第一話 剣術の鍛錬

「お前また来たのかよ。直ぐに根を上げるかと思ってたが、案外続いてんだな」


 呆れと感心が混ざったアンビバレンスな感情で、不能兵士はこれ見よがしに溜息を吐いた。

 ここ一週間以上、キョウヤはルサント城へ通っていた。そうなると必然的に不能兵士と顔を見合わせる回数は増え、顔を覚えられて、普通に会話するまでに発展していった。

 最初の印象こそ、融通の利かない頭の固い不能兵士だと思っていた。だが会話してみると意外と良い奴で、口は悪いがキョウヤのとある鍛錬に応援してくれている。

 彼の名前はロジェ。ただ不能兵士が定着したせいで、今でもキョウヤの中ではロジェを不能兵士と呼んでいる。そのせいでロジェの名前を忘れることはしばしば。


「可愛い女の子を守るためなら俺は頑張るんだよ。不能兵士こそ、門番で留まらず、努力して出世すればいいさ!」


 少しばかり鬱陶しいくらいに饒舌となったキョウヤは、上から目線で不能兵士を激励する。そんなキョウヤの言動に、不能兵士は迷惑そうな表情で顰めっ面になる。


「あ~五月蠅いなお前は。てか不能兵士って言うんじゃねぇよ! はぁ~、最初は全然喋らねぇ奴かと思ったら、箱開けたら面倒くせ~奴だしな。あ~とっとと言って扱かれろ」


 不能兵士はシッシと虫を追い払うように手を振ってくる。

 何か一言口にしようかと思ったキョウヤだが、やめて門を通ってルサント城へ足を踏み入れる。中は王立図書館と比較できないくらい広々としていた。一度だけ使用人に連れられ、城の中を歩き回った事はあった。長い廊下に、最奥まで部屋が幾つも続いて、そんな代わり映えしない光景をどの場所でも目にした。方向感覚が狂って頭がおかしくなる城の内装はまるで巨大迷路だ。きっとキョウヤ一人では迷子になれる自信があった。

 その時、使用人から離れないよう注意されると共に、もし女王の寝室に間違って入ると死罪になる恐れがあると脅された。

 兎にも角にも、未だに道を覚えていないキョウヤが迷子にならないために、いつもの時間に、いつもの場所で、待ち合わせをしていた。


「あ! セシルさん!」


「こんにちはキョウヤ様、時間通りですね。ではご案内致します」


 事務的な挨拶を平々に、白を基調としたフリル付きのメイド服を着た彼女が、綺麗な角度で会釈する。

 彼女の名はセシル。

 以前ルードルフを訪ねに行った際、給仕してくれたメイドの美少女である。

 セシルはルサント城に勤仕し、しかも女王の身の回りのお世話もしている衝撃の事実。

 そう考えるとセシルは使用人の中でも比較的優秀な立場ある人。メイド長という線を考えていたが、どうやらそれは間違いで正解はメイド副長らしい。

 キョウヤと年齢は同じで既にメイド副長という階級を持ち、セシルの仕事っぷりは尊敬の念を抱かざるを得ない。

 そんな圧倒的格差を見せつけられたキョウヤは、自分がちっぽけで情けない人間だと自覚させられる。そんな事を考えていると。


「俺なんて全然役に立たない虫以下の存在だよな……。セシルとシャルに比べると…………はぁ~、俺って何で異世界転生なんかしたのかな。こんな何の取り柄もないコミュ障で、ゴミ虫の俺なんか……。だから俺の事は様付けで呼ばれるほど偉くないし、というかセシルさんの方が偉いし、敬語じゃなくっても、むしろ俺が敬語を使うべき立場ですし……すみません」


 そんな対して年齢の変わらない人達と接してきて、格差を突き付けられ続けた結果、現在キョウヤはネガティブ思考に陥って面倒臭い性格になっていた。

 それを毎回聞かされるセシルではあるが、嫌な顔を一つもせず、ただキョウヤの自己否定を聞かされる。けれど、キョウヤに対するセシルの反応は。


「私は誰と接しても敬語ですので、これは私の普通ですので構わないで下さい。それと様付けに関しても……いえ、これはキョウヤ様の要望であれば変えさせて頂きます」


 キョウヤのネガティブ発言の事など気にせず、至って普通の受け答えをする。だからそんな普通のセシルの反応にキョウヤは直ぐに我に返るのである。同時に安心感も覚える。


「……なんだろう。セシルの普通の対応に何か……妙に落ち着くというか? そもそも最初会ったときもコミュ障が発症しなかったしな。う~ん…………それにメイド服に見た目も美少女で萌える要素は十二分にあるはずなんだが、印象が薄いのはなぜだ? 普通に可愛いんだけど……普通だからかな?」


 キョウヤは無遠慮にセシルのメイド服姿をジロジロと眺めて、うんうん唸って失礼な独り言を呟き始めた。なおキョウヤの独り言は全てセシルに聞かれている。


「キョウヤ様の言葉には少々不可解な意味が含まれていますが、失礼な事を言われていることは理解できます。えーと、私は怒った方がよろしいのでしょうか?」


「ご、ごごごめん!? お、俺また何か失礼な事を言った!?」


「そうですよー、私の事を色々と失礼な発言をなさって、私怒ってますよー」


 棒読みが酷くってセシルの怒った感情が表に出ていない。常に無表情。

 キャラが立っているのか、立っていないのか、よく分からないセシルである。

 そんな感情の起伏が少ないセシルであるが、別に喜怒哀楽が乏しい訳ではない。時々だけど喜と楽はほんの僅かだけど感情の変化はある。他は付き合いが短いため見たことは無い。


「全然怒っているように見えないよ……」


 再び視線をセシルの全身を眺めるがやはり萌えない。

 ここ一週間以上、セシルが萌えない理由について思索していた事もある。しかし、未だに萌えない理由についての原因究明は果たしていない。

 そこで一つ考えに及んだのが、セシルが女装した男説。とまあそれは完全に否定される訳で。なぜなら胸の膨らみは本物で、本人から女性である事は言質を取っているからだ。ますます謎が深まるばかり。


「私のことあれこれ詮索なされている様子ですが……私はただの使用人で、どこにでもいる普通の女の子です」


「普通の女の子……。何か考えるのが馬鹿らしくなってきたな。とにかく! 俺の事は様付けじゃなくって、えっと……普通にキョウヤでいいよ」


「はぁ……。このやり取りも何回目か分かりませんが、それほどキョウヤ様が嫌であれば改めたいと思います。……ではキョウちゃんでよろしいでしょうか?」


「それディーたんに呼ばれてる呼称じゃないか!? まあいいんだけどさ」


「はぁ……先例があるのでしたら別の呼称に致しましょう。それより、ウリンスアム様の事を“ディーたん”などと親しげにお呼びするのですね。もしかしてキョウヤさんはウリンスアム様の許嫁なんでしょうか?」


「え!? い、いや、別にそんな関係じゃないよ! そ、それに俺には別のす、――」


「それではキョウヤさんとお呼び致します」


「え? ああ……うん。それなら今のところ誰にも呼ばれてないけど……」


 軽く受け流され、妙にズレた会話にキョウヤは戸惑った。まあこれはいつもの事だから、もうキョウヤは慣れつつあった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 セシルとの会話を終えた後、セシルの後を付いていき案内された場所は練兵場である。

 ここ一週間はルードルフに剣術を師事してもらって、この練兵場でキョウヤは秘密の鍛錬を受けていた。けれど鍛錬の成果は未だに成就されておらず、鋭意成長中というのが現状。

 練兵場の端にはルードルフがラフな格好で、体を解している姿が窺えた。

 キョウヤ達が近づいて来たのを一瞥したルードルフが、一旦体を解すのを中断し、軽く手を挙げる。


「キョウヤとセシルは随分仲が良いみたいだね」


「俺も結構びっくりしてるが……まあ将来を誓い合った仲ではあるからな!」


「それではシャルリーヌ様にご報告致しましょう」


「すみません! 冗談です! それだけは許して下さい!」


 土下座する勢いでセシルに謝罪を述べるキョウヤ。ここの所キョウヤに対するシャルリーヌの態度は冷たく、常に不機嫌な状態が続いている。だから、これ以上の刺激を与えないで欲しいと懇願するキョウヤ。


「はぁ~なんでシャルはいつも不機嫌なんだろうか……? 俺としてはもっと話したいんだけどな……。いやまあ心当たりは多分…………エルヴィラだと思うけど」


 シャルリーヌが不機嫌な理由について、エルヴィラの他にもいくつか原因はある。

 鍛錬で喋る時間が皆無であること、他の女性とも親しく喋ってること、などが挙げられるが、鈍感なキョウヤはそれらに気が付いていない。


「キョウヤも……色々と苦労しているようだね」


 苦笑を浮かべるルードルフはコメントを控えて、そう答えた。

 それからキョウヤも動ける格好になると、屈伸や伸脚などで体を解してから、木剣を手にして軽く素振りをした。

 もう一週間は木剣を手にしているため、柄を掴む感触が馴染んでいた。

 セシルはというと離れた場所でキョウヤ達の様子を傍観していた。


「この一週間、剣術の鍛錬を続けてキョウヤは少しづつ成長の一途を辿っている。キョウヤは中々の努力家だと評価するよ」


「まあ俺は一度決めたことはやり遂げようとしてるからな。それでも上達するには時間は掛かるけど……」


「しかし一つのことを極めるのは難しく、途中で壁に当たり挫折することもあり得る。誰でもできる所行じゃない。特に剣術については限界が皆無で、常に鍛錬に励む必要がある。私でさえ、まだまだ未熟な部分は多々ある」


「ルードルフより強い敵とか……想像したくないな」


「ふっ、世界は広く、様々な強敵が存在する。さてキョウヤはまず目の前の課題を達成させるのが先だろう。今のキョウヤの剣術は多くの努力を要するが……その闘志に燃える瞳を見る限り、鍛錬を続けていく才能はあるから心配は無用か。なぜそこまで頑張れることが出来る? 何か目標があるのか?」


「俺の目標……。まあ、あるよ」


 キョウヤの脳裏にシャルリーヌの姿が映し出される。

 シャルリーヌとリリが戦闘しているのを、ただキョウヤは傍観しかできず、シャルリーヌがピンチの時も何もできなかったことに悔しい思いを駆られた。

 だから、こうして頑張るのは全てシャルリーヌのためだった。


「……目標があるのはいいことだよ。それも私より立派な目標だ」


「そういえばルードルフの目標って?」


「……私は――……。つまらない目標だよ…………。それより早速鍛錬を行うか」

 

 話をはぐらかされて、木剣を構え始めるルードルフ。その雰囲気から”これ以上何も聞くな”と物語っていて、キョウヤはこれ以上ルードルフの目標を聞き出すことができなかった。


「…………」


 キョウヤも木剣を構え始める。


「今回の課題も同じく、私から一本取ることだ」


「それ物凄く難易度高いよ……というか無理ゲーでしょ?」


 どこから攻めるか考えるキョウヤ。

 しかしルードルフの隙のなさに、雰囲気で直感したキョウヤは考えるのが馬鹿らしくなって苦笑した。

 どこから踏み込んで攻撃を仕掛けても、いとも容易くカウンターで返されて、逆に攻撃を食らうビジョンしか浮かんでこなかった。


 ――今までの経験上、どこから向かってもルードルフに太刀打ちできなかった。俺にはまだまだ練習不足でフェイトとか高度な技術は無理だ


 取りあえず考えがまとまって、まずは真っ正面から挑むキョウヤ。

 間合いを詰めて土を踏みしめると、気合い入れた声を響かせ木剣を振り下ろす。そんな見え透いた剣撃に身を引いたルードルフは、切っ先をキョウヤが持つ木剣を絡める。力を付加させてルードルフはキョウヤの木剣を弾き飛ばす。


「――っ!?」


 手から木剣が離れそうになった所を、何とか柄をしっかり握って耐えると直ぐに後退する。これは何度も木剣を弾き飛ばされてキョウヤを困らせる技だ。


「しっかり持っているようだね」


 ルードルフの声が耳に届き、キョウヤは苦笑を漏らすと続いて動き出して肉薄する。

 木剣同士の鈍い音が響き、キョウヤの視線は常にルードルフの隙を窺っていた。一方的に木剣を振り続け、それをルードルフが受け流し――一瞬だけ隙が生まれる。直感が働いてキョウヤはそこを突いた。


「もらった!」


「……」


 キョウヤの木剣がルードルフに届く瞬間、綺麗な円を描きキョウヤの視界がぐるりと回転する。いつの間にか木剣も手から離れている。


「うげっ!?」


 地面に叩きつけられた衝撃で呻き声を漏らす。いつの間にか地面に倒されて疑問符を浮かべる。すると側でカランという乾いた音がキョウヤの近くに響く。

 上体を起こして、衝撃を受けた腕をさする。特に大事には至っていないのは僥倖。いや、これはルードルフが怪我を負わないよう配慮されている。


「いつつっ――!?」


「隙が生まれたからって普通は声を出さない。それでは相手に宣言しているようなものだ。それと相手が攻撃を誘っている可能性も考慮に入れて、二手、三手先の行動を読むことも大事だ。最初の攻撃も少し剣が大振りで隙だらけだね」


 キョウヤの戦いに辛辣な評価を下すルードルフ。まだ全然未熟で、教わるべき課題は多い事くらい自分自身が一番良く理解している。

 ここ一週間、ルードルフに何度も扱かれて、厳しい師事を受け、辛辣な言葉を浴びせられていた。普通なら心を折られても仕方がないというくらいに何度も。

 だけど、キョウヤは一度始めたことは何度も挑戦し、諦めることを知らなかった。コツを掴めるまで何度もルードルフに挑んで、何度も地面を転がされ、何度も立ち上がる。それを毎日繰り返していた。

 適切なアドバイスをルードルフから受けて直ぐに、それを全部実践で何とかして掴み取って、水がスポンジで吸収するように次々と習得して見せた。それでも甘い部分は多く、自分が本当に成長しているのか分からなかった。

 時には辛く、挫けそうになる場合も多々あるが、キョウヤの原動力となるシャルリーヌの事を想えば、まだまだ頑張れた。


「…………」


 先程のルードルフの言葉を何度も反芻させて、起き上がったキョウヤは木剣を手にする。さっきと同じような形で再び間合いを詰めて木剣を振り下げる。


「――っ!」


 何度も木剣を振るって剣撃を続ける。鈍い音が単調に奏で、時々ルードルフがキョウヤの意図しない攻撃が加わって、それをギリギリの所で受け流す。そんな剣戟の中でキョウヤは常に目を光らせて、隙が生まれるのを窺っていた。それと同時に一手、二手先の事も読む。

 そんなキョウヤの一挙一投足を鋭い目付きでルードルフは注視する。


「隙を窺うのはいいが攻撃が単調だ。それでは――」


 ルードルフの台詞が途中で切れた。キョウヤは今までとは違った攻撃を仕掛け始めたからだ。 キョウヤの木剣が滑るようにルードルフの胴体へ吸い込んでいく。

 意外な攻撃にルードルフは瞠目すると口元を緩める。


「――っ!」


 気合いを入れた一撃が、同じくルードルフの攻撃によって阻まれる。

 しかも二つの衝撃が柄を持つ手まで振動が伝わり始めると、ジンジンと痺れて力が入らなくなる。キョウヤは柄を握る手が緩むと木剣がスルリとこぼれ落ちる。するとキョウヤは何か呟き始めるが木剣が落ちる音が響いて掻き消える。

 直ぐに拾う動作をするキョウヤの眉間に切っ先が突き付けられ――そして、その瞬間を狙って掌をルードルフに向けて。


「――飛弾せよ!」


 キョウヤが風魔法の詠唱を言葉にして、ルードルフが一瞬だけ身構えた。


「――っ!?」


 しかし、それは直ぐにキョウヤの掌からは魔法が放たれなかった事を悟ったルードルフ。

 ハッタリに成功したキョウヤは既に行動に移して木剣を拾い上げ、呆然としているルードルフの隙を狙って肉薄すると渾身の一撃を木剣に込めると。。


「やあああっ!!」


 気合いの籠もった声と共に、ガッという鈍い音が鳴らす。

 それはキョウヤの木剣が弾き飛ばされる音だった。


「残念だったな。まさかもう魔法が扱えるかと思っていたが……そちらの方もまだまだのようだね」


 決着がついた。

 今日もキョウヤはルードルフに一撃を食らわせずに終わった。


「はぁ~……。一撃も与えられなかったか」


 直ぐに体力が尽きてキョウヤは地面の上を大の字で倒れる。


「私に一撃を食らわすのは当分無理だろう。しかし、キョウヤは確実に成長しているはずだよ。素人から初段に上がっている」


「……それ本当に成長してんのか?」


「このまま鍛錬を続けていけば、いくらかマシになる。さて、今日の鍛錬はここまでにしよう。私はこの後、女王から呼ばれていてね」


「女王……。そういえば依頼があるっていう話はいつになったら聞かされるんだ?」


 キョウヤは疲労が祟って一日中、寝かされている間にシャルリーヌが直々に女王と会話を交わしていた。その時に女王は正式に依頼を告げるまで待機を言い渡され、その依頼に同行する予定の騎士――エルヴィラの屋敷に泊まることとなった。


「それについては私も女王から何も聞かされていないんだ。すまない」


「そっか……。あ、ならエルヴィラについて聞いていいか?」


「エルヴィラ嬢? 彼女はそうだな……剣術は私ほどでは無いが、かなりの実力者だ。それに彼女は魔法が得意で、剣術と魔法の両方を扱った戦術を使用する。その両方合わさると……もしかすると私でも勝てるか怪しい」


「え? ルードルフがエルヴィラに勝つのが難しい? そ、そんなにエルヴィラって強いのかよ……」


 普段おっとりしているから、見た目ではルードルフと同等とは思えなかった。人は見掛けによらないということだ。


「相手が女性だろうと私より強い者は何人も実在する。敵を独断と偏見で判断するのは愚者のすること。それで敗北する理由にもなり得る」


「き、肝に銘じて置くよ」


 それからルードルフが汗を流した後に、騎士服を身に着けて女王の下へ向かっていくのを見送り、キョウヤは少しの間休息を取った。


(今後は帰宅部並の体力も何とかしないとな)


 キョウヤの思考を余所に、近づいて来たセシルから手拭を渡される。キョウヤはそれを受け取って汗を拭き取る。


「お疲れ様ですキョウヤさん。今日もラビリウス様に無様な姿を晒していましたね」


「……それは俺に嫌みを言ってんのか?」


「いえ、私はそのような意図があって申したわけではありません」


 淡々と業務報告をしているような口調でセシルが言葉を吐露する。不思議とセシルの言葉に嫌みが感じられなかった。それはただ単に感情が籠もってないからだろうか。


「…………一週間ルードルフに剣術の相手してもらってるけど、実際俺って成長してんのかな……。あんま変わってないように感じるんだよな。剣術って俺に向いてないのかな」


 ルードルフから成長しているとお墨付きを貰っているが、実際キョウヤは実感が沸いてない。ルードルフには一発も攻撃を与えられず、簡単にあしらわれる始末。

 それを一週間以上も続いている。さすがに心が折れてくる。こうして弱音を吐くのも証拠だ。


「私は剣術についてよく分かりませんが、キョウヤさんは見事に無様を晒しております。よく一週間も続けられると感心は致します」


 無様な姿と二度も言われたキョウヤだが、やはりセシルから嫌みを感じない。ただ悔しさがあるだけで。


「…………」


「ですが相手がラビリウス様だから実感がないのではありませんか? キョウヤさんは比べる相手を見誤っているのです」


「比べる相手か……そう考えると不能兵士よりはマシになってるのか?」


 不能兵士ことロジェの実力はキョウヤには計り知れないが、勝てる自身は何となくあった。


「それでは私はお仕事に戻りますので」


「……相変わらずセシルさんはぶれないな」

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