エピローグ

 物語の冒頭へまた繰り返してしまうのではという不安を抱いたが、どうやらそれは杞憂に終わった。

 目を覚ましたキョウヤの視界には見慣れない天井を映している。青い空じゃないってことは紛れもなくあの日の続きである。

 上体を起こしたキョウヤは部屋の中を見渡す。小綺麗で物が置いていない殺風景で洋風な広い部屋。一体キョウヤはどこで寝かされているのか、脳裏は疑問符で埋め尽くされていた。


「……ここ現実だよな? というかあの日の続きでいいんだよな? 誰もいないから確かめようがないしな……。取りあえず、部屋を出てみるか?」


 独り言を呟くキョウヤは状況が分からず、いくら考えた所で答えは見つからない。まずは行動を起こすことが大事だ。

 ベッドから出ようとした瞬間に、ドアが開いた。中に入ってきた人物はアッシュブロンドの髪の少女だった。

 その正体は勿論シャルリーヌである。名前を呼ぼうとして口が開かなかった。

 またシャルリーヌがキョウヤの事を忘れて、覚えていなかったらと思うと名前を呼べなかった。なんて答えようか迷っていると。


「キョウヤ! 起きて良かった……。一日中寝てたから心配だったんだよ?」


 どうやらキョウヤの心配は杞憂だったようだ。


「え? あ、……ああ」


 キョウヤの姿を見て、シャルリーヌは安堵の息を吐くとベッドの傍らにある椅子に腰掛ける。

右目は眼帯に覆われて、左目は翠玉の瞳が潤んでいた。心配を掛けてしまい申し訳ない気持ちでキョウヤは何か言葉を出そうとするが、なぜかコミュ障がぶり返したように言葉が思うように出てこなかった。


「ん? どうしたのキョウヤ?」


「い、いや……な、何でも……ないよ? そ、それより……ごめん」


「……? どうして謝るのよ。でもこうしてキョウヤとまた話せて良かった」


 無邪気な笑みがキョウヤに向けられ、ドキッと胸が高鳴る。シャルリーヌの可愛さに直視できず、顔を背けて頬を掻いた。

 兎にも角にも、こうしてキョウヤはループしなかったことや夢じゃ無かった事に何度も安堵した。

 色々と考えることは山ほどあるが今は最悪な結末を回避し、無事だったことを喜ぶべきだ。


「シャ、シャル? ここはどこなんだ?」


「あ、そうだ! えっと……キョウヤが寝ている間に少し色々とあって、しばらくはここに泊まる事になるのよ。後で挨拶はすると思うけど」


「挨拶?」


「えっと……この屋敷の主さん」


「屋敷の主……? なぜ俺たちがそんな所に?」


「それなんだけど……実は私達にルサント王国の女王から依頼が直々に来るみたいなの」


「依頼? なぜ俺たちに……って、その依頼ってシャルに向けてだよな? 俺は……関係ないと思うだろうし」


 無垢の眼帯少女として有名なシャルリーヌだから女王からの依頼が来たのだろう。キョウヤはただのオマケでしか無い。

 そこでふと、キョウヤはシャルリーヌが口にした言葉に気になる点があった。


「女王? ルサント王国の偉い人って王様だろ?」


「国王は五年前に亡くなって、今はその時の王女が即位して女王になったんだよ」


「王女が女王に? それってもしかして俺らと年齢は変わらない……のか? まあそれは分かったけど、それより依頼の内容って?」


「う~んと、これは私も詳しい事は分からないの。後で連絡するらしく、しばらくはここの屋敷のお世話になりなさいって。それで……キョウヤが言っていた通り、この依頼って私だけに向けられているの」


 やはりそうだったようだ。

 キョウヤは何も役に立たず、シャルリーヌの足を引っ張る存在。本当ならここで身を引いた方がいいのだろうが、心の奥底ではシャルリーヌと一緒に行きたい気持ちがあった。


「――…………」


 何度も口を開こうとするが、一向に決意が固まらずしばらく葛藤していた。


「キョウヤは……どうするの?」


「……お、俺は…………」


 本当は一緒に行きたい。だけど足手まといになる。

 シャルリーヌの言葉に返事が出来ず、優柔不断なキョウヤは顔を上げて翠玉の瞳を見つめる。


 ――俺はシャルの事が…………。だから一緒に行って守りたい。


 リリとシャルリーヌが対峙しているのをただジッと見ているだけで、何もできなかった。だからキョウヤの中にはある決意をしていた。

 魔法に剣術。

 最初は難しいだろうが、いずれシャルリーヌを守れるよう立派に成長したいと思っていた。

 そう考えると、既にキョウヤの中で答えはあった。


「お――」


「キョ、キョウヤ……あのね?」


 キョウヤから返事が出なかったことに、不安を感じていたシャルリーヌから先に言葉を発した。タイミングを逃したキョウヤは口を閉ざしてシャルリーヌの続きの言葉を聞いた。


「あの……キョウヤが良ければでいいんだけどね? わ、私と一緒にき、来て欲しいの」


 シャルリーヌから紡がれたのは誘いの言葉だった。それに嬉しい気持ちがあったキョウヤだが、女の子から懇願されて情けない気持ちもあった。

 キョウヤの改善点は枚挙に暇がないが、それらをこれから直してシャルリーヌに相応しい男になれるよう精進しようと新たに決意をする。


「お、俺もシャルと一緒に行きたい! ……いいのか?」


「うん、大丈夫よ! ……良かったキョウヤが来てくれて」

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