大切な人達に捧げる誓い

「レゼルお兄様……」


「ん~? どうした」


 世界が完全な闇へと落ちた頃、三人のお子様吸血鬼と一緒にお墓作りをしていた私は、レゼルお兄様に手を引かれ、敷地の真ん中にある大樹の根元に腰を下ろす事になった。

 冷たい夜風で風邪を引いてはいけないと、その真っ黒な外套に私の身体を包んだレゼルお兄様は、持参してきた夜食用のバスケットを引き寄せた。

 スクランブルにした玉子と野菜を挟んだサンドウィッチを取り出し、それを私の口許へと運んでくる。けれど、私はまだお腹が空いているわけでも、疲れているわけでもないので、丁寧にそれを辞退した。


「大丈夫です。お墓作りに戻ります」


「だーめーだ。お前、アイツらと一緒に墓を作りながら、絶えず話し続けていただろう? 少しは休め。でないと倒れちまうぞ」


「平気です。私は疲れてなんか、……んぐっ」


 抗議の為に開いた小さな口の中に、もぐっと入ってきたサンドウィッチのパン生地の感触。

 ふわりと玉子の甘い香りと味が感覚に触れ、つい条件反射でそれをもぐもぐしてしまう。

 流石、フェガリオお兄様お手製のサンドウィッチです……。美味美味。

 美味しい物の魅力に触れると、誰しも無口になってしまうものだと、レゼルお兄様の手から離れたサンドウィッチを咀嚼しながら悔しく思う。

 ずっと三人の吸血鬼と、お墓作りを手伝ってくれていた二人のお兄様と一緒に作業に没頭していたせいか、頭ではまだお腹が空いていないと思っていたものの、口に含んだそれを嚥下した私は、ほわっと心と身体に満ち足りた感覚を覚えた。


「村人の墓作りで気を張ってるのはわかるが、無意識に自分の疲労を誤魔化すのは良くないぞ」


「でも、お墓を作るのは私の役目なんです……」


「家族や村人達の事を心から想っているお前が少し休んだぐらいで、怒ったりはしないさ」


「だけど……」


 それでも三人のお子様達がいる場所に戻ろうとした私を、レゼルお兄様はむぎゅりと腕の中に強く抱え込んで実力行使に出た。

 少し休んでからでないと、絶対に戻る事は禁止だ! と、わざと怒った風に私を言い含め、頭の上によいせと顎を乗せてくる。……重い。


「腹いっぱい食って、それからまた墓作りに戻ればいい。万が一お前が疲労で倒れでもしたら、家族が悲しむだろう?」


 私の胸の前で組まれたレゼルお兄様の両手を見つめながら、その少し寂しそうな声音に、こくりと頷いた。確かに、家族や村の人達の魂がまだこの場所にあるのなら、私の事を心配しながら声をかけたがっている事だろう。村そのものが、ひとつの大きな家族のようなものでもあったし、何かあると、すぐに誰かが心配してくれるような人達ばかりだったから……。


「そういえば、リシュナ……。ひとつ、聞きたいんだが」


「ふぁい?」


「……とりあえず、それ、食ってから聞く事にする」


「んぐっ……、もぐもぐ」


 バスケットの中から二つ目のサンドウィッチを取ってくれたレゼルお兄様の手からそれを受け取り、無言で咀嚼していると、口の中いっぱいにそれを頬張っている様子を見下ろしながら、レゼルお兄様がふぅと溜息を吐いた。

 ひとつ食べると次が欲しくなるというか、フェガリオお兄様の料理の腕前に感服しつつ、私は二つ目のサンドウィッチ、中に、こんがりと焼いた平たい薄切りのお肉が挟まれたそれを、あっという間にお腹に収めてしまった。ふぅ……、美味しかった。


「俺と出会った時、保護者のような存在はいたけど、いなくなったって言ってたよな?」


「はい。村から一緒に逃げた人の事ですね。あの人は、名前も知らない旅の商人さんでした。偶然村に滞在していた所に戦火が起きて、……お母さんが、私を預けたんです」


 村とは関わりのない商人の男性、まだ年若かったと思うけれど、途中の山まで一緒に逃げて……、翌朝にはお金を持って消えていた。

 だけど、私はその人を恨んだりはしていないし、またどこかで会う事があったとしても、特に何の感情も抱かない。

 そう伝えると、レゼルお兄様はスープの入った保温効果付きの水筒を手に取り、カップに中身を注ぎながら、「子供をおいてくか……、普通」と、気に入らなそうに呟いた。

 

「ほい」


「ありがとうございます……」


 スープの入ったカップに口を付け、背後でブツブツと商人さんに対する文句を零しているけれど、何故本人の私が何とも思っていないのに、ここまで怒っているのだろうか。

 世の中には、甘い事ばかりではないとわかっているはずなのに……。

 口の中に広がるほど良い熱をこくりと飲み干しながら、私は少しだけ顔を斜め上にあげた。

 

「私なら、大丈夫でしたよ?」


「大丈夫じゃなかっただろうが……」


 ふにっと、あまり痛みを感じない力で頬の肉を片側だけ摘ままれてしまう。

 まぁ、確かに……、飲まず食わずで自分から死を望んで森の中で最期を迎えようとしていた私は、傍から見れば、全然大丈夫じゃなかった、かもしれない。

 だけど、あの商人の男性が私を見捨てずに保護を続けていたとしても、私はどこかで隙を見つけて逃げ出していたはずだ。『協力者』の存在がなくなって、いつ追手がかかってくるかわからない状況だったし、関係のない他人を巻き込むわけにはいかなかったから……。


「結果的には、あれで良かったんです……。私と一緒にいたら、不幸になった可能性の方が高いですし、って、いひゃひゃっ」


 人が真面目に話しているというのに、レゼルお兄様は突然、何の予告もなしに私の頬を両サイドからむぎゅぅぅぅっと引っ張り始めた。

 一体、何がどうなって、私の頬を引っ張る結論に辿り着いたのか、詳しい説明をお願いしたい。

 凄く痛いというわけではないけれど、お肉を引っ張られて喜ぶ女の子はいない。多分。


「禁止だ」


「ふえっ?」


「自分の事を、不幸の元凶みたく言うのは禁止だ。いいか、リシュナ? お前の傍には、俺達がいるんだぞ? 何があってもお前を見捨てないし、お前がめいっぱい幸せになるまで、協力してやる気だ」


「はぁ……、それは、どうも」


 守って貰えるだけでも有難い話だ。その上、衣食住も完備されているし、何も特別な事がなくても、日々を平穏に過ごせる事が、もう幸せそのものではないだろうか。

 だけど、レゼルお兄様は私の頬から手を離し、バスケットからまたサンドウィッチをひとつ鷲掴むと、むぐっと私の口の中にそれを押し込んできた。


「リシュナ、お前は自分の人生に、もっとやる気を出せ」


「もぐもぐ……、やりゅき、でふか?」


「そうだ。墓を作り終わって家族達の弔いが済んだら、お前は新しい人生を歩み始めるわけだろ? となると、これからの人生をどう生きていくか、楽しみや生き甲斐を見つけなきゃならない」


 楽しみ? 生き甲斐? 普通に日々を過ごすだけでは駄目なのだろうか。

 村でお父さんやお母さん達と暮らしていた時は、畑を耕すのを手伝ったり、村の子供達と遊んだり、お母さんのお手伝いをしたり……。うん、毎日が平穏そのものというか、大変な事もあったけれど、基本的にそれら全てが楽しかった。


「じゃあ、レゼルお兄様とフェガリオお兄様のお手伝いをします」


「は?」


「家のお手伝いをする事を生き甲斐にします」


「それ生き甲斐違う!! 普通のお利口な妹さんの日常だ!!」


 却下された……。いい案だと思ったのに。

 新しくお世話になる家の人達のお手伝いをする事だって、日々の楽しみのひとつだ。

 見かけは十歳前後の幼い子供に見えても、中身はれっきとした十四歳。

 お洗濯も、料理も、お掃除も、お手の物。基礎的な女子力は完備しているのです。

 だから、自分にとってそれをやるのは、日々の楽しみであり、生き甲斐だ! と、真面目に訴えると、レゼルお兄様がその目元を押さえ、「うぅ……」などと唸りながら落胆してしまった。

 

「そうじゃなくてだな……。こう、何というか……、新しい生活を始めるにあたって、何かやってみたい事とか、欲しいものとか、将来の夢を持つとか」


 将来の夢……。

 改めて考えてみると、特に明確な何かを抱いた事はなかった気がする。

 『協力者』の助力があったからこそ平穏な日々を過ごせたこの村での記憶……。

 あの恐ろしい場所での事が何かの間違いか、一夜の悪夢でもあったかのように思えるようにしてくれた、温かな心根の村人達。

 その人達と過ごす日々が、私にとっての幸せで……、将来の事を本格的に考えた事はなかった。


「この村で暮らしていた頃は、子供達が楽しそうに将来の夢を話していた気がします。好きな人のお嫁さんになりたい子や、村を出て冒険者になるのだと目を輝かせていた子、他にもいっぱい、皆の中には将来の選択肢があって……、少しだけ、羨ましいなと思っていました」


 『協力者』の存在なくして、私は外の世界に羽ばたく事は出来なかったから……。

 家族や村の人達と過ごせる日々が生き甲斐であり、幸せなのだと、それ以上を望む事はなかった。

 だけど、本当に……、少しだけ、未来を語る事の出来る子供達の存在が眩しくて、羨ましいと思った事がある。


「じゃあ、俺達との生活が慣れてからでいいから、少しずつ、お前の幸せを見つけていこうな」


「幸せ……。私にも何か、……生き甲斐や夢が、見つかるのでしょうか」


「あぁ、勿論だ。王都には学校や店、施設も色々と揃ってるし、面白い事も多い。だから、絶対に見つかるさ。お前の心を夢中にさせてくれる、何かがな」


 徐々に晴れ渡り始めた空の向こう側で、小さく煌めく数多の星々……。

 それをレゼルお兄様と一緒に見上げながら、私はゆっくりと右手を空へと伸ばした。

 決してその手に掴む事は出来ない小さな輝きは、まだ自分の幸せや将来の姿を掴めない朧気なこの心と同じようで、私は誰に言うでもなく、微かな呟きを零す。


「幸せを……、手に入れても、いいのでしょうか」


 無念の死を遂げた家族達の犠牲の上に生かされたこの命。

 償いの為に生きる事が許されても、私自身の幸せを望んでも……、いい、のだろうか。

 レゼルお兄様が私をその腕に抱えて立ち上がると、ふわりとその足元が宙に浮き、吃驚する暇もなく、私は遥か上空へと招かれていた。

 星の輝きが、地上にいた時よりも、ぐっと近く感じられる場所……。


「お前は、亡くなった自分の家族や村人達に対しての負い目があるのかもしれない。家族の犠牲の上に、今の自分があると、そう、辛い思いを心の中に抱え込んでる。だけどな、他でもないその家族が、お前の幸せを、これからの未来を、心から願ってくれている事を、忘れるな」


 むしろ、絶対に幸せになれ。でないと、お前は世界一の親不孝者になってしまうぞ?

 ……と、レゼルお兄様が微笑と共に私の身体を自分の右肩に乗せて、アメジストの双眸で見上げてきた。幸せになる事が、私の役目だと……。その力強い自信に満ちた眼差しが、私の心を優しく包んでくれる。


「リシュナ、この大空に散りばめられた星々と、魂となりこの場所に残っている家族達に誓え。救われた自分の命を、もう二度と……、無駄にしないと。そして、絶対に幸せな一生を送ってやると、大声で叫んで、皆を安心させてやれ」


「え……」


「そうしないと、お前の大切な人達に聞こえないだろう? ほら、俺が見届けてやるから、勇気を出せ」


 幸せになる事が……、私の、役目。

 救われた命を無駄にせず、皆が歩めなかったこの先を大切に、一歩、一歩、進んでいく事が、私に出来る、恩返しの、ひとつ。


「私が幸せになったら……、皆も、喜んでくれますか? 自分だけ生き延びて、贅沢だって、怒られたり、しませんか?」


「お前の『家族達』は、そんな事を思うような心根の持ち主だったのか?」


 違う……。私が大好きだった村の人達は、お互いを大切に、本当の家族のように、日々を愛おしみながら生きている人達だった。

 誰かの幸せを妬んだり、そんな事は……、絶対に、しない。


「違い、ます。村の皆は……、とても、温かくて、優しくて」


「じゃあ、皆に約束出来るだろう? 『リシュナは、必ず、幸せになります』ってな」


 少し強めに吹いた風が、私とレゼルお兄様の長い髪を舞い上げていく。

 僅かな静寂、真摯に見上げてくるアメジストの双眸を見つめながら、私は瞼を閉じた。

 瞼の裏に蘇る、大切な人達の姿……。村での幸せな想い出が、次々と頭の中に浮かんでくる。

 今でも大好きな人達の最後は、悲しい苦痛に塗れたものだった……。

 あれ以上の悲しみなんて、絶望なんて……、駄目。

 

「皆が、これ以上苦しむ姿は……、見たくありません。もう一度……、笑ってほしい。だから」


 レゼルお兄様に確かな頷きを返した私は、自分の中で覚悟を決めるように、大きく息を吸い込んだ。もう二度と、私を愛してくれた人達を悲しませたりはしたくない。

 ――ううん、絶対にもう二度と、悲しませない。

 

「私は、――」


 星々が穏やかに見守る星空の中、声を張るのが得意ではなかったけれど……、亡くなった人々の心にこの声が、祈りが届くようにと、誓いの言葉を大空に響かせたのだった。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さてと、ようやく墓作り終了だな」


 あれからまた数時間が経ち、すでに真夜中の時間帯に入ってしまっている。

 全てのお墓を作り終えた吸血鬼の子供達は、その目を真っ赤に泣き腫らし、疲労困憊の様子でぐったりとその場に倒れこんでいた。

 自分達の罪を、頭で理解するのではなく、心で感じ取ったからこそ、ようやく償いの一歩を踏み出せたのだろう。繰り返し聞こえてくるのは、切ない謝罪の言葉達……。


「皆さん、お疲れ様ですよ~!」


「クシェル……、貴様、戻ってくるのが遅すぎるだろう。どこに行っていた」


 花輪を供えたお墓の前に立っていると、空の彼方に飛んで行ったはずの悪魔……、ではなく、子供姿のレインクシェルさんが楽しそうに戻ってきた。――やけに上機嫌で。

 それを見咎めたフェガリオお兄様からの問いに返ってきたのは、世界の最果てまで吹っ飛ばしてあげたくなるような答えだった。


「いやぁ~、落ちた場所の近くにですね~。可愛い女の子がいっぱいの娼館がありまして~」


「しょう……、かん?」


「聞くなリシュナ!! お前にはまだ早い!!」


 耳にした事のない、『ショウカン』という言葉の意味を尋ねかけた私の耳を、レゼルお兄様が大慌てで塞ぎにかかってきた。大人三人組は意味を理解しているようだけど、何故聞いては駄目なのだろうか? お子様吸血鬼達も目元をごしごしと擦り首を傾げながら、「ショウカンってなんだ~?」と疑問を声に出している。


「お前達はまだ知らなくてもいい!!」


「永遠に知らないでほしいところだが……、このろくでなしがいる限り、いつか汚染されそうだ……」


「え~? 僕、有害なんかじゃないですよ~。ほら、こんなに可愛くて純粋無垢でしょ~?」


「「黙れ」」


 害悪の素と称したレインクシェルさんを、一斉に踏みつけにかかるお兄様二人。

 レゼルお兄様達に怒られながらも、踏まれて罵倒される事を喜んでいるように見えるのが、また何とも言えない恐ろしさを孕んでいるように思える。

 しかし、『ショウカン』とは一体、本当に何なのだろうか……。気になる。


「レゼルお兄様」


「ん?」


 レインクシェルさんを気が済むまで踏みつけ終わったレゼルお兄様の傍に向かい、私はその黒い外套の裾を引っ張って尋ねた。

 

「ショウカンって、何ですか?」


「一生知らなくてもいい言葉だ」


「でも、知らない事があるのはスッキリしません。気になったら聞きたくなるのが人情です」


 真顔で食い下がる私に、レゼルお兄様が半眼になってぷるぷると首を振っている。

 まるで、それを知ったら私が後悔するとでも言いたげだ。

 フェガリオお兄様の方に視線で尋ねてみても、ぎろりと「駄目だ」の意思表示をされてしまう。

 仕方ない。王都に戻ったら図書館に連れて行って貰おう。そこで辞書か何かに頼れば、きっと答えは出てくるはずだ。そう思って引き下がろうとすると、レゼルお兄様が腰を落として、お互いの顔がくっつきそうになるほど近くに……、迫力満載の表情を向けてきた。


「調べるのも……、絶対に、駄目! だぞ」


「禁忌の言葉か何かなのですか?」


「お前にとってはある意味禁忌同然だ。いいな? 絶対に、聞くな、調べるな、わかったな?」


「……はい」


 約束を守らないと、自分達だけでなく、亡くなった人達まで一斉に悲しむと言われてしまった私は、『ショウカン』という言葉を心の奥に封じ込めたのだった。

 それに安堵したのか、レゼルお兄様が立ち上がり、私の手を取ってお墓の方に歩き出した。

 私に見せたいものがあるのだと、少しだけ企み顔をしたレゼルお兄様と、後を追ってきたフェガリオお兄様とレインクシェルさん。お子様吸血鬼達が立ち上がる元気がないようで、ぼんやりと涙を流しながら空を見上げている。


「リシュナ、始めるぞ」


「え……」


 外套を翻したレゼルお兄様が、その指先で宙に何かを描きながら静かに何かの言葉を低い音に乗せていく。吹いていた風がぴたりと収まり、私とレゼルお兄様の身体を縁取るように、紫の光が輪郭をもって輝き始める。これは……、何?

 胸の奥にある心臓が、本能的に何かを感じているのか、やけに熱く……、早く、鼓動を打ち鳴らす。


「本当の『お別れ』をしないとな?」


「レゼル、お兄様……?」


 慈愛に満ちたアメジストの眼差しに見下ろされた直後、目の前に現れた光り輝く紫の、大きな円を描く紋様が大空へと飛び上がった。

 それは遥か真上、星空を一番近く感じられる場所で動きを止めると、村を覆い尽くす程の大きさへと変化していく。円の紋様から、キラキラと星屑のような何かが地上へと降り注いでくる。


「どうせなら、記憶の最後に残るのは……、笑顔の方がいい」


「これは……」


 何かの夢なのだろうか? 星屑が村中に降り注ぎながら、徐々に目に見えてわかる変化をもたらした。闇夜に包まれていた村の中が明るくなり、目に見える景色が……、『懐かしい記憶』の中にあるそれと酷似していく。耳に聞こえ始める楽しげな笑い声……。胸の奥に蘇る、温かな感覚。


「僅かな時間しかもたないが……、行って来い」


「――っ」


 レゼルお兄様に背中を押された私は、抑えきれない衝動と共に……、『皆』の許へと走り出していた。

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