第2話 灰田と高森 その1

「それにしても梅雨に入って最近ぐじぐじして来たなー」

「『じめじめ』ね、ラブちゃん」

「だからその名前で呼ぶなっての」

「ふふっ」


高森可南子は灰田愛乃の黒髪を物珍しそうに見る。


「ねえ愛ちゃん、その髪、昔に戻したんだよねー」

「ん? ああ、そうだよ。中学2年より前と一緒」

「すごかったもんね。シルバーアッシュに染め上げて」

「まあね」

「吉川晃司の再来! とかマニアックな男子が熱狂してたよね」

「それ未だによく分かんないけど、アンタも言ってたじゃん。モニカとか。ねぇモニカって何?」

「ふふっ(素直な反応が軽くツボに入る)。……でもやっぱり黒髪の方が可愛いよ」


愛乃が顔を露骨にしかめたのを見て、可南子は悪戯っぽく笑う。この幼馴染は、想像を絶する恥ずかしがり屋なのだ。


「どちらかと言うなら、男子」という感じで、ジェンダーの狭間を生くる者として、雑に扱われていた愛乃が蛹から蝶になったのは、腕を痛めて空手を辞めた中学2年生の時。「巨女」と影で言われていた(本人の前で言うとキレるから)身長の高さはそのままスタイルの良さに変換され、目付きの悪さは切れ長の目として、彼女の個性となった。


「中1の半ばから、何かオセロの黒が全部白になった感じだったもんねー」

「え…! あたし、そんなに負け越してたの!?」

「まあ、今は色白だし」

「慌ててフォローするな」

「モニカとか言われて」

「だからそれは何だよ!」


人生で初めて色んな人達から賛辞を受けた愛乃は、赤くなったり、青くなったりして、日々憔悴していた。そのサバサバした気質から女子にも慕われていたが、とにかく居心地が悪かった。ある日の朝、可南子が教室に入ると、教室は異様な雰囲気に支配されていた。何事かと室内を見渡すと、ただ一人雰囲気が違う愛乃が可南子を見つけて元気いっぱいに手を振って来た。その髪は、銀色に輝いていた。


                    

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