第2話 ドラゴンクエストの物価は合理的? ~経済描写はどのようにすればいいか~
厳密に申し上げるのであれば、ドラゴンクエストにおける共通貨幣であるゴールドを、日本円で換算するのは非常に難しいと言わざるを得ません。
例えば日本で一泊5,000円のビジネスホテルが、ドラゴンクエスト最初の宿屋では6ゴールド。では1ゴールド834円(端数切り上げ)と考えられるかと言うと、どうでしょうか。
少し考えるだけでも、「本当か?」と首をかしげることになるのではないでしょうか。
それはそうです。
ベースとなった時代が違います。人口も世界情勢も物流も価値観も何もかも違うでしょう。更に言うなら、国によって地域によって、或いは宗教によっても貨幣の価値は変わってきてしまいます。
単純に宿として考えただけでも、利用客の多寡、競合の存在、サービスの内容等で全く変わる事に思い至るのではないでしょうか。
更には「ビジネスホテル5,000円? それって地方都市の話だよね?」「いや今の相場は1万円だけど」などなど。現実の相場認識問題にまで発展してしまう可能性さえあるでしょう。
ではここで、思い切って日本円に換算するのをやめてしまいましょう。
その上で、色々考察してみましょう。
経済を語るうえで欠かせないのが基準価格です。
中世日本ではそれは米でした。
最近では金であることが多いですね。
ドラゴンクエストにおける基準価格は、ではなんでしょうか。
ここでは宿屋としましょう。
そうです。
泊まるだけで体力も魔力も全回復謎施設「宿屋」です。
やくそうなどもありますが、あれは全地域で価格が一定であるうえに、供給量が無限です。本テーマを語るうえでは適しているとは言えません。
ですが、ドラゴンクエストでの宿屋と言えば、地域によって値段が変わる事で有名です。高さに理不尽な思いを抱いた方も多いのではないでしょうか。
そしてそれは、何を基準に変動しているんでしょう。
単純な話です。
周辺で稼げる金額に合わせて変動しているんですね。
武器などもそうでしょう。
このドラゴンクエスト世界では、強い魔物がいる地域ほどお金を稼げるようにデザインされています。
つまり、地域格差があるのですね。
それはある意味、とても合理的なことなんです。
考えてみれば当然ですね。
ゲームですから、終盤になればなるほど稼げるようになる、けれども使う額も上がっていくようにデザインしなければなりませんから。
(そうでないと強さが実感できない)
それでは早速ですが、それを参考に世界をデザインしてみましょう。
世界は魔王が大半を支配しており、その支配地域に近ければ近いほど物価が高い世界です。
面倒くさいので、貨幣も統一。
もしくは、一国内で貨幣は最も強い自国通貨が使われている、でもいいです。
前話の金貨1=銀貨100=銅貨10,000も流用しましょう。
度量衡もある程度発達していることにします。
貨幣自体の価値は一定で、しかし地域によって格差がある、そんな世界です。
……イメージできましたでしょうか。
それを踏まえて、まず前述した傭兵と旅人のやりとりをもう一度見てみましょう。
「……隣町までの護衛を頼みたい。いくらだ?」
「隣町? じゃあ10日ほどだな。金貨1枚で請け負おう」
「高すぎる! いくらアンタが凄腕とはいえ、精々銀貨50枚だろう!?」
「……ならそれでいい。ただ食事はそっちで用意してくれ」
「うーん。しょうがない」
(日本円換算はしないでくださいね)
……如何でしょうか。
同じやりとりですが、前述の条件を踏まえるとまた違った見方になるのではないでしょうか。
このやり取りから見えるのは、
1、傭兵の相場が、その地域では高くても銀貨50枚ということを旅人は認識している。
2、傭兵自身は金貨1枚が相場だと認識しているが、しかし値引きに応じる理由があること。
3、上記の2点から、何か問題があったのであろうこと。
の3点でしょう。
相場の認識の違いから、少なくとも傭兵自身には金貨1枚と言える理由があると思って(安全上の問題?)おり、地場の情勢に疎い旅人は、それを知らないがゆえに文句をつけている。
というような感じでしょうか。
日本円に換算しないことで、逆にスムーズに話を読み込めます。
では、次のやり取りをみてみましょう。
場面は変わり、辿り着いた街で傭兵の宿を都合することになった旅人と宿屋の主人の会話です。
「1泊なら銀貨5枚、2人部屋なら銀貨8枚で良い」
「……随分高いな。何かあったのかい?」
「あぁ、最近きなくさくてな。行商人が減ってんだ」
「そうだったのか……」
上記の会話だけでも、
1、宿の値段(物価)が上がっている
2、街の物流は行商人頼み
3、最近安全上の問題があった
という事が読み取れますね。
日本円で換算することと比較して、どうでしょうか?
こちらのほうがより、経済を、そして世界をリアルに、感じませんか?
なぜなら金額の大小ではなく、物価の上昇、下落を描写することにより、世情を表しているからなのです。
そして、こういった要素を絡めながら、ここから次の展開につなげることも出来ますし、或いはスルーしてしまう、という展開にすることも出来ます。
小道具としての役割は十分に果たしているとはいえるのではないでしょうか。
円換算は一目見てわかりやすい、というメリットがありますが、しかしそれにともなって物価に対する常識を、日本の物価と比較されてしまいがちであるというデメリットが存在してしまうという点があります。
どちらを選ぶかは、作風によってご判断されるのが良いですね。
続きましては、通貨単位について、です。
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