第5話 貨幣の流通量とは ~お金はどれだけあるモノなの?~

 さて。

 次に考察いたしますのは、それは「貨幣の流通量について」です。

 さっきと同じじゃないの? と考えられた方、すいません。

 似ているんですが、ちょっとだけ違うんです。

 前項では流通手段。

 本項では、流通している量について語らせていただきたいと思います。




 日本円換算もやめた。

 異世界の物価もある程度構築した。

 基本的には物価の上昇下落だけを描く方針で作品作りをしている。

 仮想通貨も用意した。


 その上で、指摘されるとしたら、なんでしょうか。




 こちらは以前頂いたご意見ですが、


「例えば伝説的な物品を、一冒険者が国家に売りつけたとします。それは物凄い金額だったとします。普通に考えてありえなくないですか? それだけの通貨を国家が所持してるんでしょうか」(意訳です)


 確かにそうですね。


 前話において、通貨は一組織によって厳密に管理されている、と述べました。

 それは何故かと申し上げれば、「通貨の価値を一定に保つため」ですね。


 通貨の流通量が変化すれば、それだけで物価が乱高下してしまいます。

 最も有名なのはジンバブエドルでしょうか。

 現在では廃止されましたが、一時期、そのインフレ率は6.5×10(108乗)まで上がったそうです。

 市場に流通していたジンバブエドルの量は、一説によると90京以上だとか。


 京。

 京です。

 京とか、そんな単位私は見たことがありません(キハ90系でしたら存じてます)


 では異世界において、お金の流通は?

 どこかが、誰かが管理しているんでしょうか。


 ……そうかもしれませんね。

(そういう作品も存在します。面白い作品が多いです)

 ですが、組織が管理する、それ以上に強力な制限が存在します。


 貨幣とは、多くは鉱物で出来ています。

(モンスターを倒して得られる魔石などである場合もあります)

 つまり、作ろうとしても限界が存在している、ということなんです。


 それはつまり鉱物の採掘量ですね。

(一定期間で採取できる量と、使用してなくなってしまう量のバランスとも言えます)

 貴重な鉱物だから、貨幣としての価値が成り立つんですね。



 さて、それでは前述の、高額物品問題。

 それは何故起きてしまったのでしょうか。

 恐らく、伝説的な品物であることを端的に示すために、天文学的な価値を金額として付加したのが理由だと思います。


 ここでちょっと話題を転換しましょう。


 翻って見て。

 日本における現金流通量と、総預金額、実は釣り合っていません。

 日銀が発行するマネーストック統計でもそれは見えますね。

(もしご覧になられた方がいるのであれば、M1が現金及び要求払預金、M2が現金及び総預金金額、と見てください。単純ですが)


 そうです。

 実は預金金額の方が多いんです。

 これは信用創造と言われる現象でして、預金者が一定以上の金額を引き出さないことを前提に市場は運営してるんですね。

(もし全金額が引き出されようとした場合、それは取り付け騒ぎになり、預金の引き出し制限がかかるでしょう)


 それを踏まえまして。


「例えば伝説的な物品を、一冒険者が国家に売りつけたとします。それは物凄い金額だったとします。普通に考えてありえなくないですか? それだけの通貨を国家が所持してるんでしょうか」


 はい。

 仮にそれが天文学的な数値としましょう。

 そうですね。

 国家はそれだけの金額を準備できないと思います。

 少なくとも現物では。


 仮想通貨であれば支払えるのでしょうが、しかし今度はハイパーインフレが発生し国家運営が破たんするかもしれませんね。


 ではどうしましょう。

 どうすればいいんでしょうか。

 一番良いのは物々交換などで済ましてしまう、ということなのですが、作品上それも難しいという場合もあるでしょう。



 単純な手段があります。




 ぼかすんです。




「一生使いきれないほどの大金を手に入れた」

「見たこともないほどの金銀財宝が与えられた」

「一定の地位が保証された」


 などなど。

 そして、それ以降、主人公の金銭授受や支払いに関する描写をぼかしてしまいます。


 精々「宴会の払いは全部主人公が支払った。この程度ならもう痛くも痒くもない」くらいの描写でしょうか。


 或いは地位であれば、例えば中世ファンタジーなら爵位などが考えられますが、しかし貴族制度は複雑怪奇極まりないので、ここで語るのは避けます。


 諸刃の刃的な側面はありますが、しかし天文学的な価値があった。

 そして巨大な資産を手に入れたと描写するのであれば、どうでしょうか。

 十分役を果たしているとは思いませんか?

 よろしければ一案としてご検討ください。



 それでも、もし。

「俺は具体的に金額を描きたいんだ」

 と仰るのであれば。


 それはそれで良いんじゃないでしょうか。

 とりあえず書いてみて、あとで直しながら進めるというのも良いでしょう。

 ご指摘くださった読者には、

「すいません勢いで書きました。後で直すかもしれません」

 と断っておくと良いのではないでしょうか。



 重要なのは、作品内で矛盾しないこと。

 そして、表現したいことを表現すること。


 表現する手段は一つではありません。

 勿論場当たり的な手段は避けるべきかとは思いますが、しかし勢いが大切なのも事実です。そういう制限がある中からこそ、面白いアイデアも生まれたりしますので。


 批判を受けない、そういう設定にするには大変な設計が必要にはなってしまいます。ですが、或いはそれを機会に、経済をテーマにしてしまうのもまた、面白いかもしれませんね。




 それではまとめましょう。


 炎上しない貨幣価値設定。

 その、流通での設定はどうするべきか。


1、貨幣に対し適切な流通手段を用意する。

2、扱いきれない大金については、その扱いをぼかすのも手。



 如何でしたでしょうか。

 作品作りの参考になれば幸いです。


 それではみなさま、良い創作ライフを!

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