グランヴァリア王との謁見
――Side リシュナ
「――あの、これは一体」
「「「「……」」」」
レゼルお兄様達に連れられてやって来た、グランヴァリアの国王陛下との謁見に使われる間。
上品に控えの姿勢を取っている女官さん達や、有事の際にはすぐ動けるように緊張感を持っている騎士の人達。
豪奢な玉座に続く、長い長い、深紅の美しい絨毯が織りなす道のり。
……と、謁見の間に対する私の印象は、御伽噺や、イメージする王様達の生活空間とあまり違いはなく、それには納得出来たのだけど。
「なんで皆さん……、踊っているんでしょうか?」
「リシュナ、しぃー、しぃー、だ」
謁見の間に入ってからすぐ、女官さんの一人に場所を隅の方に移動させられた私達は、突然真っ暗になった空間に驚きながら、――またすぐにそれ以上の驚きに襲われる事になった。
どこからともなく響きだした美しい音色。高く、高く、よく伸びる、綺麗な女性の高音が紡ぐ歌声。
謁見の間の入り口にパッ! と、スポットライトが当たり、続々と男女一組のペアが入場し始め、歌にダンスと、全く交わらない関係性の事態が発生。
そして、この広い空間の中を埋め尽くすほどの人が溢れ、歌と踊りが山場を迎えた頃……。
全ての音が消え去り、場から光が完全に消えた。……意図的に作られた、ひとときの静寂。
そう感じたのは間違いじゃなかった。
伴奏なしで再び始まった、力強い音の中に男性的な色香を纏いながら響いてゆく低い歌声。
突然乱入してきた誰よりも煌びやかな衣装と、その双眸を隠す仮面を着けている一人の男性。
「あの」
「しぃー、だ。リシュナ」
「……はぃ」
今度はフェガリオお兄様に注意されてしまった。
暗黙の了解よろしく、この意味不明な事態は、どうやら私以外の誰もが受け入れている事らしい。
あの仮面の男性は……、所謂、主役扱い、というものだろうか?
ダンス集団の皆さんがその男性に向かって小さく頭を下げるようにしながら、道を開く。
男性が歌声を響かせながら絨毯の道を歩き始めると、また綺麗な高音と低音のハーモニーがひとつに溶け合い、踊りが再開される。……もう、意味がわかるようでわからない。
この類の催し物? は、レゼルお兄様に一度、王都の劇場に連れて行って貰ったから知っているけれど、それを何で、ここでやっているのか、まずそこが第一の謎だった。
だけど、口を挟む事は許されていないらしく、レゼルお兄様から「終わるまで静かに待ってような」と、苦笑交じりに視線で言い含められた気がして……。
主役格の男性が後から登場した美しい女性とダンスを踊り終えてから、ようやく息を吐(つ)ける時が訪れたのだった。
「はぁ……」
劇場に最初からそれ目当てで出掛けていたのなら、きっと夢中になって楽しめた事だろう。
謁見の間からまた踊るような足取りで退場していく夢の世界の住人達。
その姿を見送り、一人だけ場に残った役者さん? に、私は観察の目を向けた。
仮面で双眸は隠されているけれど、ずっと既視感を覚えていた相手。
その人はニッと、面白そうな笑みを浮かべると、私の目の前に来て、優雅に一礼してみせた。
「楽しんで頂けたかな? レゼルクォーツ、フェガリオの姫君よ」
「……えいっ」
確信を持って剥ぎ取った仮面。
フェガリオお兄様がぎょっとして私の名前を呼んだけれど、仮面を取られた男性はまったく不機嫌になっていない。――大図書館で出会った時と同じく、余裕感に溢れている。
「大図書館で会ったお兄さんです」
「ははっ。正解だ。何が起きようと自分を見失わず、真実を見極められるお前は、聡い子だな。よしよし」
「んっ。……あの、貴方がグランヴァリアの国王陛下で、会ってますか?」
「ふふ。国王との謁見が叶うこの場で好き勝手にやれる存在は、確かに限られるな。正解だ。サービスで膝抱っこをしてやろう」
「ご遠慮します」
頭を撫でられる事自体が子供扱いなのに、今度は膝抱っこ。
私をひょいっと抱え上げようとした国王様にお断りを入れて、すぐにレゼルお兄様の傍に避難する。
いまだ顔を上げきれないお子様達は、可哀想な事に恐怖に震えてばかりだ。
「ふむ。子供は傍においておくと和むんだがな?」
「陛下、レゼルの養い子は十四の齢を数えております。あまり子供扱いをしては失礼にあたりますよ」
残念そうに微笑を零した国王陛下は玉座に座り、元の位置に戻った私へと手招きをしてくる。
大図書館で言葉を交わした気さくなお兄さんと、今見ている目の前の偉い人は、間違いなく同一人物。
吸血鬼の王様というのだから、余程の怖さを纏う人なのだろうと思っていただけに、……かなり、拍子抜けしてしまった。物凄く愛想の良いフレンドリーさだ。
レイズフォード様に冷たい目を向けられても、全然へこまない図太さもある。
「レゼルお兄様、本当にあの愉快な人が国王陛下ですか?」
「あぁ。残念ながらな。どこぞの看板役者よろしく、国王に相応しくないあのキラッキラした服を着てる人が、このグランヴァリアの国王陛下だ。どうだ? 気が抜けるだろう?」
「はい。物凄く気が抜けるというか、私の期待と緊張を返してほしいところです」
しかも、玉座の周囲には大量の薔薇が溢れ返っていて、美丈夫と表現してもいい程に美しい国王様を派手に演出している。薔薇とコラボレーションしているのか、黒い羽根も沢山散っている。
コンセプトがよくわからない……。
ナルシストの気(け)でもあるのだろうかと、残念な人を見る目で国王陛下を見据えた私の背後から、今度は子供姿のレインクシェルさんがひょっこりと顔を出してきた。
「違いますよ~。陛下はノリの良い方なだけなんですよ~。お茶目さんで懐が深く、大抵の事は笑って許してくれるんです~」
「だが、陛下の逆鱗に触れれば……、恐ろしい支配者の面を見る事になるぞ」
ちゃっかりと、私の腕にしがみついているレインクシェルさんをフェガリオお兄様が真顔で引き剥がし、無礼をしないに越した事はないと教えてくれる。
確かに、一国の王様が愛想の良いお茶目な面だけでやっているわけもない。
その証拠に、お子様達が国王陛下から何かを感じているのか、涙まで零し始めている。
「うぅっ……。怖ぇ……、帰りてぇよぉ」
「この恐ろしくも甘美な力の気配……っ、わたし達のような卑小な者には、あぁっ、顔を上げる事も出来ませんっ」
「怖い……、喰われる……」
私には何も感じられないけれど、このお子様達の怯え方は異常だ。
吸血鬼にしか感じられない何かが、あの国王陛下にはあるのだろう。
私は一歩前に出ると、これではお子様達が謁見中に意識を失いかねないと判断し、国王陛下にあるお願いをする事にした。
「国王陛下、申し訳ありませんが、この子達が怖がらないように何とか出来ませんか?」
「ははっ、これでも力を抑えているつもりなんだがな?」
自分の力の気配がどうこう、というよりは、お子様達の王に対する本能的な恐怖感が大きく働いているせいではないか? 国王陛下は苦笑しながらそう語ると、あまりに怯えの酷いお子様達を控えている女官さん達に任せ、謁見の続きを促してきた。
「では、改めて名乗らせて貰おうか。俺はこのグランヴァリアの王、アレス・フェルヴディーグ・グランヴァリアだ。レゼルクォーツ、そして、フェガリオの養い子よ。歓迎させて貰うぞ」
国王陛下からの愛嬌たっぷりウインクから飛んできたハートマーク、多分幻でしかないそれをレゼルお兄様がすかさず幻影バットで打ち返してくれた。
……やっぱり、目の前のお兄さんが本当にグランヴァリアの国王陛下かどうか怪しくなってきた気がする。あまりにも緩いというか、油断を誘う為の罠だったとしても、緊張感を保てなくて困ってしまう。フェガリオお兄様やレインクシェルさん達は慣れっこのようだけど。
私は溜息を零すと、一歩前に出た。
「グランヴァリアの国王陛下様、お初にお目にかかります。グラン・シュヴァリエ、レゼルクォーツ、フェガリオの養女、リシュナと申します。ご拝謁叶いました事、至上の喜びにございます」
フェガリオお兄様お手製の、可愛らしい気合の入った洋服のスカートの端を指先で摘み、私は国王陛下に習った通りの挨拶を丁寧な一礼と共に向けた。
国王陛下に会う前は、一定以上の緊張感があったというのに、今度はその緊張を作るのに苦労しているとは皮肉な話だ。
よく出来ましたとばかりに、レゼルお兄様とフェガリオお兄様が交互に頭を撫でてくれた。
「上手く躾けてあるようだな……。レイズ、どうだ? 将来が楽しみな娘だろう?」
「そのようですね……。元々、レゼルクォーツは子供を養い育てる事に秀でていますし、今度も問題ないでしょう」
「ふむ。お前は相変わらず反応が生真面目だな。だが、リシュナは年を経れば美しい大人の娘へと成長しそうだぞ? ――婿候補が殺到する事だろうなぁ?」
意味深に口端を上げた国王陛下からの挑発めいた物言いに、宰相であるレイズフォード様が気分を害したように片眉を顰めるのが見えた。
将来を期待され褒められる事に気分を害する事はないけれど……、あの二人の間で散っている激しい水面下の火花は一体……。一方的にレイズフォード様がからかわれている感じではあるけれど。
「気にしないでいいぞ~、リシュナ。あの二人はいつもあんな感じだからな」
「ですが……、お二人があのまま愉快なじゃれ合いをなさっていては、話が進みませんよ?」
玉座の間に控えている人達に止める意思はないらしく、目の前では麗しい見目の二人が延々と楽しげな言い合いを……。
レインクシェルさん曰く、あの二人は血の繋がった兄弟らしく、よくああやって交流を図っているのだそうだ。で、今回は私の事をネタに仲睦まじく……。
けれど、何故私の将来のお婿さんをネタにからかわれているのだろうか。
じっと視線を送っていると、レイズフォード様が私の様子に気づき、コホンッとわざとらしい咳払いをして国王陛下との言い合いを強制終了させた。
「と、ともかく……。その娘を育てると決めた以上、しっかりと面倒を見ろ。いいな? レゼルクォーツ、フェガリオ」
「言われずとも、リシュナは俺達の可愛い妹ですからね。――婿選びも、しっかりと責任を全うさせて頂きますよ」
国王陛下の冗談めいた物言いとは違い、レゼルお兄様がレイズフォード様に向けた視線は壁を作っているかのような……、冷たい音を宿していた。
交し合っている視線の気配も、口を挟めない程に緊張感を帯びている。
好意的でない事はわかる。それも、レゼルお兄様が一方的に向けている敵意のような感情。
レゼルお兄様の袖を控えめに引っ張ってこちらに注意を向けさせた私は、本題についてを急かした。
お子様達の実家に挨拶をしに行く件。その事に関して改めてお許しを貰えれば、すぐにでもこの玉座の間を出て行けるのだ。そうすれば……、レゼルお兄様の気配も、優しいものに戻るはず。
「そちらの子供達の親に関してだが、リシュナと、失われた村の者達には頭を下げねばならんな……。戦乱により旅立たねばならなかった命を、我が同胞が蔑ろに扱った事、本当に申し訳なかった」
玉座から立ち上がった国王陛下が私の前まで歩いてくると、真紅の絨毯へと膝を着き、私の手を両手に包みながら、その頭を垂れた。
これには、周囲の臣下の人達も驚愕に目を見開き、国王陛下に相応しくないその行動に戸惑っているようだ。かくいう私自身も……、まさか王様に謝罪+頭を下げられる事態になるとは思わなかった。
「罪を犯したのは、あの子達です……。けれど、もう謝って貰っていますし、償いも始まっています。だから、国王陛下が謝る必要はないと思います」
たとえ同胞でも、国王陛下一人が自国の民の罪を全て背負うのは、あまりにも理不尽だ。
人間でも、別の種族でも、罪を犯した場合にその責任を負うのは、本人と……、今回の場合でいえば、お子様達の常識皆無の変人な親達だ。
それなのに、この人はただの小娘でしかない私に、村の皆に頭を下げて心を尽くしてくれている。
「お前は優しい子だな、リシュナ。だが、俺はグランヴァリアの王だ。その責は重い……」
「国王陛下……」
「だから、詫びといっては何だが、お前に手間を掛けさせる時間を短縮しておいた」
「は?」
辛そうで深刻な顔から一転、国王陛下はニッコリと愛嬌たっぷりの笑顔になると、急にざわめき始めた玉座の扉の向こうへと意味深な視線を放った。
重く閉じられている扉や玉座の間が地響きでも感じているかのように震え始める。
人の悲鳴や意味不明な物騒極まりない大きな音が幾つも鳴り響き……。
「はーっはっはっはっ!! お呼びと伺い、華麗に大胆不敵に参上だぁああああ!!」
重々しい鉄壁の如き居住まいを見せていた玉座の間の扉を突き破って乗り込んで来たのは、見た事もない巨大な乗り物の上に変なポーズを決めて現れた男性と……、その後ろにも何かいる。
どこからか、ズモモモ……!! と、不気味な怪音まで響いており、大量の色とりどりの薔薇がぼんぼこと巨大な乗り物の背後から溢れ出てくる様が見えた。
騎士さんや女官さん達が大慌てで国王陛下を守ろうと騒ぎ出し、その動揺を煽るかのように、巨大な乗り物の背後から、一直線に放たれた鋭く大きな剣のような物体。
私やレゼルお兄様を狙って放たれたそれは、寸でのところである人物の片手ひとつで阻まれた。
「相変わらず、王城での礼儀を弁えない変人共だな」
それは冷たい、というよりも、呆れ果てて相手もしたくないという残念な気配を滲ませている。
圧倒的な破壊力を有しているであろう巨大サイズの剣の先端を、血も滲ませずにその手のひらで動きを止めてくれた、――宰相のレイズフォード様。
面白がりながらニヤニヤとこちらを眺めている男性を、その美しく怜悧な蒼の視線で射抜いた直後、トン……、と、ほんの僅かに手のひらを前に押し出しただけで、レイズフォード様は巨大な剣を凄まじいスピードで闖入者達に矢の如き勢いで放ち返した。
「おおっ!! ははははっ!! 相変わらず、宰相殿は容赦ねぇなああっ!!」
「だがしかぁぁし!! 宰相殿のあの麗しく涼やかで優美な様は、相変わらず私の美学を甘美な音色と共に擽りますねぇええっ!! ああっ、ビューティフル!!」
「……宰相、強い。本気で、殺り合い、たい。本気、本気の……、真剣勝負を、ふふふふっ」
――今すぐにお帰りください。この不審者集団。
レイズフォード様がお礼参りよろしく突き返した巨大な剣を、正体不明の乗り物に乗っていた豪胆な性格の男性が素手の拳ひとつで木端微塵に打ち砕き、背後にいた残りの二人が気色の悪い笑いと共に乗り物から飛び降りてくるのが見えた。
ちらりと視線を別の場所に流せば、お子様達がビクゥゥン!! と、わかりやすく恐怖に震えている姿も。なるほど……、人様の、もとい、グランヴァリアの象徴でもある荘厳な王宮を破壊しまくって突撃してきたあの三人は。
「馬鹿親三人衆ですね。理解しました」
自分の子供に命の尊さも教えずに、その独特の変人気質な価値観だけを押し付けてきた、お子様達の父親。村の皆の遺体が、炎に消える原因となった……っ。
レゼルお兄様とフェガリオお兄様に庇われる形でお子様達の父親が見えなくなってしまった私は、全身を怒りの感情に震わせながら前へと進み出て行く。
「リシュナ! ちょっと待て!! 最初は俺達や陛下から話をっ」
「リシュナ……、お前が考えているよりも、目の前の吸血鬼達は常識の通じる相手ではない……。まずは俺達でアイツらを縛り上げてから話を……」
「レゼルお兄様、フェガリオお兄様、お気遣いありがとうございます。けれど……、自分で思っていたよりも、この怒りは収まりそうにありません」
服の中に隠し持っていた伸縮自在の特大ハリセンを右手に握り込んだ私は、レイズフォード様の隣へと歩み寄り、元の大きさに戻した武器を真紅の絨毯へと二度、三度と力を込めて叩きつけた。
いつか、お子様達の親に会った時、村の人達が言いたくても言えなかった『苦情』をひとつ残らず私が代弁する為に。レゼルお兄様から貰った私の隠し武器のひとつ。
私の意思ひとつで、それは武器の役目も果たすし、威力が調整されツッコミ用にもなる優れものだ。
ついでに、レゼルお兄様の隷属者となっている私は、その力の一部を使う方法も教えて貰っている。
「初めまして、お子様達のお父様方」
それは、初めてお子様達と出会った時よりも強く、苛烈な憎悪の意思が宿る視線だったように思う。本来であれば、人様のご家庭の事に口を挟むのはルール違反。
だけど、大事な家族とも言える村の人達を炎の中に消された私には、文句を言う権利がある。
どんなに変人でも、馬鹿でも、愚かでも、唯一つ間違えてはならない事。
他者の命は、たとえその役目を終えた躯だけの姿になったとしても、それは物ではない。
人の数だけ、積み重ねられてきた想いや生き様があり、空(から)となっても、その死した肉体を手厚く葬る心を忘れてはならない……。
だというのに、お子様達のお父様達は私からの挨拶にもふざけた調子で返してきた。
「あぁ? 誰だ、お前」
「リシュナです。初めまして」
「先に伝言を飛ばしておいたはずだがな? お前達の息子を面倒見てくれている娘だ」
何だこのガキ……。そんな風に、嘲るように私へと視線を定めている豪快な性格の男性に、国王陛下が楽しげに説明を入れてくれた。
私が、お子様達の教育権を実の両親達から剥ぎ取りにやってきた事、家まで行かせるには手間と時間が無駄だと判断し、彼らをこの場に呼び寄せた事。
案の定、三人の変人残念吸血鬼達は不機嫌そうに眉根を寄せて、私を睨んできた。
「ウチのディルには、学校なんざいらねぇんだよ!! 常識の枠なんか、成長と進化の妨げだ!! もっと自由に、大きくいかなきゃよおお!!」
「ティアには、専属の家庭教師を雇ってありますし~? 平平凡凡な教師の施す教育など、私の後継者が凡人になるようなものですよ~」
「強さ、常識の中に、ない……。自らの手で、掴み、取れ、オルフェ」
チーン……。想像以上の自己中だった。
確かに、常識だけが全てではない。物事はあらゆる角度から見てこそ真理を得られる。
私のお父さんも、目の前にあるものだけを絶対とは思うなって言っていたけれど……。
「大事な部分を押さえてからの話ですよね。それって……」
滅茶苦茶になれとは、誰も言っていないし、むしろ他人への迷惑だ。
これは、話しても無駄かもしれない。彼らの中にある信条は間違った方向に突っ走っている。
国王陛下も、「まぁ、一言で言うと……、ははっ、アホなんだよなぁ、アイツら」と、残念さに満ちたコメントを零した。レイズフォード様に至っては、いっそ塵レベルにまで分解してやりたい、と、疲労に満ちた溜息が物語っている。
お子様達の方は……、うん、女官さん達の腕の中で、現実逃避よろしく明後日の方向に目をいっているようだ。人間の世界で少しではあるけれど、常識や大切な事を学んだ効果だろうか?
自分達の父親に共感出来る感情をなくしてしまったらしい。
「レゼルお兄様、話が通じなさそうなので、実力行使でもいいですか?」
「う~ん、そうだなぁ。いっそ、あの狂いまくった大迷惑な思考をふっ飛ばすまでやるか」
幸いな事に、グランヴァリアの国王陛下からの許可がある
あの三馬鹿にお子様達の教育権を手放さないと言われても、無視してお子様達を連れて帰ってしまえばいい話だ。あんな意味不明な滅茶苦茶気質の人達の所で育っては、お子様達があれの二の舞になってしまう。それだけは避けなくては。
けれど、何もせずに帰るには不完全燃焼なわけで……。
私は特大ハリセンの柄の部分を強く握り締めると、お子様達を回収しようと動き出した三馬鹿目がけて、レゼルお兄様達と一緒に制裁を加えに飛び出して行くのだった。
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