第15話 魔導人形と魔導回路

 朝起きると、日課となってる罠の確認に真白を連れて見に行く。

 今日は、イノブタのメス2頭がかかっていたので絞めずに飼育施設に入れておいた。

 飼育施設には、現在オス1頭、メス3頭、子供1頭の計5頭が入ってる。


 「やったな!ハーレムだぞ!」

 「ブフッ!」


 餌をやりながらオスの頭を触ると、鳴き声で返事を返してきた。


 台所に入ると、テーブルの上に今日の朝食がすでに並んでいた。


 本日の朝食は、ベーコンエッグにサラダ、納豆の上に刻んだネギ、ほうれん草のお浸しとみそ汁、そして今日は、小さい絹ごし豆腐が器に盛られ上にショウガが乗せられていた。


 「おっ!豆腐作ったんだ!」


 小さくても豆腐を久しぶりに食べられる喜びが顔と言葉に出る。


 「マスターおはようございます。それに真白様もおはようございます。先日海で塩を作った際に良いにがりを得られたので作ってみました」


 俺の独り言を聞いて、ミナが挨拶しながらキッチンから豆腐の事を説明してくる。


 「おはよう、ミナ。そうなんだ、とても美味しそうだ!もちろん他の料理もね」

 「いえ、それほどでも」


 ミナの表情には出ていないが、喜んでいる雰囲気を感じる。


 「おはよう。何じゃ、そのトウフの事か?」

 「おはよう、アル。そうなんだ、ミナが豆腐を作ってくれてね」


 いつも通りアルフィーナは、ミナの手伝いをしていた。


 「不思議な食べ物じゃな。白くて四角くて……食べるのが楽しみじゃ!」


 ……涎が出ているぞ。食いしん坊魔女さん


 その後は、特に目立った事もなく食事を取った。

 豆腐についてアルフィーナは、そのまま食べるとほのかに甘味を感じるが、醤油と合わさると別の美味しさになると、いたく気に入っていた。


 さて、村に行く前に手早く自動人形の製作に入る。

 作業と言うこともあり場所は庭先で行なう。


 「さてと、自動人形の作り方は……アル、分かる?」

 「専門外なのじゃ!前にも言うたが、他の研究者が作ったものじゃからの」


 どうやら自動人形に関しては、アルフィーナにもお手上げの様だ。


 「ふむ、じゃあいちから作るしかないか……まあ、人間の体を模して作るしかないな。まずは、骨格から」

 「マスター、骨格にはこちらを使ったほうが、よろしいかと思います」


 ミナは無限収納から何かを取り出して見せる。

 見た目は、黒い塊にしか見えない。


 「これは?」

 「はい、炭素です。構造を変えてるので金属よりは硬いかと」

 「うん、じゃあそれを使おう」


 詳しい化学構造を見せられても今の俺じゃ分からないから直ぐに承諾する。


 「骨は決まったからあとは、そうだな……神経は魔導金属を加工すればいいだろう。筋組織はどうしよう……」


 さすがにモーターを使って伸縮させるには工程が複雑だしメンテナンスが大変になる。


 「マスター終わりました」


 ミナの合成作業はもう終わったようだ。さすが魔法!


 「じゃあ、人間の骨格に形成してくれ」

 「了解しました」


 さすがに人間の骨格を精密に作れといっても俺には出来ない。

 ここはミナに任せた方が、しっかりとした物が作れるはずだ。


 「終了、マスター5体分作りました」

 「5体!それだけの回路用意してあるの?」

 「問題ありません」


 結構な数を作るな……たしかに昨日、何体か作るといっていたが。

 てか、骨格が細いけどいいのかな?


 「まあ、ミナが問題なければいいか、次は神経と筋肉だね。神経には魔導金属を筋肉の部分は……そうだ!この間作った魔石を含んだゴムを使おう!」

 「そうですね、マスターが発見したゴムを使うのがよろしいですね」

 「のうマサキ」


 いつもは、口を出す事無く見ているアルフィーナが声をかけてきた。

 ゴムを使うことに何かあるのだろうか?


 「この前も言ったが、私がおった国では、魔道具やその仕組みに名前を付けると言ったが、このゴム?じゃったか、これにも名前を付けた方が良いのじゃないのか?」


 たしかに何時までも魔石を含んだゴムとか呼ぶのはめんどくさい。

 どうせなら名前をつけて呼んだほうが、今後のためだろう。


 「そうですね!でも名前か……魔導筋肉でいいか!」

 「畏まりました」

 「何とも安直な……」


 ミナはすぐに了解し、アルフィーナは俺のネーミングセンスに呆れている。


 魔力で収縮するなら筋肉て名前でも良いと思ったんだけど……ダメかな?


 「ま、まあ、いいじゃないか!だけど今度の魔導筋肉も魔導金属もミナに任せるしかないんだけど……」


 人間の筋肉や神経の付き方や強度なんて、医学の分野や人間工学、スポーツの分野なので俺には専門外だ。

 ミナの中の情報になら問題なく出来るだろう。


 「問題ありません、ただしマスター、神経に魔導金属だと強度的不安がございます。なのでこちらを使いたいと思います」

 「なに?この黒い繊維、さっきの黒い塊みたいだから炭素繊維?」


 ミナは無限収納から何かの黒い繊維を取り出して見せる。


 「はい、炭素繊維です。ただし、構造を筒状にして中に魔石を等間隔で並べております」

 「へー、それで魔導金属と同じ様に出来るの?」

 「問題ありません。より細かな伝達が出来るでしょう」


 この子は本当に何でも出来るな……。


 「分かった。よろしく!」

 「承知しました」


 考えても仕方がないので承諾してミナに任せる。


 ミナは瞬く間にゴムに魔石の粉末を混ぜると、繊維状の物と一緒に骨格に沿って貼り付けていく。


 「目の部分は、シリコンに魔結晶を取り付ければ言いかな?さっきの繊維でつなげば認識力も増すだろう」

 「畏まりました」


 俺の適当な発想に問題ないと言う様に付いて行くミナ


 本当にすげえ!


 脳の部分には、ミナが作った回路を取り付ける。

 内臓はないので心臓の部分に大きな赤い魔石を取り付けた。


 「そう言えば、アレも出来るんだよね?」

 「はい、問題ありません」

 「何じゃアレとは?」


 アレとは、俺とミナしか知らないのでアルフィーナが不思議そうに聞くのも無理はない。


 「あぁ、アルは知らないよね、ええとねアレって言うのは、魔法で電気を出せるのは知っているよね」

 「うむ、マサキが湖で魚を獲った方法じゃな」


 アルフィーナも湖での出来事を覚えていたのですぐに想像が付いた。


 「うん、だから魔素を電気に変えられるなら、電気を魔素に変えられるんじゃないかとミナに聞いてみたんだ」

 「なんじゃと!で、出来たのか」

 「はい、電気を魔素に変えることが出来ました。さすがマスターです」


 ミナに回路を作って貰う時に何となく思い描いた物をミナに相談したところ、魔結晶を使っての変換に成功することが出来た。

 別にアルフィーナに黙っていた訳ではないが、電気の事を最近知ったアルフェーナよりミナの方が適任と思えたからだ。


 仕組みは、電気を吸収する魔結晶を作り、その吸収された電気を魔素に変換させる魔結晶を置くことで電気が魔素に切り替わった。

 また、その魔素を魔石に吸収させる事も出来る。


 このおかげで魔石を交換せずとも、魔素を補充する事が可能になった。


 交換率がどの程度かは魔素の単位が無いので分からないが……。


 「なんと……すごい、いや、凄まじい発見じゃぞ」

 「まあ、それをミナの作った回路に入れてるんですが、とりあえず今は個別に名前を付けるのは後回しにして、総称で魔導回路とでも言いましょう。……あっ!ミナが作ったんだ!」


 自分が作った物でもないのに勝手に名前をつけてしまった。


 「ごめんミナ、名前はどうする?」

 「いえ、私はマスターの所有物、マスターが名前を付けて頂いて問題ありません」


 勝手に付けた名前で問題ないとミナは言っている。

 本当にそう思っているらしく怒った雰囲気は感じられない。


 自動人形の続きに取り掛かる。


 と言っても残りの工程は、皮膚になる物を被せ、髪を付ければいい。


 皮膚は肌色のシリコンで覆い、髪は先ほどの繊維を髪の大きさにミナが加工した物を使った。


 うん、何となく製作の工程で感じていたけど……これ全部女性だ。


 「ミナ、なんで女性型ばかりなの?」

 「はい、参考にした情報に女性の裸が多かったので」


 ま、まさか!変な画像集があったのでは!いや持ってたんだけど……。


 顔の形や身長はみんな同じに作ってある。

 ミナの作った人形は精巧に作りすぎていて、色々ちゃんと作られていた。


 ……本当にちゃんと作ってあるんだよ。


 「ミナ、裸にしておくのも可哀想だから服はあるのかい?」

 「はい、用意してあります」


 無限収納から一着の服が取り出された。

 折りたたまれてよくは分からないが、黒を基調とした女の子らしいフリルが付いた洋服みたいだ。


 ミナと同じ服なのかな?そういえばこの子達、ミナと同じで胸が慎ましいな……。


 「じゃあ、その服着せてあげてくれるかい?」

 「お任せ下さい」


 ミナに頼むと、手早く服を着せていく。

 普通は介護の時も人に服を着せるのは大変なんだが、こんなに早く出来るのか!?と驚くくらいに早く着せている。


 あっ、パンツとブラ、それにストッキングまで用意してたんだ。


 人形達が寝そべる庭は、俺の趣味で白く細かい砂利が敷き詰めてあるので寝そべっていても、それほど汚れはしない。


 あとは、庭石とか置きたいな、あと松とかも……ああ、縁側に長石置いて足を乗せる段にしなきゃ!やる事がいっぱいだ。


 「マスター、服のを着せ終えました」


 俺が趣味の庭造りの妄想へと意識を飛ばしてる間に服着せが終了していた。


 「うん……ぶっ!何で全部メイド服なの!?」

 「この方が管理させるのに最適かと」


 そう全員メイド服を着ていた。

 フリルは抑え目でスカートの丈が長めで足元まであるものだ。

 靴下の上に靴をはいて、頭にはホワイトブリムまで付いている。


 スカートの丈が短ければメイド喫茶みたいだぞ。


 「はぁーっ……まあいいや、じゃあ、起動させてみよう!」

 「承知しました。各機起動しなさい」


 冗談か本気か分からないミナの取る行動に頭を抱えつ起動を命じると、ミナの掛け声に鼓動するように全員が目を開いた。


 「おぉっ!動いた!」


 全員が立ち上がろうとするが、身体全体、特に手足がぎこちなく動いている。


 「現在行動の最適化を行い学習しています」

 「なるほど」


 見ると確かに最初にあったぎこちなさが、どんどん消えていく。


 「全員整列しました」


 ミナが言うと、全員横一列に等間隔でただ前だけを見て直立していた。


 「よし!これで自動人形の完成だな!」

 「はい、マスター」


 「のうマサキ、これは自動人形ではないぞ。構造も違ければ見た目も人素の者じゃ」


 俺が完成に喜んでいると、アルフィーナが自動人形とは別の物だと言う。


 確かにアルの持っていた自動人形は、デッサンの人形みたいでこっちは人間と変わらないけど……違うのかな?


 「そうですか?」

 「うむ、私がおった国で人間の体内を見るのは禁忌きんきじゃった、だから、よっぽどの……それこそ処刑された者しか中を見ることは無かった」

 「と言うことは、新しい仕組み……」

 「うむ、名前を付けなければのう!」


 うわ~、またか!またなの!名前付け何てポンポン出てこないよ!


 「そうだ!これは大半ミナが作ったんだから、ミナが……」

 「いえ、マスターにお任せします」


 うわ!速攻任されたよ。あれか付けるのが面倒くさかったのか、それとも本当に俺に任せるのが絶対なのか?恐らく後者だろうけど……。


 「参ったな……まあいいや、魔導人形!これに決まり!」

 「畏まりました」

 「また、安直じゃのう」


 先ほどみたいな行動を取る二人。


 いいの!安直の何が悪い!


 「あの、マスター」

 「今度は何?」

 「この子達にも個別に名前を付けて頂きたいのですが」


 魔導人形達が、一糸乱れぬ動きで礼をする。


 えーーーーーーー!何で俺がーーーーーーー!

 ええい!頭を抱えて悩んでいても仕方が無い!


 「分かった!眼が桃色のが舞花まいか、黄色のが月花げっか、白色が蓮花れんか、青色が氷花ひょうか、緑色が翠花すいかだ!」


 全員、作りと髪型や着ている物が同じなのでどれがどれだか分からないが、ミナが気を利かせてくれたんだろう眼の瞳の色が輪円を残しそれぞれ分かれていた。


 「「「「「承りました。マイマスター」」」」」

 「 っ!」


 全員一同で礼を言ってきたので一瞬たじろぐ。


 てか声が出るんだ。


 「お待ちなさい!マスターを使って良いのは私だけですよ!」


 ミナは毅然と言うが、そんな事を言った覚えはない。


 「そうだね、俺のことは……名前で構わないよ」

 「「「「「承知しました。マサキ様」」」」」


 「ははは……」


 圧巻としか言いようが無い、この一糸乱れぬ勢いは……もう、いいよ好きにして!


 こうして家の管理が安泰になった。


 イザかん、村の開拓へ!


 こうして魔導人形、魔導回路が誕生した。

 実は、話の中に有り得ない技術が使われているのだが……それはまた別のお話で……。

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