪したうえで。

 必要であれば設定を見直しましょう。


 そして、もしそれが経済関係の設定であるのであれば……。


 本作が、お役に立てば幸いです。

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