それは桜の下で

藤原ピエロ

第1話


 「~♬♪」

 放課後の学校。裏庭に響く歌声は、透明で、無機質。

「湊くん、きれいな声だね」

 桜の木の下に無造作に置かれた大きな石に座っている少女は言った。紺色のセーラー服の赤いスカーフをいじりながら、歌を聴いている。

「新しいクラスで、友達できた?」

 少女がそう聞いても、少年は歌うことをやめない。ただ、満開の桜の木の下で歌う。もしもーし? 私の声聞こえませんでしたかー? 見えてますかー? 少女は少年の目の前で手を振った。すると少年は歌うのをやめて、「聞こえてるし見えてるわ、友達できなかったの察しろ」とげんなりしたように言った。 少女はそれでも明るく言った。

「せっかくいいところあるんだから、話しかけてみなって。絶対友達できるから」

 私はもう、そばにいられないんだから。少女が言うと、少年はそんなことないと言った。

「今、俺のそばにいるだろ。俺には鈴がいるだけで十分だ」

 まー、口がうまいこと。少女は少し驚いたように言ってから口元をほころばせた。


それからしばらくして、校舎の屋上に設置されたスピーカーから四時を知らせる音楽が流れた。

「暗くなっちゃうから帰ろう」

 スクールバッグを肩にかけた少年の瞳は、ぼんやりとしていて、何も映していなかった。少女は、少年を見て少し顔を陰らせつつ手を振った。

「またね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る