悪夢を溶かす、その腕のぬくもり……。


 ――Side リシュナ



「――ッ!!」


 眠っている最中に、突然覚醒した私の意識。

 本能的に身体が動き、ベッドの上で跳ね起きた私は、一瞬、息も出来ない程の圧迫感を喉に感じていた。

 誰かに首を絞められていたかのような……、酷く、酷く、不快な後味。

 少しずつ戻ってくる呼吸に早足で肩を上下させ、毛布の表面をぐっと縋るように握り締める。

 

「……あれ、は」


 自分の喉元に手を当て、……眉を顰める。

 そうだ……、私は、夢を、……見たくもない、永遠に忘れてしまいたい……あの頃の、記憶を。

 

「はぁ、……はぁ、……はぁ」


 どんなに幸せであろうと、決して消える事はなかった……、過去の、悪夢。

 それは時折、夢という世界の中で私を苦しめ、時に、……亡くなった大切な家族の姿で私を責め苛む事もあった。だけど、……本当に、滅多に見る事はなくなっていたのに。

 今夜の夢は、あまりに生々しく、私の心をあの牢獄にもう一度閉じ込めてしまうかのようだった。


「い、……ゃぁ」


 か細い、恐怖に満ちた声が零れ落ちる。

 ……たく、ない。今……、一人で、ここに、……いやっ、嫌っ!!

 震える足が、焦りを抱きながらベッドの外に向かう。

 冷たい床の感触さえも怖くて堪らないけれど、今は一刻も早く外に出たい。

 

「……ま、……レゼ、……ル、……お兄、……さ、ッ」


 改築された家の中は三年前よりも広い。

 大勢で暮らすには住みやすい仕様だけど……、廊下の向こうに広がる暗闇が、私を喰らおうと大口を開けている化け物に見えてしまうぐらい、今の私にはその広さが仇となっている。

 いつもなら、屋内をほんのりと優しく照らしてくれている魔術道具が天井に在ったのに……。

 そうだ。二日前にその魔術道具が壊れ、今は修理中で……。だから、この、怖いほどの闇に包まれているのか。


「……ッ!」


 それでも、階段を下りた向こう側の……、あの人の許に行きたいと、足が急ぐ。

 早く、早く……、早く!!


「……」


 だけど、レゼルお兄様の部屋の前に辿り着いた私の手は、その扉をノックする事を躊躇った。

 ……あれから、もう三年の月日が経った。

 レゼルお兄様達のお陰で、私はもう一度家族というものを得て、幸せな日々を過ごし、溢れんばかりの愛情を注がれて、そして。

 あぁ、……やっぱり、私は子供だ。レゼルお兄様の言う通り、大人になるには、まだまだ、早すぎる。

 たかが悪夢を見たぐらいで、兄に縋ろうとしている自分。

 こんなにも幸せにして貰ったのに、これ以上の何を求めようというのか。

 不安や恐れぐらい、自分で対処しなくては……。

 扉の表面に触れようとしていた拳を引っ込め、私は闇の中をゆっくりと歩きながら、階下に向かう事にした。

 皆で寛ぐ一階に辿り着くと、キッチンのテーブルに簡易的な灯具(とうぐ)がひとつだけ、ぽつんと。

 今、修理に出しているメインの魔術道具が直るまでの予備だけど、その小さな灯に、どうしようもなく、心が安堵するのを感じてしまう。

 私はキッチンでお湯を沸かし、愛用のココアを自分専用のマグカップで作ってからリビングのソファーに腰を落ち着けた。勿論、キッチンテーブルの灯具も一緒に連れて。


「ふぅ……」


 両足をソファーに乗せ、膝を揃えながら自分の身体を両手で包み込み、ココアを飲む。

 寒い……、寒い……。もう春なのに、どうして……、こんなにも身体が、……心が、凍りついてしまいそうなほどに、寒いのだろう。

 ココアの熱くて甘い感触も、口内でどんどん冷えて……、飲み下すと、氷のように感じられる。

 気のせいだとわかっているのに、何故、そう感じてしまうのだろう。


「はぁ……、くっ」


 かつて、私を暗い牢獄に閉じ込めていた人達の記憶。

 まるで今、あの場所にいるかのように、捕われ、もう一度、放り込まれたかのように……。

 

「いや……、いやぁっ」


 戻りたくない。捕まりたくないっ。――もう二度と、あんな目にはっ!!

 もしも、あの人達に見つかり連れ戻されたら、……違う、そうじゃないっ。

 私のせいで、レゼルお兄様があの人達に酷い事でもされたら……!!

 目の前で、大切な人達をもう一度、失ってしまったら……っ。


「ぅ、……っ、くっ、……いゃぁ、……いやっ、やめ、……ぅうっ」


 レゼルお兄様達を失うくらいなら、あの牢獄に戻って孤独な日々を過ごす方が何千倍もマシだ。

 だって、たとえ捕われの身になったとしても、外の世界で大切な人達が生きているとわかっていれば、それは私の希望になる。どんな仕打ちを受けても、決してこの心が死ぬ事はない。

 

「レゼルお兄様……」


 どうして、いつも不安になった時、あの人の名前を口にしてしまうのだろう。

 命を助けられたから? 絶望から救ってくれたから? 自分を、本当の妹のように、愛してくれるから?


「レゼル……」


 ――お兄様、と、音を続けようとした時だった。

 変に間を空けてしまったからだろうか? 初めて、あの人を呼び捨てにしてしまった事に胸の鼓動がトクン……、と、少しだけ大きく響いたのを感じた瞬間。


「なんだ? リシュナ」


「え?」


 耳元のすぐ近くで優しく囁かれた低い音。

 寒さと不安に震える私の小さな身体を包み込んだ、大きなぬくもり。

 突然の事に目を見開いた私は、毛布と一緒にまわされた腕の感触に驚きながら、後ろを振り返ろうとして……。


「毛布よりもあったかい、サービス満点なお兄様の到着だ」


「レゼル、……お兄、様?」


「ふぅ……。まだ肌寒さは残ってるからなぁ。あ~、寒い寒い。今夜は特に冷える。だから、お前の大好きなレゼルお兄様は抱き枕が欲しくてしょうがない。よいせっと」


「え? きゃっ」


 素早くマグカップを奪われ、テーブルの上に置かれてしまった私は、意味がわからずにパチパチと目を瞬いている最中に抱き上げられてしまう。

 縋りたくて、この冷たくなってしまった心を抱き締めてほしいと願っていた、世界で一番のぬくもりに。

 レゼルお兄様は毛布で包んだ私を横抱きにし、ニヤリと微笑んでくる。


「ふふん。今夜の抱き枕はこの可愛いお姫様様にしよう!」


「なっ! ちょっ、れ、レゼル、お兄様っ!! な、何を言ってるんですかっ」


「寒いから暖をとるのは当たり前だろう? で、お前が一番あったかい。よし、部屋に戻るぞ~」


「へ、変態っ!! じゅ、十七にもなった妹に添い寝するなんてっ、きゃっ、れ、レゼルお兄様っ」


「違うなぁ。俺は寒くてしょうがないから、お子様体温のお前を有効活用するだけだ。あぁ、やっぱあったかいなぁ~、妹抱き枕万歳!」


 何が妹抱き枕万歳ですか!!

 急に現れて、……か、勝手に、抱き枕目的で、自分の部屋に攫って行くなんてっ。

 へ、変態!! 変態ですよ!! この人は!! お年頃の妹のデリカシーも考えないで添い寝、とかっ。

 だけど、残念な事に、このお兄様は有言実行型の困った人。

 腕の中で暴れる私をしっかりと抱き直し、


「一緒に良い夢見ような~」


 なんてご機嫌な調子で微笑みながら、私の額にキスを落としてくる。

 あぁ、単純だ。本当に、私はまだまだ、まだまだまだ!! ……お子様だ。

 レゼルお兄様のぬくもりとキスひとつで動きを止め、好きにさせてしまう。

 わざとだ……。絶対にこの人は、私の状態を見抜いて、私が素直に甘えられるように……、うぅっ。

 お互いにわかっているけれど、それを口にする事はない。


「明日はゆっくり出来るからな。二人で少しだけお寝坊さんするのもいいと思わないか? なぁ、リシュナ」


「むぅ……。朝一で、警備隊に突き出してあげます。……おやすみなさい」


「警備隊か~。じゃあ、そいつらに通報されないよう、明日はお姫様の買い物にでも繰り出すかな? ふふ、おやすみ、リシュナ」


「……」


 茶化す声音に答えず、ぎゅっと瞼を閉じる。

 ……この腕の中なら、安心してゆっくり眠れる。怖い夢も、恐ろしい未来を考える事も、全部、消え去っていく。私の背中を優しく撫でてくれる大きな手のひらのぬくもり。

 瞼を閉じていても伝わってくる、レゼルお兄様の労りと優しさの視線。

 必要以上に甘えてはいけないと、毎日自分を戒めているのに……、どんどん私を駄目な子にしてしまう人。

 これも一種の、囚われている状態、というのだろうか?

 初めて出会ったあの時から、飼われている小鳥のように甘やかされて、鳥籠の外に逃げ出す気さえ全部奪い去ってしまうほどに……、この人の存在は、とても厄介になった。

 最初からそうだったけど、三年経った今では、さらに面倒で、……罪深い存在だ、と感じている。

 前にお友達から、レゼルお兄様はシスコンだね~と茶化されたけれど、私も同じなのだろう。

 

「はぁ~……、どうやったらこの頑固すぎる妹に、――甘え癖をつけられるんだろうなぁ。困った困った」


 ……レゼルお兄様の、呆れ気味の怖い本音。

 これ以上甘やかす? 甘え癖をつける? 後半の声音がやけに本気すぎて怖い!

 夢の中に溶け込んでいく意識の中でそれを聞きつけた私は、自分の心に訂正を入れる。

 やっぱり、ブラコンになんかなっちゃ駄目だ。これ以上の甘やかしは、毒以外の何物でもないのだから。

 むしろ、このままレゼルお兄様の術中にハマり続けていたら、いずれ本当に自立出来ないどころか、この人から離れていく事さえ出来なくなってしまう!!

 

「……ん、にゃ、……自立、……しま、……ふにゅぅ」


「ほぉ~……。お兄様の惜しみない愛情から逃げる気か? ふふ、よぉ~し、可愛い妹を幸せにしよう大作戦のレベルをもう少し上げるとしよう。ふふ、ふふふふふ、ほれ、ほれ、リシュナはレゼルお兄様に毎日甘えたくな~る、甘えたくな~る」


「うぅ……っ」


 そうやってレゼルお兄様が私を抱き締めながら人のほっぺをぷにぷにと突(っつ)き、恐ろしい呪い? をかけている事にうっすらと悪寒を感じつつ、私はぐっすりと眠りこんでいった。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――Side レゼルクォーツ



「――レゼル、レゼルクォーツ」


「……ん? あぁ、なんだ?」


 深夜の王都巡回中、ぼーっとしていた俺はフェガリオの声で我に返った。

 ファル兄貴の訪問からもう二週間が経つ。

 そして……、リシュナが一人で過去の悪夢に怯え、震えていたあの夜から、五日ほど。

 もう兄妹いう関係を結んで三年の月日が経つが、相変わらず、あの妹は甘える事が下手すぎる。

 怖い夢を見たんだろう? だから、俺の部屋に来たんだろう?

 なのに、なのに……っ、――頼らずに意地を張るってのはどういう事だっ!? おいっ。

 いや、リシュナの事だ。俺に甘えてちゃ駄目だとか、そういう方面に突っ走ってる事はわかる。

 わかる、……がっ!! 


「くそ……っ」


「レゼル、無抵抗になった奴に当たるのはやめておけ……。後で面倒だ」


「うるせぇ……。何人もの血を強制搾取するような下種(ゲス)に何の温情をかけろってんだ」


 路地裏で捕獲し、踏ん縛って地面に転がした違反者。

 その額をべしべしと叩く俺に苦言を呈したフェガリオに返したのは、八つ当たり同然の不機嫌顔だ。

 定期的に王都内を巡回する目的は、こちら側で悪さをしている吸血鬼(同族)や、無許可で来ている奴を捕獲し、グランヴァリアへと強制送還する為だが……。

 それとは別に……、リシュナを狙って、ロシュ・ディアナ側の刺客や関係者が入り込んでいないかどうかを確かめる為でもある。三年の月日を平穏に過ごせたからといって、水面下で何かが起きていない、とも限らないしな。たまにそれ以外の変質者が引っかかる事もあるが、まぁ、それは全力でボコるからよしだ。


「この前の……、リシュナの件か?」


「…………」


 家の中、いや、外の気配にさえも、俺達は眠っていようと敏感だ。

 五日前にリシュナが一人、孤独や恐怖に耐えようとしていた事、俺達の部屋が並ぶ廊下で少しの間立ち尽くしていた事も、フェガリオは全部わかっている。

 対処しなかったのは、その役を俺に渡す為だ。

 リシュナに対して動くのは俺の役目、というか……、俺がそうしたいと望んでいる事を承知した上での気遣いなんだろうな。


「何も起きていない事が、逆にリシュナを不安にさせているのかもしれないな……」


 違反者を肩に担ぎ、グランヴァリアへの道を開き始めたフェガリオの隣に並び、頷く。

 何も起きていない。平和すぎる事が、不安、か……。その通りだろうな。

 過去のトラウマもあるだろうが、今が平穏過ぎれば、未来に不安を抱くのもわかる。

 幸せすぎて怖い、という決まり文句があるように、リシュナの心もそうなんだろう……。


「だが、陛下がロシュ・ディアナ側と話をつけてくだされば、リシュナにも本当の平穏が訪れる」


「どうだろうな……。他種族を自分達よりも劣ると決めつけて、引きこもりまっしぐらのお高くとまってる種族だぞ? ……リシュナを散々苦しめたような奴らだ。慈愛深い、物分かりの良い種族性のわけがない」


 心底嫌悪し、憎悪を滲ませる音を吐き出し、俺は頭上の空を見上げた。

 いつもと変わりない輝き、雲の片鱗さえ見えない清々しさ……。

 だが、俺の心は晴れやかとは程遠い。

 もし、ロシュ・ディアナ側がグランヴァリアからの要請に応じ、話の場を設けたとしても……。

 俺に、リシュナを傷付けた奴らを許す気は端(はな)からない。

 たとえ、そいつらが頭を下げたとしても、リシュナに心から詫びたとしても、――絶対に。


「……レゼル、仮にそうだとしても、だ。他種族との国交にも秀でていらっしゃる陛下と宰相閣下を信じろ。リシュナが幸せになれるよう、尽力してくださる」


 リシュナが幸せになれるように、行方不明の母親と再会し、幸せな日々を……。

 俺の怒りを宥めようと言葉を重ねてくるフェガリオに、ふと、俺はある事に疑問を抱き、口を開いた。


「なぁ……。もし、陛下がロシュ・ディアナ側との話し合いを成功させて、リシュナの母親を、見つけ出せたとして、だ」


「ん?」


「……母親と再会出来たら、母親が、リシュナを受け入れてくれたら」


 ――リシュナは、どうするんだ?

 当たり前のようにあった『答え』を、俺は何故……、今まで忘れていたのだろうか。


「家族で暮らすのが当然だろう? 母親側か、……宰相閣下と三人で、レゼル?」


 ――家族水入らずの、幸福な、生活。

 リシュナが母親と、家族と暮らす道を選んだら、……いや、それ以外に答えなんかないだろう。

 無事に事が終われば、リシュナは家族の許に行き、……俺達の手を、離れる。


「…………」


 引き渡しの手続きをしながら、俺の方を窺うフェガリオが何度か声をかけてきたようだが、俺の思考は時が止まったかのように凍りついている。

 リシュナが家族との幸せを手に入れる、という事は……。――。


「御苦労。新しい手配書を渡しておくから、引き続き……、レゼル? レゼルクォーツ? どうした?」


「…………」


「おい……、おいっ!! レゼル! レイズフォード様の前で何をやっているっ!? レゼル!!」


「痛っ!! ……つぅぅっ、……な、何だっ?」


 突然頭上に落ちた落雷の如き一撃。

 力いっぱいの拳骨を人に打ち込んできた声に顔を上げたところで……、俺は自分の状態に気付いた。

 おかしい。ついさっきまで、フェガリオの隣で普通に立っていたのに、今は地面に屈みこんでいる。

 呆れきった冷たい視線のフェガリオと、溜息を零す宰相殿……。


「あれ? 宰相殿、いつ来たんだ?」


「お前がそこにしゃがみ込み、よくわからん事をボソボソ呟き始める前からだ。申し訳ありません、レイズフォード様」


「いや、仕事は全て完了している。その上でならば、特に問題はない、……と、思うが。なんだ? レゼルクォーツ、何か言いたい事がありそうな顔をしているが」


「……なぁ、宰相殿」


 何を聞きたい? 何を言いたい?

 自分でもよくわからず、まるで迷子のような、頼りなげな音を発した俺に、宰相殿が続きを促す。

 

「その……、ひとつ、聞きたいんだが」


「なんだ?」


「アンタは……、……あ~、その、……そ、そうだ!!」


 悩みに悩んだ挙句、わかりきった答えを避ける為、俺はわざとお茶目な笑顔を浮かべ、宰相殿にドストレートな質問をぶつけるに至った。


「へ、陛下から聞いたんだが、ちっさい頃に無理やり女装させられて、すっげぇモテたってほん、――ぐはぁああああああっ!!」


「秘密を知る者は、それをみだりに口にしない事だ。墓場送りになりたくなければな……」


 当然、こんな事を言えば、鞭が飛んでくるのはわかってた。わかってたさ!!

 けど……、冗談で言った苦し紛れのすり替え話がまさか……、ぐっ、あ、当たっていた、とはっ。

 トドメにもう一撃打たれ、俺は地面に這い蹲る運命を辿ったが、さらにトドメの一撃が俺の背中に加わり、宰相殿の靴底の裏で存分に踏まれてしまった。

 くぅううううっ!! 本当に女装したのかよ!! モテモテだったのかよ!! このヘタレ繊細子猫宰相!!

 今度、陛下に頼んで、弱味になりそうな当時の証拠品かなんか、絶対にGETしてきてやるぅううっ!!


「れ、レイズフォード様……っ、お怒りになるのは当然ですが、あの、あまり騒々しくなされてはっ」


「結界を張ればいいだけの話だ。レゼルクォーツ……、今夜はグランヴァリアで夜を明かすといい。上官と伯父へのあるべき礼儀を……、徹底的に仕込んでやる」


「ぐぅうううっ!! 嫌だぁああっ!! 俺は帰るっ!! 可愛い妹の許へっ!! ぐふっ、げふっ、うごぉおっ!! 俺はっ、帰るんだぁあああああっ!!」


「はぁ……」


 地を這いながらも抵抗する俺に、勿論、制裁の猛攻は激化していくわけだが……。

 フェガリオの疲れ切った溜息を聞き取りながら、俺は逆に良かったんじゃないかと、そう思っていた。

 宰相殿と夜通し戦(や)り合う方が、何倍もマシだ。……余計な事が全部、頭の中から消え去ってくれる。

 そういう意味では、この自業自得の果ての結果も……、俺にとってはある種の救いだった。

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