第2話 出会い
店から出ると、そこは何も見えない暗闇だった。
最初は入口の蛍光灯が切れたのかな?程度に考えていた。
どこを見回しても、僅かな光すら見付ける事は出来ない。
「なっ、なんだ?」
1時間ほど前に店に入るために階段を降りた時は、薄暗いといった感じはしたが、何も見えないほど真っ暗くはなかった。
しかし、今は何一つ見えない、自分がどこに立っているのかさえ判断できない暗闇の中にいる。
焦る気持ちを抑えつつ俺は、視界を確保しようと、ジャケットのポケットにある携帯を取り出しスリープモードを解除する。
携帯の画面が明るくなり、ぼんやり辺りを照らしだす。
「なっ……なんだって!」
携帯の明かりで現れた景色に俺は目を見開いて驚愕する。
そこに現れたのは、剥き出しの岩肌、人工物ではなく凹凸の激しい自然の岩が周囲に現れた。
「は?……えっ?」
何が何だか分からず頭が混乱したまま、照らし出されている岩に口を開けたまま呆然とする。
店に入る前に通った通路や階段は跡形も無く、広い空間の洞窟に景色が一変していた。
もう訳が分からない、俺はこの場から逃げ出すために店の中に引き返そうと扉の方へ振り返る。
しかし、そこには扉は無かった。
そう何も無いただの岩の壁が、眼前に立ちはだかる。
「えっ!?とっ……扉が無い!」
必死で辺りを照らして扉を探すが、扉の痕跡はどこにも無く、無機質な岩肌だけが現れるだけ
俺は携帯電話の懐中電灯機能を思い出して、急いで操作し懐中電灯をONする。
今までより更に光度が増しより遠くの範囲を照らし出すが、やはり岩肌が続く空間、ここはどうやら洞窟の中のようだ。
「嘘だろ!?店から1歩か、2歩しか出てないのに……なんで」
頭の中が複雑に混乱するが、こんな時は慌てるとかえって危ない
俺は冷静になるため目を閉じ深く息を吸い込む、そして、ゆっくり吐き出し深呼吸を数回繰り返す。
多少なりとも落ち着いたので目を開き改めて周囲の確認を行う。
目を凝らしてよく見回すが、どこを見ても先ほどと変わらず岩ばかり、扉らしき物はおろか人工物すら発見できない。
俺は、目だけではなく耳も使い、何か聞こえないか、どんな小さな音も聞き逃さないように耳を澄ます。
しかし、こちらも何も聞こえずに入ってくる音は、自分の呼吸と衣服がすれる音しか聞こえてこなかった。
時折水が落ちる音が聞こえてくるだけで、静かな空間が広がっている。
「おーい!誰かーーっ!誰かいないかー!」
混乱と不安に押し潰されそうになり、助けを求め暗闇に思いっきり叫ぶ
自分の声が周囲の岩に木霊するだけで、何の返事も帰ってこない。
数回繰り返し助けを呼んでみるが、まったく反応は無かった。
「まいったな……、とっ、とりあえず外へ出ないと」
自分が置かれた状況を理解できずに頭を抱えながらも、真っ暗な洞窟で助けを待つより外に出た方が安全だろうと考えて決断する。
もしかしたら、俺は考え事をしていて、気が付かない内にどこか他の場所へ迷い込んだのかもしれない、と自分を落ち着けるために無理やり理由を捻り出し焦りを抑え様とする。
「そうだ!風だ、風がある方向へ進もう!」
浅はかな考えだが、洞窟の中で風が吹き込んでくる方向が外に繋がっていると考え。
ジャケットの中を探り、ポケットに入っていたティッシュを一枚取り出す。
それを細く千切って、少しでも空気が揺れれば、微細に動く紙糸を作り風の流れを確認する。
携帯の懐中電灯の明かりに弱々しくも少しティッシュが動く、どうやら風が流れているようだ。
風がある事にホッとしながら、俺は風の出ている方へ懐中電灯の明かりを向けて、周囲や足元を確認しながらゆっくり慎重に歩き出す。
地面や風の流れを確認しながら少しずつ前へ進む。
いったいどれだけの時間が歩いたか分からない。
風の出ている方向に向かっているため、上っているのか、下っているのか分からないほど、もう方向感覚が狂っているようだ。
気が狂いそうになるほどの長い時間を這いずるように歩き、ようやく遠くの方に明かりが差している場所を見つける。
明かりを見付けた瞬間、俺の中に感激と安堵の気持ちが溢れ出てくる。
しかし、ここで何かあったら元も子もないと思い気を引締めて、俺は走り出そうとする気持ちを押さえ込み、足元を確認しながらゆっくり明かりの方へ近づいていく。
明かりの元までたどり着くと、急に暗い所から明るい所に出たためか、光の眩しさに目を細める。
光が差す方向に手をかざして、目を守りながら明かりが差し込む先へ足を踏み出す。
「なんだ……ここは!?」
光に慣れて目を凝らして外の様子を伺うと、俺は自分の目を疑う。
目の前に広がる景色は、昨日まで居た実家の山間部とは似ても似つかない、鬱蒼とした木や草が思い思いに生い茂った森が、延々と続いていた。
いくら夢中になって考え事をしていても、藪の中に顔を突っ込めば普通は気付く
「いったい、ここは、どこ何だ?」
混乱により疑問の言葉が口から漏れる。
しかし、それに答える者は誰もいない。
「すーーーーーっ……はーーーーー……」
深い深い深呼吸を一度して気持ちを切り替える。
もう悩んでもしょうがない、まずは自分が置かれた状況を整理するため周りを見回す。
どうやら自分がいる場所は、森を少し高い位置で見下ろしているので、山の斜面にぽっかりと口を開けた横穴の入口にいるようだ。
そして、この森は、間伐などは一切されていない、つまり人が入った形跡がまったく無いように見て取れる。
遠くに目をやるが、やはり人家も道も見えない。
ましてや日本の山で良く見る、あの高い電線の鉄塔すら見あたら無い、ただ森だけが、ひたすら続いているように見える。
手に持つ携帯電話の画面を見ると、予想通り電波は県外、バッテリーに目をやると、電池残量にまだ余裕があるが、次にいつ電波が繋がるか分からない。
イザと言う時に電話が使えないのは、死活問題に繋がるので、とりあえず今は電源を切る。
いくら見回しても記憶に無い場所、と言うかどうやって来たのか分からない
そのうえ、人っこ一人いない森の中、つまり俺は遭難していると言うことだ。
絶望と死などの不穏な文字が頭に過ぎる。
「遭難か・・・そういえば爺さん言ってたな……」
むかし子供の頃に、山菜取りに爺さんと、山に入っときに言われた言葉を思い出す。
「もし山で迷ったら水を探すんだぞ。水さえ確保できれば生き残る可能性が、うーんと高くなる」
確かに水だけでも人間は数日生きていける。
幸い食料もあるので数日動くのは問題ない
普通の遭難なら、動かずに救助を待つのも一つの方法だが、俺にはもう身内がいない、行方不明になっても俺が居ない事に直ぐに気が付く人はいないだろう。
会社を無断欠勤すれば上司や同僚が気付き、俺の携帯に電話して連絡を入れるだろう。
それでも連絡が取れなければ、アパートへ直接来るかもしれない。
そこで本人の所在の確認出来ない時は、警察へといった流れになると思うが、どう短く見積もっても数日はかかる。
と言うか、そもそも、ここが何処かも分からないのだから救助が来る可能性は低い。
ここでじっと待つ事は、危険に感じる。
だったら俺は、行動を起こして自分から生きる、助かる方へ歩いて行くしかない。
俺は爺さんの言葉を信じて小川を探すため、鬱蒼と木や草が生える森の中に、気を引締めて足を踏み入れる。
大樹の落ち葉が降り積もった場所で座りながら今まで起こった事を振返った。
藪の中の移動で大量の汗をかいていたが、いつの間にか呼吸も整い、かいた汗が引いることに気付く
ようやく気持ちが落ち着いたので、手持ちの食料を確認する。
(食料は貰い物がたくさんあるので数日は何とかなるな。)
食料はある、しかし、水が無かった。
500mℓのペットボトルに入っていた水は残り2/3、あとは同じく500mℓペットボトルのお茶だけしかない。
「これは慎重に飲まないといけないな、まずは水を探さないと・・・よしっと!」
立ち上がり大樹を背にして周囲を確認する。
頭上では、大樹の葉が一面に茂っている。
その葉の隙間から木漏れ日が優しく辺りを照らしており、周囲を見渡すのには問題は無かった。
20~30mの空間に落ち葉が敷き積もった先には、木と草しか見えない。
「まいったな、ここまで川も見なかったし、水の流れる音も聞こえなかったぞ・・・」
疲労と落胆によって、俺の腰が落ちそうになる。
その時、ほんの一瞬、俺の視界の端に煌く物が見に入る。
もしかしたらと思い足に力を入れ、淡い望みと共に俺は光の方へ近づいてみる。
木の傍まで近づくと、その枝の隙間から水面が見える。
「あぁやった!ようやく見つけられた、あぁこれで水の心配をせずにすむ」
疲労で傍らに立っていた細木に寄りかかり安堵のため息が出る。
一息付いた所で水面の大きさを確認しようと、枝を払い退けて前へ進む。
枝や草を掻き分けて丘を下っていくと、水面を一望出来る場所に辿り着く
水面の岸には木々が生い茂っており正確な大きさは分からないが、対岸が遠くにあることから大きな湖であることが分った。
「よーし!よし!と、それより暗くなる前に、ここに竈と寝る所を作るか」
ようやく見つけた水に感激してガッツポーズを作る。
しかし、空を見るとまだ明るかったが、太陽がだいぶ傾いていたので、俺は直ぐに意識を切り替える。
夜になったら明かりも無い森では、行動出来ないうえに野生動物に注意する必要がある。
だったら日の明るい内にやれる事をやっておかなければならない。
気合を入れて水辺近くで、拠点になりそうな場所を探す。
大樹の近くで比較的平らな場所があったので、生い茂っている草を引き抜くと、土を剥き出しにする。
ある程度、場所を確保した後に、拠点周囲で手ごろな石を集め簡単な竈を作る。
石を集めるついでに枯れ枝も集めたので、作った竈の火口に枯れ枝を積み重ねて火を付ける準備をする。
火を付けるためによく乾燥した木の皮を細かく引き裂き、乾燥した落ち葉をクシャクシャに柔らかくした物と、コブシ台の大きさに丸める。
積み上げた枝の手前に置いたら、非常時用に色々詰め込んだ鞄を開け、中にあるファイヤスターターを取り出す。
ファイヤスターターの火が飛び散る部分を軽く削ると、削りカス(マグネシウム)が丸めた物にふりかけ、あとはファイヤスターターを勢いよく擦り火花を散らす。
数回繰り返すと、火が落ち葉や木の皮に付き、次に枯れ枝へ燃え移っていく
何にも無い状態で森の中で火を起こすのは、かなりの労力を必要とする。
枝と枝を擦れば摩擦で簡単に火が付くわけ無い、持っていてよかったファイヤスターター
焚き火が順調に燃えていることを確認し、鞄からキャンプに使う鍋を取り出す。
鍋は蓋を開けると更に小さい鍋が中に納まっていて合計3つのサイズの違う鍋が出てくる。
一番大きい鍋を持って水面まで降り水をゆっくり掬って見る。
鍋の中の水を見てみると、ゴミも無くこのまま飲めそうな綺麗な水に見える。
しかし、生水をそのまま飲んだらお腹を壊す可能性が高いため、蓋をして竈に鍋を置き沸騰させる。
十分沸騰したら鍋を竈からおろして冷ます、ある手度冷めたところで蓋を外し、匂いを嗅いでみる。
特に変な臭いはしないので、次に軽く口に含んでみる、口の中で水をコロがしてみるが、臭みや、エグ味もないので、飲み込み胃の中に入れる。
水が問題無く飲める事と、ようやく水が確保できた事に安堵し煮沸した水をペットボトルに入れる。
ペットボトルに入りきれない水は、直接鍋に口を付け一気に飲み干した。
「水も確保できたし、どれ、飯にでもするか!」
再び鍋に水を汲んで火にかけ沸騰させる。
バックを漁って、中に入っていた貰い物の袋ラーメン(みそ味)を取り出すと、袋を開けて中の麺を煮立った鍋に入れる。
少し経つと、麺がほどよく柔らかくなったので竈から降ろし粉末スープを入れかき混ぜる。
よく掻き混ぜた鍋からは、湯気と一緒に味噌の良い匂いが鼻をくすぐる。
美味しそうなラーメンの臭いを嗅いだせいか、胃が収縮し涎が出てきた。
「よし!いただきます!」
両手を合わせ頂きますをして茶色いスープの中にある縮れた麺を箸で持ち上げる。
麺から湯気が昇り、汁が垂れ熱々である事が一目で分かった。
ふーふーと、二度息を吹きかけ軽く冷まして口の中に麺を運ぶ。
「ずっずずーー……」
まだ熱かったが、気にせず口の中に運ぶ
ちぢれた麺が、味噌のしょっぱさと絡み合い、口の中に広がる。
間をあけずに麺を咀嚼すると、麺の甘味が広がっていき、これが、しょっぱいスープと良く合う。
数回噛んだあと飲み込むと、熱いラーメンが胃の中に落ちて行くのがハッキリと分かった。
「んーーーっ、うまい!うまいな~~~、朝から何も食べていなかったからな~」
久しぶりの食事は、簡素な麺と味噌味のスープを、魔法でも掛けたかの様に極上の食事に変える。
俺はラーメンの味に感激し、再び箸で麺を掬い上げて口に運ぶ
「おい!それは何じゃ?」
いきなり発せられた声に驚き、俺は麺を持ち上げ口を開いたままの状態で、声のした方向へ顔を向ける。
そして、声の発声もとを見た瞬間、俺はその姿勢のまま固まってしまった。
目の前には、20歳位の凄い美女が、夕日に照らされて立っていた。
顔は西洋系の整った顔立ちで瞳は大きくて茶色、髪は赤茶色で腰の辺りまで伸びている。
その姿を見たら、10人中9人は、美人だと答えるだろう。
服は修道士が、着ている様な黒のドレープみたいなのを着ている。
しかし、なんだかこの美女は、全体的に煤けて見える。
髪はあまり手入れをしてないのか所々ハネており、服も端の方が擦れてボロボロになっていた。
いきなり現れた美女を前に、左手に鍋、右手に箸を持ち、口を開けたまま呆然としていると
「おい!聞いておるのか?私は、その食べている物は何じゃと聞いておるのじゃ!」
思考停止状態な俺に煤けた外人美女は、さきほどと同じ質問をしてくる。
外人?外人さんだよな?何か言っているな、えっと、ええと、何か言わなきゃ
「えっ、あっ、な、ナイストミーチュー」
混乱する頭をフル稼働して、とりあえず英語で挨拶してみる。
最近の子供でも、もっと上手に英語を話すだろうに、凄まじい英語風の日本語が出てしまった。
「ないすと、みつう?それは、ないすとみつうと言うのか?」
「えっ、あれ?日本語?」
「にほんご?お主は、何を言っているのじゃ?」
日本語だ、日本語しゃべってる!でも、日本語なにそれ?って状態の外人さん、ああ、そんな事より確認しなきゃならないことがある!
「あぁ、すいません、あのー道に迷ってしまって、ここは、いったいどこ何でしょう?」
「なんじゃ、迷い人かえ、しかしよく分からん事をいう、ここは名も無き森じゃ」
名も無き森?何処かの地名かな?
とりあえず、この日本語を話す日本語を知らない外人さんに質問をする。
「名も無き森?それは、どこの県ですか?」
「剣?いきなり何を訳の分からない事を言うのじゃ、変な奴じゃの、名も無き森は、そのまま名前が無い森じゃ、ここ魔界では、名などが付いている場所の方が、珍しいじゃろう?」
へ?今、……まかい……魔界って言った?ウソでしょ?いや待て、俺が知らないだけで日本の何処かに或るのかも知れない
ようやく人に会えた事の興奮で聞き間違えたのかもしれない、落ち着いてもう一度聞いてみよう。
「マカイ?とは、日本のどこら辺でしょうか?」
「にほん?なんじゃそれは?何かの名かえ、私はそんな名は知らんのじゃ!そんな事よりも、それをよこせ!」
一番肝心なところをそんな事扱い、そして痺れを切らした外人さんに、俺の持っている鍋と箸を強奪される。
「なんじゃ?この木の棒は?まあ良い、それよりもコレじゃ!ん~、良い匂いじゃ、どれ」
箸を握りしめて麺を掬い上げようとするが、うまく掬えずいる。
業を煮やした外人さんは、鍋の端に麺を寄せそのまま口に掻き込んでいく
「ずるずるずる、ん~美味じゃ、ちょっとしょっぱいが、不思議な風味じゃのう!ずずーー」
俺は、外人さんでも啜れるんだーと、変な所に感心しながらラーメンを食す外人さんを呆然と見ていた。
「プハー、うむ、久しぶりの食事じゃが、なかなかじゃったぞ!」
「あ、はあ、いや、そんな事より、ここは日本じゃないんですか!?」
空っぽになった鍋をつき返されて、ようやく我に返った俺は、もう一度質問をする。
「さっきからよく分からんが、日本と言うのは国のことか?ならば違うのじゃ、ここは魔界じゃ、マ・カ・イ、私達はそう呼んでおる」
あーーマジかー!日本語を話す外人さんで日本を知らないで疑問だったけど、しかもここは魔界だって意味不!魔界なんて地名聞いた事が無い。もしかして地球じゃ無いの?
「つまり、ここは、地球ではなく別の世界なのか!?無いでしょ普通、マンガやラノベじゃあるまいし」
「ちきゅう?別の世界・・・お主は別の世界から来たのかえ?」
「はあ・・・マジか・・・現実にあるんだ・・・夢じゃないのか?頬をつねれば起きるかな・・・?」
外人さんが何か言っているが、まったく耳に入ってこずに頭を抱え込み現実逃避をする。
「こりゃ!話を聞かぬか!」
ーーボカッ!!!
「がっ!!!」
一人でブツブツ言っている俺に外人さんは、近くに落ちていた木の枝で、俺の頭を容赦なく殴打する。
「・・・・ーーーつぅ~~……何するんですか!」
「話を聞かんからじゃ!それで、お主は別の世界から来たのかえ?」
「はあ、・・・ここが日本やアメリカ、イギリスとかの俺の知っている国が無ければ、俺は別の世界、異世界に居るってことでしょうね・・・」
「にほん、あめりか、いげりす、すまぬが知らんのう、その着ている服や持っている物を見ると、あながち嘘ではあるまいのう」
しげしげと俺の持ち物を観察して外人さんは、結論を口にする。
どうやら異世界確定のようだ・・・なんで来れたんだろう・・・?これが、いわゆる神隠しなのかな?
異世界にいると言う衝撃的な事実と、頭が混乱しているせいか、俺は気の抜けた状態になって力が入らず、その場にへたり込む。
「ふむ、異世界のう……よし、こっちへ来い!もうすぐ暗くなる、こんなところに居ては危ないからの私の家に来るのじゃ!」
「へ?家ですか??この辺さんざん歩き回りましたが、家なんて一軒も見ませんでしたよ?」
「何を言うておる、そこに在るではないか!」
首を傾げる俺に、外人さんは大樹の方に指を差す。
「あの・・・木ですか??」
「そう、我が家じゃ!久々の人じゃ、しかも別の世界の者!歓迎する様な物は無いが、歓迎しよう!付いて来るのじゃ!」
特に気にした様子も無く、ズンズンと木の方へ向かう外人さんに、俺も慌てて自分の荷物を持って後に続く。
木の前まで来ると、外人さんは木に手をかざして、何かを念じる様に目を閉じる。
すると木の表面が光ったかと思うと、スーッと木の表皮が扉の様に開いていく
「何をしておる、付いて来るのじゃ」
あまりにもの光景に驚き、呆然としている俺に、外人さんは入る様に促す。
異世界なんだ!もう何でもありさ!もういい、考えるのやめる!
俺は考えるのを放棄して促されるままに木の中へ入っていった。
木の中に入ると、天井付近で何か光っており、部屋の中全体を照らしている。
中は8畳ぐらいの大きさの部屋になっており、2面の壁が棚で真ん中に机と椅子、あとは奥の方に上へ上がる階段があるだけの飾りっ気のない部屋だった。
しかし何処も彼処も良く分からない本で溢れている。
「どれ、それじゃその椅子に座るがよい、ああ~椅子の上にある本は、そっちの棚に置くのじゃ」
俺は言われるがまま本を棚に置き椅子に座ると、机を挟んで外人さんが対面に座る。
「茶は無いぞ、私は飲まん……あぁ、別の世界から来たのなら、私の事も知らんのじゃな。ひとまず名前からじゃな。私の名は、アルフィーナじゃ、もっとも、ここ200年は魔女と呼ばれておるがの」
「200年?魔女?……へ?……あっ!俺は、素鵞真幸と言います。素鵞が姓で真幸が名前です。」
尋常じゃない事を平然と言われ一瞬頭がフリーズするが、俺はすぐに自分の名前を名乗る。
「ふむ、姓か・・・まあよい、で?お主は別の世界から来たと言ったな、何処から来たのじゃ!どんな世界なのじゃ!」
アナフィーナは、俺の居た世界について興奮しながら聞いてくれた。
別に隠す様な事は無いので、俺はアルフィーなの希望通り、日本の事や生活について話す。
話していくと、アルフィーナは日本の文化や技術水準に驚いている様だ
電車や飛行機に衝撃を受けていた。よくマンガやラノベにある“鉄の箱が!”みたいな感じで驚いていた。
アルフィーナの疑問や質問に答え、ようやく一区切り付いたところで、次は俺もこちらの世界について詳しく聞く。
アルフィーナから色々と話を聞いていくと、驚いた内容があった。
なんと、この世界には、魔法があると言うのだ!魔法と言う単語に俺は衝撃を受ける。
そう、魔法だ現実では使えるはずも無い魔法が、この世界では当たり前のように有ると言うのだ!
魔法以外に、ここ魔界ついて聞くと、多くの種族が混じって暮らしたり、単一の種族が孤立して生活してたりで、どうやら魔界には、一つの国として機能はなして無いようだ。
多くの種族が暮らしている村落が、点在して存在しているらしいが、どこも貧しく日々食べていくだけで大変らしい。
そして、彼らの持つ技術水準もそれほど高くないと言っていた。
また、アルフィーナ自身の事も教えてくれた。
なんとアルフィーナは、魔界の外の国の生まれで、幼年から他を圧倒するほど魔法に才能があり、その国での最上位の魔法使いとして国に使えていた。
ある時、魔法の実験に失敗し魔力暴走で、生死の境を彷徨うほどの大きな事故を起こす。
運良く生き延びはしたが、副作用か何かで年を取らなくなった事、それと付随して食事も取らなくても生きていける様になっていたそうだ。
事故後、老いを無くしたアルフィーナの容姿が、80歳を超えても20歳ほどの姿に、周囲の人々は、アルフィーナと自分達との違いに、しだいに恐怖を覚えるようになる。
人々は恐怖に耐え切れず王国にアルフィーナを処刑するように願い出る。
しかし、最高位の魔法使いでもあるアルフィーナの事を、国としても簡単に処分できる存在ではなかった。
そのため国が取った行動は、アルフィーナを半ば監禁に近い状態で研究室に押し込めて監視し、出てきた研究結果を独占し甘い蜜をすすり続けていたしい。
そんな状況に嫌気が差したアルフィーナは、研究室を密かに抜け出し港で密かに船に乗り国外逃亡をする。
しかし出港した船は、大嵐に遭い流され航路が分からなくなり、数日の漂流の末魔界の浅瀬で船が座礁し、船員は船に残る者と、陸に上がる者で分かれ陸に上がった者が、現在の村落に数人いるらしい、
アルフィーナも陸に上がり、数日森を彷徨った後、この湖と木を見つけて住居にして今に至る。
俺は、もっと魔法について聞きたかったので話を続けようと口を開いた時に、腕時計から数回のアラーム音が鳴る。
腕時計を確認すると、もう11時の時間を表示していた。
「もう、こんな時間か」
「ググーーーッキュルキュルキュルッ!!!」
腕時計を見ながら呟くと同時に、お腹から盛大な音が鳴る。
朝ご飯以降は、夕方にラーメンを一口しか食べていない、当然と言えば当然か……てか、ラーメン取られたし……。
「はは、失礼しました。ちょっと何か食べようかと思います」
「おお!すまなかったのう、“ないすとみつう”はワシが食べてしまったからのう」
「ああ大丈夫ですよ。あと、あれはラーメンと言う私の世界の食べ物です」
「ほう、ラーメンか美味よのう・・・」
アルフィーナさんは恍惚の表情で何処か見るようだ、とりあえず鞄から非常用携帯食のカ○リーメ○ト(メープル味)を取り出し食べる事にする。
携帯食だけどボソボソ粉っぽくて、なかなか飲み込みにくい
唾液を奪われ飲み込めないので、俺はペットボトルを取り出して、中の水と一緒に粉末を一気に流し込む。
「ん?それは何じゃ?なにやら飲み込みにくそうじゃが?」
「あ、あげませんよ!」
「まあ、まあ、そう言わずに、ほれほれ!」
またもや強奪される。
さいわい1本だけの強奪で済んでよかった。
「ん~、美味しいのじゃが、口の唾液がなくなってしまうのう、ングング」
ペットボトルも奪われ飲まれることに、まあ、少しだけなので良かったけど……この人は本当に何も食べなくても生きていけるのか疑問に思ってしまう。
とりあえず、残ったカ○リーメ○トを急いで頬張り水で流し込む。
お腹が若干膨れ一息ついたところで続きをしようと、アルフィーナの方に向き直る。
すると、腹が膨れたせいか、溜め込んだ疲労のせいか、急激な眠気に襲われ体の力が抜け目蓋が重くなる。
「あっ、すいません お腹が膨れたら眠くなっちゃって」
「なんじゃ 眠いのか? まあ、聞くところに今日は、色々とあった様じゃからの」
さすがにこれ以上起きているのはキツイ、俺は落ちてくる目蓋と格闘しながら床に腰を下ろす。
「ご迷惑でなければ、ここで眠っても良いですか?」
「かまわぬが、ここで良いのか?眠るのなら私の寝所を使ってもかまわぬぞ?」
「お気遣い感謝します。しかし、私はここで大丈夫です。寝所の方は、アルフィーナさんご自身で使って下さい」
こんな森の中に住んでる魔女さんなのだ、寝所は自分のしか無いだろうし折角屋根の付いた建物に入れてくれたんだ、我侭言ってはいけない。
とりあえず、荷物の中にあるバスタオルを床に敷きジャケットを掛け布団代わりし、タオルを丸めて簡易の枕にする。
「色々と教えて頂き、本当にありがとうございます。すいません、これ以上起きている事が出来ないみたいです。お先に失礼しま、す……」
「まあ、明日もお主の話を聞きたいしのう……もう眠ったかえ、疲れているんじゃろうな、ゆっくり休むがいい」
泥の様に眠るマサキを見てアルフィーナは静かに囁く。
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