幕間 絶望の物語

 ――どうだった?


 ”そいつ”は嗤い、質問した。

 ”そいつ”は悦楽に浸り、くすくすと嗤う。

 質問に答える者は存在せず、空虚な空間で漂うは”そいつ”のみ。

 辛うじて姿形は人型を保ち、しかしモザイクが掛かった靄が覆い尽くして”そいつ”を認識するのは不可能。


 ――人が絶望する歪んだ顔、稚児のように泣き叫ぶ醜い姿……楽しい。


 今までの出来事を”そいつ”は物語を娯楽として興じていた。

 ”そいつ”は満足してケラケラと狂人じみた嗤いを続け、やがてピタリと止むと口角をニタァと上げる動作をする。


 ――あなたが視る行先は全て絶望へ向かい、救いなどありもしない。


 ”そいつ”の視線の先にはさっきブラックアウトした一つの物語が映し出されていた。

 今度はどんな絶望が見たいのか夢想し、思案するような仕草を行うと、”そいつ”は欠伸を噛みしめたような動作をする。それが眠気だと知ると”そいつ”は初めて経験する感覚を味わう。


 ――そうか……次は……。ははは、どうやって絶望から抜け出すのか楽しみだけど興味ない。人が殺し殺され、どんなに足掻いても決して救えず、最後には絶望する。そんなご都合主義のない物語がもっと視たい。絶望のない物語など価値がない。


 ”そいつ”は淡々と言葉を紡ぐ動作をすると、再び欠伸をする動作を行い、目を瞑る。やがて睡魔は突如遅い、”そいつ”の意識は段々と薄れていく。

 ”そいつ”が寝始めた時、ブラックアウトした場面が切り替わり、物語の冒頭が映し出される。


 そして――本当の物語がスタートする。

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