グランヴァリアからの招集状

「レゼルお兄様、どうしたんですか? 物凄く面倒そうなお顔をしていますが」


「う~ん……」


 それは、学院の特別クラスが新しい学び舎で授業を始めるのを控えた一ヶ月前の事。

 朝のお手伝いを終えた私は、フェガリオお兄様から渡されたお買い物のメモを手に出掛けようとしていたところだった。けれど、ソファーの方で困ったように唸っているレゼルお兄様の姿を見かけ、その背後から声をかける事にしたのだけど……。

 レゼルお兄様はぐったりとしていた体勢を直し、私の方に振り向いてわしゃわしゃと頭を撫でにかかってきた。ヘアスタイルが……。


「リシュナ~……、大人になるとなぁ、結構面倒な事や嫌な事からに逃げられないモンなんだよ……」


「大人でなくとも、子供だって逃げられない時はあります」


「まぁ、それはそうなんだがな……。はぁ……、やっぱり出席決定だよな」


 事情が全くわからない。

 何やらレゼルお兄様の手元には、一枚の紙にずらずらと文字が綴られているけれど、生憎と私には読めない文字だった。多分、その紙がレゼルお兄様の憂鬱の原因のように思えた。


「レゼルお兄様、説明をお願いします」


「ん? あぁ、ちょっとグランヴァリアから招集がかかっていてな。また小難しい案件でも押し付けられる気が……。あ」


「どうしたんですか」


「リシュナ、丁度良い。お前とお子様達も一緒に、グランヴァリアに遠足がてら出掛けるとするか」


 そうしよう、それがいい! 名案とばかりにレゼルお兄様が手を打って勝手に決めてしまうのを眺めながら、私は上の階でフェガリオお兄様のお手伝いをしているお子様達の事を思い浮かべた。

 そういえば、あの子達は自分の親許から家出をしてこの世界に来ていたはず。

 一応、レインクシェルさんがお子様達の実家に連絡を入れてあるはずだけど……。

 何だかんだで、まだまだ子供の三人が、親を恋しがらないはずもない。

 けれど、変人吸血鬼貴族だという彼らの親許に一時(いっとき)とはいえ戻してしまったら、また変な常識を教えられたりするのではないだろうか。

 そんな不安を抱いていると、レゼルお兄様がそれを先読みして安心させるように笑ってくれた。


「勿論、お子様達をあの変人共の屋敷に帰す気はない。まだ償いも教育も終わってないからな。だから、俺達が保護者役兼監視役でついていくんだ」


「ですが、お子様達のご実家は、私達を受け入れてくれるでしょうか」


 親ならば、自分の子供が赤の他人に囚われていると知れば、是が非でも取り戻したいと思うはずだ。少なくとも、向こうからすれば、実家の教育方針を否定し、新たな常識を教えようとしている私達は『悪』そのものだろう。

 そんな私達を、果たして自分達の領域内に受け入れてくれるのだろうか。

 もしかしたら、敵とみなされて攻撃を受けてしまうかもしれない。


「大丈夫だ。俺はこれでも、『グラン・シュヴァリエ』の地位にいるからな。拒まれてもゴリ押しするぐらいの権力は持ってるさ」


 グラン・シュヴァリエ……。それは、普通のシュヴァリエよりもさらに格上の、吸血鬼の王から特別な力を与えられた存在らしい。

 

「普通のシュヴァリエには二つの役目がある。ひとつは、自国内の犯罪者の取り締まりと連行、それが難しい場合は粛清。そしてもうひとつは、人間界に飛び出した掟破りの吸血鬼の捕縛と連行、そして粛清。働く場所が違うだけで、やる事は一緒だ」


「なるほど……」


「で、グラン・シュヴァリエっていうのは、王に最も近しい守護者的な存在なんだ。貴族連中にだって口を出せるし、色々と使える特権も多い。そんな俺が、屋敷の中に入れろと言って断った場合……」


 それは、王に対する反逆の類とみなされる。その後の立場を考えれば、大人しく受け入れる他ない。便利ではあるけれど、王様の権力を借り受ける状態という事は、それを悪用する者もいるのではないのだろうか。私がそう尋ねると、レゼルお兄様は同意の苦笑を零した。


「勿論、永い歴史の中で悪さを仕出かした奴もいるらしいが、何も野放しというわけじゃない。不用意に権力を揮えば、王の裁きを受ける事になる」


「……人様のお屋敷に権力を使って入るのは良いのですか?」


「それも、理由によりけりだ。金銭目当てや欲の為に動くのは言語道断だが、今回の場合は、アイツらの未来の為だ。事前に王から許可も貰っておく。それと、あっちでお前が怖い目に遭わないように、俺がしっかり守ってやるからな」


 流石レゼルお兄様。抜かりのない手回しの予告。

 吸血鬼が盛りだくさんの王国に向かう妹の不安も同時に払拭し、私の手を取ってお買い物へと向かい始めた。

吸血鬼の国は、私が思っているような真っ暗な夜だけの世界ではない事、正確には、夜の時間の方が長いけれど、ちゃんと明るい時間帯も存在する事。

 古の時代に存在した、光や十字架に弱い旧種は稀に先祖返りを起こした者を除き存在しない事。

 

「あっちにも、真っ当な吸血鬼を育てる為の教育機関があるんだが、全部がその通りに育つわけでもないからな。それに、あの子供達は少々特殊な生まれだ」


 王都の大通りに並んでいる市場を歩きながら、果物屋さんで立ち止まったレゼルお兄様が真っ赤な瑞々しい林檎を手に取り、お店の人にお金を渡して一口その表面を齧る。

 そして、もう一個の林檎を私の手に持たせ、また道を歩き出す。

 休日ほどの賑わいはないけれど、それなりに人の多い王都の真ん中。

 手を繋いで歩く私達の姿は、きっと仲の良さそうな兄妹に見られているのだろう。

 すっかりその温もりが馴染んだ私の手は、私の心は、レゼルお兄様のそれを払う事はない。

 行く当てのない私を、死にたがっていた私を、受け入れてくれた人。

 このお人好しで、けれど、それだけじゃない吸血鬼の隣は、酷く居心地が良い。


「ま、そんな頻繁にヤバイのと出くわすわけでもないから、安心してろ。何かあっても、このレゼルお兄様が可愛い妹を守ってやるからな」


「期待してます。それと、出来ればお子様達のご両親に文句を言いたいです」


「その気持ちはわかる。だが、多分……、話は通じないだろうな」


 なにせ、どうしようもない変人と名高い吸血鬼。

 常識が通じるのなら、グランヴァリアで変人になどなれはしない。

 けれど、それでも……、話が通じなくても、私はお子様達をあんな風にした親に言いたい。

 人の命は、その亡骸は、決して物などではない。

 たとえ死しても、そこに生きていた尊厳と誇りは、永遠に残っているのだから。

 それを踏み躙っていいわけがない。だから、生き残ったレスカ先生と、二度も屈辱を味わって死んでいった人達の為にも、私はこの心の声をお子様達の親に伝えなければならない。

 ぎゅっとレゼルお兄様の手を強く握ると、それに応えるように、力強い温もりが支えてくれた。


「なら、俺はお前が危ない目に遭わないように、傍にいてやらないとな」


「お願いします。変人吸血鬼が襲ってきたら、ボッコボコにしてあげてください。私も何か武器を持って後ろから援護しますから」


「後ろ向きなんだか前向きなんだか……。ははっ、まぁ、お前らしいな」


「当たり前です。……頼りになるお兄様がいるんですから、安心して頼ります」


「リシュナ……」


 少しだけ頬が赤くなる熱を感じながら、私は道の途中で立ち止まって呟いた。

 らしくもなく恥ずかしがる自分に照れながら、レゼルお兄様を本当のお兄様のように信頼し心を預けている事を伝える。

 すると、レゼルお兄様がおもむろに私を抱き上げ、じっと真剣な眼差しで見つめてきた。

 アメジストの瞳にじわりと涙が浮かび、むぎゅむぎゅとお人形のように抱き締められる。

 実年齢の十四歳よりも幼い姿をしているけれど、長寿の種族であるレゼルお兄様からすると、やはり子供同然らしい。私が年頃の乙女だという事を、毎回完全に忘れきって抱擁してくるので、たまに困りものだ。だけど……、嫌では、ない。


「レゼルお兄様、警備隊にロリコン疑惑をもたれる前にやめてください」


「兄が妹を可愛がるのはロリコンじゃない! 普通の家族愛だ!!」


 そしてまた、むぎゅむぎゅむぎゅ……。

 それにしては、ちょっと抱き締め過ぎな気がする。

 私はべしんっとレゼルお兄様の頭を叩き、顔を押し返して地面に下ろすように丁寧なお願いをした。道の往来でこんな抱擁は流石に恥ずかしすぎる。は・な・れ・て・く・だ・さ・い!

 ついにはレゼルお兄様の長く青い髪を引っ張って解放を促した私は、地面にひょいっと飛び下りて距離をとった。


「リシュナ~……、もうちょっと」


「駄目です。可憐な乙女に不埒な真似をする変態吸血鬼は、警備隊に突き出してあげます」


 そう冷静に叱った私が買い物カゴを手に先を急ごうと走り出した、その瞬間。

 ドンッ、と、前方から歩いてきた誰かにぶつかってしまった。

 転びそうになった私を支え、体勢を立て直すのを手伝ってくれたその人は、片手に長く固そうなパンが入った袋を抱えている。

 どこにでもいそうな、茶色い髪の二十代前半程に見える、柔らかな表情をした男性だ。

 私がぶつかってしまった時に、どうやら地面に眼鏡を落としてしまったらしい。 


「すみません、前をよく見ていませんでした。大丈夫ですか?」


 ぶつかってしまった事に対するお詫びと支えてくれたお礼を言って、男性の落とした眼鏡を拾い上げ手渡す。男性に怒った様子はないようだが……。


「いや、俺も少しぼーっとしていたから、お互い様だよ。ごめんね、お嬢ちゃん」


「いえ、あの、眼鏡、割れていませんか?」


「ウチの妹がすまなかったな。……あぁ、ヒビが入ってるな。眼鏡の弁償を」


 私の後ろに立ったレゼルお兄様が、男性の手に戻った眼鏡のレンズの表面に確かなキレツが入っている事を指摘し弁償を申し出ると、微かな笑いと共にそれを断られた。

 

「いえ、もうそろそろ買い換えようと思って、丁度帰りに職人の許に向かう予定でしたから、気にしないでください」


「だが……」


「それよりも、ここは人通りも多く、子供は迷子になりやすいんです。妹さんの手を、どうか離さないであげてください」


「あ、あぁ……、肝に銘じておく」


 本当に弁償はいいのだろうか。男性はぺこりと頭を下げると、私の方をじっと優しい眼差しで見下ろして、「それじゃあね」と言葉を残して去って行ってしまった。

 私が自分からぶつかって、眼鏡まで壊してしまったというのに、優しい人だ。

 その背中が人混みの中に消えて行くのを見送っていた私は、自分の身体に不思議な匂いがついている事に気付いた。


「どうした? リシュナ」


「いえ、……なんか、ちょっと良い匂いが」


 私を抱き締めたレゼルお兄様の匂いが移ったわけではない。

 フェガリオお兄様やお子様達のそれでもなく……。

 花の匂いのようにも思えるけれど、それだけではない、何かが混ざっているような、不思議な匂い。


「さっきの男の匂いじゃないのか? 男でも香水の類をつける奴はいるからな」


「香水……。レゼルお兄様もつけているんですか?」


「いや、俺はそういうのはあまり趣味じゃないからな」


「でも、レゼルお兄様からも良い匂いがしますよ?」


「あぁ、多分それは……」


 今私の思考に引っかかっている花に似た香りではなく、いつもレゼルお兄様の温もりから香ってくるのは、男臭いそれではなく、私の心を安心させるような、少し甘い匂い。

 けれど、香水の類ではないと一体何が原因なのだろうか。

 それをレゼルお兄様が私に説明しようとしたその矢先。

 前方から、数人の女性の肩を抱いて楽しげに歩いている不埒で節操のない、認定はまだしていないけれど、兄その三が現れた。

 普段の愛らしい子供の姿ではなく、どこからどう見ても大人の青年の身体に戻っている。

 そして、自分にうっとりとした眼差しを注ぐ女性達に、耳の腐り落ちそうな甘い口説き言葉を延々と……。レゼルお兄様が無言で拳を構える。私も、軽蔑の気配を視線に浮かべる。


「おや~、そこにいるのは、僕の可愛い弟君と妹ちゃんじゃありませ、ぐはあああ!!」


「いっそ今すぐ灰になれ!! この愚兄!!」


「乙女の敵です、二度と家(ウチ)に帰って来ないでください」


 暢気に愛想の良い挨拶をした黄色に近い髪色をした青年、レゼルお兄様の実兄でもあるレインクシェルさんがそのお腹に渾身の右ストレートを打ち込まれ、その場に蹲った。

 同行していた女性陣が驚愕の悲鳴を上げ、周囲の通行人達も何事かと振り返る。

 

「この馬鹿兄!! また昼間っから女か!! この色魔!! 欲の権化!!」


「レゼルお兄様、さっき買った大根をどうぞ。いい武器になるかと」


「駄目だ、リシュナ! 大根は大切な食糧だ。それを無駄にするような真似は、緊急時以外、お兄様は許さん!!」


「そうですか、では……、私も変態女たらしを踏むのを手伝います」


 食べ物を粗末にしてはいけません! と、迫力のあるアメジストに叱りつけられた私は、大根を買物カゴに直し、改めて変態のお仕置きに加わったのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はぁ、痛たた……。酷いですよね~、僕はただ、可愛い女の子達と楽しい楽しい時間を過ごす為にデートをしていただけなんですよ~」


 どうしようもない女好きの吸血鬼を家に引き摺って帰った私達は、室内の柱にボロボロ状態となったレインクシェルさんを縄で縛りつけた。

 今は普段の子供姿に変化しているけれど、反省した様子は皆無だ。

 フェガリオさんが三時のおやつとお茶をトレイに乗せ、呆れ全開の視線でレインクシェルさんに冷たい一言を浴びせながら、ソファーのあるテーブルへとやってきた。

 お子様達もお手伝いを終え、私の隣に並んで座っている。


「いいか、お前達……。女に優しいのは男として当然だが、あそこで縛られている変態のように、ダラシのない真似だけはするな」


「レディを口説くのも駄目なのですか?」


 目の前に置かれた生クリームたっぷりのケーキをひと欠片フォークに刺したティア君が、少し不安そうに聞いた。美しい女性に甘い言葉を囁き、その人に似合う色の薔薇を贈るお子様には、色々と不満を抱かざるをえない注意事項だったのだろう。

 ディル君とオルフェ君の方は、女性に対して全然興味がなさそうで、ケーキをパクパクと頬張っている。


「口説くのは本人の自由だが……、とりあえず、簡単に関係を結ぼうとするな。あとで大変な騒動を招く事になるからな」


「そういえば……、前にクシェルが複数の女を弄んだせいで、その尻拭いをさせられた事があったな……」


 向かいの席に座っているレゼルお兄様の隣に腰を下ろしたフェガリオお兄様が、心底面倒そうに息を吐いた。それも、人間の女性ではなく、吸血鬼の世界にいる女性陣との騒動だそうで、恐ろしい事この上ない事態だったらしい。……やっぱり、全世界にいる女性の敵だ。 

 それに、レインクシェルさんには本音が読めない部分が多く、レゼルお兄様達に対するような信頼感や安心感は抱けていない。だから、いまだにお兄様とは呼べないのだ。


「そんな~、僕はお嬢さん達を弄んだ事なんてありませんよ~。ただ、どの子も可愛くて大好きで、手を出しまくっただけで」


「「黙れ、男の恥さらし」」


 見事に絶対零度のレゼルお兄様とフェガリオお兄様の低い音が重なった。

 そのままレインクシェルさんを放置し、レゼルお兄様はお茶の時間に興じながらグランヴァリアへの一時帰省の話を始めた。フェガリオお兄様の方は承知済みのようで、特に質問もなく黙っている。けれど、吸血鬼の世界に帰ると聞いたお子さま達は……。


「なぁ、おれ達、留守番してちゃ駄目なのか?」


「わたしも、出来ればこちらに……」


「おれも……」


 三人とも、実家に一時的とはいえ戻れる事をあまり喜んではいないようだ。

 まぁ、家出をしてきたわけだし、気まずい思いがあるのだろう。

 その表情を観察しながら、レゼルお兄様は小さく息を吐き出し、優雅に足を組み直した。


「お前達の父親はまぁ別だが、母親の方には一度顔を見せた方がいいだろう。それに、一ヶ月後には人間と同じ場所で学んでいくわけだしな。一応は、両親の許可を取っておいた方がいい」


「あの親父が許可出すかなぁ……」


「わたし達はそれぞれ、父親が教師役でしたからね。学校に行きたいと前に言った事はありますが、そんなその他大勢と同じ場所にいる必要はないと、そう教えられまして……」


「同じく……」


 つまり、常識を教えるべき学び舎に行く事も出来ず、歪んだ変人の常識を叩き込まれたと。

 柱に縛られている人以外の全員が、重たい溜息を盛大に吐き出した。

 この家に住むようになって、常識や物事に対する感覚の矯正を施してきた成果があったのだろう。

 お子様達は自分達の父親が如何に自分勝手で横柄な常識を持っているのかを正しく理解し始める。人それぞれに違う価値観があり、考えもまた千差万別だ。

 けれど、間違えてはならない一線というものがある。

 それを知らずに育っていたら、お子様達は父親の二の舞となっていた事だろう。


「まぁ、いざとなれば、グラン・シュヴァリエの権限を使うさ。だが、一番良いのは、お前達自身が、それぞれの親を説得する事だ」


「時に、子が親を正す必要もあるからな……」


 大人の吸血鬼二人に諭され、お子様達は顔を見合わせた後、静かにグランヴァリアへの帰省を了承した。これから真っ当な吸血鬼となる為に、自分達の頭で考え、物事を正しく判断出来るように。


「大丈夫です。お父さん達が怖いのなら、私が一緒にお願いします。傍で手を握っています」


「「「リシュナ……」」」


 私の大切な人達に二度目の死を与えた憎むべき存在だけど、この子達を正しく導いていく事で、いつか困っている誰かが救われるかもしれない。

 生きて自身の罪を抱えて苦しみながら生きる。ある意味、死ぬよりも辛い道だ。

 それを幼いながらも受け入れた三人は、微笑む私の身体にしがみついてくる。


「リシュナ……、おれ、頑張る。お前や、お前の大切な奴らに酷い事をした罪を償う為に、絶対に立派な吸血鬼になる!」


「わたしもです、レディ。私達は、とても狭い世界で生きてきました。親が絶対の真理であると考え、自分でその善悪を考える事をしなかった。その人生を、これから塗り替えていきます」


「おれも……。やった事を償えるように、努力、する」


 むぎゅりと私に抱き着いた三人は、心からの反省と罪の意識を抱いている。

 こうやって、自分達のした事を反省し、償おうと、変わろうとしてくれる心が嬉しい。

 私は自分の両手でお子様達を抱き締め、「私も、私も……、大切な人達が天国で笑ってくれるように、償っていきます」と、穏やかな声音で囁くのだった。

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