罪と記憶のはじまり
※最初は三人称視点で進みます。
「ぐあっ……!!」
『閉じられた世界』の中、現実を拒みたくなるような苦痛の声を上げながら彼はそれに耐えていた。
在りし日に好んで纏っていた少年の姿で、灰色の石畳に鮮血をまき散らしながら……。
御柱より与えられた神の眷属としての肉体は、遥か昔に死に絶えた。
本来は主である御柱と同様に、永遠を約束されていた器だったが……。
「うっ、……ハァ、ハァッ、……ぐ、ぁあっ、アアアアッ!!」
肉体と共に滅びるべきだった『魂』が哀しみの咆哮を上げる。
自分の意志以外からの『干渉』により形成された仮初の肉体は最早、ただ辛うじて生きているだけの屍に近かった。だが、グランヴァリアの始祖たる彼は自分でそれを癒す事も、外に助けを呼ぶこともせず、どうにか意識だけを保ちながら耐え続けている。
「はぁ、……ぐっ、ぅううっ」
始祖のいる空間には他に誰もおらず、彼の身に刻まれてゆく傷も、まるで自然に出来上がっていくかのようだった。何故、自分がこんな目に? ……そう思う心は微塵もない。
──何故なら、これは自分が望んだ事だからだ。
「ごほっ、……ごほっ、……はぁ、はぁ」
もう、無理だとわかっている……。
『彼女』は昔とは違う、別人のように変わってしまった。
自分がどんなに願おうと、在りし日の幸福が目の前に広がる事はなく……、そして、『時』も、迫っている。
「……ディー、ナっ」
不意に感じていた激痛がふっと和らぎ、始祖は這い蹲っていた身体を辛そうにしながら仰向けに変え、穏やかな夜空を見上げた。
「はぁ、はぁ……っ。……ディー、ナ」
もう、触れる事さえ出来ない……、愛しい、……愛しい、対(つい)のぬくもり。
あの時、『彼女』を見限らなければ、もっと時を重ねて……、話をしていれば。
考えれば考えるほど、後悔は重くのしかかり、始祖を苦しめる。
「私、は……、見ている、事しか、……出来ない、の、か」
空は全ての世界と繋がっている。
始祖がまだ情を残している『彼女』もこの空の向こう遠くで……、同じように、この美しい星の世界を見ているのかもしれない。
あぁ、出来る事ならば……、今すぐにでも、『彼女』の許に飛んで行きたい。
全てが手遅れになる前に……、大切な存在(もの)が全部、壊れてしまう前に。
「御柱、……様。お願い、……ですっ、……どうか、……どうかっ、……もう、一度っ」
何もしないで、ただ『彼女』自身に変化が訪れるのを待つだけでは駄目なのだ。
かつての仲間も、かつての伴侶も、『彼女』の傍には誰もいない。
(私と同じように……、魂の存在だけでこの世界に留まり……、『その時』を待つのみの……、罪人だ)
心から願っても、その資格がないと断じられる存在。
あぁ、朧げな意識の中で……、『声』が、響く。
『始祖!! 始祖!!』
……いや、違う。これは、違う。
始祖は満身創痍の身体で疲労の息を零し、声だけを『外』に届ける。
「うるさい……。今は、……忙しい。一ヶ月ほど、……時を、くれ」
『そう出来ないから訪ねている!! 詫びは後で幾らでもしよう。だから、道を開けてくれ!!』
グランヴァリアの現国王、アレス。
始祖にとっては自身の子孫であり、神の眷属としての自分に一番近しく……、そして、『原初の欠片』と共に生まれた者……。
彼の力になってやりたいのは山々だが、今の自分は傷だらけのただの役立たずだ。
回復にはある程度の時間がかかり、ついでに喋るのもきつい……。
だが、アレスがここまで焦りを滲ませているという事は、何か非常事態が起きたという事で……。
「うっ、……はふっ。すまん、……起きる力も、道を作る……、ことも、今の私には」
話を聞くべきだとわかってはいるが、もう、意識さえも──。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──Side レインクシェル
「陛下……、これもしかして、……始祖の身にも何か起きてるって事っすよね?」
グランヴァリア王宮の地下奥深く。
陛下の導きによって辿り着いたそこは、この時間に在るはずのない夜の世界。
真ん中に読み解く事のな難しい紋様がびっしりと陣になって描かれているクリスタルの柱と円形の大きな台地が広がっていた。
「始祖……」
「う~ん、声の調子からして、……まるで手負いの状態、みたいな感じですね~。確か昔にも……、同じような事が」
大して困り顔でもない様子で記憶を探っているのは、先代のグランヴァリア王こと、俺のじーさんだ。
閉じ籠っている始祖の説得、もしくは、道を開く為の人員として呼んだんだが……。
やっと応じてくれた始祖の声は弱々しく、まるで今にも死んじまいそうな様子だ。
一旦退くという手はない。どう考えても現状確認に突撃しなきゃなんねー展開だからな。
「陛下。こっちから道って作れないんですかね?」
「ない」
「は?」
「自分から道を作る必要などなく、国王であればいつでも出入り出来たからだ」
「全ては始祖殿の御心のままに、がマナーでしたからね~。ボクも昔、こんな感じで入れなかった事がありますが、まぁいっか、と思ってそのままにしておきましたから」
──この超絶役立たず二大王が!!!!!!!!!!!
緊急事態の時の為のマニュアルを何で作ってないんだ!!!!!!!!!!
「だって、国の一時代にや諸々の騒動事に関して、始祖殿に頼るという選択肢自体ないものと思って生きてきましたしね~」
「始祖殿はお役目を終えられた方だからな。俺達代々の国王は、あくまで話相手。……という立場で」
つまり、本来、始祖に何か頼るのはタブーってか?
じゃあ、何の為に始祖は魂状態で永い年月を留まってんだか、とツッコミたいところだが、今はそれどころじゃない。俺は声を張り上げ、始祖に呼びかける。
「根性出して道を開けってんだ!! クソジジィッ!!!!!!! 俺達だけの問題ならシカトぶっこくのも仕方ねぇがっ、今回は違うんだよ!! アンタの飼い主が絡んでるかもしんねぇんだよ!!」
『クソジジィッ!?!? あ、……無理、……ますます動く力がっ』
反応する部分が盛大に間違ってるだろうが!! 始祖のクソジジィ!!
しかも、俺は重要な事柄を一緒に伝えたっつーのに、ったく。
滅茶苦茶辛そうな呻き声も聞こえてくるし……、こりゃ、何が何でも強行突破しねーと。
「始祖殿に何というご無礼を……、はぁ。血ですかねぇ」
「いや、度胸の大きさは血だろうが、口の悪さは無関係かと……。しかし、今この場で退くのはクシェルの言う通り、なし、だな。……だが、始祖が道を開けられないとすると……、ん?」
「どうしました? アレス」
巨大な陣の真ん中で両腕を組んで悩んでいた陛下が、何か気になる音でも拾ったかのように周囲へと首を巡らせる。……陛下?
この、始祖の間へと通じる入り口ともいうべき場所に居るのは、俺達三人だけだ。
それ以外には、動物も、虫さえもいないってのに……、何が気になるんだ?
「……こう、か?」
「は? 陛下、何やってんすか?」
疑心暗鬼、って言やいいのか……。
珍しく困惑一色に染まっている顔で静かに人差し指を宙に浮かせた陛下が、……なんかよくわかんねぇ何かを描き始めた。道の開き方を思いつかなくて悩みまくった挙句の、のの字~……じゃねぇよな?
ジジィ、いや、先代の王も疑問を挟むでもなく、ただ黙って陛下の様子を見守っている。
たどたどしく綴られていた何かはやがて深紅の光を帯びて紋様を表して、ひとつの陣となっていく。
「なんだ、……あれ?」
グランヴァリアの国に伝わる文字でも、術に使う紋様でもない。
ただ、陣を形成する要素だって事しかわかんねぇが……、この空間に使われている紋様に近い、気も。
「ふふ。アレス自身、わかってませんよ、あれ」
「はぁ?」
わかってねーのにやってんのかよ。
……けど、陛下が完成させた陣が一気に巨大化したかと思うと、そのまま始祖の陣が描かれている円形の台地へと重なっていいき──。
「うぉっ!!」
全く違う紋様を描く二つの陣がひとつになったかと思うと、俺達の視界全てを激しい炎の奔流が呑み込んだ!
「くっ!! 陛下っ!! 目的と、ち、……ん?」
一瞬、空間全部が大炎上かと焦ったが、その激しい炎のうねりはすぐに消え去った。
身体に……、俺の中に、何か、……こっちの精神を力強く鼓舞するかのような感覚と熱を感じた気もするが。
咄嗟に顔や視界を庇っていた両腕を下ろすと、天空高くへと真っすぐに光の柱が陣から伸びていた。
「道が……、開いた、のか?」
「開いちゃいましたね~。まぁ、ボク達も神の眷属の血を引く者ですから、そういう奇跡? とかが起きてもおかしくはないでしょう。さ、早く始祖殿の許へ」
「そ、それは、そうなんだけど、……よ」
道が開けたのはいい。
だけど……、なんでこんなタイミング良く、道を開く術(すべ)を知らないと言っていた陛下が簡単にそれをやってのけたのか。
あの、深紅の光は何だったのか……、あの、俺達の知らない陣は……。
あの──。
「行くぞ」
道が開いた事に戸惑う事なく、こちらを一瞥した『真紅の双眸』。
見間違いかと瞼を擦った直後、もうその姿は光の柱の中へと消えていて……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──Side リシュナ
「お嬢さん、心を落ち着ける飲み物をどうぞ」
「お嬢さん、甘いお菓子はいかがですか?」
「お嬢さん、楽しい童話の読み物はどうでしょう?」
「えっと、……あの、……うぅっ」
右から、左から、ついでに斜め前から差し出される、至れり尽くせりの数々。
まるでお姫様のような扱いをされながら一人用の可愛らしい、けれど貴族のお屋敷にあるようなソファーに腰を据えながら、私は心から戸惑っていた。
貴族のお屋敷……、というか、多分、お金持ちさんである事は間違いのなさそうなこの大きなお屋敷に連れて来られてから一時間ほど。
私は変質者に攫われて変な事をされそうになっていた被害者という立場と認定され、所謂、保護をされている今日この頃。
背中に白く綺麗な翼を生やしているお兄さんやお姉さん達が楽しそうに、時に心配しながら私のお世話をしてくれているのだけど……。
──レゼルお兄様は何処に!?!?
何故か無抵抗で捕まったレゼルお兄様がどこにいるのか、聞くタイミングすら与えられず……、この状況だ。
心からの善意ばかりだから、水を差す事もなかなかに難しいし……。
ぱりっ、……もぐもぐもぐ。
「このクッキー、とっても美味しいです……!」
「それは良かった! 沢山ありますから、いっぱい食べてくださいね~」
「こちらのミルクティーも是非!」
しかし、……なんでこんなに手厚いもてなしを受けているんでしょうか、私は。
普通に子供を保護した、にしてはやけに可愛がられまくりパーティーな気が。
「それにしても、お嬢さんはよく似ておられますね~」
「はい?」
「この御髪の色合いもですけど、顔だちも……、どことなく『あの御方』に似ていらっしゃって」
うっとりと、両手を自分の頬に添えながら夢見心地で言った女性に首を傾げる。
私が、……誰に似ているんでしょうか?
そういえば、初めて私を前にした時のこの人達の反応にはよくわからない違和感があった。
変質者から助け出された少女に対する安堵と心配の情の他に、親しい人を垣間見たかのような。
薄々と感じてはいたけど、……なんとなく、嫌な予感もして、落ち着かない。
早くレゼルお兄様と合流したい。
ここにいる人達は良い人ばかりだけど、さっきから心臓が徐々に……。
「入るぞ!」
「保護した女の子の様子はどう? 少しはリラックス出来ているかしら?」
──ッ!!
高らかな宣言のように響いた少年と思われる声。
だけど、それよりも後に続いた可憐な声音の方が私の耳には大きく響いた気がした。
真っ白な色合いと金装飾が施されている両開きの扉が片側だけ大きく開く。
レゼルお兄様の後頭部に大きなタンコブを作ってくれた犯人、もとい、私を保護してくれたリーダー格の男の子が現れ、その後ろには……。
「あら、どうしたの? もしかして、変質者に襲われていた時の怖さを思い出しちゃったのかしら?」
「……っ。な、なんでも、あり、ま、せんっ」
私と同じ、薄紫色の真っ直ぐに長い髪。
早足で近づいてきた彼女に悪意や敵意の気配はなく、私の顔を覗き込み、本気で心配してくれているように思う。初めて会う人。初めて聞く声。
……だけど、ここが何処なのか、この人達が何者なのかわかっていながら、私は。
「仕方あるまいて。あのような不埒者に捕まっておったのだ。心の傷も深かろう」
「そうね。でも、もう大丈夫よ。悪い人は牢屋に入れてあるから、いっぱいお仕置きするし、もう一生会う事はないわ」
「…………」
とても優しい声音。
頭を撫でてくれる手つきはまるでお母さんのようなぬくもりを感じさせてくれる。
……なのに、……どうして、──ワタシハコノヒトヲコワガッテイルノ?
「ふむ……。相当怖い目に遭わされていたのだな。あの変質者とはいつから一緒にいたのだ? いや、どこから攫われて来たのだ? 自分の家、……いや、村や町、国でも良い。言えるか?」
息が、……苦しい。
薄紫色の髪の女性と同じように私へと近寄ってきた、漆黒色の髪を後頭部高くに束ねて流している男の子。
この子には、……この人には、何も恐怖を感じないのに。
今日初めて出会った女性にこんな、……自分がどれだけ失礼な反応を見せているか自覚しつつ、私はどうにか無理に笑顔を浮かべる。
「す、すみません……っ。ちょ、ちょっと、……疲れて、しまって」
「あぁ、無理なんてしなくていいのよ。可哀想に……。トラウマが出来てしまって、可愛らしいお顔が引き攣ってしまっているわ」
「まったく、許しがたい変質者だ!! このような幼子に一体どれだけの不埒を働いたのかっ!!」
「ち、違いますっ!! ……れ、レゼルお兄様はっ、──ちょっと変態入ってるかもしれませんけど、私の自慢のお兄様です!!」
「「「「「──っ!?!?!?」」」」」
怖くて堪らないのに、震えまで覚えて息が苦しいのに……、私は咄嗟に力を込めて叫んでいた。
その場にいた皆さんが目をまんまるく見開いて、ぎょっとしている。
「今、なんと言ったか?」
「お兄様です。私のお兄様なんです!!」
「え~……、と。変質者、……って、聞いたのだけど、……グラン?」
とんでもない勘違いが起きている。
いち早く察してくれた、やっぱり今も怖い……、薄紫髪の女性が、気まずそうに隣の少年を見る。
グランと呼ばれ、少年がフリーズした表情のまま……、あ、首がギギッとなってお外に視線が。
「へ、変質者に……、ま、間違いは、ない、はず、なんだが……、あ~、その、……え~と」
「レゼルお兄様は、私に対して愛情表現が変態じみているだけです。……誤解させたのは、申し訳ないですけど」
「グ~ラ~ン~?」
「あはっ、あはははははっ!! ……すまぬ。私の勘違いだったようだ!! あははははははははっ!!」
勘違いで人のお兄様を牢屋に……。
あ、でも、レゼルお兄様はよく警備隊の人達に捕まって牢屋に入ったりもするから、……うん、大丈夫。
だけど、必死に自分の失敗を誤魔化そうとするグランさんに居た堪れない視線が集まりだしたその最中。
どこか遠くから、
──ドォオオオオオオオオオオオオオン!!
『リシュナぁあああああっ!! リシュナあああああああっ!!』
凄いです。かなり遠くからの声であるはずなのに、ハッキリ内容が聞こえます。
どちらがメインなのかわからない爆発音があちらそちらで起こっているようで、牢屋から脱出してきたレゼルお兄様の怒声と一緒に何度も何度も……。
「ディーナ……。これは、……かなり」
「不味いに決まっているでしょう……。はぁ、……一体どれだけの建物や施設が破壊されているのかしら。……頭が痛くなってきたわ」
「「「グラン・ファレアス様!! げ、迎撃しますか? それともっ」」」
私が保護されているこの天上の世界。
御柱様がいらっしゃるという、神と神の眷属達の住処はとても広大で……。
牢屋がどこの施設にあったのかはわからないけれど、レゼルお兄様が近くに来ている。
音はどんどんこちらへと迫ってきており、グランさんの冷や汗の度合いが酷くなっていく。
多分、言い訳を考えているのだろう。必死に。
「よ、良い。私が直接会って話と謝罪を──」
──ドォオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!
「きゃあっ!!」
「「「うわああっ!!」」」
「「「きゃああっ!!」」」
騒がしかった外が一瞬だけ静寂を覚えた、その直後の事だった。
私達のいる部屋の天井が何かの圧と衝撃を受けたかのように凄まじい音を轟かせて──。
「リシュナ!!」
咄嗟に頭を抱えて絨毯にしゃがみ込んだ私の真上に、誰かが覆い被さる気配がした。
それが誰なのか知る前に響いたレゼルお兄様の必死な声。
広範囲だと思われる激しい埃の勢いがもくもくと室内を満たしていたけれど、私はそちらに向かって必死に手を伸ばす。
「レゼルお兄様……っ!! けほっけほっ!!」
「リシュナ!! そっちか!!」
私の位置を正しく把握する為にぶわりと風を起こしたレゼルお兄様が、ハッキリと映った視界に私を確認する。
すると、私に覆い被さっている誰かに向かって、
「リシュナから離れろ!!」
「させぬ!!」
緊張にざわめく場に鋭い音が響く。
武器の類が放つその打ち合いの音に、私は止めなければと誰かの懐から抜け出そうと身を捩る。
「こほっ、こほっ……。あ、まだ駄目よっ、危ないからっ」
「え……っ」
この優しい声音は、ディーナ、さん?
まさか、自分が怖がっている相手から庇われているなんて……。
でも、時間が経ってきたからか、少しずつ……、心の動揺や恐怖が薄らいできた気もする。
それに、私を自分の腕に抱き込むように庇いながら上半身を起こしたディーナさんの瞳の真摯さに、私の中で別の感情が湧き上がる。──この人は、信用出来る人だ。
「落ち着けと言っているだろう!! そなたをド変質者と勘違いした事は詫びる!! 妹御を勝手に保護してしまった事も!! だから、いい加減に落ち着け!!」
「うるさい!! 人をまるで犯罪者の如く、ド変態のド変質者だの、クソロリコン野郎だの言いやがって!! 俺が激しく胸キュンするのは子供にじゃない!! 可愛い妹のリシュナにだけだ!!」
「貴様っ!! やっぱり末期のドシスコンではないか!! 十分罪人の域に達しておるわ!! ド阿呆が!!」
……痛い。痛い。……物凄く、ドン引き状態で自分の兄がイタイ!!!!!
妹を、私を大切に想ってくれるのは有難いけれど、私も含め、室内の皆さんがドン引き以上にドン引いてますよ!! レゼルお兄様の大馬鹿者!!
「リシュナちゃん……。もう一度聞くのだけど、……あの方、本当に、お兄さん?」
「義理、ですが……。すみません、神様の世界でまで恥を晒す兄で……」
げっそり。
普通にカッコよく助けてくれるならともなく、……この現状は、ちょっと。
「ふふ……。義理だけど、仲良しさんなのね」
「一応、……仲良し、さんだと……、あ」
少しだけどこの人に覚え始めている信頼感と、……この胸のあたたかさは。
「ディーナさんは……、私の知っている人に、似ている気がします」
「あら。それは貴方の好きな人かしら?」
「はい。まだ知り合ったばかりですが、……私の伯母さんに、よく似ています。可愛らしくて、優しいところが」
そして、徐々に悟り始める。
今、レゼルお兄様と得物を手に攻防を繰り広げているあのグランさんの別の名前、グラン・ファレアス、と呼ばれた事実から、今私の傍にいるこの女性の正体も。
かつて、神の眷属としてこの天上に在った、後(のち)の時代に袂を分かつ二人。
「ディーナさん、……グランさんは、貴女の」
「ええ。夫よ」
「…………」
慈愛に満ちたその顔が、心が、……歪む日を知っているからか。
ロシュ・ディアナの始祖である彼女の微笑みとぬくもりに対して初めて覚えた感情は……、──胸を締め付けるような、深い、哀しみ。
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