第2話

「~♬♪」

 放課後の学校。裏庭に響く歌声は、透明で、ちょっぴり悲しい。

「湊くん、相変わらずきれいな声だね」

 大きな石に座って、少年の歌う歌をハミングしていた少女は、笑いながら言った。それから、まじまじと少年を眺めた。

「湊くん、好きな人できたでしょ」

 顔に出てるよ、青春だねぇ。少女は、いたずらっぽく上目遣いで言った。少年は、とっくに花が散った葉桜の下で顔を赤く染めて、いねえよと反論するが、少女は、そんなことに構いもしない。何も望まず、言葉を放り出す。

「私にもいたよー、好きな人。少女漫画みたいにイケメンじゃなかったけど、素朴で優しい人。私、その人の声を聴くのが大好きだったんだよね」

 まあ、もう叶わぬ恋になっちゃったけど。少女は、石の上に落ちていた桜の葉に触れようとした手を引っ込め、俯いて悲しく笑った。

「湊くん、もっと、前向きに恋しなよ。悩むのもわかるけどさ、今しかできないんだから」

 少女のその言葉と同時に、五時を告げる音楽が流れた。少年は、スクールバッグを肩にかけ、ぼんやりとしていて何も映っていない瞳を桜に向けた。

「じゃあ、いつまで待てばいいんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る