第14話 始まりの村リアレス(宴)
「さあ、始めよう!」
「「「おおーーーーーー!!!」」」
日も沈みかけた夕方、村の中央に位置する広場で燃え盛る焚き木を囲むように住人みんなが集まると、フォートルの掛け声と共に宴が始まる。
全員、木製の器に汁物と焼いた肉、そしてジャガイモ?のような物を潰した品が並べられていた。
「ささ、魔女様も」
「いや、必要ない、お主達も知っておるじゃろ、私は食べる必要が無いからのう」
フォートルが料理を勧めようとすると、アルフィーナはすぐに断る。
アルフィーナが食べ物を断るとは、めずらしい事もあるものだ。
「おお、そうでしたな。では、聖獣様の方は?」
真白は料理の匂いを少し嗅ぐと、いらないと首を左右に振った。
「では、マサキ様と、あ、えっと……」
「ミナと申します」
「おお、では、マサキ様とミナ様は?」
「私は頂きます」
「マスターと同じく」
せっかく歓迎してくれているのだ、全員が断る訳にはいかないので頂くことにする。
目の前には豪華とは言えない料理と、先が二股になった銅製の棒とナイフ、木製のレンゲのような物が置いてあった。
「なんだろう、これ?」
「おお、マサキは知らんじゃろうな、それはトウと言い料理に刺して口に運ぶ物じゃ」
アルフィーナは先が二股の棒を説明してくれた。
また、ナイフはフォイ、レンゲはローワと言いアルフィーナが以前にいた王国で使われていたものらしい。
王族や貴族は、金や銀で作られた物を使い、トウという二股の物も三股になると言う。
うん、郷に入っては郷に従えと言うし、使ってみるか!
いただきますをして、料理に手を伸ばす。
そうだな……まずは、この汁物からいって見るか。
少し白濁した汁物を手に取り口に運ぶ。
………………マ、……まずい。
それは、恐ろしいほど不味かった。
味は塩気も無く甘味も無い、薄いコーンスープと言った感じだ。
ただしコーンは入っていない。
何か溶いた様な感じがするな。
俺だけかと思い周りを見回すが、みんな同じ物を美味しそうに食べていた。
「ミナこれって?」
「そうですね、岩塩が使われていますが、質が大変悪いです。あとは豆を乾燥させ粉末にした物を入れられており恐らく保存食かと思われます」
なるほど、保存用の食材が入っていたのか。
俺は気を取り直して焼いた肉を、トウで刺してフェイで小さく切り口に入れる。
………………これも不味い。
血抜きが上手く出来ていないのか血生臭く、質が悪い岩塩のため味は付いていないと言っていい。
「マスター、この肉は血抜きがされてません」
「やっぱりそうだよね」
血抜きをしていない動物の肉は、身体の中で血が固まってしまうので血生臭くなる。
食べられないと言う訳でもないが、上手く血抜きが出来なかったのならハーブなどの香辛料で匂いを誤魔化すが、見るからに貧しいこの村にはそんな上等な物はないのだろう。
全ての料理を食べてみたが、どれも味無くて美味しいとは言いがたい代物だった。
アルフィーナが断ったり真白がいらないと言ったのも、この味と匂いのせいだろう。
「そうだ!あのフォートルさん」
「マサキ様は魔女様のお連れの方、どうか私の事はフォートルとお呼び下さい」
「そうじゃマサキ、あまり固い言葉遣いをせんでよい」
アルフィーナとフォートルが、畏まって話すなと言う。
まあ、2人がそう言うならいいか。
「ああ、分かった。じゃあフォートル、俺も手土産を持ってきたからみんなで分けて食べてくれ」
「手土産?」
無限収納から大きなイノブタ1頭と、他にも塩、砂糖、胡椒などの香辛料や食材を取り出すと、フォートル達の前に並べる。
「………………」
「………………」
村の全員が突然出てきたうず高く積まれた食材を、口を開けて呆然と目上げていた。
これでも、ほんの少しなんだけどね。
「ミナ、今出てる料理を香辛料などを使って味を整えられるかい?」
「はい、お任せ下さい」
「俺は、イノブタを解体するから」
今出ている料理は、ミナに任せておけば美味しく出来るだろう。
俺はイノブタを解体して今日の宴と、各家庭に分ける準備をする。
「ほれ、お主ら!ボーっとしとらんでマサキに礼を言うのじゃ!」
「そ、そうでした。マサキ様なんとお礼を言えばいいのか」
アルフィーナの言葉にいち早く元に戻ったフォートルが礼を言ってきた。
「いや、気にしなくていいよ。食材を分けるのは任せてもいいかな?」
「は、はい、お任せ下さい」
どの家庭にどれだけの物資を分けるかは、フォートルの方が適任だろう。
俺は、無限収納から包丁を取り出すと、イノブタの皮を剥いで肉を分けていく。
「マスター出来ました」
「こっちも終わったよ」
宴に使われない食材を各家庭に分けるのが終了すると、ミナの方も再調理が終了する。
鍋を見ると先ほどの薄い豆のスープは、具がたくさん入った美味しそうな豚汁に、血抜きが出来ていない肉は、香辛料を使った煮込み料理として出された。
俺も肉を使った野菜炒めを作り、全員の器に盛りつける。
「うん、味もしっかりと付いてて美味しい!」
「どれ、私もいただくのじゃ!」
「ワンワンッ!」
2人もミナが味を付けた足した料理に手を伸ばす。
アル、真白もそれじゃ美味しくないから食べなかったってバレるぞ!
「マサキ様、ありがとうございます」
「大変感謝しております」
「
フォートルが再度礼を言うと、その息子のジェナート、そして龍のような見た目のボルガ順に礼を言ってくる。
ボルガが普通に喋ることは、アルフィーナとボルガが会話をしてたので驚きは少なかった。
「うん、今日だけじゃなくて、明日からも色々と手伝うから」
「ははー、マサキ様、本当にありがとうございます。最近村の畑の発育が悪く……食料が不足気味だったので皆喜んでおります」
フォートルが食糧不足で苦しんでいた事を打ち明ける。
発育が悪い……天候が悪かったのかな?
「畑が?何かあったのかな?」
「はい、今まで村の畑はグルタスと言うじい様が決めてきたんですが、3つほど前の寒い時期に病にかかりそのまま死んでしまったのです」
「他に決める人はいなかったのかい?」
たった一人で村の畑の管理をしているのは無理がある。
「ええ、もちろん数人の男衆がグルタスのじい様から畑の作り方を習っていたのですが……、じい様と同じ時期に同じような病にかかって死んでしまったのです。他にも病にかかった者を面倒見ていた者が、同じような病にかかり死に大勢亡くなりました」
伝染病か何かがあったんだろうか、畑を見る人間が全員死んでいた。
「どんな病だったのかな?」
「はあ、たしか咳と高い熱が出まして、若い者のなかには助かった者もおるのですが、年寄りや子供はかかったが最後、助かった者はおりません」
う~ん、病気の知識は人並みだから、これだけでは判断できない。
もし、天然痘などの致死性の高い病気なら一大事だ。
「ミナ、何か分かる?」
「はい、推測するにインフルエンザかと思われます。この付近の菌などを見ても伝染病の類ではないようです」
さすが菌が見える女、すでに病気の当たりを付けるなんて!
「しかし、インフルエンザ……ねえ」
インフルエンザは怖い病気だけど、そこまで致死率高かったかな?
「マスター、インフルエンザは侮れません、日本でも1千万人がかかり多い時には、1万人もの人が亡くなっています。まして、この村は栄養面、衛生面に問題があり、恐らく薬も無いかと」
なるほど確かにミナの言うとおりだ。
この村では、医師もいないだろうし医学的知識がどこまであるのか分からないが、家や着ている物から判断すると、そこまで高いとは思えない。
ちなみに村の男は、麻か何かの植物の繊維を編んで作った服を着て、同じく編んで作ったズボンを穿いて腰の辺りを紐で結んでいた。
女はズボンは穿いておらず服の丈が足元まである。
カラフルな色は使われておらず、みんな茶色や緑の地味な色が使われていた。
「ふむ、じゃあそのグルタスって人は、何か書き残していなかったの?」
「マサキ、この村の者達は文字の読み書きが出来んのじゃ」
「ええっ!じゃあ何も残っていないの?」
これは困ったぞ、この村の人達はグルタスって人が亡くなってから、いったいどうやって畑を維持してきたんだ。
「分かった。明日にでも畑を見て廻るか、種を植える時期でもないしな」
「おお、食料を分けて下さるただけでなく、畑まで……マサキ様、ありがとうございます」
畑の状態は、俺にはすぐに判断できないが、ミナに見てもらえば一発で分かるので、ここはミナの力を頼ろう。
「マスター、そろそろよい時間かと」
ミナの言葉に時計を見ると、すでに19時を過ぎていた。
「そうだね、帰りもあるから、そろそろお暇させて貰おう」
「そうじゃな、帰るとするか!」
「おお、お帰りになられますか」
俺たちが立ち上がると、フォートルや他の人々も立ち上がる。
全員で見送りをしてくれるみたいだ。
「皆様には、なんのお礼も出来ず申し訳ございません」
「いや、礼はいいよ、それよりも明日も来るから、色々と教えて欲しい」
「ははっ」
「それじゃ、また明日!」
フォートル達が頭を下げる。
これ以上、ここに居ると地面まで下げかねないので、別れを告げると俺達はリヤカーに素早く飛び乗ると走り出す。
道は真っ暗だったが、真白は夜目が利くらしく迷うことなく家までたどり着いた。
しかも、時間は30分とかかっていない。
真白、どんだけスピード出したんだ。
「マスター、明日の予定なのですが、明日も村に行かれますね」
「そうだけど、何で」
全員、風呂に入り居間で
「はい、頼まれていた集積回路が出来上がったので」
「おお、アレね!」
魔石や魔結晶、魔導金属を作った時にこれらを使って、集積回路が作れるかミナに試してもらっていた。
「で、どんな感じ?」
「はい、電気信号による集積回路と同様の性能を発揮出来るかと、また電気集積回路と魔石等による集積回路を並列処理出来るようにもなりました」
「おお!色々と凄いな!」
ミナは個人で様々な実験をしていたみたいだ。
「はい、ですのでマスター、これを使えば自動人形を動かせるかと」
「なんじゃ、ミナの身体に使われた自動人形を作るのか?」
魔法関係の話なのでアルフィーナも交ざる。
「はい、あの人形は単一の命令しか実行出来ませんでしたが、この回路を使うことで色々と複雑な動きが出来るようになります」
そう言うとミナは、ソフトボール大の丸い塊を取り出し見せる。
水晶の様だけど、中が乳白色でまったく見えない。
「なるほどのう、しかし、自動人形なんぞ動かして何をするのじゃ?」
「はい、マスターは明日以降、村で色々と忙しくなり、アルフィーナ様や真白様、そして私も付いて行きます」
アルフィーナは村の情報や村の人々との遣り取りを円滑にするため、真白は村までの道のりを運んでもらう。
ミナはその情報量と分析力、正確な実行力が必要となり誰も置いて行く訳にはいかなかった。
「全員がこの家を留守にしてしまうので、この家の管理が難しくなります」
「なるほど、そこで自動人形って訳だね」
「はい、実験も含め何体かいた方がよろしいかと」
身は一つしかないので俺たちが村に行っている間、ミナはこの家の管理、動物の世話などを自動人形に任せようとしてるみたいだ。
「そうだね、今は人手が足りないから試してみる価値はあるな」
「ありがとうございます。明日の朝食後でよろしいでしょうか?」
随分と早い予定だが、分かっている事は早めに済ませたほうがいい。
「分かった。明日の朝食後に自動人形を作ってみよう!」
「
「アルフィーナさんも村の人々のこと色々と教えて下さい!」
「うむ、任せておくのじゃ!」
「真白も明日、村までの往復よろしくね!」
「ワンッ」ペロペロ
もう、21時、今日は忙しかったな。
でも、明日も色々とありそうだ。
マサキが異世界に来て明日でちょうど一週間が経つ。
これより、マサキとこの異世界での大きなうねりは、より激しいものとなる……。
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